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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

また巡る(中)
この話を書いていて気付いたんですが、私、歳を取った白河というのは想像したことあるんですけど、歳を取ったマサキを想像したことって実はなかったみたいなんです!Σ(-Д-;)えー!?

何か私の中でマサキって太く短くってイメージがあって……

皆様的にはどうなんでしょう?いやそりゃ私の希望としてはふたりとも長生きして欲しいんですけど、どちらも何かの弾みにあっさり命を落としてしまいそうな危うさがあるというか……

何かの折にでも聞かせていただけると幸いです。では本文へどうぞ!


<また巡る>

「期待しないで待っていますよ。気長にね」
 シュウはマサキが盛ったオムレツの脇にサラダを沿えた。続けてバケットとスープを用意する。その間にハムが焼き上がったようだ。ほらとマサキがハムをオムレツの上に乗せ、使った調理器具をシンクに片付けていった。
 気付けば火を扱う作業は全てマサキが請け負っている有様だったが、こういった日もある。ワンプレートに収めた朝食をバケットの入った籠やスープカップとともにテーブルに並べ、シュウはマサキとともにそれぞれの定位置に腰を落ち着けた。
「どうですか。30歳になった気分は」
 バースディパーティの最中に聞くのも野暮な気がして控えていた言葉。それを食事に手を付けながらおもむろに尋ねてみれば、マサキは今更感想を求められるとは思っていなかったようだ。僅かに顔を顰めてみせる。
「今それを聞くか。聞くなら昨日聞けよ」
「そろそろ実感が湧く頃かと思ったのですよ」
「そうは云われてもな。特には何も。誕生日だからって改まることもないだろ」
 確かに。彼らしさが溢れる返答に頷きながらも、シュウは物足りなさを感じていた。
 すべきことに専念していたら30歳を超えていたシュウと比べれば、ふたりきりのパーティとはいえども、誕生日を記念日として扱ってもらえたマサキは、シュウの目には恵まれているように映った。ましてやマサキは自分の都合では動けぬ立場に就いているのだ。彼にとって記念日を祝われる機会に恵まれることは稀なこと。その大事な機会をふたりで過ごした翌日である。抱負を語るなどといった仰々しい反応まではシュウも求めていなかったが、せめてひと言ぐらいは感想が欲しかったところだ。
 とはいえ、マサキの性格が性格だ。感情を爆発させることがあっても、それは他人の為。自分のこととなると驚くほどにドライになるマサキは、まるで自分自身には関心がないとでもいったような態度を良く取ってみせた。今もそうだ。訪れた沈黙の深さに、マサキの自分が生まれた日への関心のほどが知れる。
「でも、あっという間だったな」ややあってぽつりとマサキが洩らす。
 それはどちらの意味でだろう。シュウはマサキの境遇を思った。
 地底世界に召喚されて間もなく、魔装機神サイバスターに選ばれた少年は、その類まれなき運動センスで剣聖の座にまで上り詰めてみせた。天性の戦士の才能を開花させた彼は、だからこそあらゆる戦いに身を投じてゆくこととなった。
 始まりはラングランより。そして国境を越えて世界へと。活躍のフィールドを劇的に変えていった彼にとって、月日が過ぎるのは確かにあっという間だっただろう。
 シュウは続けて、30歳を超えて大分経つ自分自身を思った。
 20歳を超えた辺りから、シュウは一日が終わる時間が早くなったと感じるようになっていた。きっと、激動の人生を送っているからなのだ。戦場に立つことも多いシュウは、早まってゆく時間の理由をそう結論付けた。
 けれども、どうやらそれはシュウの思い違いであったようだ。
 30歳を超えて更に加速してゆく時間。体感している時間と、過ぎていく時間の差は開いて行く一方だ。その現実に途惑いを覚えるようになったシュウは、ようやくそれが歳を取ることだと理解をした。
 繰り返される日常は刺激を奪う。人生に刺激を感じることが少なくなったシュウにとって、日々は風の流れるスピードよりも速く過ぎてゆくように感じられるものとなっていた。研究、読書、人付き合い……こうして偶にマサキが訪れる以外は代わり映えのしない日常に、けれどもシュウは、だからこそ喜びを見出してもいる。
 マサキを待つ時間に感じていたままならなさやもどかしさ。物理的な立場と距離があるからこそ感じずにいられなかった感情は、月日が過ぎ去るスピードが速くなったことで、かなりの薄らぎをみせるようになっていた。
 きっとそう遠くない内に、シュウは自身の悪癖であるマサキに対する所有欲を捨てることになるだろう。
 それともそれこそが、積み重ねた歳月に対する自信の表れであるのだろうか。
 而立を迎えて未だ迷いの多いシュウは、マサキより少し先の未来を生きているからこそ、歳を取ることでは人の性格や思考などには変化が起こらないことを知ってしまっていた。けれども、それは成長しないということを意味しない。人間は急進的に変化を重ねる生き物ではなく、漸進的に変化してゆく生き物であるのだ。だからこそ、昨日とさして変わらなかった自分が、未来のある瞬間に劇的に変わっていることに気付いたりもする。
 日々の移り変わりが少しずつ景色に変化を齎すように、過行く時間は人間の心に変化を齎してゆく。だからこそふと立ち止まった瞬間に、人は己の成長を知るのだ。
 シュウにとってその機会は日常の何気ない瞬間だったけれども、誰かにとってそれは誕生日であることもある。マサキにとってはどうなのだろう? シュウはマサキの言葉を待った。千切ったバケットを口の中に放り込んでゆっくりと咀嚼している彼は、かつてのシュウが自分に対して千々に心を乱していたことなど知りもしないに違いない。
「お前に会ってからはあっという間だったよ、月日が過ぎるのが」
 ふと過去を振り返ったような瞳になったマサキが、おもむろに口を開いた。「退屈してる暇なんてありゃしねえ」そう続けた彼は、口元を微かに緩ませると、柔らかい眼差しをシュウに向けてきた。
「でも、何でだろうな。振り返ると、お前との思い出が少な過ぎる気がしちまう」
「それほど頻繁に会っている訳でもありませんしね。付き合いの長さの割には、一緒に過ごしている時間は少ないと思いますよ」
「そっか……そう考えると、30歳になるって案外つまらないことなのかもな」
 そう云ってハムにかぶりついたマサキに、彼のダイエットが叶えられるのは遠そうだ――と、シュウは苦笑する。
 豪快な彼の食べっぷりは三十路を迎えても変わることがないようだ。もしかすると40歳を迎えても、彼だったら変わらぬ安藤正樹のままでいるかも知れない。少年時代の面影を、彼の現在の面差しに見出したシュウはそんなことを思った。
「もうちょっとゆっくり過ごしたかった、かもな」
「20代を、ですか」
「うん。お前との時間をもっとゆっくりさ」カトラリーを置いたマサキの手が不意にシュウの頬へと伸びてくる。「変わったよな。やっぱ歳を取った。俺もお前も」
「まだそこまで云うほどお互い歳は取っていないでしょうに」
「そりゃそうだ」声を上げてマサキが笑う。「でも、あと10年も経ったら滅茶苦茶変わったって感じると思うぜ」
 シュウの温もりを感じ取るように置かれていた手。剣を握り締めた数の分だけ、厚みと硬さを増した手のひらがそっと離される。そうですね。シュウはマサキの言葉に頷いた。
「ですが、マサキ。その時が訪れたら私はこう思うと思いますよ。あの時の少年がこれだけ成長して自分の傍にいる――とね。そしてどうしようもなく、あなたに愛おしさを感じるに違いない」
 30歳になったばかりの彼はまだ20代の若さが残る面差しをしている。もう10年経ったらどういった顔になるのだろう? シュウはその日を想像してみることにした。10年後、マサキの40歳の誕生日。けれどもどの想像もしっくりとはこない。
 出会った頃は面映ゆさ残る少年だった彼は、10年余りの歳月を経ても尚、どこか幼さが残る顔立ちをしている。ありきたりな加算でシミュレートしても上手く行かないのも当然だ。彼はきっと不惑を迎えてもどこか幼さが抜けない顔立ちをしていることだろう。




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