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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

その後の操縦者たち(1)
拍手ネタにしようと思って打っていたのですが、予定よりも長くなってしまいそうなので、こちらに落とします。うちのマサキは割とアレですね、思ったよりスレてますね。笑
<その後の操縦者たち~甲児とマサキ(1)~>
 
 一度は取り上げたエーテル通信機をマサキが再び甲児に渡してしまったのは、かつての仲間たちに地上での自分の行動が筒抜けになってしまう原因が、自分の不在の長さに起因するものであると考えたからだった。
 でっかい耳垢が出てきたからといったくだらない理由で、大事なエーテル通信機を使ってのけられる甲児に渡しておけば、適当な頃合で彼らと顔を合わす機会に恵まれるに違いない。そうすれば、彼らも地上でのマサキの行動にいちいち関心を持ったりしないだろう。そう、マサキは地上に出る回数を増やすことで、自分に集まる注目を減らそうと考えたのだ。
「なんだよ、これは」
 未知の文明の利器とわかっているものを持っていれば、使ってみたくなるのが世の常人の常。早速とばかりに三箇日が過ぎた地上に呼び出されたマサキは、ファーストフードで甲児と向き合ってセットメニューをつまみながら、くだらない話に花を咲かせていた。
 街のチンピラたちと喧嘩になったときの話……ナンパに失敗した話……カラオケで高得点を取ったときの話……そんな話がひと段落付くと、甲児はバッグの中からカバーのかかった一冊の本を取り出すと、テーブルの上、マサキの目の前にぽんと置いた。
「中身は見てからのお楽しみってな」
「どうせ甲ちゃんのことだ。碌でもないもんに決まって――」
 普通の雑誌サイズの大きさの本。カバーは書店の物ではなく、適当な紙を折って作ったもののようだ。マサキは本を取り上げると、パラパラとその頁を捲った。成程、これが理由か。少しも読まない内に納得する。
「俺は修正《モザイク》がある方が好きなんだけどなあ」
「相変わらずロマンのねえことを言いやがるな、マサキ」
「露骨なのはあんまり好きじゃねえんだよ」
 どうやらメインは素人の投稿写真らしい。性行為の最中の写真に露出写真。私的な空間で過激なポーズを決めている写真。どれも顔にはモザイクや目隠しがされているが、肝心な部分はそのままになっている。所謂、裏本と呼ばれる雑誌だ。
「修正《モザイク》がかかってる方が色々想像できて楽しいんだよな」
 コーラを片手に組んだ膝の上、本を広げてマサキは適当に読み進める。どうせ周りの人間は自分が思っているほど、他人のことを注目したりはしていないものだ。それに、こういうのを有難がる人間もいるにはいるが、生憎マサキはこの手の刺激を必要としていない。
 そんな折角の裏本を、その辺りの週刊誌と同じような態度で読み進めるマサキが、甲児には不思議で仕方がないらしい。「お前、本当に男なのかねえ」暫くするとぼそっと呟いた。
「学校でもよく回ってきたしなあ。もう見慣れちまったっていうか……俺のいたグループは兄ちゃんが裏モノ持ってるって奴がいてさ、そいつがよく貸してくれたんだよ。ビデオとか本とか」
「まあ、確かにずっと見てると麻痺してくるけどな。それにしてもお前、感動がなさ過ぎだろ」
「修正《モザイク》があれば別だけどな。丸見えってなんかな、夢がない」
「考え方の違いかねえ」甲児は腕を組んで宙を仰いだ。
「しっかし、どこで手に入れて来るかねえ。最近はネットがあるから、こういうのは逆にレアだって聞いたぜ」
 情報が回るスピードが早くなった現代社会では、この手の私的《プライベート》な情報もネットに山と溢れている。アダルト関連の用語を検索した先のサイトを辿っていくだけでも発見できれば、チャットやSNSで知り合った見ず知らずの人間から流れてくることも珍しくない。デジタルな媒体が成長した情報化社会では、むしろアナログな媒体の方が希少価値が高いのだ。
「隼人から貰ったんだよ。知り合いが引っ越しのついでに処分することを決めたらしくて、俺だったら欲しがるんじゃないかって思ったみたいでよ」
「珍しいところから流れてきたもんだ」
 ゲッターチームのニヒリスト。口は悪いが面倒見はいい男の顔をマサキは思い浮かべる。物怖じせず誰にでも話し掛ける甲児は、どちらかというと癖のある連中に好かれるタイプであるらしい。
「ダンボールひと箱も貰っちまったから、お裾分けと思ったんだけどな」
「気持ちは有難いけど、テュッティたちに見付かると面倒なんだよ。あいつら人が隠してるものを見付けるのがやたらと上手くて」
「わかるわかる。さやかさんもやたら上手いんだよ」
「そういや、そのさやかさんは?」
「あー……」甲児は途端に弱った表情になると、気まずそうに打ち明けてきた。「どうやら本気で怒らせちまったみたいで、年末からまともに口を利いてねえんだ」
 
 
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