いやもうホントすみません。ほんの軽い気持ちで息抜きに始めたゲームにはまってしまったのと、昼寝を大量にしてしまったのとで、進みが遅くなっております。走ると云ったのに!
でも、面白いんですよBpB。
今週は休みが飛び石になっているので、遣り難くあるんですが、なるべく毎日更新出来るように頑張ります。このペースでこの話、いつ終わるかって思ってますけど……笑
拍手有難うございます。励みになります!
リクエストもまだまだ受け付けております。宜しくお願いします。
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<記憶の底 ReBirth>
何が彼の関心を引いたのか――マサキにはさっぱりだったが、どうやらシュウはマサキ=アンドーという人間を、自分にとって有益な情報を齎してくれる存在として認識してくれたらしかった。
もしかすると、この先一週間以上に渡って生活をともにしなければならない相手である。シュウとしてはあまり警戒を強めてもと思ったのかも知れない。いずれにせよ、警戒心を解いてくれたのは幸いだった。マサキの役目は彼の世話だけに留まらず、ボディガードにまで及んでいるのだ。ある程度の信頼度を稼いでおかなければ、いざという時の立ち回りに支障を生じさせかねない。
そういった心配をせずに済みそうなのは有難い。マサキは手にしたティーカップをテーブルに置いた。そして表情を和らげたシュウに向き直った。
「聞きたい話か。そういった話ならあいつらの方が良く知ってるんじゃないか」
「彼らは僕の仲間として行動をともにしている人たちなのでしょう。その所為もあってか、彼らの話は主観に基づいて語られているように感じられます。僕が聞きたいのは、そういった自分に都合のいい話ではありません。良いも悪いも含めてありのままの事実を知りたいのです」シュウは手にしたカップの中身に目を落とすと、物憂う表情で絞り出すように言葉を吐いた。「そうでなければ、僕は自分が犯してしまった罪を償えない。自分がどういった経験を経て変わらざるを得なくなったのか、先ずはそれを知らないことには……」
マサキはサフィーネとモニカに聞かされた話を思い出した。邪神教団に属していた事実に対して懐疑の念を抱いたらしいシュウは、それもあって彼らと距離を置いてしまったようだった。それはそれだけ9歳の彼にとって、現在の彼が歩んできた人生が信じ難いものであったことを意味している。
「だが、俺に話せることには限りがあるぞ。そもそも俺は地底世界の人間じゃない。ラ・ギアスに召喚されたのも、お前が教団の人間となってかなりの年月が経ってからだ」
「知っています」シュウが深く頷く。「だからこそあなたの情報が大事なんです、マサキ=アンドー」
陶器のように白く滑らかな肌に、深く色を湛えている紫水晶の瞳。彼が顔を上げた次の瞬間、整い過ぎたきらいのある面差しに暗く影が落ちた。それが室内を照らしている照明の光の加減であるのか、それとも現状に彼が疲弊してしまっているからこその翳りであるのか、マサキにはわからない。
「あなたは僕を殺した」
不意に耳を貫いた言葉は、思いがけずマサキの心を深く抉った。
「あなたは僕を殺した」
不意に耳を貫いた言葉は、思いがけずマサキの心を深く抉った。
自らの運命を受け入れて潔く月に沈んでいったシュウは、マサキにとっては斃さなければならない敵であったし、魔神と予言された世界に対する脅威でもあったが、同時にサーヴァ=ヴォルクルスに自意識を奪われた操り人形でもあった。
それをマサキは知らなかった。
知っていたならば、また違った手段を取っていただろう――シュウの言葉に頷いたマサキは、まじまじと彼の顔を見詰めた。良く出来た彫刻のように人間味を感じさせない顔が、何を考えているかわからない表情を浮かべてマサキを見詰めている。
「でもそれは、僕の死を彼らがそう受け止めとているからこそ出てくる表現です。魔装機神サイバスターの操者として使命を負っているあなたからすれば、また違った表現になるに違いありません。未来の僕にしてもそうです。彼にとってそれは救いであったかも知れないし、解放であったかも知れない。僕が云いたいのはそういうことですよ、マサキ」
「成程。お前が求めている話がそういった意味のものであるのなら、俺でも役には立てそうだ」
「俺でも、は余計なひと言ですね。あなたは唯一無二の立場に就いている。その視点は他の人間では持てないものです。僕はだからこそあなたを必要としています。もっと自信を持ってはくれませんか」
「そうは云われてもな」マサキはティーカップを再び取り上げた。「知らないことが多いってのも問題だろ。誰かの正義は誰かの悪意で、誰かの悪意は誰かの正義だ。万人が等しく満足する平和なんてモンはないとわかっちゃいるが、その公平さを判断する材料を持たないってのはな」
温くなった紅茶を口に含み、喉を潤す。
他に取れる手段を持ち得なかったマサキは、魔装機神の操者としてシュウの命を終わらせることを決意した。その選択が間違っていたとは思わない。あの時にはそれしか取れる手立てがなかった。戦いは選択の積み重ねだ。そうした自身の選択の重みを背負って生きて行くのが魔装機神の操者の使命でもある。だからこそ、マサキは目の前のシュウに謝罪の言葉を口にはしなかった。
全ての責任を負うのは自分だ。
それでも心が揺れる瞬間がある。いつだったか、シュウがマサキに語って聞かせてきたことがあった。正義とは独善と隣り合わせのものである。それはマサキを指しての言葉ではなかったが、マサキに正義とは何かを深く考えさせた。
「知らないからこそ、公平に判断出来ることもありますよ」
「そうかねえ。目の前の争いを場当たり的に収めていったところで、根本的な部分は解決していないと思うが」
マサキはラングランに召喚された直後の自分を振り返った。まだサイバスターに選ばれる前、ジャオームを相棒に戦いの場に赴いていたマサキは、ただただ目の前で起きるかも知れない悲劇を防ぐことばかりを考えていた。
あれはマサキの未熟さの表れだった。
マサキは他に判断材料を持たない世界で、武力とは悪である。その一念だけで行動していた。己が揮う暴力的なまでに強大な武力について考えを及ぼすことなく。自分は奢っていたのだ。自分こそが正義だという大義名分を与えられたことに。
「では知っていたとして、それをどう解決しますか」
マサキはシュウの言葉にはっとなって顔を上げた。
「あなたに与えられているのはサイバスターという力だけです。双方が武力に頼っている状態では、どれだけ画期的な解決策があったとしても、効力が発揮されることはないでしょう。先ずは争いを収めることから。あなたたちに求められているのは、様々な立場の人間たちが始まりの一歩を踏み出す為の土壌を作ることですよ」
流石は十指に及ぶ博士号を有することとなった男。才能に恵まれた人間は、幼少期からその萌芽を露わとする存在であったようだ。迷いを知らぬ様子で淀みなく言葉を継いでくるシュウに、成程な。頷きかけたマサキは、はたと我に返った。
「ちょっと待て。お前はそういう話を俺としたかったのか?」
「いいえ。ですが、こういった話をするのは嫌いではありませんので」
「子どもの頃の方が厄介な奴に思えるな。いや、今のお前も充分に厄介ではあるんだが……」
思わず口を衝いて出た率直な感想に、しまった。と、マサキは思うも、シュウが気分を害した様子はなさそうだ。むしろ喜んでいるのだろうか。目を細めて口元を緩ませている彼は、今にも膝を打ちかねない勢いでマサキの言葉に飛び付いてくる。
「それですよ、それ。そういった彼らにない評価が僕は聞きたいんです」
自分という人間を腐すような言葉を吐かれて喜ぶ人間が何処にいたものか。シュウの感性のずれた反応に、流石にマサキは顔を顰めた。
「お前、変わってるって云われないか? 云っておきながら云うのもなんだが、相当に失礼なことを云ったぞ、俺」
「可愛げのない子どもでるあることに自覚はありますよ」
どこか稚さを感じさせる笑顔。空となったティーカップを片手に立ち上がったシュウが、おかわりを尋ねてくる。
「牛乳があれば、カフェオレが飲みたくあるんだが」
「ありますよ。少し待っていてください」マサキから空のティーカップを受け取ったシュウがキッチンに立つ。
すらりと伸びた長躯は彼にとっては扱い慣れないものでもあるようだ。距離感が掴めていない動き。彼の動作にぎこちなさを感じるのは、彼が一足飛びに成長を迎えてしまった自らの身体を持て余しているからでもあるのだろう。
不思議な少年だ。マサキはその背中を眺めながら、彼と現在のシュウの違いに思いを馳せた。
そもそもマサキとって、シュウ=シラカワという男は謎に包まれた人間であるのだ。それなりに長い付き合いになりながらも、住居や連絡先ひとつ知らない。当然、プライベートをどう過ごしているかなど知る由もない。
顔を合わせるのは大半が戦場で、日常生活をともにすることなど滅多にない。シュウと個人的な話をする機会が限られているマサキは、既に一線を超えているにも関わらず、だからこそ9歳のシュウの求めに自分が応じられる筈がないと思ってしまった。
何を思ってシュウはマサキを抱いたのか。その答えをマサキが知ることは、もしかすると一生ないのかも知れない。
熱で変性してしまった脳が元に戻ることはないのだ。
の健忘が熱病による脳の不可塑的な変化を原因としているのだとしたら、9歳のシュウ――或いはクリストフ=マクソードという人間は、このままシュウ=シラカワとしての人生を歩むことを余儀なくされる。彼は現在のシュウとの間に断絶を感じている様子だ。それもその筈だ。竹を割ったような性格、9歳のシュウは迷いや怖れを知らぬ世界に生きている。
マサキは額に手を当てて、長い溜息を洩らした。どうにかして彼に記憶を戻してやらねば……そうでなければ、彼の今後の人生は相当に生き難いものとなることだろう。彼は10年以上の経験と知識を新しく獲得していかなければならないのだ。
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