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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

勘違いの輪舞曲(2)
七日も過ぎましたので、通常営業でございます。結局、年をまたいでしまったこの話。来週中に終わらせたいところですが、シフト的に厳しそうな気がしなくもなかったり。

邪神組と魔装機神組でほのぼのとした話にしたいところですが、さて。ほのぼのの割には不穏なネタが続いていますが、私的にはこれでもほのぼののつもりなのです!笑 ということで続きです。
<勘違いの輪舞曲>
 
(2)
 
「貝合わせって何ですの?」
 再びのモニカの来訪に何を訊かれても大丈夫なように覚悟をしていたマサキだったが、その瞬間、やはり堪えきれずに咽せた。前回の顔ぶれからヤンロンが欠けた面子。どうやら今回、咽せているのはマサキだけのようだ。
 意味がわからずに不思議そうな表情をしているプレシアは、前回に引き続いて戦力外だ。しかも、普段ならばどうでもいい知識に敏感な筈のテュッティも、今回ばかりは本気でわかっていない様子。紅茶を飲みながらしきりと首を傾げている。
 さて、どうしたものか。マサキは身体を盛大に震わせながらも、なんとか紅茶の入ったティーカップをテーブルの上のソーサーに置く。
「何でマサキ咽せてるの?」
 前回のモニカの来訪時に自分も盛大に咽せておきながら、それをすっかり忘れたような態度でミオが訊ねてくる。「お前、裏切りやがって……」そうマサキが声を潜めてミオに云えば、「だって貝合わせってアレでしょ?」ときょとんとした表情ながらも説明を始めた。
「トランプの神経衰弱みたいなゲームだよね。二枚の貝殻を一対になるように合わせるの。貝の裏側に絵が書いてあったりして、その絵を合わせると一対の貝が出来るようになってるんだよね。学校の授業でやらなかった?」
 そう云われれば、学校の授業で習ったような気がしてくる。マサキは薄らぼんやりと脳裏に浮かぶ地上での生活の記憶を手繰り寄せた。ミオの説明通りの貝の写真をカラー図版の資料集で見たような、見なかったような……とはいえ、マサキは自ら進んでそうした情報を集める性格ではない。だのにこうして脳裏に絵が浮かんでくるということは、学校の授業で習ったというミオの言葉は嘘ではないのだろう。
 しかし、前回のモニカの質問の内容が内容なのだ。そのぐらいの内容なら、遠路はるばるここまで足を運ばずとも、シュウが持っている数多の書物にもっと詳細な記述があるだろうに。マサキは首を傾げた。わざわざ波風を立てる話ではないにせよ、モニカが足を運んできたからには、運んできたなりの理由がある筈だ。
「本当ですの……?」
 案の定と云うべきか。モニカはミオの説明に納得が行かないといった表情で、疑わしげな視線を向けてくる。
「嘘吐いてどうするのよ。ねえ、マサキ?」
「まあな。って云っても、俺も実物は見たことねえ」
「昔の遊びだものね。うちはおばあちゃんちにあったのよ。おばあちゃんのおばあちゃんの嫁入り道具のひとつだったとか何とか。綺麗な貝殻だったなあ」
「まあ、実物をお持ちだったのですね!」ぱあ、とモニカの表情が明るくなる。「それでしたら、サフィーネが何か勘違いをしているのかも知れないですわね」
「納得するのは勝手だが、説明ぐらいはしてくれ、モニカ。サフィーネがどうしたって?」
「それがですわね、マサキ……」
 新年の変わった行いを諦めていなかったモニカは、相も変わらずシュウの所蔵している日本文化について書かれている本の数々を読み漁っていたのだそうだ。そこで見付けたのが貝合わせの記述だった。日本らしい遊びの文化だと感じたモニカは、早速その実物を手に入れるべくシュウに地上に出たいと申し出た。ところが、その場に居合わせたサフィーネが、モニカが地上に行きたい理由を口にするなり笑ったのだと云う。
「あー、成程な。前回と一緒か」
「笑った理由を聞いても教えてくださいませんの。シュウ様に訊ねても、さあ……と言葉を濁されるばかりで。ですから、何かわたしくの解釈に間違いがあるのではないかと思ったのですわ」
「言葉を濁したんじゃなく、本当にサフィーネの笑った意味がわからなかったんじゃないか。わかってたらあいつのことだ。絶対に何かひとことあるだろ」
「マサキにはわかるのですか? サフィーネの笑った意味が」
 モニカの問い返されたマサキは、深く突っ込み過ぎたと後悔したものの、だからといって求められるがまま口にしていい内容でもない。しかも、ミオとシュウの態度からして、どうやら別の意味を知っているのはマサキとサフィーネだけのようだ。
「いや……何だろうな?」だったら惚けておくに限る。そう思ったマサキが白々しく口にしてみたところで、「あー!」ミオが声を上げた。
「何ですの、ミオ?」
「あ、いや。何でもないの。あはは。ちょっと忘れてたことを思い出しちゃったものだから。そうそう、今度こそ忘れないようにしておかないとね……」
 ミオはモニカにそう答えるとマサキを横目で見た。どこか呆れた様子にも映る。やっと気付いたか――。マサキがミオを見返すと、その口がパクパクと動き、囁くような声で言葉を吐く。
(マサキのエッチ)
(お前はわかると思ったんだよ)
(だからって先にそっちを思い浮かべるなんてなくない?)
(煩いな。俺だって男なんだよ)
(都合のいい時ばかり男になっちゃって)
 ミオが気付いてしまった以上、モニカに長居をさせるのは危険だ。誤魔化すのが下手なマサキとミオでは、もののついでとうっかり余計なことを口走りかねない。フォロー役のヤンロンがいない今日、モニカには速やかにお帰り願うべきだろう。
「いいんじゃないの、貝合わせ。新年にやる遊びとしては雅びじゃない」
 だと云うのに、ミオはそんな自分の粗忽ぶりを自覚していないのか。それともフォローのつもりなのか。ひそひそ話を済ませるなり、モニカとの話を引き伸ばすような真似をし始めたものだから、マサキとしては気が気ではない。
「ただ、地上に出ることにシュウ様がいい顔をしてくれないのです」
「あら、何で?」
「わたくしひとりでは危険だと」
「確かに。ノルス・レイで出るのはなあ。地理にも不慣れだろうし」
「でも、サフィーネはひとりで地上に出ているのに、不公平なのですわ」
 そこでモニカはぽん、と両手を打った。不貞腐れた顔が一気に明るくなる。ふふ……と微笑むとマサキとミオの表情を交互に見比べた。どうやら何かを思い付いてしまったらしい。
「いかがでしょう、マサキ、ミオ。わたくしと一緒に地上に出ていただくというのは」
「モニカ様!」そこでテュッティがようやく声を上げた。
「例えモニカ様の頼みとあっても、流石にそれは許可しかねます。私欲で地上に出るなど言語道断。魔装機神はそういった用途に使用するものではありません」
 それまで話の流れを飲み込めないといった様子でマサキたちの遣り取りを眺めていたテュッティは、先程までの態度はどこにやら。ぼんやりとしていたとは思えない勢いで言葉を紡ぐ。「えー……」ミオがマサキを見た。私欲で度々こっそりと地上に出ているのを知っているからこその無言の圧力。それに対抗するようにマサキはミオを見返す。お前だって一緒だろ、という意味を込めて。
 そんなふたりの様子に気付いているのかいないのか。テュッティは謹厳実直が服を着て歩いているような折り目正しさでモニカに向き合うと、次の瞬間にはこうきっぱりと言い切ってのけた。
「そう易々と地上に出られては、お互いの世界の秩序を乱しかねません。どうかこの場はお引き下がりを、モニカ様」
 
 少しぐらい地上に出ても問題はないのに、と諦めきれない様子のモニカを宥めながら送り届けたマサキはその足で再びシュウの元に向かった。そこで今回の経緯についてざっと説明したところ、どうやら本当に貝合わせの別の意味を知らなかったらしいシュウは、「問題はサフィーネにありということですね」と些か困惑しているような様子を見せた。
 確かに、サフィーネが笑いさえしなければ、モニカが自分の解釈やシュウの講釈の内容に疑問を持つことはなかったのだろう。それはマサキも感じていたことだった。だからこそ、帰路の道中にマサキはモニカにこうも云ったものだった。
「サフィーネを出し抜きたいんだったら、サフィーネの居ない所で話をしたらどうなんだ。わざわざあの女《あま》がいるところで話をするから、こうやって足を引っ張らる羽目に陥ってるんじゃないかね」
 その言葉に腑に落ちた様子のモニカだったが、さて。マサキは大量の書物に埋もれているシュウを見遣る。周囲に高く積んだ書物を一冊、また一冊と目を通しては左右に振り分けているようだ。恐らく、所蔵している書物の選別を行っているのだろう。
「サフィーネのことはさておき、貝合わせの貝ぐらい買わせてやれよ」
「ニューイヤー前に溜まった書物の整理をしようと思ったのですが、簡単には片付かない有様でしてね。彼女に付き合って地上に出ている余裕がないのですよ。ああいった物を入手する為には、古道具屋を回らなければならないでしょう。出て直ぐ戻って来れないのでは」
「そんなに時間がかかるものかねえ。ちょっと行って買って帰ってくるだけだろうに」
「口で云えばひとことで済みますが、元旦用の晴れ着を用意するのにも一日かかってますからね。何でもよければ別ですが、ハレの日の為の支度を片手間にするの罰当たりな気がしてしまう。性分ですよ、マサキ」
「って、云ってもなあ」マサキは溜息を洩らした。「モニカのあの様子だと、いずれまた何か口実を見付けては家に来そうなんだよな」
 二度あることは三度あるとも云えば、三度目の正直という言葉もある。年に一度しかないハレの日。納得の行く結果になるまで、モニカはマサキたちの元を訪れ続けるのではないだろうか。
 いずれにせよ、マサキとしては、ニューイヤー前の慌ただしい時期の厄介事はこれきりにしたい。シュウがこうして書物の選別を行っているように、マサキにも館の大掃除が待っているのだ。
「片付けが早めに済めば、地上に出るのも吝かではないのですがね」そう云いつつも、シュウはシュウなりにモニカがマサキたちに迷惑を掛けていることを気にしているようだ。書物の整理をする手を休めると、「とはいえ、あなた方に度々迷惑を掛けるのも礼に欠けますし、それについては来年までの宿題ということにしておきますよ」そう言葉を継いだ。
 
 
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