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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

勘違いの輪舞曲(了)分岐:色仕掛け
こちらは「色仕掛け」を選択した場合のテキストになります。
選択肢に間違いがなければ続きへとお進みください。
<勘違いの輪舞曲>
 
(分岐)色仕掛け
 
「色仕掛けって何をするんだよ」
「そこはマサキが考えるのよ」
 無責任なミオの言いっ放しの提案をマサキが受け入れたのは、現れた選択肢を強制的にミオに選択されたからだった。「何で俺の為の選択肢を他人が選択出来るんだよ……」マサキがそう愚痴ると、「読者《神》のお導きよ」とミオ。小説世界とはかくも都合よくできているものである。
「ああ、もう。やればいいんだろ、やれば。畜生。お前、後で覚えておけよ」
「何の事やら」いひひ、とミオは楽しげに笑った。
 とにもかくにも決まってしまったものは仕方がない。不承不承ながらも、マサキはシュウに色仕掛けをする決心を固め、モニカとともにシュウの家に向かった。剣呑を通り越して泣き出しそうでさえあったモニカは、流石にその場に居合わせるのだけはと、マサキに一枚の咒霊符を託してシュウの家の外。ノルス・レイの中で待つつもりらしい。当然ながら、咒霊符の効果は困った時の強制捕縛魔法《ゲ・アス》である。
「おや、マサキ。今度はひとりですか? モニカは?」
「お前に個人的な用事があったのを忘れてたんだよ」
「個人的な用事、ですか」
 誰の為にこんなことになっているんだと思いながら、マサキはソファの上。シュウにしなだれかかるとその背中に腕を回した。「ほら、年末からこっち、何もしてなかったし……」ジャケットのポケットの中には咒霊符。いつ、どのタイミングで使うべきなのか。悩みながらもマサキは顔を上げて、シュウの口唇に自らの口唇を重ねる。
 年末の慌ただしさにかまけて、ここ一ヶ月ぐらいの間、マサキはシュウと話をするだけしかしていなかった。それも内容はモニカが絡んだことばかり。だったら、少しぐらいは欲を叶えてもいいのではないだろうか。冷えたシュウの口唇を啄《ついば》みながら、マサキはジャケットを脱ぐ。
「あなたから誘ってくるとは珍しい」ふふ……と、シュウが嗤う。「何か目論んでいることがあるのではありませんか、マサキ」
「ねえよ」咄嗟にマサキは否定する。
「あったら最初に強請《ねだ》ってるだろ」
 脱いだジャケットをソファの上に置くふりをしながら、ポケットへ手を探らせたところで、ぞくり。マサキの背中を猛烈な怖気が襲った。この感覚は、いる。間違いない。マサキはシュウに気取られないように室内に視線を這わせる。
 それは思いがけず近い場所に居た。
 マサキをソファに押し倒そうとしているシュウの肩口の向こう側から、おかっぱ頭が覗いている。ゆっくりと這い上がってくる頭。細い瞳がマサキを捉えると同時に、手にしている獲物が煌めいた。今度はフォークなどという生易しいものではない。果物ナイフだ。
 恐らくフォークは警告だったのだ。次はこうなるぞという。
 顔が引き攣るマサキの目の前で、無表情だった人形の口元がにたぁ、と裂けた。細い瞳が弓なりに上向く。「ちょっと待て、シュウ……」体格差がある。覆いか被さってくるシュウの身体を無理に退けることも叶わず、マサキは言葉で制してみるものの、「誘ったのはあなたでしょう、マサキ?」と、当然ながら聞き入れてくれる気配はない。
 追い詰められた人間の思考は飛躍するものだ。マサキはふと、咒霊符を人形に使ったらどうなるのかと思った。もしかしたら、強制捕縛魔法《ゲ・アス》で人形の動きを封じることが出来るのではないだろうか? 問題がこの人形にあるのは間違いない。動きさえ封じてしまえれば、後は神殿に持って行ってイブンに始末してもらうだけで済む。マサキはシュウの愛撫に身を任せつつ、手探りでジャケットを手繰り寄せ、そのポケットの内側にある咒霊符を掴んだ。
 人形が果物ナイフを手にしている腕を振り上げる。
 マサキはその果物ナイフから顔を庇うようにして、咒霊符を人形に突き出した。パアン! 火薬が弾けるような音が響いた。雪のように白い肌。顔に咒霊符が当たると同時に、人形は動きを止めると後方に吹き飛んだ。
 それと同時に、シュウの身体が弛緩し、マサキの身体に一気に重みがかかる。どうやらシュウは気を失ってしまったようだ。長く人形の影響下にあったのだろう。静かに息を立てながら意識を失っているシュウに、マサキはその身体を押し退けるようにして身体を起こした。
 ソファ脇の床の上には咒霊符が張り付いた状態の人形が転がっていた。心なしか痙攣しているようにも見える。とはいえ、それも少しのこと。マサキは暫く神経を尖らせてその動きを見守っていたが、人形が再び動き出すことはなかった。
「待ったのですわ、マサキ。シュウ様におかしなことはしていませんでしょうね?」
「人形がまた動きやがったんだよ。その動きを止めるのに時間がかかっちまった」
 そこでやっとひと段落着いたのだと悟ったマサキは、外で待ち続けていたモニカに家に招き入れると、彼女に人形を持たせ、自身はシュウを担いでノルス・レイに乗り込んだ。そのままイブンが待つ神殿へと向かう。「思ったよりも早く決着を付けられそうじゃな」イブンはマサキたちの話を聞いて、必要な準備を済ませていてくれたようだ。待たされることもなく儀式が始まり、あの不気味な動き回る人形は、咒霊符で動きを封じられたまま焼却処分された。
「わたくしの人形を思い出したのですわ。この人形も彼女のように、わたくしたちと仲良く過ごせればよかったのに。何だか可哀想だとも感じるのですわ」
「つうても、フォークだの果物ナイフだのを持ち出して歩くような人形じゃどうしようもねえだろ。世の中にはどう頑張ったって共存出来ない存在ってのはあるもんだ」
 シュウが意識を取り戻すには、それから暫くの時間が必要だった。イブンの見立てではそこまで人形の影響を受けている状態ではないらしかったが、万が一もある。無事が確認できるまで、神殿で休ませることにして数時間。「ここは……」目を覚ましたシュウは、自分が寝かされている場所が神殿の一角であることに気付くと、それで全てを悟ったらしい。
「迷惑を掛けましたね、イブン」
「魂入りの人形に魅入られるなど、お主らしいと云えばお主らしいが……」
「書物の整理が終わって、ソファに横になった直後から、意識が途切れがちだったのですが。やはりあの人形の仕業でしたか。手放したいとは思っていたのですが、身体が思うように動かないものでしたから」
 どうやら年末にマサキたちの目の前に姿を現した時には、シュウは既に例の人形に魅入られていたようだ。そこから招かれるようにモニカと地上へ。そして辿り着いた一軒の古道具屋。「今思えば、何故あの人形を購入してしまったのか。雛人形の代わりに五月人形とセットにしたら面白いだろうと思ったのは覚えているのですが」そのほんの少しの悪戯心がシュウ自身の考えであったのか、それともあの人形に魅入られたからこその考えであったのかは、今となってはわかりようもない。
「とにかく、元に戻ってよかったのですわ」モニカが安堵の笑みを洩らす。
「でも、婆さん。魂入りの人形ってことは、人形の身体を失ったら魂だけになるってことじゃねえのか。その状態で放置しておいて大丈夫なのか? こいつが支配されるぐらいの魂って、厄介な予感しかしねえんだが」
「大丈夫じゃよ」厳しい顔付きながらも、イブンは力強く言葉を吐いた。「魂というものは、それだけでは不安定な存在じゃ。現世に関われる触媒が無ければ悪さもよう出来んのじゃよ」
 
 そしてマサキは、シュウの家にいた。
 夜も更けた。一度シュウの家に戻り、グランゾンを伴にノルス・レイに乗ったモニカを家に送り届けた後。そこからマサキをゼオルートの館に送り届けると云っておきながらも、シュウは素直にマサキを送り届ける気はないようだ。「折角、誘っていただけたものを、そのまま何もせずに帰す訳にもいかないでしょう?」マサキはリビングのソファの上で、午後の続きとばかりに、シュウの身体の下。組み敷かれて、その愛撫に身体を晒していた。
「シュウ……」名前を呼ぶ合間に洩れる甘ったるい喘ぎ声。マサキの口を吐く。
 ひと月ぶりの逢瀬とあっては、何をされても身体が敏感に反応する。そんなマサキの様子が、更に劣情を煽るのだろう。シュウは一向に愛撫の手を緩めようとしなかった。
 長い時間をかけて、指先で、口唇で、舌で、マサキの全身をくまなく愛撫してゆく。途中からはもうどこに何をされているかすら、マサキにはわからなくなった。細く流れ落ちた涙が、汗と交じり合いながら頬を伝い落ちる。絶え間ない喘ぎ声。足の合間に差し入れられた指が動く度に、マサキは下半身を貫く強い快感に腰を何度もしならせた。
 そのまま、一度。どうにもならない快感に果てたマサキの身体を抱えながら、シュウが身体を起こす。
「挿《い》れさせて、マサキ」
 脱力感を感じながらも、シュウの望みを叶えるべくマサキは膝を畳んだ。ソファに身体を埋めたシュウに向かい合わさるように、その首に腕を絡めながら腰を落としてゆく。そうして、身体の奥にシュウの昂ぶりを収めきったマサキは、はあ、と息を吐きながらその肩に顔を埋めた。
 息苦しさが心地よい。ゆっくりと下から突き上げてくるシュウの男性自身に、マサキは意識を奪われた。自身の身体の一番深い場所に、その熱い肉の塊を抱えている高揚感。それがマサキの神経を緩くしてゆく。
 ソファの奥には広がる闇。
 窓の向こう側に黒々と続く夜更けの闇が、一瞬震えた気がした。
 
(ナゼ、ワタシヲヤイタノ……?)
 
 快楽に支配されているマサキは、その声に気付かなかった。(NEVER END)
 
 
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