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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

虹の七色でのんびり拍手お題(緑):緑さす湖畔のほとりで
旧拍手ネタです。
ただエロがやりたかっただけでしたが、敗北しました。


<緑さす湖畔のほとりで>

「ほら、やっぱりボード持ってきて正解だったでしょ!」
 湖畔の岸辺より少し行ったところでリューネがはしゃぎながらボートを漕いでいる。同乗しているプレシアとテュッティの表情を見る限り、このままリューネにオールを任せても大丈夫なようだ。マサキはほっと胸を撫で下ろしつつ、背後に控えているデメクサを振り返った。
「いい天気に恵まれてよかったですね。これなら渓流釣りもいい成果が期待出来ますよ」
 山と緑に囲まれた静かな湖畔に行こうと云い出したのはリューネだった。どうやらどこぞからかデートに最適な場所という情報を仕入れてきたらしい。大方、軍の兵士たちが面白半分に教えたのだろう。彼らはそうやって面白半分にリューネに情報を与えては、それに振り回されるマサキが疲労困憊で自分たちの元に怒鳴り込みに来るのを楽しみにしているらしかった。
 おかしな連中のおかしな楽しみはさておき、リューネの目論見としては、マサキとふたりでボートに乗ってと考えていたに違いない。しかし、そんな面白そうな話を他の魔装機操者たちがいる席でしようものならどうなるか。わからない彼女ではなかっただろうに。それだけ気が逸《はや》っていたのだろうが、かくて大所帯。言い出しっぺのリューネを除くと、マサキ、テュッティ、ヤンロン、ミオ、デメクサ、ゲンナジーにプレシアと七人もの魔装機操者が顔を揃えることとなった。
 しかも後から、軍での所用を済ませてジノとザッシュも来るらしい。これで総勢九人。「これだけの正魔装機の操者たちが顔を揃える機会など滅多にないわね」と、テュッティに云われたマサキは少しばかり後悔したものだ。
 ――それだったらいっそ、全員に集合をかければよかった。
 そんなことを思いながら、今日の為に揃えた釣り道具を肩に担ぐ。
「俺は初心者だし、釣果《ちょうか》は期待してねえよ。先ずは基本を覚えなきゃな」
 岸辺に広げられたピクニックシートの上では、早くも杯を酌み交わしているヤンロンとゲンナジーの姿。未だにゲンナジーを漫才コンビの相方にすることを諦めていないらしいミオが、その中に割って入って、ハイスピードで次から次へとカップを空けている。
 ミオは酔い始めるといつもああだ。迂闊に声を掛けようものなら凄まじい勢いで絡んできて、相手に無理矢理に酒を飲ませてくる彼女を、ヤンロンとゲンナジーの蟒蛇《うわばみ》コンビだったら上手くコントロールしてくれるだろうとマサキは思って放置することにしたのだが、今からこの調子では先行き不安どころの騒ぎではない。「おい、ヤンロン。適当なところで止めてやれよ」近付いて、そっと声を潜めてヤンロンに云えば、「潰した方が楽な気がするのだがな」と、とんでもない答えが返ってきた。
「……まあ、いいや。行こうぜ、デメクサ」マサキはデメクサと肩を並べて歩き始めた。
「どこにあるんだ、その釣りに適したスポットって」
「ここからだと五分くらい歩いた先になりますね。釣り人には良く知られているスポットなので、もしかすると先客がいるかも知れませんが」
「坊主は嫌なんだけどな」
 初心者だということを認めているとはいえ、一匹も釣れずに帰るのは流石に癪に障る。せめて今晩の夕食分ぐらいは釣り上げたいものだ。そうマサキが云えば、大丈夫ですよ、とデメクサは笑って、
「警戒心の弱い魚が多いんですよ。餌を付けなくとも針を垂らすだけで釣れることも多いんです。もしも人が多いようでしたら、近くに別のスポットもありますし、何でしたら湖で目的を変えて釣ってもいいですしね。この辺りは本当に釣りスポットに事欠かない場所ですから、何某《なにがし》かは釣れますよ」
「本当かねえ」
「僕が云うんですから、間違いないです。信用してください、マサキさん」
 そこでマサキは一度足を止めた。
「マサキさん、どうしましたか?」
 湖畔から木立繁る森の中へ。有名な観光スポットらしいこの辺りには、マサキたちだけではなく他の観光客の姿もちらほらと見受けられた。彼らのものだろうか? 突然感じた視線にマサキは周囲を窺うも、渓流へと続く道を歩いているのは自分とデメクサのみ。
「悪かったな、デメクサ」
 気の所為だと自分に云い聞かせたマサキは、気を取り直して再び歩き始めた。
 さしたる時間もない道中ではあったものの、デメクサのプライベートな話を幾つか聞いたマサキは、その微笑ましさに心が温まったものだった。特に印象に残っているのは、プレシアの作るチェリーパイの味が家族の作ってくれたチェリーパイに似ていて、食べているだけで幸せな気分になれるという話だった。
「足を滑らせないように気を付けてくださいね」
 人もまばらな渓流で位置取りを済ませ、デメクサの指導の元、マサキは竿を振り始める。気の優しいデメクサの懇切丁寧な説明で理屈は簡単に理解出来たものの、実技となるとこれが中々に難しい。ゲームだったら簡単に思ったスポットに飛んでいくルアーが、人力に変わっただけでこうもコントロールが効かなくなるものなのか! 右に左に手前にと、全く思った通りの場所に投げられないルアーに、早くもマサキの心は折れそうになる。
 それでも三十分もすれば、二回に一回は思い通りの場所に投げられるようになってきた。こうなると面白くて堪らなくなったものだ。小さい魚であったが初釣りも済ませた。マサキは夢中になってデメクサの隣で釣竿を振った。
 その時だった。
 再度、感じた視線。周囲の釣り客のものでは決してないただならぬ視線は、マサキに背筋が総毛立つような殺気を感じさせたものだ。無論、このまま放置していていい事態ではない。マサキは相手に気取られないように、釣りを続けている振りをしながら、隣に居るデメクサに小声で事情を伝えた。
 ――もう一度、殺気を感じたら今度は後を追う。
 そのチャンスはそう時間が経たない内に訪れた。背後の草むらから飛んでくる殺気。明らかに距離が近付いている。マサキはデメクサに目配せをすると、振り返りざま。助走も取らずに草むらに飛び込んだ。
 ガサガサッと大きな擦過音を立てて、人影が飛び出す。亜麻色の髪が太陽の光に照らされたかと思うと、|彼《・》|女《・》はマサキに捕らえられるより先に、逃げるように森の奥へと駆け出していた。
「デメクサ、ここに居る人たちの安全確保は任せた!」
「わかりました! お気を付けて!」
 足を取られやすい道なき道。思ったように先を進むことも難しい森の中を、彼女は華奢な身体を揺らしながら、しなやかに駆け抜けてゆく。とはいえ、そこは魔装機神の操縦者。伊達に身体反応とリンクする機体を扱いこなしてきた訳ではない。徐々にマサキの足は、道なき道に慣れを感じるようになってきた。
 こうなれば後は早い。追いかけ続けること五分ほど。ようやくその肩を掴んだマサキは、「ご挨拶じゃねえか」何故か涙を滲ませている|モ《・》|ニ《・》|カ《・》と向き合っていた――……。

「何だ、お前。泣いてるのか」
「あなたに気配りされる謂《いわ》れはありません」
 モニカはぴしゃりと云い放つとそっぽを向いた。「随分と嫌われたもんだな」とはいえ、尋常ではない殺気を向けられて、如何に相手がモニカであるからとは云え、はいそうですかと解放する訳にもいかない。
「とにかく事情を話してみろよ。それによっちゃあ、俺も改めるところは改める。わからねえが、何か気に入らねえところがあるんだろ。そうじゃなきゃ、こんなにお前の態度が変わるもんか。それについては聞いてやるよ」
「本当ですか? あなたにそれが出来るとは思っていないのですけれども」
「いいから話せよ。聞かないことにはどうにもしてやれないだろ」
 それでしたら、とモニカが口を開こうとするも、「あの、マサキ……」彼女は何を話し出そうとしているのか、矢鱈と躊躇ってばかりで一向に話が進まない。気が短いマサキは焦れったさに落ち着きを欠きそうになったものだが、そこは魔装機操者の女性陣との付き合いで鍛えられたものだ。自分で自分を抑えつつ、ただじっとモニカが話し出すのを待つ。
 待つこと一分ほど。
 その甲斐あって、ようやくモニカも話をする決心が付いたようだ。マサキを真っ直ぐに見詰めてくると、「その、お伺いしたいのですけど、マサキはシュウ様のことをどう」そこまで云いかけた瞬間だった。モニカ、と低い声が森の奥から聞こえて来た。
 長躯に纏った白い衣装。裾をひらめかせながら、シュウが姿を現す。
「何だ、シュウ。お前もいやがったのか」
「彼女を追って来たのですよ」短く云って、シュウはモニカに向き直った。「わかりましたか、モニカ。マサキは関係ない」
「そうでしょうか……」
 納得の行っていない表情をしているモニカの亜麻色の髪をシュウは幾度か撫でた。
「あなたの頭が冷えたら話をしましょう、モニカ。だから今は一度家に戻りなさい」
「――……わかりました」
 それで幾分機嫌を直したらしい。
 モニカはぱっと表情を明るくすると、「ごめんなさい、マサキ」謝罪の言葉を残して森の奥へと姿を消した。残されたマサキには何が何だかさっぱりだ。何かが原因でマサキに殺気を向けるほどモニカを怒らせたことだけは間違いない。しかもどうやら、それには目の前のこの男が絡んでいるらしい。でなければ、どうしてあそこでシュウの名前がモニカの口から出たものか。
「で、何が原因なのかぐらいは聞かせてくれるんだろうな」
「服が見付かってしまったのですよ」
 あ、とマサキは声を上げた。
 取りに帰るのも面倒だと、シュウの家に置きっ放しにしていた着替え用の服。シュウ曰く、その存在を失念したまま、衣替えをすると云って聞かなかったモニカの好きにさせてしまったのだそうだ。シュウが絶対に着ないタイプの服――そもそもサイズからして異なるその衣装の持ち主を、モニカは直ぐに察したらしい。そのまま家を飛び出して、今に至る。
「……何で忘れるんだよ、そんな大事なこと」
「あなたの服にはあまり興味がないものですから」
 まるで中身には興味があるとでも云いたげなシュウの台詞に、マサキは盛大に顔を顰めた。何せ、暇さえあれば自分を構わずにいられないこの男のこと。本気でそう思っている可能性すらある。
「ちゃんと後でモニカの機嫌を取れよな。とばっちりは御免だ」
 ええ、と頷いたシュウの口元が微かに歪んでいる。この話の流れで笑顔を浮かべてみせるなど、碌な予感がしない。今日は流石に無理、とマサキは声を発しようとする。取られた手をマサキは振り払えないまま。そうして彼の腕の中に引き寄せられたマサキは、次の瞬間にはその口唇をシュウによって塞がれていた。
 暫く、そうして互いに口唇を貪る。ただただ無言で、跳ねる息を押さえることもせず、ひたすら……そのまま、木の幹に凭《もた》れさせられたマサキは、口唇を剥がすとシュウの顔を見上げて、その頬に手を添えた。
「やるのか……?」
「駄目?」
 シュウが欲望を抑えきれずにいるのは、その口付けの感触でわかっていたことだったけれども、こうしていざ低くも甘い声でねだられると、さしものマサキもどう返したらいいものか困る。渓流に残して来たデメクサに、湖畔の岸辺にいるだろうヤンロンたち。湖ではリューネがまだボート遊びをしているのだろうか。しかも、ジノにザッシュだって合流する予定だ。そんなに長くは行方をくらませられない。
「今日は魔装機の連中と来てるんだよ」
 嫌になるほど、玲瓏とした瞳。うっすらとした笑みを浮かべて自分を見下ろすその目の美しさたるや、どんな宝石とて敵いはしない――、マサキは場所も忘れてシュウの顔に凝《じ》っと見惚れた。これでは、断らなければならないものも断れない。
「……そんなに時間は取れないぜ」
「どのくらいならいいの、マサキ」
 マサキの手を頬から剥がしたシュウは、そのまま耳元に囁きかけてきながら、早速とばかりに服を捲り上げてくる。期待に膨らむ胸は、マサキの身体を熱くして止まない。既に触られるのを待つかのように、硬さを増している乳首をシュウの指先がなぞる。
「……五分で済ませろよ」
「流石にそれは。せめて十分」
「わかった。でも、それ以上は本当に無理だぞ……」
 無言で下りてきた口唇が乳首を食んだ。あ、と小さく声を上げて、マサキはシュウの髪を掴んだ。

 四十分に渡った不在を、デメクサは責めなかった。行き違いがあってモニカと揉めたと伝えると、彼はそれで納得したようだ。誤解が解けたのならよかったですよと、いつも通りにどこか無邪気ながらもどこか大人びて見える不思議な表情で笑ってみせた。
 彼の釣果は既に結構な量になっていて、昼食はひとり一匹の魚料理にありつくことが出来た。
 合流したジノとザッシュにミオを除く女性陣を任せて、マサキとデメクサは午後も渓流釣りを楽しんだ。拗ねたモニカの相手をしなければならないシュウの気苦労を思うと、こんな風に自分だけのんびりと過ごしていることに後ろめたさを感じたりもしたが、偶にしかない行楽だ。それに彼の望みは叶えてやったのだ。こんな風に魔装機操者たちでのどやかに過ごす一日があってもいいだろう。
 例の服は引き取らねばならないのだろうけれども、今は。
 ――そこは今度会った時にシュウと話し合うことにするか……
 夕食に足りるだけの魚も釣れた。今度はキャンプをしに来ようと意気揚々なリューネに、そうだなと休暇を楽しみきったマサキは頷いて、それぞれの操者が乗り込んだ魔装機の一団を率いて帰路へと着いた。


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