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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

言霊

毎度死ネタで申し訳ありません。同じ時間に死ぬのは難しいので、どちから残された方はどうなるのだろうとつい考えてしまいます。どちらかというとダメージが深そうなのはマサキの方だと私は思っているのですが、皆様的にはどうでしょう。






<言霊>

 愛するマサキへ

 あなたが今これを読んでいるということは、私はあなたより先に死んでしまったのでしょう。
 道半ばにしてあなた置いて先に逝かなければならないのは辛くもありますが、これもまた私に授けられた運命です。
 どうか悲しむことのないように。
 それよりも私は、あなたをきちんと愛せたかの方が気掛かりです。
 どうでしたか、マサキ。あなたは私に愛されていると実感することは出来ましたか? あなたがそう感じてくれているのであれば、これに勝る喜びもありません。私は大人しくこの世を去ることにしましょう。
 ところで、
 強く逞しいあなたのこと。私がいなくともきっと前を向いて生きていってくれることと信じてはいますが、もしも私がいないことに辛さを感じる夜があるようでしたら、次の言葉を口にしてみてください。

「俺に会いに来い、シュウ」

 私があなたに会うことは叶いませんが、奇跡がひとつ起こるのを感じることが出来る筈です。
 それでは、マサキ。お別れです。あなたを愛せて幸せでしたよ。

 ※ ※ ※

 シュウが死んだ。突然の訃報だった。
 彼の亡骸が荼毘に付されるのを見送ったマサキは、それから暫くの間、ただ家の中に篭って過ごすしかなかった。
 何かをしようにも身体に力が入らない。特に夜になるとその傾向が顕著となった。
 いつも隣にあった温もりが、この世の何処にも存在していない。現実を思い知らされるのが怖かったマサキは、最早そうする必要もないのに、ベッドの端で眠ることしか出来なかった。
 彼の柔らかい髪。陶器のように滑らかな肌。薄く伸びた口唇。それらにマサキが触れることはもうない。
 なのに流れ出ることのない涙は、欠けた人間であると自覚のあるマサキに、自分の欠陥を突き付けてくるようだった。
 一週間が過ぎ、徐々に仲間と過ごす時間が増えた。日中を騒がしく過ごすようになったからだろう。夜の独り寝が余計に堪えるようになった。マサキはブランケットを被って泣いた。寂しさを紛らわす為に二匹の使い魔と一緒に寝ることも考えたが、彼の死を認めるような気がして出来なかった。ベットの端で眠り続ける夜はまだ続いていた。
 一ヶ月が過ぎる頃には5キロも痩せていた。何を食べても味がする気配がない。お前はこんな思いをさせる為に、俺を愛したのか。そうシュウを問い質したくもなったが、彼はこの世にもういない。マサキは理不尽な怒りを抑え込むのに精一杯だった。
 だからある夜、マサキはついにその言葉を口にすることにしたのだ。俺に会いに来い、シュウ。その言葉を口にした瞬間、前日に家を出たまま戻って来なかったシュウの死を、ついに自分は認めてしまったのだとマサキは思わずにいられなかった。
 彼はもういない。いないからこそ、奇跡が欲しい。
 けれども、奇跡とは何であろう? ブランケットを被ってその訪れを待っていたマサキの胸元に、暫くして覚えのある温もりがつと忍んできた。マサキはびくりと身体を揺らした。やっと私を求めてくれましたね、マサキ。姿が見えないのに聞こえてくる声。マサキは混乱した。マサキの胸元を弄っている手は、いよいよ乳首へとその指を伸ばしてきている。
 ――あなたが寝ている間に、催眠暗示をかけたのですよ。回数に限りはありますが、これであなたを満たしてあげることが出来る。どうですか、マサキ。久しぶりの性行為セックスは。それとももう私との性行為セックスを忘れてしまった?
 そんなことはない。マサキは首を振った。
 甘やかに身と心を溶かすシュウの愛撫。マサキはその温もりを求めて幾度も彼に行為をねだった。日頃はマサキよりも体力に劣る面のある彼だったが、性行為セックスに溺れた夜は別だった。先に疲れ果てて眠ってしまうのは、いつでもマサキの方。彼はマサキが眠りに就くまで、マサキの身体を手放すことがなかった。
「ああ、シュウ……シュウ……」
 指の腹で撫でられては、軽く抓まれる。ゆるりと起ち上ってきた乳首が、続けて吸われた。濡れた舌が休まることなく乳輪をなぞっている。はあはあと息を荒らげながら、マサキは死して尚、自分の身体を占有しようとした男の執着心に、眩暈を覚えそうなまでの恍惚感を覚えてしまっていた。
 ――あなたの反応を見ることが出来ないのが残念ですよ、マサキ。けれどもあなたは、これで私だけのものだ。
 そこからたっぷりと時間をかけて、姿の見えないシュウの手によって全身にくまなく愛撫を施された。
 それが真実ほんとうに催眠暗示の力であるのか、それとも死して尚、彼が抱き続けているマサキへの執着心の為せる業であるのか。マサキにはわからなかったが、どちらでも良いと思うくらいにその温もりはマサキの乾ききった心を潤してくれた。
「シュウ、早く。早く……」
 ふと見れば、うっすらと口吸いの跡が肌に浮かんでいる。それを認めた瞬間、ぞくりとマサキの背筋を震えが駆け抜けた。自分はもうずっとシュウのものなのだ。マサキの言葉に応えるように、蕾の中へと押し込まれる彼の男性器の感触。これに囚われて自分は生きていく。マサキは涙を流しながら、激しくベッドの上で踊り狂った。

 ※ ※ ※

 一年が経った。
 マサキの減った体重はとうに戻り、仲間と過ごす日々にも抵抗を感じなくなっていた。
 シュウの催眠暗示によって呼び起こされるようになった彼との性行為セックスの記憶は、マサキが日常を恙なく送るのに必要な感情を蘇らせてくれた。回数に限りがあるとシュウが言葉を残したことに不安は残るものの、だったら回数を限ればいい。マサキは彼との逢瀬を月に一度と決めた。
 たったそれだけでも彼の愛情に満たされる時間を得られたのだ。それにどうして不足を感じたものか。
 時には新しい会話が生まれないことに寂しさを感じもするが、多くを望んでは罰が当たる。マサキはいつか来るかも知れない日の為に、大事なものを失わないように準備をしていたシュウに感謝をしていた。彼のお陰で自分は壊れることなく日常を送っていられる。感情表現の上手くないマサキは、彼からの一方的な愛情に寄りかかって生きていたからこそ、彼がそうした自分の本性を見抜いているかのように準備をしてくれていたことがとてつもなく嬉しかった。
「マサキはずっとひとりでいるつもりなの?」
 シュウを喪ったマサキは、彼らにはカラ元気でいるようにも映るのだろうか。時にはそう仲間に尋ねられることもあったが、その時のマサキはこう答えるようにしていた。
「俺はもう一生分の幸せをもらった後だからな」
 元来、マサキはささやかな幸せで自分を満たせる人間であるのだ。
 先々、失われることもあるかも知れないシュウが最後にかけてくれた魔法。マサキはそれを自分ひとりの胸の中に仕舞って生きてゆく。そしてその記憶を大切にしながら、またいつか。仄暗い精霊界の向こう側で、彼と再会できる日を夢見ている。




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