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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

インモラルオブザーバー(4)
エーローをー書ーかーせーろー。

このシリーズは私が欲望の限りを尽くす話なんですけど、それのどこに今回のテーマが?と思ってらっしゃることでしょう!成就なんですよ、成就!いやもう既に同棲して爛れた生活に溺れているふたりに成就ってってなるとは思うんですけど、そう云ったらそうなの!笑

ただ、忘れてたんですけど、この話。エロよりも幕間の方が考えることが多い分、時間がかかるんですよね。はっはっは。

ここでお報せにございます。blogのリンクに一件追加しました。(サイトの方は後日作業をします)いやー、令和になって仲間が増えるの嬉しいー!ヽ(´ー`)ノ有難うございます!


<インモラルオブザーバー>

「それにしても、君たちは相変わらず割り切った関係にあるようだ。会えば求め合わずにいられない割には、互いの立場を譲るということをしない。我々としては君が残ってくれたことには感謝をしているが、その情の薄さは気に掛かるところだ」
 冷ややかな眼差しをモニター群に向けながら、男が淡々とした口振りで話題を変える。
 マサキはそれに対して肩を竦めてみせただけだった。
 用心深いこの男のことだ。彼がどれだけシュウ=シラカワという人間に信頼を置いていようとも、自治区が緊迫した状況に置かれている今、監視カメラから送られてくる映像を確認せずに済ませるような真似はしないだろう。それを裏付けるような男の台詞。男に情事を見られていないなどとマサキは思ってはいなかったが、そうした状況下でもシュウとの性行為を躊躇わなくなった自分には思うところもある。だからこそ、マサキは自分たちの関係について語ることを避けた。
 自警団の中では公然の秘密となっている関係とはいえ、何割かには嬌態を晒してしまっている。そういった特異な状況にすっかり慣らされてしまったマサキは、だからこそシュウに執着してもいるのだ。その“弱味”を、マサキは例え彼らであろうと知られたくはない。
「尤も、それは余計な世話なのだろうがね」
 マサキの沈黙をどういった意味に捉えたのだろうか。男がぽつりと付け加える。
 マサキが見守ると云った自治区の未来、融和の先にある平和は今のところ順調に築かれているように思えた。自治区の中を自由に行き来できるようになった両国の国民たちは、表面上は以前と変わりない付き合いを再開させたようであったし、いっときは地方議会の傀儡となった自警団も、本来の目的通りに自治区の治安維持に有効に機能しているようだった。
 歴史編纂委員会も正しく機能している。彼らが暫定的に作り上げた歴史の教科書は、学校教育の現場から好意的に迎え入れられたと聞く。
 時には些細ないざこざも起こりはするが、それはどの街でも起こり得るレベルに留まった。むしろ規模に比例して淀みを抱えるようになった王都よりも、自治区の方が平和であるかも知れない。マサキが拠点を定めるようになってからの自治区は、それだけ目覚ましい勢いで復興を遂げていった――……。
 マサキは約束を違えるような真似は決してしない。
 彼らが道を違えない限りは、この街の為に出来る限りの助力をしよう。それはシュウの存在よりも優先されるマサキの矜持、魔装機神操者の義務だ。義務と恋は相反することはない。シュウに守るべきものが存在しているように、マサキにも守るべきものが存在している。たったそれだけのこと。
「しかし、どうやればあいつから情報を引き出せたもんか……」
 マサキは話を元に戻した。
 自治区への侵攻を行った一軍が何処の組織に所属しているのかは不明だが、彼らがこの地域の平和を乱しにきたのは間違いない。恐らく彼らは、ラングランとバゴニアの両国を一度に刺激出来る環境に旨味を感じたのだ。そうでなければ、どうしてシュウを味方に引き入れ、且つ両国にその動きを察知されることなく動き回ってみせたものか。
 彼はラングランのワイルドカードなのだ。決して表に出すことの出来ない|切り札《ジョーカー》。正しく歴史にその名を刻むことなく消えてゆくだろう彼を味方に引き入れるのは、だからこそ有効且つ最大の戦略して機能する。
「ひとつ、試してみるとしようか」
「何をだ?」マサキはいつしか下がっていた面を上げた。
「意思の疎通の手段は言葉に限らない。彼ならば他の手段を取ることも出来るだろう。例えば我々が信号弾や手旗を使うようにだ」
 自警団の副団長に収めておくのは惜しいぐらいに、マサキの目の前に立つ男は冷静に状況を分析し立ち回る術を心得ている。男はマサキを振り返った。いついかなる時も動くことのない表情はここでも健在だ。
「差し入れを用意させよう。それを彼ならば活用してくれるだろうと私は信じている」
 静かにそう宣言した彼に、マサキは表情を引き締めずにいられなかった。

 ※ ※ ※

 着替え一式に、タオルと数冊の書物。そして一冊のノートに筆記用具。マサキはそれらを携えて再びシュウが囚われている独房に入った。
 手足を拘束されたままのシュウは、外界からの刺激もなく過ぎてゆく時間をどう過ごしていたのだろうか。直ぐに視線を上げてきた彼は起きてはいたようだ。マサキの姿を認めると、遅かったですね。と、口元を歪めてみせる。
「差し入れだ」
「これは随分と粋なことを」
「手だけは自由にしてやる。お前の食事の度に俺が食べさせてやる訳にもいかないからな」
「私はそれでも結構ですがね」
「俺が立ち会っている間は足の拘束も解いてやる」
 手にしていた荷物を床に置いて、マサキはシュウの手枷を外しにかかった。どの道着替えをさせる為にも、一度全ての拘束を解く必要があった。カチャリと音を立てて手枷が外れる。天井からぶら下がっている鎖が不気味にゆらゆらと揺れる中、「いい加減、腕が痺れてきたところでしたよ」腕の自由を得たシュウはそう云って、その調子を確認するように軽く手を振った。
「しかしあなたがいるとはいえ、随分な大盤振る舞いですね。私の今の立場はあなた方の敵であるというのに」
「この状態を長く続けると、人権委員会が煩いからな。両手両足を拘束する遣り方に、自治区式なんて名前が付いたら不名誉にも程があるだろ」
 マサキは床に置いた着替えの中から、首輪を取り上げた。
 前回、自分の首に嵌められた悪趣味な首輪は、譲歩の為の保険でもある。待遇を改善した結果、シュウに逃げられてしまっては元も子もない。彼を拘束する道具はあるに越したことはなかった。
「だからといって手放しで自由を与えるような真似はしない。代わりにこれを嵌めるぞ」
 シュウは即座に首輪の意味を察したようだ。「そのぐらいは覚悟していましたよ」悠然と微笑んでみせると自ら首を差し出してくる。
「余裕だな」
「原理はわかっていますからね」
 マサキは白く浮き出たシュウの肌に漆黒のベルトをあてがった。
 頭を吹き飛ばすぐらいなら難なく行える首輪型の爆弾。信号が途切れることが|引き金《トリガー》となっている装置は、シュウ曰く、専用の道具を必要とするものの、比較的容易に解体出来る単純な構造であるらしい。
 マサキはひと思いに金具を噛み合わせた。
 これで彼の命は自治区が預かる形となった。その事実に僅かながらほっとする。
 素直に首を差し出してきた辺り、シュウもまた自治区に与する大義名分を欲していたのだろう。起動した首輪から手を離したマサキは、続けてシュウの足枷を外しにかかった。そして、両手足の自由を得たシュウに着替えを渡した。


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