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選択肢に間違いがなければお進みください。
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<勘違いの輪舞曲>
(分岐)正面突破
ミオの発言で活動寸前の活火山状態に陥ったモニカによって、無理矢理にサフィーネの所に連れて行かれたマサキは、抵抗空しくSMグッズで手足を拘束されることと相成った。日頃、大人しい女性を怒らせることほどに恐ろしいことはない。それだけは絶対に勘弁してくれと泣き付いたギャグボールの装着は免れたものの、手枷やら足枷やら首輪やら胴体拘束ベルトやらで身体を雁字搦めに拘束されたマサキは、その状態のまま、ノルス・レイに放り込まれてしまった。
「これに一体何の意味があるんだよ」
「人質ですわ」
「いや、それはわかるんだがな、その人質に何の意味があるかっていう……」
「いいですか、マサキ。わたくしとシュウ様が直接魔力をぶつけ合おうものなら、周辺地域に被害が出るのは必死。地道にシュウ様の魔力を削り取ることも考えましたけれども、それだと千日戦争になる可能性があります。ですから、短期間で決着を付ける為には、他の方法でシュウ様の攻撃の手を緩めなければならないのです。勿論、わたくしの魔力を全て解放する方法もあります。ですが、これでもわたくしとて元王族なのですわ。ラングランに直接的な被害が出る方法は、できるだけ避けたいのです」
「俺が人質になってどうにかなる問題か、それ?」
「色仕掛けが通じるのでしたら、人質でも一緒。そうは思いませんか?」
「あいつは容赦なく俺に攻撃してくるけどなあ」
この身動きままならない状態でシュウの目の前に差し出されて、無事でいられる気がマサキはしなかった。下手をすれば、モニカそっちのけで攻撃されかねない。そもそも戦場で敵味方に分かれた際に、手加減をされた覚えがないのだ。「人質っつうより、動けない的《まと》……」暗澹たる気分でマサキが云えば、「それはそれでわたくしの鬱憤が晴らせるのでいいのですわ」モニカは曇りのない瞳でさらりと云ってのけた。
「お前、どれだけミオの言葉を間に受けてるんだよ」
「マサキ、わたくしとて恋する女なのです。その恋する女の直感がわたくしに囁いているのですわ。ミオの言葉に偽りはないと」
「どんだけ節穴な直感だよ! 偽りしかねえだろ!」
「あら? でもマサキは押せば色仕掛けをしそうな雰囲気でしたけど?」
ラングランの大地が吹き飛ぶより、色仕掛けの方がまだマシだ。とはいえ、それはあくまで最後の手段。それ以外に取り得る手段があるのであれば、マサキとしてはそちらの手段を優先して取りたいところだ。
「そりゃ、他に方法がなければやるけどな。でもその前に他に取れる方法があるだろ」
「まあ! やはりマサキはシュウ様をたぶらかしていたのですわね。なんと不潔な……」
「いやいや、そうじゃなくてだな、他に方法がなければっつう物の例え」
「ではマサキはシュウ様にたぶらかされたとでも言いたいのですか!?」
「お前、人の話を聞かないなっ!?」
そんなこんなでモニカと揉めつつも運ばれること漸く。シュウの家の近くに着いたノルス・レイから放り出されたマサキは、首輪に繋がれた鎖をモニカに引っ張られては、飛び跳ねるようにして前に進んだ。玄関扉の前で呼び鈴を鳴らすモニカの後ろで、シュウが出てくるのを待つ。
「これはこれは。素敵な格好ですね、マサキ」
「人質なのですわ」モニカは居丈高に鎖を引っ張った。「マサキを解放して欲しくば、人形を寄越せなのです」
「え? そういう話だったっけか?」
元々はシュウを油断させて、人形に魅了されている状態を魔法で解くという話だった筈だ。これではまるで居直り強盗である。話の逸れ具合に驚いたマサキが思わず口を挟むと、「口が滑りました」モニカは答えて、「御免遊ばせ、シュウ様!」そのままノータイムで魔法を放った。
モニカが差し出した掌を囲うように魔法陣が展開し、空間が歪んで見える程の魔力が身体から発される。次の瞬間。シュウの足元に浮かび上がった魔法陣が強い光を放ちながら、その身体を包み込んだ。
「どっちでもいいけどな、このままだと俺が巻き添えにな――」
ごう、と一際強い風がマサキたちの身体を嬲る。魔力と魔力のぶつかり合いで起こった気流が、辺りに豪風を巻き起こしたのだ。「だから俺を巻き込むなって!」マサキはバランスを失って地に倒れ込んだ。
ごろごろ。
ごろごろ。
右に左に気流に流されて転がるマサキには目もくれず、モニカとシュウは大量の魔力を放出し合っている。風は渦巻き、地面は抉れる。その竜巻の中心にマサキが巻き込まれる寸前。両者は魔力を放出するのを止めた。
「流石はシュウ様。一筋縄では行かないのですわ」
「流石はモニカ。無尽蔵な魔力を持つだけある」
どちらも竜巻を起こす程の魔力を放出した直後とは思えないぐらいに、自然体でそこに立っている。「お前ら、やっぱり俺のことなんか、どうでもいいんじゃねえかよ……」鎖のお陰で遥か遠くに流されることはなかったとはいえ、首輪が首に食い込んで痛い。そのふたりの間に転がったままのマサキは、目を回しながら呻いた。
「ちゃんと魔法の発動を止めてあげたではありませんか、マサキ」
「お前が止めなきゃシュウが止まらない時点で、俺は役に立ってないってことだろ」
「興味はありますよ、マサキ。こんな面白い格好のあなたを記録に残さずにいられないぐらいには。だからといって、彼女の目の前で油断をすれば、どうなるかは心得ています。勿体ないですがね」
そうですわね。シュウの言葉に頷いて、モニカが少しばかり考え込む。
「なら、こういたしませんか、シュウ様。人形ともどもわたくしと一緒に神殿に行くのです。そうすればこの姿のままでマサキをお渡ししますわ」
「やけに人形に拘りますね、モニカ。まあ、いいでしょう」
「早っ!?」あれだけ市松人形に拘りをみせていたシュウのこと。モニカの提案に少しは逡巡してみせるかと思いきや、あっさりと同意してみせたものだからマサキは声を上げずにいられない。「それで同意するってどんな我欲だよ!? っていうか今までの苦労は何だったんだよ!?」
そこからシュウの気が変わらない内にと、三人でノルス・レイで神殿に向かって一走り。イブンはひと目でシュウが良くない状態にあることを見抜くと、いくつかの手順を踏みながら慎重に人形を焼却処分したらしい。らしいというのは、流石にこの格好のマサキをイブンの前に出すのは、モニカも気まずく感じられたようで、マサキだけがノルス・レイに残される形となったからだ。
「魂入りの人形に魅入られるなど、お主らしいと云えばお主らしいが……」
イブンはそう云っていたのだという。
魂入りの人形。となれば、人形だけを処分しても魂は残るのではないだろうか。不安に駆られたマサキがモニカに訊ねると、「魂というものは、それだけでは不安定な存在じゃ。現世に関われる触媒が無ければ悪さもよう出来んのじゃよ」と、イブンが云っていたとの返事。
神官がそう云っているのであれば、信じる他なく。釈然としないながらも、マサキは納得することにした。
「書物の整理が終わって、ソファに横になった直後から、意識が途切れがちだったのですよ」
シュウを家に送り届ける間に話を聞いたところによると、どうやら年末にマサキたちの目の前に姿を現した時には、既に例の人形に魅入られていた状態だったようだ。そこから招かれるようにモニカと地上へ。そして辿り着いた一軒の古道具屋。「今思えば、何故あの人形を購入してしまったのか。雛人形の代わりに五月人形とセットにしたら面白いだろうと思ったのは覚えているのですが」そのほんの少しの悪戯心がシュウ自身の考えであったのか、それともあの人形に魅入られたからこその考えであったのかは、今となってはわかりようもない。
「とにかく、元に戻ってよかったのですわ」
「そうですね。あなた方には迷惑を掛けてしまいましたが」
モニカはシュウが元に戻ったことを素直に喜んでいたが、マサキは気が気でないままだった。「元に戻ったんなら、俺の拘束を解いてくれてもいいんじゃないかね」マサキはそう云ってみたものの、「約束は約束なのですわ」と、面白くない表情ながらもモニカは拘束を解こうとしない。シュウに至っては、「良くお似合いですよ」と、鎖を片手に犬を撫でるようにマサキを撫でてくる始末。
嫌な予感しかしない。
それでも一縷の望みに縋って、マサキはノルス・レイの機内を大人しく過ごした。そもそも抵抗しようにもこの拘束ぷりでは、身体を動かすにも限界がある。どう安く見積もっても芋虫の歩みがいいところ。はあ。マサキは溜息を洩らしつつ、シュウの家に着くのを待った。
「それでは、シュウ様。マサキは確かにお渡ししたのですわ」
「ええ、モニカ。確かに受け取りましたよ」
これでは、人質どころかモノ扱いである。とはいえ、この傲慢無礼な元王族二人組がマサキの意思を鑑みてくれる筈がない。「では、失礼いたしますわ」シュウの家にSMグッズで雁字搦めに拘束された格好で運び込まれたマサキは、あっさりと帰路に着いたモニカを恨めしく思いながらも、どうにもならない状況に臍を噛む。どうやら一縷の望みが断たれるのも時間の問題のようだ。マサキはリビングのソファに転がされた状態で、隣に座って愉しげにその姿を見下ろしているシュウを絶望的な気持ちで見上げていた。
「その状態では苦しいでしょう」
「何だよ、優しいじゃねえか……」
上半身を十字に縛り付けている拘束ベルトにかかる手に、安堵したのも束の間。「まさか。これだけですよ。服を脱がすのに邪魔ですからね」続くシュウの台詞に、マサキはがくりと項垂れた。
その耳元に、クック……と低く響いてくる嗤い声。腰に障る淫靡な声に、マサキは身を捩らせるものの、手足の自由が利かない状態では動くにも動けず。
「まな板の上の鯉というのは、今のあなたの状態を指すのでしょうね。じっくりと愉しませていただきますよ、マサキ。さあ、年の初めの姫始めといきましょうか」
結局、そこに話が行き着くのかよ。苦々しい思いをしながらも、マサキシュウのすることに身体を委ねるしかない。マサキの身体を抱えながら拘束ベルトを外したシュウは、マサキの首筋に舌を這わせながら服の下。冷えた手をマサキの肌に這わせてきた。(END)
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