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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

記憶の底 ReBirth(11)
10回を超えてまだ書きたいシーンに辿り着いていないわたくしに救いの手を!

と、いきなり泣き言からスタートしたんですけど、小説って書きたいシーンをモチベーションにするじゃないですか。そこへの到達点が長いと産みの苦しみが半端じゃないですね!このシリーズ、毎回うんうん云いながら書いている気がします。

拍手有難うございます!励みになります!
まだまだ先は長い気がしますが、お付き合いいただけますと幸いです。


<記憶の底 ReBirth>

 必要な物資が揃っているにも関わらず、生活感に乏しく感じられる室内。部屋を見渡したマサキは、寂しもんだな。そう呟かずにいられなかった。
 二匹の使い魔を欠くなど滅多にない事態だ。ひたひたと這い寄るように迫って来る静けさが、いつでも傍にいるのが当たり前な話し相手の不在を強く意識させる。さて、どうするか。マサキはするべきことも思い付かないままにリビングのソファに腰掛けた。
 科学時代の遺産たる巨大地下司令施設。どこかにはメインの機能である指令室が存在している筈だ。
 練金学が隆盛を誇る時代となった今となっては時代遅れの施設。どういった経緯でこの施設が遺棄されることになったのか。ラ・ギアスの歴史に詳しくないマサキにはわかる由もなかったが、彼らがここを拠点として行動を起こしているからには、それなりに生きているシステムがある施設であるのだろう。
 この自由時間を使って施設内を探索してみるのも悪くない。マサキは思い付いた自由時間の使い道に心を躍らせた。
 あからさまに対立することもなければ、さりとて決定的な味方となる訳でもない。マサキと付かず離れずの距離を保ち続けている彼らは、自分たちが信ずる道を自分たちの遣り方で突き進んでいるからこそ、利害が相克すればマサキたちとは異なる道を平然と往ってみせることだろう。だからこそ、彼らが有している施設の内情を知っておいて損はない。マサキはそう考えたものの、果たしてシュウをこのエリアにひとり残していってもいいものだろうか? 次の瞬間には気掛かりを覚えずにいられなかった。
 自由時間に部屋を出るのに彼に逐一伺いを立てる必要はないだろうが、9歳で記憶が止まってしまっている彼のことだ。マサキの不在に心細さを感じないとも限らない。さりとて、目的が目的だ。彼に不信感を抱かれるるのは避けたいところでもある。
 暫く悩んだマサキは、今はそういった行動は控えるべきだと結論付けた。
 酷い方向音痴なのだ。
 誰かの案内なしにこの巨大施設を回り切れる自信もなければ、無事にこのエリアに戻って来られる自信もない。マサキは宙を仰いだ。サイバスターに愛用の剣、そして二匹の使い魔。どれもマサキにとっては相棒と呼べるほどに大事なものだ。その全てを欠いてしまっている。マサキ自身は縁起を担ぐような性格ではなかったが、これだけの不遇にあって慎重さを欠いた行動に出られるほど考えなしでもない。今日のところは大人しくしておこう。マサキは夕食まで部屋で過ごすことを決めた。
 明日になれば街に出られるのだ。気分転換はそこで済ませればいい。
 しかしどうこれからの時間を過ごしたものか。夕食まで何をするか悩んだマサキは、改めて部屋の中を漁ってみたが、暇潰しの娯楽となりそうなものはテレビしかなかった。仕方なしに早目のシャワーを済ませ、だらだらとソファの上でテレビを見ながら時間を潰す。
 夕食はハンバーグにした。
 肉や魚はほぼ冷凍されていて、使えそうな食材が挽肉しかなかったからだった。
 そこに冷蔵庫の野菜で作ったサラダとスープ、軽く焼いたバケットを付け合わせる。冷凍庫を除いてはほぼ空となった冷蔵庫に、レトルト食品を好まないらしいシュウは不安そうだったが、どうせ明日は街に出るのだ。そのついでに食材を買い足せばいいと云い聞かせた。
 サラダのレタスはシュウに千切らせた。
 彼はその程度のことでも調理に関われたのが嬉しかったらしく、感慨深そうにレタスを口に運んでいた。レタスを千切ったぐらいで大袈裟な。と、マサキは思ったが、彼にとっての現状は見るもの聞くもの珍しいものでもあるのだろう。
 美味しいですね。心なしか声を弾ませているようにも感じられた彼の言葉に、マサキは深く頷いた。
 そこまで喜ぶのであれば、もう少し手がかかることをやらせてみるのも悪くはない。マサキは食事を進めながら、明日の料理の支度で彼に何をさせるかを考えた。剣技を習得しているのだから、刃物を扱わせても問題はないのではないだろうか? ふと浮かんできた考えに、それも悪くない。マサキはシュウに包丁を持たせることを決めた。
 それにしても――と、マサキは食後、皿洗いの為にキッチンに立っているシュウの背中を眺めながらつくづく思った。その後の10年以上の歳月で、果たして彼に何が起こったのか。神経質なきらいはあるが、素直で聡明な9歳のシュウは、現在のシュウとは懸け離れた性格をしているようにマサキには思えてならなかった。
 目の前で良く知る顔の男が、本人がしそうにない反応をみせる。それはマサキに複雑な感情を呼び起こした。なんとも滑稽だが、何とも物寂しい。日頃、シュウから嫌味や皮肉を聞かされることの多いマサキだったが、こうなるとそれらの言葉が懐かしくも感じられる。調子が狂うな。マサキはシュウに聞こえぬように、そっと言葉を吐いた。
「そういえば、あなたはお酒は嗜まないのですか? 僕は偶に飲むことがあったようですが」
「パーティなんかでは飲むが、晩酌って意味ではしないな。酒はあんまり好きじゃない」
「そうですか。戸棚の中にワインボトルがあったので、あなたが飲めるのでしたら、お礼代わりにと思ったのですが」
「てか、お前のボディガードでもあるんだぞ、俺は。ここでは飲めないだろ」
 洗い物を終えてソファに戻ってきたシュウが何を飲むか尋ねてくる。その中に酒を含むつもりであったらしい彼に、マサキは世間知らずな彼の気質を垣間見たような気がして呆れ返らずにいられなかった。自身が9歳であるからだろうか。酒に酔うということがどういった状態であるのか、彼にはまだ良くわかっていないのかも知れない。
「持ち帰ってはいかがです。あの人たちのことだ。あなたにお礼をしてくれるかも怪しいと思いますし」
「そういった気は遣わなくていい。困った時はお互い様だ。俺も記憶をなくした時にお前に世話になってるしな。それに味に煩いあいつのことだ。秘蔵のワインを持ち帰ったとなると、しつこく根に持たれそうだ」
 冗談めかして云えば、「彼らでもあるまいし――」と、シュウは露骨に顔を顰めてみせた。
 テリウスたちが自ら口にしていた通り、シュウの彼らへの警戒心は相当なものであるようだ。
 言葉の端々から滲み出る不信感と嫌悪感。教団屈指の魔導師であったサフィーネはさておき、モニカやテリウスは出自をともにする血族である。そこまで毛嫌いをする理由などないように思える。しかもその割には彼らから話を聞いただけのマサキには気を許している様子をみせるなど、彼の行動には矛盾も感じられる。
 初日にして気掛かりばかりが増えていくものの、それを気兼ねなく尋ねられる関係性でもない。マサキは事情をあれこれ詮索するのを避け、ただカフェオレを頼むだけに留めた。
 いずれ長い付き合いになれば、それを知る機会にも恵まれるだろう。そう思ったからだった。
 剣を振ったことで感覚が掴めてきたのだろうか。それともレタスを千切ったことで自信が付いたのだろうか。昼間と比べると、シュウの動きからはぎこちなさが減ったように感じられた。距離感を掴んだ動き。危なっかしいのに違いはないが、手を出したくなるほどではない。
 ややあって、どうぞ――と、差し出されるマグカップ。彼からカフェオレを受け取ったマサキは、彼がソファに腰を落ち着けるのを待って、彼に身体の使い勝手を尋ねてみることにした。
「大分、その身体にも慣れてきたか?」
「そうですね。最初は物を取るのですら苦労しましたから、それと比べれば大分」
「いきなり身体がそれだけでかくなればな。身長は幾つだったんだ」
「140センチほどですね」
 成程な。マサキは納得した。実に50センチほどの身長差とあっては、動きがぎこちなくなるのも已む無しだ。




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