「「あなたさえいなければ」で始まり、「ぼんやりと思い出した」がどこかに入って、「何もわかっていないんだね」で終わる物語を書いて欲しいです。」のお題を消化したもの。一部改変アリ。マサキと思い出話をしていた白河が、その何気ないひとことに感情を動かされた話です。
正直、肘が連日痛いんですけど、それがストレスとなって活動が活発になる@kyoさんです。ところで@kyoさん、未履修の作品いつプレイするの?って話なんですけど、その気はあるんですよ。但し金がない。ソフトは買えても本体買えないって状態なんですよねえ。就職しないと無理ってぐらいに金がない。
裏技(障碍者年金を得る)を使うという手もありますけど、それで買うって違うじゃないですか。だから就職決まるまでお待ちいただけると幸いです……という世知辛い話をして、では本文へどうぞ!
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<あなただけに>
「あなたさえいなければ……」
らしくなく感情的になっているとはいえ、思いがけず口を衝《つ》いて出てしまった言葉に、慌ててシュウは続く言葉を飲み込んだ。
地底世界に召喚された頃の鼻持ちならない尊大さは鳴りを潜めたものの、他人の気持ちに機知を発揮出来ない少年は、今でも稀に傍若無人に振舞ってみせることがあった。それをシュウは仕方のないことと思いながら機会を見てはやんわりと諫めてきたものだったが、社会的な経験に乏しい少年は周囲に持て囃されるがままに祭り上げられた立場と地位にあるだけはある。風の魔装機神が操者、剣聖ランドール。その名に与った事実に慢心しない方がどうかしたものだろうに。
ましてや発達段階の途中にあるのだ。精神的な成熟をこれから迎える少年に、才気ばしった性格を抑えろと云ってみたところで簡単には己を省みたりはしない。わかっていると繰り返す割には伴わない態度。才能だけで昇り詰めた立場や地位を維持する為には努力が必要不可欠であるというのに、面倒臭がっては修練を怠ってばかりなのだと彼の仲間からは嘆くような声が聞こえてきたものだ。それでは毎度毎度戦いの最中でなければ成長出来ない筈である。
だからといって、シュウが己の心の中に溜め込んでいた個人的な鬱憤をぶつけていい理由にはならない。
どれだけシュウが風の魔装機神に執着心を持っていたとしても、そしてそれを手に入れられなかったことに忸怩たる思いを抱えていたとしても、その操者たるマサキには何の責もないのだ。常に鳥瞰した世界にいるシュウは、だからこそ感情が理性を突き破って発露してしまったことに焦りを隠せなかった。
――そういやお前、俺と初めて顔を合わせた時に、どうしてサイバスターを見てたんだ。
始まりはマサキの何気ない言葉だった。もう何を話したか思い出せないぐらいにさりげなく始まった会話は、いつしかお互いの過去に及ぶまでに主題《テーマ》を深いものへと変えていた。とはいえ、マサキとしてはそこまで大仰にことを捉えてはいなかったのだろう。ただ単純に、懐かしい日々にシュウが抱いていた感情を尋ねたかっただけに違いない。
けれどもそのひと言は、マサキが無邪気な態度であっただけに、シュウの心を深く抉った。
風の魔装機神、サイバスター。それは16体の正魔装機の中でも最大のポテンシャルを秘めた機体となるだろう……魔装機計画がその機体開発の終盤に足を踏み入れる頃に聞こえてきた噂は、シュウの心を説明が付けられないほどに騒がせたものだった。
その機体は必ずや歴史に名を刻むラングランの戦神となろう。確信めいた思いを抱いたシュウは、それまで何処か冷めた目で眺めていた魔装機計画の進捗を、逐一把握するように努め始めた。絶えることのない情熱。今に至るまで消えることのないサイバスターへの執着心は、思えばこの時に生まれたのやも知れない。
ラングランの英知が結集した象徴《シンボル》の誕生を待ち望んでは、ウエンディの元に足を運んだ日々。完成が間近に控える頃ともなれば、その操者に相応しい者の名前が人々の口に上るようになる。徐々に集まり出していた期待を当然のことと思いつつも、表面上は軽く受け流していたシュウは、けれども先立って自ら使い魔を用意するまでにサイバスターという力の虜となっていた。
それは奢り以外の何者でもなかった。
主義主張など何処にもない。あらゆる才能に恵まれたシュウは、その才能を示す為の勲章のひとつとしてサイバスターを欲しいと望んだまでだった。天駆ける鳥をモチーフとした意匠《デザイン》。雄々しき大鳳と表現するに相応しい姿の魔装機をその目にしたシュウは、己ならば必ずこの魔装機を乗りこなせると浅はかにも思ったものだ。
精霊を宿したラングランの守護神は、決してそのような心根で扱い切れるものではない。
だのに容易くもサイバスターを手に入れてみせた少年は、無邪気にも高慢に振舞ってくれたものだ。その現実に直面する度に腹立たしさを感じずにいられなかったシュウは、だからこそマサキの心を砕いてみせようと決心したものだったし、だからこそ自らを追って地上まで飛び出してきたマサキをひたすらに無視してみせたものだった。
――私が得たいと望んで得られなかったものだったからですよ、マサキ。
ぼんやりと思い出した記憶。始まりはサイバスターが収められていた格納庫だった。続々と召喚される操者候補の地上人たち。彼らが当然のように正魔装機を乗りこなしてゆくのを、シュウは苦々しく感じながらも表面上は物わかりのよい青年を演じ続けた。
欲しかった立場を手に入れられなかったシュウは、味わった挫折感を昇華しきれぬまま、それでも諦めきれぬ思いを胸に格納庫に足を運び続けた。増してゆく執着心の意味を考えることなく、ただサイバスターを眺めては、その声が自らに届くことがないかと耳を澄ませる。そして、微かな希望を打ち砕かれては、失意を感じながら帰路に着く。
だからこそシュウの焦りは限りなかった。風の魔装機神の操者の席は空位のままであったけれども、既に魔装機計画が本格的に運用されるようになってから久しい。恐らくラングラン上層部は、正魔装機の席が埋まりきるまで地上人を召喚し続けるだろう。その流れを止めることがシュウに出来ない以上、風の魔装機神は必ずやパートナーを選ぶ日が来る。
選ばれないのであれば奪ってしまえばいい。そうシュウが考え、その為の青写真を描くようになった頃に、いつものように足を運んだ格納庫。見れば見るほどに美しい戦神の姿を、届かぬ地位であるからこそ物惜しく眺めていたシュウは、そこで地上に召喚されたばかりであるが故に迷い込んでしまったマサキと会った。
あどけなさが残る面差しに、まだ発達途中にある身体。初対面のシュウに対して物怖じせずに口を利いてきたマサキから発されるプラーナに伸びしろを感じはしたものの、それだけだ。取り立てて他の操者候補たちと比べて秀でているように感じられる部分もなし。よもやこの程度の年若い少年にサイバスターが心を開く筈もないだろうと、この時のシュウはよくよく目を開くこともなくその未来を決めつけてしまっていた。
――ちらとは耳にしたことはあったけどよ。お前、そんなにサイバスターの操者になりたかったのか。
まるで自らの愛機が大した魔装機でもないと云わんばかりのマサキの台詞。シュウの言葉を受けて何気なく吐き出された言葉に、今以て尚、胸の中に燻ぶり続ける想いを抱えているシュウは、目の奥が熱くなるほどの怒りを感じずにはいられなかった。
無自覚の奢りほど厄介なものはない。
多くの人間が操者になることを夢見た風の魔装機神。夢破れたのはシュウひとりではない。数々の絶望をラングランの人間に与え続けた孤高の魔装機神サイバスターは、その果てにようやく己のパートナーを得た。
マサキ=アンドー。
今のマサキの立場は数多の人間の挫折の上に成り立っている。それをマサキは知らないままに動乱の日々を迎えてしまった。知る機会を与えられずに歳月ばかりを重ねてしまった少年は、ある意味に於いては無垢なまでに無知のままであるのだろう。そうでなければどうして安易にシュウにそう尋ねることが出来たものか。
悪気のなさ故に、咎められることもなく遣り過ごされてきたマサキの無頓着さ。積み重なった無礼はシュウに相当の心理的負担《ストレス》を感じさせていた。けれども、人は一面のみで語れることのない生き物だとわかっているシュウは、そうしたマサキの短所をささいなものと丸ごと受け入れようとしてしまった。それはかなりの精神的な葛藤状態《コンフリクト》を強いるまでに、シュウの心を追い詰めていった。
そして、そう。だからこそシュウは、自らの意思に反した言葉を口走ってしまった――……。
「悪かった……」
やがて口にされたたったひとことの謝罪に、シュウは悲しみを覚えずにいられなかった。
シュウを光ある世界へと引き戻してくれた少年に、感謝は限りない。不器用なまでの愚直さで、地上に出たシュウを追い続けた少年マサキ。どれだけ相手にされなくとも挫けることのなかった少年は、シュウを斃したことで地上世界を救った英雄となった。
舞台を地底世界途へ戻してもその進撃は止まらない。少年は救国の戦士となり、ラングランはおろか、世界にその名を知らぬ者はいない存在となった。地上と地底と。ふたつの世界を股にかけた活躍を続ける少年は、何故にそれだけの偉業を成し得たのか。それこそが真理。精霊が望んだ希望。マサキには誰よりも輝ける真っ直ぐな魂が宿っている。
その事実に嫉妬を感じるほど、シュウは己を過大評価はしなくなった。
与えられた才能の種類が異なっていることを知ってしまったシュウは、彼に比類する力を得る為に己の知力を用いることとした。その英知の結晶たるグランゾン。圧倒的な力を与えられたシュウの愛機は、シュウに足りないものを補ってくれる存在だ。
今となってはサイバスターに求めるものなどなにもない。ただ、苦々しいまでに己の心を雁字搦めにする挫折の記憶を除いては……シュウがマサキの謝罪を赦しきれない侮辱と感じてしまった理由を、マサキは例え生涯を賭けたとしても理解に及ぶことはないだろう。気まずそうに顔を伏せているマサキの頬に手を伸ばしながら、今以て己の屈折した感情を解《ほど》くことが出来ずにいるシュウは、だからこそひっそりとした笑みを口元に浮かべるしかなく。
そうして、そうっとその顔を上げさせたシュウは、どうしたらいいかわからずにシュウを凝視《みつ》めているマサキの口唇に、柔らかく口付けをひとつ落とした後にこう云った。
「あなたは何もわかっていないのですね、マサキ」
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