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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

虹の七色でのんびり拍手お題(黄):キッズ・メモリー
旧拍手ネタです。
リューネにヴァルシオーネを与えたビアン博士は何を考えていたのかなあと。


<キッズ・メモリー>

「子供の頃の夢?」
 顔馴染みの兵士たちと輪になって談笑していたマサキが、その近くで炊き出しの準備に励んでいたリューネに声をかけてきたのは、ラングランの南に位置するパオダ州にある軍の駐屯地でのことだった。
 サイバスターにガッデス、ザムジードとヴァルシオーネRが参加した軍との大規模合同演習。朝六時から始まったプログラムは、昼を二時間過ぎて、ようやく午前中に予定されていた市街戦を終えたところだ。
「こいつらが知りたいんだってさ」
 既に予定を二時間もオーバーしているというのに、この呑気さ! 何もせずに済むのなら、リューネとて、そうしたい。とはいえ空腹は相当なもの。だからこそ、不慣れな料理の腕ながら、彼らの炊き出しの手伝いに身を削っている。
 こういった時のマサキは全く役に立たない。それをリューネは承知していた。それはマサキの価値観が前時代的な男性観に支えられているからではなかった。何せマサキは神聖ラングラン帝国の象徴、16体の正魔装機の頂点に君臨する風の魔装機神サイバスターの操者。剣聖ランドールの名を受け継いだ英雄でもある。そんなマサキを崇拝し信奉する兵士は腐るほどいて、彼らは次から次へとマサキに話しかけては、アドバイスを求めたり、自分の思いを伝えたり、或いは世間話に持ち込んだりと忙しない。
 とはいえ、リューネは呆れ果ててつつも、どういうこと? とマサキに訊ねずにはいられなかった。
 ただ知りたいにしては、随分と感傷的な質問もあったもの。しかも質問を投げてきているのは兵士たちときたものだ。どういった話の流れでこうなったのか、それはリューネとて興味は持つ。
「なまじっかな腕じゃ傷すら付けられないヴァルシオーネRの操縦者《パイロット》が、子供の頃はどんな夢を持っていたのかってな……まあ、俺はお前のことだ。子どもの頃から戦闘用人型汎用機《ロボット》の操縦者《パイロット》になりたかったって云っても驚かないぜ」
「そこまであたし脳筋だと思われてるの? ないない。流石に子どもの頃はね、普通に将来は好きな人のお嫁さんって思ってたよ」
 おお、とマサキを囲んでいる兵士たちの間から声が上がり、途端にざわつき出す。
 しかしその内容と来た日には。リューネさんにもそんな可愛らしい時代があったのかだの、その割には料理の腕がだの、やっぱり女の子だったのかだのと云いたい放題。「あんたたち……そんな口を利いている暇があるんだったら……」癪に触って仕方のないリューネは、炊き出しを手伝わせようと彼らを睨んで、
「まあ、いいじゃねえかよ。お前が女らしさに欠けるのは事実なんだし」
 止《とど》めとばかりにマサキに云われては立つ瀬もない。「もう、マサキは口が減らないんだから!」リューネは手にしていたレードルでマサキの頭を叩《はた》きにかかった。それをあっさりと躱《かわ》したマサキは、落ち着けよとリューネの手首を掴んで、茶目っ気たっぷりに笑ってみせたものだ。
「狡いなあ、ホントに」
「何がだ?」
「いいのよ、マサキはそのままで」リューネはマサキが掴んだ手首をそっと撫でた。「ねえ、マサキの子どもの頃の夢って何だったの?」
 こんな些細なスキンシップさえ嬉しくて堪らない自分の気持ちなど、マサキには伝わらないに違いない。でも、リューネはそんな鈍感なマサキさえも好きで好きで仕方がないのだ。だからこそ、どんなつまらないことでもマサキのことを知りたい、そう思ったリューネがついでとばかりに訊いてみれば、
「俺か? 俺は……何になりたかったんだっけなあ……」と、なんだか煮え切らない返事。
「何それ。人には聞くけど自分は覚えてないの?」
「子どもの頃の夢なんてころころ変わっちまうもんだろ。昨日は警察官だったかと思えば今日はF1パイロットだったりさ。多分、あの頃の文集とか見たら、俺こんなこと書いてたっけ? ってなるんじゃないか」
 マサキの気分屋で気紛れな性格は、どうやら子どもの頃の夢にも影響を与えていたようだ。物事に執着心の続かないマサキらしいと云えばマサキらしい。とはいえ、子どもの頃は一途な夢を持っていたリューネからすれば、それは軽いカルチャーショックでもあった。
 それは呆れて二の句も続かなくなる。そんなリューネに、マサキはマサキで気になることがあるらしい。
「お前はどうして操縦者《パイロット》になったんだよ。お嫁さんになるのが夢だったら、対極にあるようなもんじゃないか? 戦い続ける選択をするってのはさ……」
「あー、そういうの偏見って云うんだよ、マサキ」
「って、云ってもなあ。現実的に考えてみろよ。結婚して子供産んでハイ、終わりじゃないんだぜ。そこからが本番だろうよ、子育てってのはさ。戦場に出るってことは命の危機と隣合わせだ。もしかしたら幼い子どもを残して自分が先に死ぬかも知れない。それは別に偏見とかじゃなく、事実だろうよ」
「そうなったら辞めてもいいかなあ。あんまり操縦者《パイロット》に拘りがある訳じゃないからね、あたし。そもそもヴァルシオーネだって、欲しくて貰ったもんじゃないし……」
「あれ、そうだったのか? 俺はてっきりあれはお前の趣味だとばかり」
「まさか!」リューネは声を上げた。「親父の趣味だよ」
 そして話を続けた。リューネが幼い頃から、忙しさにかまけて家にあまり寄り付かなかった父ビアン。その父の部下を名乗る男たちに面倒を見られながら、それなりに女の子らしく過ごしていたあの頃。賑やかな環境で育ったリューネは、だからといって抱えていた寂しさが癒えるやされる筈もなく、孤独な日々を送っていた。
 そんなある日、珍しくもビアンが直接リューネに欲しいものを訊ねてきたのだ。
 どうやらリューネの誕生日が近いことに気付いたらしく、父親らしいことをせねば、と思い立ったらしい。それを聞いたリューネの気持ちは沸き立った。何を頼むか暫く時間が欲しいと頼んで、来る日も来る日も考え続けた。
 物心が付いてから、父が贈ってくれる初めてのプレゼント。だったら一生大事に出来るものにしようと、あれこれ考えた結果、リューネが思い付いたのが西洋人形《ビクスドール》。手入れが難しい変わりに、自分の子どもや孫にも伝えられる。それがとても素晴らしいアイデアに思えたリューネは、早速ビアンにその旨を伝えた。
「そんなもんでいいのか? 人形だったらもっと凄いものを父さんは造れる、って始まっちゃってさ。ああいう人だったからね。思い込んだら一直線、になっちゃって」
「で、出来上がったのが、アレだと?」
 マサキが背後に控えている魔装機の中で、ひときわ異彩を放っているヴァルシオーネRを指で差して云う。
 ピンク色の髪を風になびかせながら屹立している女性型の巨大な戦闘用人型汎用機《ロボット》は、流石は稀代の科学者が手ずから製作してみせただけあって、魔装機神に勝るとも劣らないポテンシャルを発揮してみせたものだ。その性能たるや、正魔装機に四方を囲まれてもその制圧が可能なほど。
「可愛いじゃないのよ!」リューネは絶叫した。「ここまで可愛くしてもらうの大変だったんだからね。ホント、あのクソ親父止まらなかったのよ。最初の可愛くないデザイン、マサキに見せたかったくらいよ。あれはあたしが何を頼んでも、最終的にはプロトタイプのヴァルシオーネを造るつもりでやってたのよ。でなきゃ、なんで西洋人形《ビクスドール》が戦闘用人型汎用機《ロボット》になるのよ!」
「一文字も合ってねえな」ぼそり、とマサキが呟く。
「でもまあ、ここまで可愛くなったんだから、終わりよければ全てよし、よね」
 それを右から左へと。聞かなかった振りをして、胸を張ってリューネが云ってのければ、
「俺はお前と可愛いの定義が異なるらしいってことだけは良くわかった」
「何でよ、マサキ! ホントに可愛いでしょ!」
 その瞬間、ガンガンガンとブリキのバケツが叩かれる音。どうやらリューネがマサキ相手に弁舌を振るっている間に、炊き出しの準備が整ったようだ。やった、飯だ。とマサキがさっさとその列に並ぶ。もう、とリューネは少しだけ頬を膨らませて、彼に炊き出しの料理をよそってやるべく、炊き出し班の方へと小走りに掛けて行った。


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