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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

記憶の底 ReBirth(3)
ようやくプロローグが終わりそうです!ヽ(´ー`)ノ褒めて!笑

そんなに本文が長くなる予定ではないのですが、プロローグにこれだけ時間をかけてしまったということで、不安が拭えません。笑 思いがけず数万字になってしまったらごめんなさい。この後まだ長いエロが控えているというのに……!

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年内いっぱい白河愁という男で楽しめたらと思っています。宜しくお願いします。


<記憶の底 ReBirth>

 続く言葉を待ちながら、テリウスの後を付いて行く。カツン……カツン……高く響く靴音がやけに耳に障る。落ち着かない。テリウスの深刻な様子に絆されてのこととはいえ、安易に足を運んでしまった……マサキは果たして自分がここに来てよかったのかと、不安になった。
 記憶のないシュウはマサキを見てどういった反応をするのだろうか。
 それを目の当たりにするのがマサキは怖かった。
 以前にも記憶を失っている彼は、その時にはマサキに全く興味も関心も持たない様子を見せている。それは彼にとってマサキ=アンドーという人間が、その程度の存在でしかないということを示していた。確かに記憶がない以上、どう反応しろという話ではあった。ましてやぽっと出の得体の知れない地上人など、自分のことで手一杯なシュウがどうすれば興味を持ったものか。
 けれども――マサキはシュウと接点の持ちようがない自らの属性を顧みた。
 地上と地底。平民と王族。魔装機計画が発動していなければ、マサキはシュウと街角で擦れ違うことすらなかったのだ。
 決して交わることのないふたつの点。生まれも、育ちも、置かれた立場も異なるふたりが因縁を結ぶこととなったのは、神が気紛れに振った運命のダイスの結果でしかない。わかっていても、やりきれない。臍を嚙むような気分になりながら、マサキはテリウスの後を行った。
 カツン……カツン……耳に障る靴音は途絶えることがない。無言のまま歩き続けること暫く。遠く正面に扉らしきものが見えてきた。あの先にシュウはいるのだろうか? マサキは緊張感で喉に溜まったいた唾を飲み込んだ。
「ねえ、マサキ。君は自分がシュウにとってどういう存在だと思う?」
 テリウスがようやく言葉を口にしたのはその瞬間だった。
「さあな……」マサキは思いがけないテリウスの問いかけに動揺した。「因縁が深い相手だとは思ってるが」
 一度ならずも二度までも、マサキの弱味に付け込むように不埒な行為に及んでみせた男。決して他人に口外出来ない記憶を共有している相手が、よもやありきたりな感情で自分に接しているとは、さしものマサキも思ってはいない。
「それだけ?」
「それだけ……って」
 間近となった扉は、固くその入り口を閉ざしている。脇に入力装置が存在しているということは、セキュリティコードを必要とする扉であるようだ。流石は化学時代の軍事施設だけはある。マサキはテリウスがその扉を開くのを待った。
「顔を合わせれば嫌味や皮肉の応酬になりがちだけど、僕にはそんな君たちがお互いに執着し合っているように見えるよ」
「そりゃあ気にはするだろ。何をしでかすかわからない危険人物だ。警戒をしておいて損はないってな」
「そういう意味じゃないんだけどね」テリウスの指が入力装置の上を滑る。「それともわかっていて惚けているのかな」
 コードを入力し終えたテリウスの向こう側で、低いモーター音を響かせながら扉が開く。白けた眩い光がぱあっと目の前に広がり、マサキの視界を塞いだ。テリウス? と、モニカの声が聞こえてくる。直後、潮が引くように光が弱まった気がした。
 視界が光に慣れたのだ。
 壁に直結している入力デバイスに、タワー型となった集積回路。扉の向こう側に広がる部屋の中には、様々な機器が並んでいた。それらが何にどう利用されるのか、魔装機以外の機械の知識に乏しいマサキにはわからなかったが、正面の壁に所狭しと並ぶモニターが施設内部を映し出している辺り、どうやらここはこの施設の管理を行う部屋であるようだ。
「連れて来たよ、サフィーネ。それに姉さん」
 その部屋の中央で立体ホログラフを眺めていたサフィーネが、モニカに続いてマサキの許へと歩んでくる。ぷん、と薫り立つ甘ったるい香り。彼女の香水の匂いが強いのはいつものことだが、今日はやけに鼻を衝く。
「待ってたわよ、ボーヤ」
 言葉とは裏腹に、歓迎しているとは云い難い口振り。刺々しさを感じさせる声のトーンに、乞われてここまで足を運んだだけのマサキは途惑いを覚えずにいられなかった。自分がここに呼ばれたのは、彼女らの総意ではなかったのだろうか? そう思ってテリウスを振り返れば、彼は特に感じていることはないらしく、普段通りの表情でその場に立っている。
「どこまで話を聞いたのかしら?」
「流行り病で熱を出して記憶を失ったってことしか聞いてねえよ」
「それだけ聞いていれば充分よ」
 ふん、と鼻を鳴らしたサフィーネは、まるで勝負を挑んできた敵を迎え撃つような表情だ。
「それと俺を呼んだことの繋がりがイマイチ理解出来ないんだがな」
「そんなの決まってますでしょう」サフィーネの隣で露骨に面白くなさそうな表情を晒しているモニカが続けた。「わたくしたちではシュウ様の記憶を取り戻せなかったのですわ」
「だからそれと俺を呼んだことにどんな関係が」
「自覚がないにも限度がありますわね、マサキ。わたくしたちと違った関係を構築しているマサキだったら、もしかしたらシュウ様の記憶を取り戻せるかも知れない。わたくしたちはそう考えたのですわ。マサキの力を借りなければならないのは癪に障りますが、シュウ様をこのままにはしておけません」
「そういうことよ」モニカの言葉を引き取ってサフィーネが続ける。「私たちとしては、シュウ様の記憶を取り戻せる可能性がありそうなことは、どんなことであれやっておきたいのよ」
 シュウを挟んで女の戦いを繰り広げているらしいサフィーネとモニカは、シュウを恋敵扱いしてみせるウエンディやリューネのようにマサキを恋敵視することはなかったが、シュウと友情とはまた違った関係を構築しているマサキに思うところがあるようだ。
 マサキが感じている居心地の悪さは、どうやらそうした背景からくるものであるらしい。どいつもこいつも――とは、要らぬ嫌疑をかけられているマサキとしては思わずにはいられなかったが、だからといって、既に考え得る手を尽くした上で自分を呼んだに違いない彼女らを見捨ててしまうのも心苦しい。
「それで俺にあいつの面倒を見ろって? それだったら顔を合わせるぐらいでいいんじゃないのか」
 出来る範囲で協力をするにせよ、それとシュウの世話をすることは同一線上に並ぶものであるのだろうか。疑問に思ったマサキが尋ねてみれば、これみよがしに溜息を吐いたサフィーネが、嫌気が滲み出る口振りで言葉を吐いた。
「私たちは警戒されてしまっているのよ」
「何でだよ……って、そうか。記憶がないからか」
「それもありますけど」サフィーネの顔をちらと盗み見たモニカが、気まずそうに言葉を継ぐ。「なくなった記憶は10歳以降のもの。つまり今のシュウ様は、精神年齢的には子どもなのです」



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