これを終わらせてすっきりして新年を迎えたいと思いました。白河祭り2010年最後のリクエスト「何か間違った知識で行事を遂行する白河と、何故かそれに巻き込まれるマサキ」のお話です。
タイトルが変わってしまいましたがそこはそれ。内容も「???」だったりしますが、ギャグは前振りが大事ですからね!(長くすると言っている)
ついでなのでクリスマスネタの進捗報告を。現在三件リクエストを受け付けていますが、一本を書き上げました。このペースで書ければ24日には全作品を一度にアップ出来そうです。(お題は引き続き募集しております)では、本文へどうぞ。
タイトルが変わってしまいましたがそこはそれ。内容も「???」だったりしますが、ギャグは前振りが大事ですからね!(長くすると言っている)
ついでなのでクリスマスネタの進捗報告を。現在三件リクエストを受け付けていますが、一本を書き上げました。このペースで書ければ24日には全作品を一度にアップ出来そうです。(お題は引き続き募集しております)では、本文へどうぞ。
<勘違いの輪舞曲>
「姫はじめって何ですの?」
その日、魔装機神の操者が全員顔を揃えたゼオルートの館に、いわくありとは思えない気軽さで姿を現したモニカは、控えめな中にも優雅さを感じさせる口ぶりで、勧められた席に着くなりそう云ってのけた。
純粋培養のお嬢様を地で行くモニカの口からの思いがけない単語の登場に、紅茶に口を付けていたマサキは盛大に咽せた。咽せてから、しまったと思って周囲を窺ってみると、斜め前に座っているミオも咽せている辺り、モニカの口にした単語の意味を理解しているのは自分だけではないらしい。
「……何を咽せてるんだよ、ミオ」
「……マサキこそ」
きょとんとした表情でいるプレシアはさておき、マサキたちの様子を目にして忍び笑いを洩らしているテュッティと、何事もなかったかのように澄ました顔で紅茶を啜っているヤンロンもわかっている可能性が高い。このふたりの日本に対する知識は、一般的なものに対してはいい加減な割に、どうでもいいものに対しては詳しくなるのだ。
「その単語をどこで知ったのですか、モニカ様」
しらと聞いてのけるヤンロンに、余計なことをとマサキは思いはしたけれども、だからと云って不自然な沈黙を続ける訳にもいかない。仕方がない。マサキはティーカップをテーブルの上に置くと、モニカに向き直った。
マサキたちの態度で触れてはいけない話だと察せるプレシアとは異なり、大らかな気風の王宮で育ったモニカは他人の顔色を読むのが上手くない。そんな彼女に、この微妙な空気を彼女を読めと云うのには無理がある。しかも、わざわざゼオルートの館にまで足を運んで来ている以上、彼女がちょっとやそっとのことで引く気がないのは明らかだ。
「シュウ様がお持ちになっていた日本の民俗学の本に記されていたのですわ。年明けに行われる風習だとか。それで、もう直ぐ新年ですし、出来れば何か変わった行いをしたいと思ったのです。でも、詳しい記述がなかったものですから……」
「シュウに聞けよ、シュウによ。シュウの持ってた本の話ならよ」
「聞いたのですわ! でも何だか釈然としない返答で……サフィーネが笑いを堪えていたところからして、あれは絶対にわたくしに嘘を吐いているのに違いないのですわ。ですから、日本人であるあなた方に訊ねに来たのです」
「シュウも大変だね。あたし、初めてあの男に同情しちゃった」
「そのとばっちりがこっちにくるんじゃ同情どころじゃねえ。で、シュウは何てお前に説明したんだよ、モニカ」
「年明けに行われる日本の成人女性の儀式と……着物の帯を締めて貰ってどうとか……何でも、集団で舞を舞ったり、一対一で神に祈ったりと、様々な儀式に臨まなくてはならないらしいとか……あ、そうですわ。儀式には三日三晩かかると伝えられているとも聞きましたわ。ですから、やるのには相当の覚悟が必要だと」
たどたどしいモニカの話から察するに、どうやらシュウは様々な儀式や神事を混ぜ込んで、体裁を整えた嘘を吐いたようだった。流石は博識を誇る高知能。ここまで手の込んだ嘘を吐くとは普通は考えまい。
「でも絶対に嘘なんですの。サフィーネのあの顔。あれは本当のことを知っている顔なんですの」
モニカはそう呟いて口を尖らせた。清廉で無邪気な元王女に真実を伝えるのをシュウが躊躇うのも無理はない。サフィーネさえ笑っていなかったら、モニカは上手く騙されてくれていたのではないだろうか。いじましいシュウの努力が垣間見える嘘に、マサキはミオと顔を合わせて溜息を洩らす。これを超える規模の嘘を、モニカが納得できる形で吐くのはマサキたちには無理だ。
(どうするんだよ、ミオ)
(ワンチャン、シュウが本当にそう思っている可能性に賭けてみるとか)
(絶対にワンチャンもねえだろ。あいつの嘘は規模がでかくなるんだよ)
(じゃあどうするっていうのよ。あたし無理だって、こんなの)
額を寄せ合ってミオと小声で話し合っていると、トントンとテーブルを指先で叩く音がした。マサキとミオは音のした方向に視線を向ける。どうやらそれはヤンロンが放った音だったようだ。彼はマサキとミオにそれぞれ目配せをすると、モニカに向き直る。自分に任せろと云いたいらしい。
「モニカ様。風習というものは、ある地域では当然の儀式であっても、ある地域では全く知られていなかったりと、地域差が大きいものです。ですから、マサキたちではわからないこともあるでしょう。それに、日本の風習は、古くより交易のあった中国より伝来したものも多く、正しい知識にあたるのでしたら、中国の風習を知ることも肝要かと」
「そうなのですか、ヤンロン?」
「ええ。その中で名前だけが残り、形を変えてしまったものも多いと聞きます。例えば旧正月を祝う風習は仏教伝来とともに日本に伝わったようですが、日本では暦の切り替わりと同時に現在の新暦の正月を祝う形になったとか」
「まあ、そうだったのですね。だから中国では旧正月を盛大に祝い、日本では新暦の正月をお祝いするのですね。むつかしいこと。では、シュウ様は嘘を吐いているのではないと?」
「日本は中国と比べると国土の狭い土地ですが、それでも西と東では同じ言葉の意味が正反対になってしまうことがある国です。ましてや風習は集落単位で伝えられることが多く、隣り合わせの集落でも全くやり方の異なる風習になってしまうことが珍しくありません。彼がどこの地域に伝わっている風習の話をしているのかは僕にはわかりかねますが、サフィーネが知っている風習と違っているものになってしまう可能性があることを知っておいて損はないでしょう」
「きっとシュウ様のことですもの。深くお調べになった結果なのでしょうね。ありがとう、ヤンロン」
そこは体育担当とはいえ、元教師だけはあった。澱みなく言葉を紡いでモニカを納得させてみせたヤンロンは、だからといってがらりと表情を変えるでもなく、澄ました表情のまま再びティーカップに口を付ける。
モニカはモニカで信奉しているからこそ、シュウの嘘を信じたくなかったのだろう。マサキたちには嘘か真か判断の付かないヤンロンの甘言にあっさりと主張を翻してみせると、こちらもようやくとばかりにティーカップに口を付けた。
「それはご迷惑をおかけしました」
「礼は俺じゃなくヤンロンに云えよ」
世間話だ愚痴だで居座ったモニカを送り届けたマサキは、その足でシュウに事の次第を説明に向かった。シュウはモニカが自分の説明に納得していない様子だと感じていたものの、まさかマサキたちの元にまで足を運ぶとは思っていなかったらしい。珍しくも殊勝に謝罪の言葉を口にしてみせると、「ニューイヤーが近いからでしょうね。何か日本らしいことをしたいと騒いで仕方がないのですよ」
「素直にお節を作ってりゃいいものを」
「それだけでは不満なのでしょう。松飾りなどをサフィーネが用意したのも気に入らなかったようですね。振袖は揃えてあげたのですけれども、私に着付けの知識はありませんし。果たして彼女らが着られるかどうか。夜鷹にならないことを願っているのですが」
「夜鷹って、お前……」
どこから仕入れてきた知識なのか。突然に夜の世界に話が及んだものだから、マサキは言葉を詰まらせずにいられない。わかってしまう自分も自分だが、知っているシュウもシュウだ。日頃の発言から鑑みるに、この男の日本に対する知識はどこか偏りがある。
とは云え、それを正す為にその発言をつつこうものなら、話がおかしな方向に転がるのは間違いない。自分に害が及ぶような話題には突っ込まないに限る――。マサキは気を取り直すことにした。
「まあ、いいや。それにしても、随分、本格的にやるんだな。俺なんて餅だけ食って寝正月の予定だぜ。ミオが食いたいって煩いからよ。いっそ百人一首でもやったらどうだ。そのぐらいやれば、モニカも満足するんじゃないかね」
「むすめふさほせ、ですね。とは云え、私もそのぐらいしか知識がないのですよ、マサキ。まあ、教えてあげられるとしたら、カルタ取りか坊主めくりぐらいですかね」
日本の古典文学には造形がないらしいシュウは、流石にたかだか正月を迎える為だけに、そこまで手を広げる気もないらしい。そうあっさりと云ってのけると、「とにかく、ヤンロンにはあなたからお礼を云っておいてください。モニカがそんな調子では、またあなた方に迷惑を掛けそうだ」そう言葉を締めた。
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