※今回は短めです※
※何も考えずにコピーしてましたが、青空文庫形式です※
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夜離れ(3)
セニアから聞いたあの男の昔話を、仲間たちに話して聞かせようか悩みはしたものの、結局マサキは話をしなかった。今更にそんな過去の話をしたところで、マサキのように密な付き合いをしてきた訳ではない他の魔装機操者たちにとっては、どうでもいい昔話にしかならないような気がしたからだった。
セニアから聞いたあの男の昔話を、仲間たちに話して聞かせようか悩みはしたものの、結局マサキは話をしなかった。今更にそんな過去の話をしたところで、マサキのように密な付き合いをしてきた訳ではない他の魔装機操者たちにとっては、どうでもいい昔話にしかならないような気がしたからだった。
数日は怠惰に日々を過ごした。
日長、惰眠を貪り、起きては掃除や食事の手伝いをする……仲間たちも変わらず、普段通りの日々を送っているようだった。考えても仕方のないことと、自分たちを置き去りにして変わってゆく情勢に、諦めを感じてしまっているのだろうか。その子供が健やかに成長し、強大な魔力を有する存在となった暁には、この世界での自分たちの在り方に影響を及ぼすのは必至な筈なのに、誰一人として将来を案ずる言葉どころか、驚きを持って受け入れられたに違いない現実にすら言及しない。
あれが夢だったと言われれば、信じてしまいそうだ。マサキはそう思う。口唇に、胸に、腕に。掴んだ髪の毛の柔らかさや、爪を立てた硬い背中、口に含んだ肉厚な舌。足の合間を貫く男性自身――思い出すだけで呼び起こせる温もりが、マサキにとっては当たり前の日常だったからこそ。
六か月。長いようで短かった日々。マサキは自然と諦める努力をするようになっていた。それが正しかったことがわかった。わかって尚、セニアにたったひとこと、「会せてくれ」と言えれば何かが変わっていただろうか。そう考えずにはいられない。
たった数日で自らの選択に後悔を覚えてしまうほどに、マサキの胸はさざめいている。一度は直視した現実を、納得して受け入れた筈だのに。
それは、いつかはそういった日が来るのではないかという予感がしたことが何度もあったからだった。口唇を重ね、身体を重ね、男の囁くように耳元に降る愛の言葉には程遠い、欲望だけが露わとなる言葉を聞きながら、それでもその存在がただ遠く感じられたときに。だからこそ、忘れなければ。そう思う。
思えば思うほど、嵐のように過ぎ去った日々は、鮮やかに脳裏に蘇る。
だからマサキは着慣れたジャケットを手に取った。手に取って、久しぶりに袖を通すジャケットの温もりに、僅かばかりの寂しさを覚えながら、主人に倣うかの如く惰眠を貪る二匹の使い魔を起こさずに、ゼオルートの館を出た。
簡単な戦闘だった筈なのだ。|風の魔装機神《サイバスター》を駆って、独りで行く宛のない遠出に向かったマサキは、期待していた展開が二度と訪れないことを承知しながらも、それでも気分転換にはなっていたのだろう。いつの間にか晴れやかさを増していた胸中に、ほっと息を吐いて、近くに何か自分の興味を引くものはないか探していた。
レーダーの隅に反応があったのは、そんな折だった。幾つかの敵機の機影を描き出すレーダーに、二匹の使い魔もなし。ちょっとだけの偵察と舵を切ったのが運の尽きだったのやも知れない。そこに居たのが廃坑狙いの賊だったものだから、作業用ゴリアテ数機だったら、自分ひとりでも手が足りると思ってしまった。
実際に手は足りたのだ。風の魔装機神と作業用ゴリアテでは、そもそもの出力の差があり過ぎる。かくて、さして時間もかからずゴリアテは戦闘不能となり、彼らは操縦席《コクピット》から脱出した。マサキはこれを王立軍に連絡することなく、地上に降りて追ってしまったのだ。
さして時間もかからず彼らに追いついたマサキに、投げつけられた灰のような物質。咄嗟に目の前を腕で覆って顔を背けたものの、風に乗った少量の灰が目の中に入ってしまった。
痛みに目を閉じる。
涙で洗い流されるのを待つ。
そして次の瞬間にマサキが瞼を開くと、その視界から光が失われていたのだ。
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