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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

記憶の底 ReBirth(16)
リクエスト有難うございます!
お品書きに追加させていただきました!

まだまだ募集しておりますので、思い付いた方は宜しくお願いいたします!

マサキって方向音痴じゃないですか。何処かに移動させる以上はそこになるべく触れるようにしようと思ってるんですけど、それをやると思った以上に話が長くなるんですね。と、いうことで今回は方向音痴弄られ回です。

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お陰様でこの話もそろそろ折り返しに到達しそうです。感謝しております。


<記憶の底 ReBirth>

 きっかり30分後。洞窟の中に出たマサキは、こちらですよ。と、道案内を続けるシュウの後を追って森に向かった。
 さして入り口から遠くない場所に出たからか。洞窟の中で迷うことはなかった。けれども森の中はマサキにとっては迷宮のようなものだ。似たような景色が延々続く上に、途切れがちな獣道。度々シュウが足を止めてくれなければ、ここでマサキは彼とはぐれてしまっていただろう。
 どうやら彼はマサキが病的な方向音痴であることを、テリウスたちから聞いていたようだ。マサキとの距離が開くと見るや否や足を止めてみせるシュウは、森から出るとマサキを振り返って白い歯を零して笑った。
「あなたが迷うことなく森を出られて良かったですよ、マサキ」
「何だ、知ってたのか。その割にはスタスタ先を行かれた気がするな」
「ちゃんとあなたが付いて来ているかは確認していましたよ」
 木々が開けた先には平原が広がっていた。今日も中天に座す太陽に照らされて、そよぐ風に頭を揺らす草花が、さわさわと音を立てながら波を描いている。丸一日ぶりのラングランの自然を目の当たりにしたマサキは、その風光明媚なさまに目を細めずにいられなかった。
「街道はどっちだ」
「平原の先ですね。ほら、バスが走っているのが見えますよ」
 湾曲する大地が雲に飲み込まれてゆくその切れ間を、一台のバスが走っている。かなりの距離だな。マサキは額に手を翳してこれから向かう先に目を遣った。
 目印らしい目印のない道のり。
 西を見ても、東を見ても、南を見ても平原が広がっている有様に、マサキは溜息を吐いた。辺り一面草花に支配された世界。少しでも気を抜けば直ぐにシュウとはぐれてしまいそうだ。
 唯一景色が異なるのが、今来た方角である北側だ。森の東側に湖、北側に山が広がっている。これを背にして歩けばいいんだな。マサキが云えば、「その通りではありますが、それをわざわざ確認されると不安になりますね」シュウは驚きと呆れが入り混じった表情でマサキを振り返った。
「魔装機なしで街に出るのはあなたにとっては危険な道のりなのでは、マサキ?」
「何を云ってるんだ、お前は。徒歩だからまだマシなんじゃねえかよ。サイバスターに乗ってみろ。ラ・ギアスを一周しても止まらねえぞ、俺は」
「それは迷ってることに気付かないという意味で、ですか? それとも軌道修正してもそうなるという意味で、ですか?」
「どっちもだよ」マサキは頬を膨らませた。
 莫大なマサキの気《プラーナ》は、サイバスターの計器類を狂わせてしまうことがままあった。スピードメーターや燃料計が壊れるだけならまだいい。電波探信儀《レーダー》までもとなると事情が異なる。
 エネルギーの残量管理や武装の残弾管理は暗算でもどうにか出来るが、方角はそうはいかないのだ。ラ・ギアスの太陽はいつだって同じ場所に浮かんでいる。太陽の傾きで方角がわからない世界。現在位置はおろか、進行方向もわからなくなったマサキは、幾度ラ・ギアスを一周したことか。
「ロープを持ってくればよかったですね。そこまでと聞いてしまっては、繋いで連れて行かなければ無事に街に着ける気がしません」
 想像よりも遥かに酷い状態だったのではないだろうか。自分の疑問に対するマサキの答えを聞いたシュウは、そう云って困った風に目を瞬かせた。だよな。マサキは自分でも力のない表情をしていると思いながら、それでも彼の不安を払拭してやらねばと、精一杯の笑みを浮かべてみせた。
「まあ……その、なんだ。出来る限り頑張るから、お前もちょっとは俺のことを気に掛けてくれると、はぐれて探すって手間が省けるんじゃないかって……」
「大丈夫ですよ、マサキ。僕はきちんとあなたを街に連れて行ってみせます」
「大きく出たな」マサキは目を見開いてシュウの顔をまじまじと凝視《みつ》めた。「お前、俺の方向音痴を軽く見てないか?」
「この平原ですからね。あなたほどの身長があれば、はぐれても必ず見付け出せますよ」
 やはり心の何処かでたかが方向音痴と軽く考えているのだろう。そういう問題じゃないんだよなあ。不安を煽るようなシュウの台詞にマサキが呟けば、長くこの話題を続けては、街に着くのが遅くなると思ったのだろう。行きますよ。シュウが早速、平原へと足を踏み入れてゆく。
「あ、おい。待てって」
 度々振り返っては、マサキが付いて来るのを確認しつつ、先を進んでゆくシュウに続いてマサキは平原を往った。吹き抜ける風が気持ちいい。ラングランの風だ。ふと口にすれば、そうですね。前方をゆくシュウが足を止めた。
「外の世界はこんなにも色鮮やかで、こんなにも眩い。僕はやっと、ラングランという国の美しさを知った気がしますよ」
 暫く足を止めたまま、吹き抜ける風に身体を晒して、シュウは見渡す限りの平原の只中に立っていた。
「王室を出ることがなければ知らないままだった世界です。そういった意味では未来の僕に感謝をしてもいいかも知れませんね。彼は僕にこの美しい景色を授けてくれました。ここで生きてゆくことに不安はありますが、どうしてでしょうね。楽しみでもあります」
 そう云って再び歩き始めたシュウの背中は、昨日よりも逞しさを増したようにマサキには感じられた。
 9歳のシュウ、彼はあのきらびやかな王宮という世界で、どう生きていたのだろう? マサキはあの世界に生きていた人々を思い返した。アルザール、フェイルロード、セニア、モニカ、テリウス……そして、シュウ。治安局の局長だったフェイルロードや情報局の局長であるセニアとマサキたちは、彼らが魔装機計画に深く関わっていたこともあって顔を合わせる機会に恵まれていたが、他の王族――わけても当時まだ王族であった筈のシュウとは、まるでと云っていいくらい顔を合わせる機会に恵まれなかった。
 この自然豊かな国を、王宮という限られた世界から見下ろしていた彼らは、だからこそ外の世界を目指したのかも知れない。マサキはシュウの背中を眺めながら歩き続けた。口が達者な割に自分のことを多くは語らない男は、王族時代の自分を語ることもない。
 今となってはセニアのみを残すばかりとなった前世代の王族たち。彼らは――そして、シュウは、この広いラングランの大地で、そしてラ・ギアスという世界で、何を見て、何を知り、何を成したのだろうか。そしてこれから何を見て、何を知り、何を成してゆくのだろうか。マサキはそれを自分は見届けることになるのだろうと、彼らとの切れぬ縁に思わずにいられなかった。
「ほら、街道が見えてきましたよ、マサキ」
 馬車や人、バスが行き交う流通の要は、だだっ広い平原の中にあっても賑わいを見せていた。
 建ち並ぶ宿に食事処。町と呼ぶには規模の小さい集落は、旅人たちの疲れを癒す安息所であるようだ。
 客引きに精を出す宿の呼び子たちや、食事処の看板娘たち。彼らに袖を引かれたりもしながら、集落の中央を走る街道に沿って歩いてゆけば、程なくしてバスの停留所に出る。マサキはシュウとともに時刻表を確認した。次のバスは15分後に到着する予定だ。
「魔装機を使えばあっという間ですけど、歩いてゆくとなると大変ですね。待ち時間も思ったより長いですし」
「でもまあ、こういうのも楽しいもんだな。普段サイバスターを使ってるからか、出掛けてるって気になれる」
「迷わずに済んでますしね」
「まあなあ。目的地にきちんと着けるってのは、嬉しいもんだよな」




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