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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

帰ってきた140字にならないSSまとめ(4)
諦めんなよ!(今更タイトルに突っ込み)
<静かなる終焉>

 世界が終わる前に何がしたい? そうマサキに尋ねられたシュウは、特には何も。蔦絡む白亜の機神を見上げて云った。
「それよりも、何故こんなになるまでサイバスターを放置していたのです」
「やることがないからさ」
 精霊界と|別離《わか》たったラ・ギアス世界は、新たなステージに突入しようとしていた。
 武器の一切を捨てる。人間が人間を人間たらしめているのは道具の存在である。ならばその道具を捨てた時、人間は何に成るのか? 精神世界の成熟に重きをおいた練金学は、その答えを|気《プラーナ》に求めた。
 |気《プラーナ》の錬成によって、武器に頼らない攻撃手段を編み出す。
 錬成を経た|気《プラーナ》は高密度の物理エネルギーへと変換され、ある時は推進力として、ある時は防御力として、またある時は攻撃力として、人間の活動を補助する新たな力となる。その為に開発されたコードがマサキたち地上人は埋め込まれている。体内で自らの|気《プラーナ》を錬成する為に必要な術式が埋め込まれたコード。DNAにて展開されるコードは、人間の果てしなき欲が詰め込まれたものでもある。
 人間からの脱却。
 感情の幅が|気《プラーナ》に影響を及ぼしているのは、地上人たちの|気《プラーナ》の質を見れば明らかだった。理性を重んじるラ・ギアス人にはない純度を誇る|気《プラーナ》。彼らは瞬く間に新たな力を高出力で使いこなすようになった。空を舞い、岩を砕き、雷を防ぎ……もしかすると、先史時代の覇者であった巨人族も似たような力で以て、一時代の繁栄を築き上げたのやも知れない。
 それは明らかに人智を超えた力の出現であった。
 だのにマサキはこう云って笑うのだ。幻魔大戦かよ、って。シュウの記憶のデータベースにはない単語に、その意味を尋ねてみれば、「いいんだよ。お前はわからなくって」と、新たなラ・ギアス世界の抑止力となった歴戦の覇者は、寂し気に笑いながら呟いてくれたものだ。
 純度に開きのある地底人と地上人の|気《プラーナ》。マサキの|気《プラーナ》の含有量は、地上人たちの中でも抜きんでていた。その質に関しては云うまでもない。ラ・ギアス世界で唯一無二の存在となった彼は気紛れに空を飛び、気紛れに草木を生やし、そして気紛れに風を起こしてみせた。早速得た新たな力を、破壊ではなく創造に使ってみせる。如何にも彼らしい振る舞いにシュウは安堵しつつも、不安を拭えなかった。
 道具を捨て、自然を創造する力を得た人間。
 それは神に成り代わる力になりはしないか。
 巨人族はその圧倒的な力でもって神に祀り上げられた。新たな力を得たラ・ギアス人は、滅びの時を迎えた後、その後の時代の覇者たちによって何に祀り上げられるのだろうか。シュウはそれが不安に感じられて仕方がない。
「だからといってサイバスターをこんな姿に――」
 そこでシュウはふと思い至って、マサキの顔をまじまじと見た。
 蔦絡むサイバスターの姿を、シュウは自然が為したことだと思い込んでいた。しかし、それは間違いではなかろうか? 目の前でサイバスターの足部に腰を落として笑っている青年は、そう、既に自然を生み出す力を得てしまっているのだ。
 そうである以上、どうしてこれが彼がしたことでないと云えたものか。
「もしかして、これはあなたが――?」
 シュウの問いにマサキは微笑むだけで何も答えなかった。彼は立ち上がると、サイバスターの脚部を手でそっと撫でてやりながら、愛おしそうにその雄々しき機体を見上げて、俺は何かを守りたかった。と、呟いた。
「自分にその力があるのであれば、それが世界なんていう大それたものでも守ってみせるってな。だから、苦しいことも多かったけれども、サイバスターと一緒に世界を駆け巡った日々は楽しかったよ」
 その目的を果たした彼は、今度は自分自身が世界平和の為の抑止力となったことをどう考えているのだろう? シュウがマサキに尋ねようとした瞬間、寂し気に表情を曇らせたマサキは、それだけだったんだ。囁くように言葉を発すると、ふわりと空へ。その身体を飛翔させていった。

kyoさんには「世界が終わる前に」で始まって、「ただそれだけだったのにね」で終わる物語を書いて欲しいです。ちょっと寂しい話だと嬉しいです。
あなたに書いて欲しい物語2:https://shindanmaker.com/828102



<愛のカタチ>

「本当に口の減らない方ですね。その口をいずれ纏めて塞いであげますよ」
「はあ? お前何を云ってるんだ。俺の口はひとつしかねえよ」
 きっかけなど些細過ぎて思い出せないぐらいだ。
 シュウ相手では実に良くあることだった。恐らくはマサキの物の言い方が引っ掛かったのだ。唐突に嫌味を口にし始めたシュウに、目には目をとその口撃を嫌味で迎え撃てば、|自尊心《プライド》の高さが退くことを良しと出来ない組み合わせだけはある。ああ云えばこう云うの応酬は、もう十分以上は続いている。
「比喩も通じないとは……あなたの頭の出来も察せたものですね、マサキ」
 我ながら学習しないと思いながらも、腹立たしさが勝った。険のある表情。整い過ぎたきらいのある顔立ちだけに凄味がある。冷ややかに自分を見下ろしているシュウの双眸を睨み返しながら、マサキは言葉を放った。
「あー、あー。どうせ俺の頭の出来は悪ぃよ! お前と比べりゃ猿以下ってな!」
「よくわかっているようで何よりです。その様子なら、名前ぐらいは書けそうですね」
「てめえ……この、シュウ。本当に人を馬鹿にするのもいい加減に」
 終わりのない戦い。先に堪忍袋の緒を切らすのはいつだってマサキの方だ。
 云いながら襟元を掴み上げて、それでも動じることのないシュウに、くっそ面白くねえ――と、マサキが拳を握り締めた瞬間だった。ホント、仲がいいよねえ。呆けきった声が背後から響いてきた。
 振り返るまでもない。大地の魔装機神の操者、ミオ=サスガはいつもこうだ。どこに目が付けばそういった言葉が口から出たものか。どう割り引いて考えても喧嘩の真っ最中にしか見えないだろうに、一風変わった感性を持つ少女の感想は、いつでもマサキの想像の斜め上をいく。
「これのどこが仲が良さそうに見えるんだよ! お前の目もこいつの頭と一緒でお飾りか!」
「あ、どうぞお構いなく。夫婦喧嘩は犬も食わないってね。今のはあたしの個人的な感想だから」
 そう云いながら豪胆にも笑ってみせるミオは、前に進む気も後ろに下がる気もないようだ。どうやらマサキとシュウの喧嘩を間近で観戦するつもりでいるらしい。呑気にもその場にしゃがみ込むと、ささ、続きをどうぞ。のほほんと言葉を発する。
 自分が見世物にされるのが耐えられなかったのだろう。ミオに気を取られているマサキの手を、不意にシュウの手が払った。はっとなってマサキが再びシュウの顔を見上げれば、ぞっとするほどの無表情が彼の顔を支配している。
 恐らく、ミオの言葉に気分を害したのだ。シュウは、マサキ、と抑揚のない声でマサキの名を呼ぶと、
「聞き捨てならない台詞が聞こえたような気がしますが、あなたの相手をすることで余計な誤解を受けるのでは本末転倒。今日はこれで失礼しますよ」
 滑らかに言葉を紡いで、後は振り返ることもなく。滑るような足さばきで艦の通路を往くシュウの背中に、二度と顔を見せるんじゃねえよ。怒り覚めやらぬマサキは捨て台詞を吐いた。
「もうオシマイ? 面白くないなあ。ここからが夫婦喧嘩の本番だと思ったのに」
「夫婦? 冗談じゃねえ。何で俺とあの野郎がそんな関係に」
「だってマサキ、シュウのお気に入りじゃない」
 ぱんぱんとスカートの裾を払いながら立ち上がったミオが、したり顔で言葉を吐く。
 ねえよ。即座にマサキはミオの言葉を打ち消していた。
 穏やかに会話が済むことなど三度に一度。残りの二度は喧嘩別れだ。絵に描いたような犬猿の仲であるというのに、どんな因果か。事あるごとに行動をともにしなければならなくなる。
 かつて敵だった男は、何故かマサキと目的を同じくすることが多い。その結果が同陣営だ。これでは喧嘩の回数も増える一方だ。顔を合わせては鳴り響くゴング。これのどこが気に入られているというのか、マサキにはさっぱり理解が出来ない。
「お気に入りよー。じゃなきゃあんな風な態度、取れないでしょ」
「お前の考えはさっぱりわからねえ。あの嫌味を見て、どう考えればそんな結論になるんだ」
 わからないの、マサキ? つま先立ちになったミオがマサキの顔を覗き込んでくる。わかるかよ。考えるのも面倒臭くなったマサキが投げやりに言葉を返せば、口元に指を当てて、ホント? と尋ね返してくる。
 シュウとの喧嘩を終えたばかりのマサキの精神状態は良くない。しかもそれはミオの登場で強制的に終わらされたものであるのだ。それでどうして深く物事を考える気になれたものか。マサキは、ああ。と、適当に頷く。
「鈍いなあ、もう。あのシュウがだよ? あれだけ言葉を乱してるの、あたしマサキ以外に見たことないんだけど」
「それだけ俺に腹を立ててるってことだろ」
「逆でしょ。それだけ気を許してるってことだって」
 思いがけない返事。虚を突かれたマサキの心に空白が生まれる。
「気を許してる? シュウが、俺に?」
「マサキにだったらそれだけ強く云っても引かれないって思ってるってコト。それが気を許してないっていうんだったら、何が気を許してるっていうの?」
 するりと入り込んでくるミオの言葉に、嘘だと思いながらも、期待が生まれてしまったのも事実。
 そう、マサキは自分に対するシュウの態度が、他人に対するそれと異なることに気付いていた。そしてだからこそ、自分が彼の特別な位置を占めているのだとも思っていた――……自らの考えを裏付けるようなミオの言葉。その場に立ち尽くすしかなくなったマサキに、あたしって優しい♪ ミオは声を上げて笑うと、くるりと背中を向けてマサキの許から去って行った。

kyoへの今日のワンドロ/ワンライお題は【お気に入り】です。
ワンドロ&ワンライお題ったー:https://shindanmaker.com/1068015



<美しい男>

 昨日の戦闘で機体に気掛かりな点を感じていたマサキは、ひと晩経っても収まらない嫌な予感に、整備状態を確認しようと格納庫を訪れた。居並ぶ機体の数々。そのひとつ、青いカラーリングも重厚ないかつさが勝る機体の前に、恐らくは夜をここで明かしたのだろう。シュウと整備士たちの姿がある。
 その中に馴染みの整備士たちの姿を見付けたマサキは、癪に障ると思いながらも、地底世界の技術の粋を集めて造られた機体は機密の塊だ。あまり多くの整備士たちにサイバスターの整備を任せる訳にもいかず、仕方なしにシュウとその一団の許へと近付いて行った。
「てめえと朝から顔を合わせなきゃならないなんて、なんで悲劇だよ」
 出し抜けのマサキの台詞は無礼にも限度があったものだったが、シュウはシュウでマサキのそうした態度や物言いに慣れを感じつつあるようだ。そこまで私と顔を合わせるのが嫌ですか。さらりとそう言葉を返してくると、手元のレポートに目を落とした。
「陰気臭い顔を拝まされるこっちの身にもなれよ。気が沈んで仕方がねえ」
「私の顔をそう表現するのはあなたぐらいですよ、マサキ。流石の表現力ですね」
 ふふ、と小さく声を上げて笑ったシュウが、どなたか、彼の機体の整備を――と、周りにいる整備士たちに声をかけた。
 何人かの手が上がる。
 挙手した彼らにマサキの機体の整備を手伝うように云い含めたシュウは、そこでマサキとの話に一区切りを付けるつもりでいるらしい。今回の調整ですがと、レポートから視線を外すことなく、自身を取り巻いている整備士たちに向けて言葉を紡ぎ始めた。
「ちょっと待てよ」
 マサキは馴染みの兵士たちを側においたまま、シュウに尋ね返した。
「さっきの言葉はどういう意味だよ」
「美的感覚が狂ってると云っているのです」
 流石は自信家な男だけはある。自信たっぷりに云ってのけたシュウは、どうやら自身の頭脳だけではなく、容姿にも自信を持っているようだ。
 しかし、現に成果を出している頭脳と異なり、容姿というものの評価は見る側の主観が大いに含まれるものでもある。万人が認める美というものを選出するのは難しい。芸術作品を見ればいい。それらに対する評価はいつだって賛否両論だ。
 だからこそ、マサキにはシュウの自信が理解出来なかった。
 はあ。と、気勢を削がれたマサキはまじまじとシュウの顔を見詰めた。気難しさが先に立つ表情。何でそんなにいつも難しい顔をしてるんだよ。いつだったか、マサキがあまりにも打ち解けないシュウの表情に尋ねてみたことがある。
 それに対して、あなたと違って考えることが山積みですからね。と、シュウはまるでマサキが何も考えずに生きているかのような答えを返してきたものだった。
「私の顔に、何か」
「俺の美的感覚の問題、ねえ」
 紫水晶の如き光を湛える双眸。切れ長の眦に、柳眉がかかる。すっと筋の通った鼻は高く上を向き、その下には形の良い桜色の口唇。白磁のような滑らかな肌とは対照的だ。
 成程、いざこうして改めて見てみれば、確かに整った顔立ちをしている。マサキは更にシュウの顔を窺った。もう少し表情に柔らかさがあれば、いっぱしの美丈夫で通るのは間違いなさそうだ。
「お前、もう少し笑えばいいんじゃねえの?」
「陰気臭い顔を拝むのに飽きましたか」
「そうじゃなくて、折角綺麗な顔をしてるのに勿体ないだろ。いっつも厳めしい顔付きをしててさ……」
 周りにいる整備士の何人かが深く頷いたようにみえた。
 どうやら考えることは誰も彼も同じらしい。ならば、シュウの面差しが、その自信に見合うほどの美を感じさせないのは、やはり彼自身が日常的にしている表情の所為であるのだろう。
「笑おうと思えば笑えますが――」
 マサキの言葉に、シュウは面倒臭さを滲ませながら言葉を返してきた。それでも、傾聴に値する意見だと思ったのだろうか。次の瞬間、シュウはふと表情を和らげてみせると、驚く程に穏やかな微笑みを浮かべてみせた。
「…………っ!」
 想像していたものよりも十倍は麗しい笑顔。そこいらの美人など霞んでしまうほどに印象的だ。ひとかどの芸術作品を思わせる美しさ。まるで絵画から飛び出してきたようなシュウの笑みを間近にして、マサキの鼓動が反射的に高鳴る。
 息を呑む気配。整備士たちもマサキ同様に、日頃気難しい顔ばかりをみせている男の穏やかな笑みに、天上の美を見出したのだろう。今にも溜息を吐きそうな勢いで見惚れている。
「わかりましたか、マサキ。こういうことが面倒なのですよ」
 その中にあって、シュウはひとり。わかりきった結末だとでも云いたげに、うんざりとした調子で言葉を吐くと、即座に表情を元に戻して、何事もなかったかのように。機体の調整を始めるべく、未だ魂が抜けたままの整備士たちに指示を飛ばし始めた。

kyoさんは【ああ、なんて悲劇だ】をお題にして、140字以内でSSを書いてください。
140字SSお題ったー:https://shindanmaker.com/428246



<アイスクリン>

 懐かしい味がした。
 ミオが作って持ってきたアイスクリームは、マサキが子どもの頃に母親が作ってくれたアイスクリームによく似ていた。ざらついた触感。甘くはあったものの、コクに物足りなさを感じる。何とも表現し難い素朴な味わいのアイスクリームは、けれども子どもだったマサキにとって、どんな駄菓子にも敵わないデザートだった。
 それをミオに話して聞かせれば、そりゃあそうよ。彼女は訳知り顔で云う。
「あたしたちが子どもの頃、流行ったもん。どこのお母さんも手作りアイスって。あたし、それが羨ましかったから、おばあちゃんに頼んで作ってもらったのよ」
 卵と牛乳と砂糖とバニラエッセンス。特別な材料は何もない。全部を一緒くたに混ぜて冷凍し、一時間ごとに取り出しては、固まりかけたアイスクリーム液に空気を含ませるべく掻き混ぜてゆく。半日がかりのアイスクリーム作り。空気が入れば入っただけ触感が市販のアイスクリームに近付くとあって、マサキの母親などはよくマサキにも掻き混ぜるのを手伝わせたものだった。
 その瞬間にふわりと漂ってくるバニラエッセンスの甘い香り! 記憶の中の匂いと触感、そして味を、ほぼそのまま再現しているミオのアイスクリームは、マサキの記憶を強烈に刺激した。泣きたくなるような味だな。不意に思い出される家族の思い出。ぽつりとマサキが口にすれば、本当にね。ミオもまたぽつりと言葉を吐いた。
「でも不思議よね。同じ材料を同じ分量で、しかも同じ手順で作ってる筈なのに、おばあちゃんのアイスクリームとは味が違うのよ。あっちの方がもっと甘かった記憶があるんだけど……」
「子どもの頃ってそんなに甘い物を食わせてもらえなかったしなあ。その所為じゃないか?」
 大きなタッパに山と作られたアイスクリームを、そうしてミオとふたりで食べきったマサキは、冷えて痺れる舌を紅茶で温めながら、ミオとふたり。互いに滅多なことでは口にしない子どもの頃の思い出話に花を咲かせた。
 魔装機神を駆って西へ東へ。今日を生き抜くことに精一杯なマサキには、後ろを振り返る暇などそうない。
「偶にはこんな話をするのもいいもんだな」
 マサキはミオを見て笑った。
 父がいて母がいたあの頃。温かに胸を占める思い出を、明日を生きる糧として振り返る。昨日までの自分と今日までの自分に大きな差はなかったけれども、優しい気持ちで過去を振り返れるようになったぐらいには、マサキにとって子どもの頃の記憶は昔のものとなったのだ。
 ラ・ギアスに召喚された頃のささくれだった感情を持て余していたマサキ=アンドーはもういない。
 サイバスターとともに戦い続けた自信がマサキを変えた。二度と同じ悲劇を繰り返さない。胸に刻んだ誓いは今でも尚、マサキの胸に刻み込まれている。それを明日への活力として、また一から始めよう。マサキは懐かしいを味が残る口の中を、舌でそっと救い上げた。

kyoさんには「懐かしい味がした」で始まり、「また一から始めよう」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば6ツイート(840字)以内でお願いします。
あなたに書いて欲しい物語:https://shindanmaker.com/801664



<下手な嘘>

「隠してねえよな」
「やっぱり? 隠す気ないよね?」
 さざ波のように押し寄せてくるざわめきの中に、耳に馴染んだ声を聞き取ったマサキは、その声の主たちを探してラウンジ内に視線を彷徨わせた。心なしか、人々の視線が自分に注がれている気がする。その中の幾つかに憐憫の情を見て取ったマサキは、それで現在進行形で続いている会話の内容が察せたような気がした。
「大体、何をこそこそする必要があるかって、考えてみりゃ知れたもんだわな」
「だよね、だよね、そうだよね! わっかるわー、その考え。そうなのよ! しかもあれは絶対に隠す気ないのよ! むしろ見付けてくれまであるのよ!」
 決して善良な付き合いとはいかない二人組。豪胆に戦場で敵を薙ぎ払っていたかと思えば、日常の些細なシーンで愚にも付かない悪戯を仕掛けてみせる。お調子者で直感的。ラウンジの中央に陣取っている甲児とミオは、マサキがその場に姿を現しているのも気付かぬ様子で、互いの言葉に頷き合っている。
「だよな! 毎度、々々、これみよがしに姿を消しやがってさー。そのくせ、口を開きゃ違うってよ。何を今更隠す必要があるかね?」
「それはやっぱりアレじゃないの? 秘密の恋ほど燃え上がるっていうか」
「はあ、水臭ぇ、々々。水臭ぇったらありゃしねえ。昨日今日知り合った他人でもなし。せめて俺には本当のことを云ってくれてもいいじゃねえかよなあ」
「いやあ、でもマサキは結構、猜疑心強いタイプでしょ」
 一向に核心に迫らない会話。
 けれども何について話をしているのか理解出来てしまう会話。
 マサキは溜息混じりに二人の会話の行く末を見守った。甲児とミオの話はいつもそうだ。同じ論理展開に、同じ結論。だからといって先んじて会話に割り込んでみせようものなら、すわ獲物の登場とばかりに二人がかりで飛び付いてきたものだ。その上やることと云えば事実の確認ではなく、揚げ足取り。これではマサキも慎重になろうというもの。
「それでもせめて俺ぐらいは信用していて欲しかったワケ。わかるかよ。このやるせない気持ち」
「悪友ってそういうものじゃない? 都合のいい時だけつるんで、いざ窮地に立たされると知らんぷり」
 しかも火のない所にダイナマイトを投げ込む二人組は、その結果が梁も残さぬ大爆発となろうとも、高みの見物を決め込むばかりで話にならない。後始末をするどころか、そもそもの責任を取る気がないのであるから、無責任ここに極まれりだ。
「世知辛いねえ。ああ、世知辛い。こちとら親友だって思ってるっていうのによぉ」
「でもさあ、マサキって仲間に対してもそんな感じよ? 相手のプライバシーに無遠慮に立ち入らない代わりに、自分のプライバシーにも立ち入らせないっていうか? 大体マサキって、シュウを除けばプレシアぐらいじゃないの? 信用してるのって」
 その瞬間、マサキは反射的にミオのうなじを掴み上げていた。
 きゃあ。とミオが鼻にかかった悲鳴を上げる。
 誰しもが聞き分けられるぐらいにあからさまな作り声。それはその程度の女らしさでも、マサキを懐柔出来るとミオが思っているからだ。人を馬鹿にするにも限度がある。マサキは腕に力を込めた。そして、彼女のつま先が宙に浮きそうになる勢いでその身体を持ち上げたマサキは、誰が誰を信用してるって? ミオの鼻先で睨みをきかせながら言葉を吐いた。
「やだやだ! マサキってば! かよわい女の子に何をするのよ!」
「かよわい女の子は見え透いた嘘はつかねえんだよ! 何ださっきの声は! 普段のお前からは絶対に出ない場所から声が出てるじゃねえか!」
「あっら、バレてた?」
 バレバレだ。マサキが答えれば、降ろしてよー。ミオが手足をばたつかせる。重い。そうでなくとも片手でミオの体重を支えている状態だ。更なる荷重に耐え切れなくなったマサキは、重てえ。と呟きつつ手を離した。
「女の子に対して重たいとか失礼じゃない?」
「だったら隠れたところに付いてる肉を落とせよ」
「ひっどーい! これでもあたし痩せてる方」
「酷いのはどっちだ! 何ださっきの台詞は!」
 マサキは思い切りミオの頭を叩いた。
「お前らホントに仲いいねえ」
 それまで黙ってマサキとミオの遣り取りを眺めていた甲児が、自分もまた騒動の発生源であるという自覚はないようだ。呑気にも手にしているパック飲料を啜りながら口を挟んでくる。冗談じゃねえ。マサキは顔を顰めた。
 寄れば触れば誰と誰が仲がいいだのデキてるだの……しかもそこにこの男はあろうことなかれ。マサキの仇敵まで組み込んでくれたものだ。これで穏やかに言葉を返せという方に無理がある。
「はあ? これのどこが仲いいって?」
 ミオから顔を背けつつ、二人が陣取っていた席に着けば、いやあ、あのじゃじゃ馬との付き合いに比べりゃよっぽど……と、甲児は当の本人が耳にしようものなら、ひと悶着が避けられない台詞を口にした。
「やめてくれよ、甲ちゃん。俺もまだ命は惜しいんだ」
「女の愛情表現って何であんなに痛いかね」
 身震いしながらマサキが呟けば、甲児も思うところがあったようで、しみじみと口にしてみせる。
 見た目のしとやかさとは裏腹に気が強いさやかは、リューネと張るぐらいに嫉妬深い。女だろうが男だろうが一線を越えた親しさを構築した相手ともなれば、途端に手厳しくなる女性陣。服で隠れた位置に引っ掻き傷が絶えない甲児の気苦労を知っているマサキとしては、彼の境遇に同情せずにいられなかった。
「ああいう愛情表現が許されるのは小学生までだろ」
「だよなあ。見ろよ、この腕の傷。最新作だぜ」
「うわ。痛そう……って、そういう話をしてたんだっけ?」
 どうやら我に返ったようだ。不思議そうに顔を覗き込んでくるミオの言葉に、マサキもはたと我に返る。
「そうじゃねえんだよ……お前ら、俺のいない場所で誤解を招くような話を大声でするんじゃねえよ!」
「誤解っていうか、事実じゃないの?」頬に指を当てて宙を見上げながら、ミオ。
「これが誤解だって云うなら、お前の真実は何処だよって話だわな」手の甲に頬を乗せて頭を傾けながら、甲児。
 どうあってもマサキとシュウの間に何かあることにしたいらしい。
 馬鹿々々しい。マサキは交互に二人の顔を見遣った。揺るがない表情。結論ありきで議論を吹っかけてくる二人の相手をまともにしようものなら、痛い目を見るのが目に見えている。それでも、悲しいかな。マサキは声を荒らげた。
「真実なんざ目の前にしかねえだろ! お前らの目はお飾りか!」
「だってマサキ、いつもシュウとこれみよがしに二人で姿を消すじゃない」
「そうそう。で、追いかけるともう姿が見えなくてよ」
「そういう時に二人で何処にしけこんでるのかって話よね」
「お前らの目が飾りモンでしかねえことは良くわかった」 
 いっそ相手にしなければいいのだ。マサキの脳裏にいつかシュウに云われた言葉が蘇る。要は甲児もミオもマサキを揶揄うことで、コミュニケーションを取っているつもりなのだ。だから相手にしなければ、いずれ二人とも諦める――と。
 だからといって、不名誉な噂を否定せずにいられるほどにマサキは神経が図太くは出来ていない。
 そもそもマサキは腹芸が苦手なのだ。特に恋愛事ともなれば、その傾向が顕著になる。
 このまま甲児とミオの二人組を放置しておいて、シュウとの関係を既成事実化されようものなら、仲間は元より、艦の乗組員たちにもどう扱われたものか。マサキが甲児とミオの思い込みを否定せざるを得ない立場に追い込まれているのは、その結果、腹芸が出来ない自分がどんな襤褸を出すかわかったものではないからだ。
 ――そんな恥ずかしいところ、見せられるかよ。
 とどのつまり、マサキはシュウが好きなのだ。
 隠れて秘密の話をするのに、これみよがしに連れ立って姿を消してみせてしまうぐらいに。
 さて、どうするかね。どうかすると赤く染まりそうになる頬を懸命の思いで押さえながら、そして今日もまた。マサキは二人の餌食になるのを承知で、シュウとの恋愛関係に否定を重ねていった。

kyoへの今日の漢字テーマ【秘密[ひみつ]/①隠して人に知らせないこと。また、その事柄②人に知られないようにこっそりすること】
漢字で創作ったー:https://shindanmaker.com/731136


以上です。


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