私は
マサキと白河に
話して欲しいことが沢山ある
だから一向に話が先に進まないんですよ。あれもこれも語り合って欲しいと気持ちが強過ぎて。
概念かつ観念的な話が続きますが、ご容赦ください。
拍手有難うございます!まだまだ走り続けます!
もし、頑張って!と思ったらぽちりとしていただけると、私に栄養が送られます!
マサキと白河に
話して欲しいことが沢山ある
だから一向に話が先に進まないんですよ。あれもこれも語り合って欲しいと気持ちが強過ぎて。
概念かつ観念的な話が続きますが、ご容赦ください。
拍手有難うございます!まだまだ走り続けます!
もし、頑張って!と思ったらぽちりとしていただけると、私に栄養が送られます!
<記憶の底 ReBirth>
ひとりで出来ることには限りがあるということを、9歳のシュウはまだ知らないのだ。
未来の自分の罪までも引き受けようとする彼の純真な気持ちは尊いものであったが、全ての能力を一度に使いこなせる由もない。どれだけ彼が才能や能力に恵まれていようとも、身体はひとつしかないのだ。何をするにしても順序が大事だとマサキが彼に説いたのは、そういった理由からでもある。
先ずは本来の自分の能力を取り戻すべき。
失われた記憶の真実を探すのは、その後でも遅くはない。マサキは目の前で萎れているシュウを見遣った。似ていないようでも、そこはシュウの少年期だけはある。こうと決めたら譲らないところや、自分の考えに固執しがちなところなどは、現在のシュウにも通じるところだ。
過去から現在に至るまでのシュウに何が起こったのか。マサキは自分がラ・ギアスに召喚されてからのことしか知らなかったが、彼の知識や経験が稀有なものであることは承知している。そういった知識や経験の足りなさが、9歳のシュウを純粋無垢な存在足らしめているのは想像に難くない。
現在のシュウはそこから様々な経験を通して、酸いも甘いも嚙み分けるようになっていったのだ。
巌のように頑固な彼は、マサキに対しては自身の理想を押し付けがちな面があったが、他者に対しては広く行き渡る空気のように寛容でもあった。諭すような口を利いたりもしながらも、彼らの選択は最大限尊重してみせる。それは彼が経験した不自由な環境と無関係ではない筈だ。
「頑固なのは昔からだな、お前は。あんまり意地になるな。ヴォルクルスはお前が思っているような偶像的な存在じゃない。実存する神だ。この世界じゃ度々姿を現わしてみせたりもするが、神様ってのは本来、人智を超えた存在だろ。大体、身体を持たない意識の塊なんて、生身の人間でどう対抗出来るっていうんだ? まあ、精霊でさえも使役してみせようと考えるラングランじゃ、神に対抗しようって考えが出るのも無理はないがな」
「神だからといって、人間の生活を脅かす存在を放置していい筈もありませんが」
「そりゃそうだ」マサキは笑った。「神様だって人間界に降りてくりゃ、弱肉強食の世界のヒエラルキーに組み込まれちまうもんだろ。そういう意味じゃ人間に斃されたって文句は云えねえわな」
「だから僕は、事情があってのこととはいえ、邪神に自分が与したという歴史に腹を立てているのですよ。ヴォルクルスは三柱神のひとつではありますが、現実に存在する彼や、彼を信奉する人間がそれに相応しい活動をしているかというとそうではありません。世界に混沌を呼び込むことで、人々の恐怖心を糧とする。彼らの在り方は、悪魔的《サタニズム》に近い」
考え方という面においては、やはりシュウはシュウであるようだ。9歳とは思えぬ弁舌。理屈に走り始めた彼に、マサキは現在のシュウの面影を見たような気がして、口元を緩めずにいられなかった。
理屈で他人を煙に巻くのが好きな男だった。
博覧強記な彼の弁舌の数々によく遣り込められたマサキだったが、けれどもシュウとの付き合いが長くなるにつれ、受け止め方が違うのではないかと思うようになっていった。彼はただ、自身の考えを端的に伝えたいだけなのではないだろうか? 目の前の9歳のシュウの能弁な口にしてもそうだったし、使い魔たるチカの達者な口にしてもそうだ。彼らは伝えたいという気持ちの赴くまま、ひたむきに言葉を紡いでいる。
「ですから――」
話を続けようとするシュウを、まあ、待てよ。と、マサキは制した。
「難しい話は苦手なんだ」
「そんなに難しいことを云ったつもりはありませんが」
「俺はお前が思ってるほどに学はないぞ」
肩をそびやかして云ったマサキは、納得が行っていなさそうな顔をしているシュウに言葉を続けた。ラングランに召喚されちまったしな。それで彼はマサキが抱えている事情が自分とは異なることに思い至ったようだ。微かに目をひらいてみせると、そうでした。と、視線を落とした。
「そんな顔をするな。嫌だったらとっくに地上に帰ってる。俺がここに残ってるってことは、そういうことだ」
「有難いことです」ぽつりと洩らしたシュウが、けれど――と、言葉を継いだ。
「魔装機に精霊を組み込み、操者には地上人を頼る。人間は道具を使うことで弱肉強食のヒエラルキーの頂点に立ちましたが、更なる脅威に立ち向かう為とはいえ、その手を有機物にまで広げるのはどうなのでしょうね。それこそ烏滸がましいとしか思えませんが……」
「だが、それで救われた人間がいるのも事実だろ」
マサキは冷えたカップを手に取った。僅かに温みを残すカフェオレを口に含む。
あのまま地上世界で生きたとしても、マサキに未来はなかった。
砂を噛むような味気ない日常。親の愛情で生かされていたマサキは、その庇護を失った者に対して世界が冷たいことを知った。何をしようとも世界から弾かれる。マサキは地上世界では自分の居場所を作れずにいた。
世間に逼塞感を感じながらも、生きることに怠惰だった。それはそうしなければ心が潰されてしまいそうだったからだ。自由に飛び回れる翼が欲しい。灰色のコンクリートジャングルの中で、幾度そんな夢を見たことだろう。
ラングランに召喚されることがなければ、マサキもまた、いずれ数多の若者と同じようにありきたりな生活に放り込まれるしかなくなっていただろう。
その生活を悪いとは思わない。
マサキが欲しかったのは、栄誉でもなければ、生き甲斐でもなかった。ただ自分が生きていることを、そして生きてゆくことを認めてくれる社会。この豊かなる自然溢れる地底世界ラ・ギアスを、マサキが早々に第二の故郷と決めたのは、そういった理由からだった。
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