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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

闇に抱かれし魂(後)
これでこの話自体は終わりますが、消化不良な感が否めないので、いずれ後日談を書かせていただきたく思います。(白河成分は充分に補充できたんですが、シュウマサ成分が足りないので……)

この時期の白河は程良い黒さがあっていいですね。書いてて楽しかったです。
もっと掘り下げて色々書きたくもあったんですが、それをやると中編が一本出来上がりそうだったので止めました。ちなみに今回の話はリューネに会わないルートです。

攻略本を開くまで、そんなルート分岐があったことも忘れていましたけど!笑
(私自身はリューネにもマサキにも会うルートを行ったんですよね)


<闇に抱かれし魂>

 王都より北方へ。モニカを連れ出すことに成功したシュウは、追手から逃れるべく先を急いでいた。
 血縁者と会えば記憶が戻るかも知れないと、幾許かの期待をしていたシュウだったが、世の中はそう思い通りにことが運ぶものではないようだ。繋がれることのない断片的な記憶。もどかしさは日々募るが、だからといって焦ったところで取り戻せるものでもない。
 もしかするとシュウが欲している記憶の数々は、死んだ脳細胞とともに、永遠の闇に葬り去られてしまったのかも知れなかった。
 ならば焦るような真似はすまい。シュウは目先の目的を果たすことに集中することとした。
 自身に対して恋慕の情を向けている王女との逃避行は、彼女に苦手意識を抱いているシュウに、非常な居心地の悪さを感じさせたものだったが、幸い記憶障害という大義名分がある。久しく会うことのなかった従兄との再会に、しきりと昔話をしたがるモニカの相手を、記憶障害を理由にチカに任せたシュウは追手を躱しながら、これからの計画の遂行について考えを深めることにした。

 その、矢先だった。

 ギナス山の裾野。街を挟んだ平原で、シュウは白亜の大鳳としか表現しようのない魔装機と遭遇した。おい、シュウ。てめえ! その魔装機の乗り手の自分を呼ぶ声の粗暴な響きに眉を顰めたシュウは、次の瞬間、それまでなかった筈の記憶が、当たり前に自分の中に存在しているという奇禍に遭遇した。
 ――マサキ=アンドー。
 自然と浮かび上がってきた名前。不思議とおかしいと感じることはなかった。混乱が生じることもなかった。シュウは急ぎ記憶を浚った。取り戻したいと望んでも取り戻せなかった記憶の空白部分。断片的な記憶を繋ぐ欠片《ピース》の全てがいつの間にか蘇っている。
 記憶を取り戻した瞬間にもっと劇的な変化が起こると思っていたシュウは、あまりの呆気なさに拍子抜けするような感覚を味わった。先程までの自分と今の自分の間には、確かな記憶の変化がある。だが、その変化はまるでシュウの人格が変わってしまったかのように、その意識に違和感を生じさせなかった。興味深い。シュウはそう思うも、だからといってそうした感情を表に出す訳にもいかない。
 サーヴァ=ヴォルクルスの支配から解き放たれて自由を得る。その目的を叶える為にも、シュウは数多の人間を欺き続けなければならないのだ。
「生きていやがったとはな……だが、ここで会ったが百年目! 今度こそ逃がさねえ!」
 月に死に場所を求めたシュウに死を与えてくれた人物は、思いがけない再会に驚きを感じていたようだったが、即座に意識を改めると、斃すべき敵としてシュウを認識したようだ。戦いを仕掛けようとしてくる彼と彼の仲間に、けれども相手している暇はない。直ぐそこにまで迫っているシュテドニアスの軍勢。挟み撃ちにされない内にこの場を離れなければ……シュウはマサキたちに追手を任せることとして、自身はその場を立ち去ることにした。
「――こんな所で時間を潰している暇はありませんでした。いずれまたお会いしましょう」
 マサキ、と続けそうになったシュウは、そうっとその呼び名を喉の奥に仕舞い込んだ。そして運命の奇遇に思いを馳せた。白く気高い光が自身を包み込んだ月での戦い……百花繚乱と乱れ咲く花のように、色鮮やかに月を舞ったロンドベルの人型戦闘機《ロボット》たち……あれからさして時間は経っていない筈であるのに、かなりの未来に生きているような感覚がシュウにはある。
 それはきっと、サーヴァ=ヴォルクルスの支配から、シュウが解放されつつあるからなのだろう。
 いずれまた、マサキと戦場で相見える時が来るのだろうか? 交戦を始めたマサキたちとシュテドニアスの軍勢を背後に、シュウは自身に問い掛けた。けれどもシュウのこれから先の人生に、自由を得る以外の大義は残されていない。だからだろう。マサキと戦う意味を見出せないシュウは、その未来を上手く脳裏に思い描くことが出来なかった。
「チカ、今の人物を知っていたようですが」
 ギナス山から離れること暫く。追手のないことを確認したシュウは、そこでようやくチカにマサキが誰であるかを尋ねた。
 本当に忘れちゃったんですか? 因縁深き相手であるマサキ=アンドーという少年の存在を、記憶力に優れている主人が忘却しているという事実が彼には信じ難かったのだろう。|無意識の産物《ファミリア》として、主人と緩く精神世界を繋いでいることも関係しているのかも知れない。不思議そうな様子でそう言葉を吐いた彼は、「マサキですよ。魔装機神サイバスターのマサキ=アンドー」これ以上となく簡潔に、マサキの立場と名前をシュウに告げてきた。

 ――知っていますよ。

 まるで聖書の一句のように胸に沁み込む彼の名前に、シュウは静かに視線を前に向けた。広大なラングランの大地。自然豊かなこの世界で、シュウは幾度となくマサキと対峙した。混沌の導き手と秩序の守り人。グランゾンとサイバスター。忘れるなどとんでもないことだ。彼との長い戦いの歴史を振り返ったシュウはそう思わずにいられなかった。けれども、サーヴァ=ヴォルクルスに自意識を侵されたシュウを諦めずに追い掛け続けてくれた少年の功績は、今度こそ消えることなくシュウの胸に残り続けるだろう。

 ――いずれあなたにはこの借りを返さなければなりませんね。

 その時が、いつになるかシュウにはわからない。
 けれども生き続ければその好機《チャンス》は必ず訪れるだろう。シュウは取り留めのないお喋りを続けているチカを見遣った。願いを叶えるまで、誰にも胸の内を悟られてはならない……そう、例えそれが自身の使い魔であろうとも。改めて自身にそう云い聞かせたシュウは、真実の自由を手に入れる為に、グランゾンの舵を北に切った。



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