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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

君、死にたまうことなかれ
いやーこれはね。酷いです。こんな文字数でやっていいもんじゃないです。
二次創作の悪いとこ全部どり。大反省案件です。




<君、死にたまうことなかれ>

 何で、お前が――と、マサキはテロリストの拠点アジトの内部で鉢合わせしたシュウに対して、そう言葉を発さずにいられなかった。
 邪神教団の残党が興した組織は命知らずな過激派揃いで知られている。彼らは彼らが信ずる理念の達成に必要であると信じているからか、どんな悪事にも手を染めてみせたものだ。薬物を使った洗脳もそのひとつ。エンジェルウィスパー。コラリスという植物から精製された幻覚作用のある薬は依存性が高く、自発的な思考を奪うものであるらしい。
 彼らはその薬を使って、様々な分野から有用な人材を集めていると聞く。当然ながら比類なき頭脳を有するこの男も標的のひとりである。ましてや彼はヴォルクルスとの契約の記憶を残しているのだ。教団の面子にかけても彼らはシュウを再び獲得しようとするだろう。だからこそマサキは、組織に彼らが関わっていることがわかった時点で、シュウには組織に自ら近付くような真似はしないようにときつく云い含めておいたのだが。
「それは私の台詞ですね、マサキ。これは私が片を付けるべき因縁でです。そのくらいのこと、察しのいいあなたであれば、理解してくださっているものと思っていましたが」
 白々しく云ってのける神経の図太さは、彼を彼たらしめている要素のひとつではあったが、だからといってこの急場に姿を現していい理由にはなっていない。マサキは自身に構うことなく、拠点の奥へと足を進めようとしているシュウの肩を掴んだ。
「いい加減にしろよ! お前はそうでなくとも契約の記憶が残ってるんだ! そこに付け込まれたらどうするんだ!」
「だからこそですよ。このまま彼らを放置しておけば、いずれ私自身にも害が及ぶでしょう。そうなってからあの時ああしておけば――などと思っても、時は巻き戻りません。攻撃は最大の防御ですよ、マサキ。同じ死を迎えるのであれば、私は私の尊厳を保ったまま命を終えることを選びます」
 マサキはここに辿り着くまでに払った犠牲の数々を思い出した。洗脳されて集められた人間の中には、幼い子どもや若い女性ももいた。戦う力を持たない彼らに爆発物を持たせて大都市に特攻させた自爆テロ。現場は筆舌に尽くし難い凄惨さだった。
 洗脳を拒否しきった者たちにも明るい未来は待っていなかった。彼らは木々に吊るされた。勿論、ただ吊るされたのではない。その身に爆弾を抱え込まされた彼らは、救い出されるより先にその命を散らして行った。
 幸いにして救い出された者たちもいるにはいたが、医師曰く、日常生活に復帰するのには長い年月が必要になるだろうとのことだった。あんな目にシュウを合わせたくはない。マサキがここまで戦い続けてこられたのは、彼らの無念を晴らしたいのは勿論のことであったが、シュウの身を案じたからでもあったのだ。
「俺を信用する気が全くないな、お前は。そうならない為に、俺はここまで来たんだろうが」
「世の中に絶対などと判を押せる未来はないのですよ、マサキ。あなたが私を案じてくれるように、私もあなたの身を案じています。あなたを失っては生きてはいけない。そう思うからこそ、ここに足を運んだのです」
 死を経てのこととはいえ、契約の記憶を残して教団と縁を切ることに成功した男は、だからこそ自らの能力に過信をしているのだ。マサキは焦れた。どう説得をすれば、この場からシュウを引き下がらせたものか。論理を組み立てるのが苦手なマサキは、感情任せに言葉を吐くのが精一杯だ。
「相手を甘くみるんじゃねえよ。今回の奴らは人の心を捨ててやがる。幾らお前でも、捨て身の連中が相手だ。どういった手段に出てくるかはわからねえんだぞ」
「その言葉はそっくりそのままあなたにお返ししますよ、マサキ。ここに辿り着くまで、私が何も見ずにこれたと思いますか? 私はああいった目にあなたを合わせたくはありません。人の心を奪われるような死に様など、魔装機神の操者たるあなたには似つかわしくない。さあ、私に道を譲ってください。彼らと戦う決心は出来ています」
 巫山戯てやがる。云って、マサキはシュウの肩から手を離した。そして迷いも見せずに歩き始めた彼の隣に肩を並べた。しつこい人ですね。マサキの行動が癇に障ったのだろう。冷ややかな視線が向けられる。うるせえ。マサキは腰に下げた剣に手をかけた。通路の果てにうっすらと浮かんでいる人影が、こちらに向かって迫ってくるのが目に入る。
「生きるも死ぬも一緒にだ」
「性分ではないのですがね」
 誰であろうと強者であることを譲らない男は、ラ・ギアス世界の守護たるマサキが相手であろうとも、その態度を崩したりはしないのだ。
 それが寂しく感じられる時もあれば、頼もしく感じられる時もある。今の自分はどちらの気分であるのだろう。マサキは剣を構えて走り出すと、判然としない感情をぶつけるように敵に切り込んでいった。





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