忍者ブログ

あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

その後の操縦者たち(2)
SRWで青春がしたい。それだけです。笑 甲児に春が来たの巻。

大変申し訳ないのですが、「漂流の魔装機神」は一旦没に放り込んでしまいました。色々やりたいネタが多くなり過ぎて、簡単に終わらなくなってしまったので。
そういやマサキは関東出身らしいのですが、どの県出身か明らかになったんですかね? 個人的にはずっと葛飾辺りの下町育ちなんじゃないか(但し三代続く江戸っ子ではない)と思っていたので。
<その後の操縦者たち ~甲児とマサキ(2)~>
 
 そこからが長い。普段のさやかの生活態度だの、甲児の扱い方だの、胸のサイズが小さいだの。余程、日頃のさやかの態度に鬱憤が溜まっていたのだろう。言い訳と愚痴混じりの甲児の話を理解するのは気の短いマサキには難しかったが、つまりは“年末年始の買い出しに連れて行かれた際に、隙を見て声をかけた女の子から思いがけず付き合いにOKをもらってしまった”ことが、さやかの逆鱗に触れしまったと、そう言いたいらしい。
「だってな、マサキ。普段から俺のことを荷物持ちぐらいにしか思っていないような態度じゃねえかよ。そりゃ俺だって、可愛い子を見かけたら声ぐらいかけるだろ」
「かけねえんだよ、普通は」
「マサキだって俺の立場になればわかるって。あんの野郎、本当に日頃から犬みたいに俺のことを扱うんだぜ」
「ないない。だからって他の女に声やちょっかいをかけるなんてない。大体、甲ちゃんはそれでさやかさんとどういった関係になれるのが理想だと思ってるんだよ。まさか今更ただのオトモダチです、なんて言い出すつもりじゃねえだろうな」
 常に一緒に行動している訳ではないにせよ、一緒にいるのが当たり前ぐらい距離感の関係だと周囲の人間に認識されているのだ。まさかここで甲児がさやかのことを「オトモダチ」扱いもしまいとマサキが水を向けてみれば、
「腐れ縁みてえなものだしなあ」
 間を置かずに甲児が言ってのけたものだから、マサキとしては溜息を吐き出さずにはいられない。
 文句を言いながらも、結局、甲児はさやかに構って欲しいのだ。他の女にちょっかいを出すのも、さやかの気を引きたいからだろう。それなのに、よもや本人がそれを自覚せずにやっていようとは。
 女に興味が薄いだの、奥手だの、男と遊んでばかりのだの、とマサキのことをとやかく言う割には、甲児の方こそ奥手な気がするのは気の所為か。他人の心配よりも、先ず自分のことだろうに。マサキは甲児のまさかの態度に思った。
「そりゃ、さやかさんも口を利いてくれなくなる筈だ」
「何でだよ。例の娘はお友達からなんだぜ」
「その先の関係になったらどうするつもりなんだよ」
「正直なところ、わかんねえ。振られるのが当たり前だったしなあ。まさかOKをもらえるとは思ってなかったつうか。なんだろな、もっと嬉しいもんだと思ってたんだけどよ」
 甲児がテーブルの隅に置いておいた携帯型小型電話機を手に取った。その例の娘の写真を見せてくれるつもりらしい。
 甲児から携帯型小型電話機を受け取ったマサキは、そこにアップになっている少女の画像に目を落とした。カラーコンタクトの入った目に、艶めいた厚ぼったい口唇。化粧の仕方が上手いのか、それとも画像が加工されているのか、それとも元々の素材がいいのか、マサキにはわからなかったが、今どきの女の子らしさに溢れた可愛い少女だとは感じた。
 どこか活発な印象を受けるのは、ショートヘアーの髪型の所為だろう。黒髪のロングヘアーが印象的な清楚なお嬢様風のさやかとは、また違った魅力を感じさせる少女だ。甲児の話だと、彼女が髪型をショートにしているのは、ウィッグを楽しむ為でもあるのだとか。
「甲ちゃん、どんな話をしてんだよ。この娘と」
「別に普通だぜ。今日あったこととかな。思い付いた時にちょっと話す相手にはいいぜ」
 本人も思っていなかった春の到来に、自慢したいところもあるのだろう。甲児はSNSを通じて行っているふたりのメッセージの遣り取り画面もマサキに見せてくれた。
 昨日の夜の遣り取りは、彼女が今日の夕食の画像を送ってきたところから。「見て見て! うちのお母さんの料理」「へえ、美味そうじゃん」甲児の物事を表現する語彙力に欠けているところが聞き役に適しているのか、文字で読んでいる分には、彼女の話をよく聞いてくれる彼氏といった印象を受ける。
「甲ちゃんにこんな相手ができる日が来るなんてなあ……ドッキリなんじゃないかとか、騙されてるんじゃないかとか、美人局なんじゃないかとか、実は敵のスパイなんじゃないかとか、俺としては色々考えちまうけど……」
「俺も考えたんだけどよ、今んところおかしなところはねえんだよな。でも、気にはなっちまうよな。だから、素直に喜べねえつうか」
 冗談半分、本気半分の台詞であったけれども、似た者と評されるマサキが思い付くぐらいなのだ。甲児もそこは考えていたらしい。マサキは宙を睨んだ。誰かと付き合うとなったときに、彼らの裏を疑わなければならないのは、立場上仕方がないことであるとはいえ、悲しいことでもある。
「どうしたらいいのかねえ、マサキ。どうやったら、さやかさんの機嫌を直せるもんか」
「逆を考えてみたらどうだよ、甲ちゃん。甲ちゃんはさやかさんに彼氏ができたらどうすんだよ」
「俺より強いかは先ず確かめるよな。さやかさんを守れる男じゃねえと話にならねえし。そのあとはどうすっかねえ。うーん。まあ、様子を見つつ、ちょっとは距離を置くかね」
「ほら。そういうことじゃねえかよ。さやかさんだって、彼女持ちの男からは距離を取りたいんだろ」
 そうでなくとも普段があの態度だ。甲児の世話をするのは自分の役目とばかりに、さやかは甲児を本人なりに真っ当な人間にしようと努力を重ねてきた。そこにぽんと湧いて出てきた彼女候補。面白くないに決まっている。
 しかもお転婆な面があるとはいえ、マサキの周りの女性陣と比べれば、さやかは比較にならないぐらいの常識人だ。例の娘からあらぬ誤解を受けたくないと思って、甲児との付き合い方を考え直した可能性だってあるだろう。
「彼女じゃねえんだけどなあ」
 だというのに、甲児と来た日には。例の娘に恋人になって欲しいのか欲しくないのか、はっきりしない態度を取る。これが例の娘と付き合う決心をしているというのであれば、人の気持ちに他人がとやかく言っても仕方がない。甲児とさやかの仲も変わる日が来たのだ、とマサキだって思い切れるだろう。
「何だよ、煮え切らねえ態度だな。そういう目的で声をかけたんじゃねえのかよ。その割には彼女になったら困るみたいな言い方しやがって。そういうのを都合がいい考え方って言うんだぜ、甲ちゃん」
「だから困ってるんじゃねえかよ。なんつうの? 俺はね、マサキ。もっと嬉しいもんだと思ってたの。なのに嬉しくない。嬉しくないところに、さやかさんは怒る。お前もお前で何だか俺が悪いみたいに言いやがる。あれ? ってなっちまったの」
「だって俺、甲ちゃんが何したいのかさっぱりわからねえもんよ。さやかさんが気に入らないから他の女にちょっかいかけた訳だろ。その女がOKしてきたら嬉しくないって、何だそれ。断られるのを前提に女にコナかけてるのかよ、甲ちゃんは。それじゃどっちに対しても失礼だろ」
 話を聞けば聞いただけ、何を言いたいのか、どうして欲しいのか、わからなくなる甲児にマサキは焦れた。元々気が長い性質ではないのだ。それを甲児が相手だからと、ここまで我慢を重ねて話を聞いてきた。それなのに肝心の甲児がこの有様だ。
 例の娘に彼女になって欲しいのかと思えば、そうではないらしい。
 かといってさやかが好きなのかと思えば、そうでもないらしい。
 それはつまり、どちらとも友達付き合いをしたいということなのだろうか。だとしたら、さやかはさておき、例の娘は悲惨である。お友達から、と言っても、甲児に声をかけられてOKしたことに変わりはない。少なくともその気はあると、マサキなどは思ってしまう。
「ああ、もう。なんでわかんねえかなあ」
 焦れているのはマサキだけではなく、甲児も一緒らしい。すっかりしなびてしまったポテトを口の中にまとめて放り込んで、仏頂面でそれを噛む。そんな態度を取られても、何を言いたいのかわからないことに変わりはないのだ。マサキは苛立ちを隠せなくなって、つい口にしてしまう。
「わかって欲しかったら、わかるように話せよ。俺、甲ちゃんが何を言いたいのかもわからねえよ」
 
 
.
PR

コメント