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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

記憶の底 ReBirth(7)
割と重要な回です。
前回のマサキが何を考えていたかが少しだけ明かされます。

私、このペースで一週間やろうとしてたんですけど、それやっちゃうとLotta Love超えますよね。皆様的にこのシリーズに求めているのは激重感情とエロだと思っているので、なるべく早くその展開に持ち込めるように頑張り……でも例の大問題作の続編もやるんですよねえ。そっちは純粋なエロなので、なので……

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<記憶の底 ReBirth>

 けれども、どうやればシュウの記憶を蘇らせられたものか。
 マサキは途方に暮れた。シュウが置かれている状況は、マサキが以前置かれていた状況とは異なるものだ。ウィルス性の流行り病。熱での脳の変性もあれば、ウィルスが脳に入り込んだ結果の可能性もある。それと比べれば、頭を強く打ったことで記憶が飛んだマサキが記憶を取り戻すのは容易いことだったのだろう。
 時間の経過で回復する一時的な健忘。シュウがマサキを手元において経過を観察することにしたのは、そういった経緯からだった……。
「どうかしましたか、マサキ」
 余程、難しい顔をしてしまっていたようだ。マサキはかけられた声に顔を上げ、シュウからマグカップを受け取った。
 牛乳がたっぷりと入れられたカフェオレは、こちらも上質な素材を使っているようだ。口に含めばふわりと広がる牛乳の風味。ゆっくりと噛むように味わいながらマサキは言葉を継いだ。
「以前、記憶を失った時のことを思い出してたんだ。今のお前の役に立てばと思ってな……」
「ああ、僕が以前に記憶を失った時の」
「そっちじゃねえよ。俺が記憶を失った時の話だ」
「そういったことがあったのですか」シュウは微かに瞳を開いてみせた。「それは初耳です」
「なら、お前は仲間には話してなかったんだな」
 記憶を失っていたのは僅かな日々だった。突如として取り戻された記憶は、口にするのも憚られるような状況下でのことだったからこそ、マサキに振り返らせることを拒絶させていた。
 あの時のマサキは自分が何者かもわからなければ、自分が何処にいるのかもわからなかった。残っていたのは、生きていく上で最小限の日常生活を送る為の知識だけ。自分を構成する記憶の全てを失ってしまったマサキは、正体のわからない自分という存在に押し潰されそうになっていた。
 だからマサキはシュウに気を許してしまったのだ。
 繰り返し、繰り返し、重ねた口唇。シュウが与えてくれる温もりは、マサキの心を占めていた不安と孤独感を安らかな感情へと昇華してくれた。彼さえいればどんな困難も乗り越えられる。それは、マサキを呼び求めるサイバスターの声よりも確かなものだった。
 今となってみれば、彼よりも仲間の方が信用出来る存在であるのは確かなことだったし、それ以上にサイバスターやサイフィスの方が信用に足るのは間違いのないことだったが、あの時のマサキにとっては、記憶の不確かなマサキの存在を証明してくれたシュウこそが信頼を寄せられる対象だった。
 彼を世界の全てとして生きた日々。その記憶を今のマサキは欲望の捌け口に使う為にしか思い返すことがない。
 巫山戯ているのは自分の方だ。マサキは自らを嘲るしかなかった。何を考えているかわからない男の不埒な振る舞いなど、肉欲に全てを浚われてしまっているマサキが夜な夜なしている行為と比べれば、まだ良心的であるとも云える。
「僕はそれを知っていたのですか。あなたが記憶を失ったことを」
「お前が俺を助けたんだよ。戦闘で頭を強く打っちまって……意識を失っていたらしい。目を開いたらお前がそこに立っていた」
「僕は何をしにそこに?」
「さあな」マサキは頭を振った。「このラングランで偶然行き合うことが多い奴だ。何かの調査のついでだったのか、それとも追手から逃げていたのか、それともそれ以外の理由か。俺は聞いていないからわからない」
「そうですか……」何か知りたいことがあったのだろう。シュウは微かに落胆した様子をみせた。
「何か切欠はあったのですか。記憶を取り戻すのに」
 ややあって尋ねてきたシュウに、ない、とマサキは答えるに留めた。
 あの時のマサキはどうかしていたのだ。あの男の温もりを求め、それに溺れ、その更に先を求めた日々……精神科医や心理学者はしたり顔でその関連性を指摘することだろう。かつてのペッティングの記憶が性行為と結びついたことで記憶が蘇えったのだと。
 シュウとの性行為を夢想しなかったなどとは云わない。強烈な快楽の記憶はマサキの欲望を幾度も煽った。密やかな望み――シュウと性行為《セックス》がしたい。けれどもマサキはその欲を心の奥底に封じ込めることとした。そう、自分はその欲を一生叶えることなく生きていこうと。
 それがマサキなりのけじめの付け方だった。
 サーヴァ=ヴォルクルス。三柱神がひとり、破壊の神。シュウを傀儡として地上と地底に混乱を呼び寄せたものの正体を、今のマサキは当然知っている。それだけではない。シュウがその強力な支配から逃れたがっていることも、マサキは知っているのだ。
 だからマサキは片目に蓋をした。そして、シュウが背負い切る覚悟をしている数多の罪を赦すことにした。
 それ以上の赦しをシュウに与えることは、彼によって絶命させられた数多の命に背くこと。
 だからこそ、マサキは自らの記憶は自然に戻ったものだと信じているのだ。あの男との性行為が記憶の扉を開いたなどということは断じてない。あれは本当に、あの瞬間に、偶然に起こってしまったことだった。
 ふっと湧き上がってきた自意識。マサキ=アンドーとしての人生の記憶は、一瞬にしてそれまでのマサキを塗り替えた。たったそれだけだった。自身の全てをシュウに預けることを躊躇わなくなったもうひとりのマサキは、その瞬間に呆気なく消滅した。
「記憶が蘇るのなんて一瞬さ。きっと、以前のお前もそうだったんじゃないか」
 いつしか膝を眺めていた己に気付いたマサキは、そっと視線をシュウに戻した。彼はマサキの言葉を最後に黙り込んでしまっていたようだ。何の気なしに言葉をかければ、そうなのでしょうか。と、心細そうな言葉が返ってくる。
「あまりいい話じゃなかったな」マサキは苦笑いを浮かべるしかなった。
 これは未来に不安を抱えている今のシュウにしていい話ではなかったようだ。
 彼は恐らく確証が欲しかったのだ。いつかは戻るなどといった楽観論ではなく、失われた記憶が必ず戻るという保証が。それを大きく裏切るような話をしてしまった。心苦しさを感じたマサキは、今度はシュウ自身に話をリードさせることにした。
「話を変えよう。お前が聞きたい話は何だ? 俺で答えられる内容なら幾らでも答えるぞ」
 その目論見は当たったようだ。ぱあっと表情を明るくしたシュウが、ソファアから身を乗り出すようにして言葉を発してくる。
「そういえば、あなたの使い魔はどうしたのですか。僕が訊いた話では、魔装機神の操者は使い魔を持たされる筈ですが」
「ああ……」マサキは視線を宙に彷徨わせた。「テリウスが急かすもんだから、つい忘れちまってな……」
 つい。と繰り返したシュウが眉を大きく歪ませる。彼は、ええと……と、口を開きかけたものの、後に続く言葉が出てこないようだ。
 当たり前だ。マサキは盛大に渋面を作った。他のものならさておき、魔法生物とはいえ生き物である。自らの足で付いて来れるだけに留まらず、喋ることも出来る生き物をどうして忘れてしまったのか。
「使い魔、なんですよね。あなたの」
「一度は帰れるかと思ってたんだよ」
 それもこれもテリウスの所為であるのだ。シュウの世話をとなれば、準備ぐらいはさせてくれるだろうとマサキは当て込んでいたのだ。だから彼の勧めに従ってガディフォールにも素直に同乗した。それがまさか、そのままこの場に残されることになるとは。
 サイバスターもなければ、使い魔もいない。おまけに戦う為の実剣もないときている。おまけとはいえ、この状態で彼らも良くマサキにシュウのボディガードを頼もうと思えたものだ。
「そういう大事なことは先に云っていただかないと。大事な相棒《パートナー》なのでしょう」
「つうても、サイバスターもない以上、特に役に立つような奴らじゃないしな……それよりもお前の口煩い使い魔はどうしたよ。まさか俺の時みたいに正体を失ったってか」
「そのまさか、なのですよ」心底困り果てた様子でシュウが溜息を洩らす。「前回の彼は立派に飛び回っていたのですよね。そう彼らに聞きました。それが今回は正体を失ってしまっている。だから僕はこう思うんですよ、マサキ。あなたの時も使い魔が意識を失っていたというのであれば、彼らの活動力は僕たちの記憶の量に左右されるものでないかと」




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