忍者ブログ

あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

個人授業(中)
欲望しかないDEATH!
<個人授業>

 冷えた温もりは休むことなくマサキの乳首を弄んだ。散漫になった集中力が頭の働きを鈍らせていく。それでも三時間勉強を叩き込まれただけはある。シュウの授業の内容を振り返ること暫く、解き方を思い出したマサキはノートにペンを走らせた。
 (2x-3)^2-2x+3=12.
 2x-3=A.
 A^2-A-12=0.
 そこで手が止まった。やればいいことはわかっているのに、どう計算すればいいのかがわからない。シュウはそれだけでマサキが何に躓いたのか理解したようだ。2x-3=Aですよ、マサキ。抓んだ乳首を指の腹で擦り上げてきながら囁きかけてくる。
 (A+3)(A-4)=0.
 (2x-3+3)(2x-3-4)=0.
 x(2x-7)=0.
 x=0,7/2
 良く出来ました。答えを書ききったマサキの耳元にシュウの声が降ってくる。同時に止む愛撫にマサキはほうっと安堵の息を吐いた。痺れるような愛撫の感触は未だ乳首に残ってはいたものの、欲望よりも卒業への執念が勝った。その事実にマサキは自らのことながらも安心せずにはいられなかった。
 理解の及ばない男の理解に苦しむ行為は、いつだってマサキを縛り付けた。快感というわかり易い餌。溺れてしまっては駄目なのだと頭ではわかっているのに、身体は逃れようとしない。教室で、化学準備室で、理科課の管理室で、或いはシュウの車の中、また或いは|月匣《フォートレス》の奥で、幾度、繰り返しマサキはシュウの掌中に堕ちていったことだろう。いつしかシュウとの性行為を当然の日常として受け入れてしまうまでになってしまった身体は、彼と出会ってから過ぎた半年という年月が、それだけ濃密な出来事の積み重ねであったことを意味している。
 シュウが何を考えて自分にばかりそうした扱いを強いてくるのか、マサキにはわからなかったが、それは必ずしも恋人などといった甘ったるい関係性の構築を意識してのことではないことぐらいは理解していた。彼はただしつこくも自らに食い下がってきたマサキ=アンドーという生意気なウィザードの心を挫けさせたかっただけなのだ。それが思いのほかしぶとかったものだから、だったら少しぐらいはまともに相手をしてやってもいい――と、僅かながらの仏心を出しただけに他ならない。
 期待をすればしただけ、裏切られることに鈍感になってゆく。
 勿論、マサキとてウィザードとしての日常に身を置いている人間だ。裏切りや|別離《わか》れ、憎み合いには慣れてしまっている。だが、彼らとの間にあったのは精神的な繋がりのみ。マサキが肉体的にもここまで距離を近くした相手はシュウが初めてだった。それが自身にどういった感情の変化を齎しているのか、わからないといって逃げてしまえるほどマサキは幼くない。
 いつかこの男は、再び敵に回る日が来る。
 マサキがシュウと仮初めの日常生活を送りながらも、本心では彼に心を許しきっていないのは、彼との成り立ちにそうした背景があったからこそだ。エミュレイターとウィザード、双方の理を使いこなしてみせる男は、今でさえマサキの味方ではない。だからこそ、マサキはシュウとの性行為という餌に釣り上げられることなく、問題を解ききれた自分自身に安堵をしたのだ。
 卒業への執念は、マサキが思い描いた未来への執念でもある。
 いつかシュウが敵に戻る日が訪れようとも、マサキは彼と敵対することを躊躇わないだろう。積み重ねた情よりも、自身の信念。ウィザードとして世界の平和に従事しているからこその|自尊心《プライド》は、マサキに感情に流されるまま立場を裏切ることを認めさせなかったのだ。
「では、最後の問題を出すことにしましょう。いまから問題文を読み上げます。必要な事柄はノートにメモを取っても結構です」
 シュウの言葉にマサキは頷いた。
 彼はどうやらまだ何かを企んでいるらしく、マサキの背中に覆い被さるようにして問題集を開いていたけれども、その程度のことで揺らいでしまう信念ではない。自信を深めたマサキはペンを握る手に力を込めた。これはひとときの安らぎ。ウィザードとして時に過酷な任務に従事しなければならないマサキが、束の間得た平穏な日常のひとコマでしかないのだ。
「ある銀行に預金すると、一年でx%の利息が付きます。そのままにしておくと、一年後には利息も含めた全ての預金に対してx%の利息が付きます。この銀行にA君が8000円預けた時、二年後の預金が8405円になっていたとします。この場合に求められるxの値は? ただし、x>0とします」
 問題の要点を書き写したマサキは、早速問題を解こうとした。
 先程の一件で、心構えは済んでいる。(8000×(1+x/100))=8000+80xが一年目の預金。マサキはノートにペンを走らせた。解けますか? 揶揄うように語りかけてくるシュウに、馬鹿にすんなよ。マサキは更にペンを走らせた。
 するりと滑り落ちてくる手が、マサキの股間を撫でた。びくん、とマサキの身体が跳ねる。とうに硬さを増している男性器は、その愛撫を待っているかのように天を仰いでいた。ゆっくりとその形を確かめるように布越しにマサキの男性器を摩ってくるシュウの手。それはマサキが問題を解くより先に、ズボンの内側へと入り込んできた。
「邪魔、すんなよ……シュウ……ッ」
「云ったでしょう。このぐらいの刺激、受験のプレッシャーに比べれば大したものではないとね。ほら、きちんと手を動かしなさい、マサキ。解けたらご褒美ですよ」
 下着から引き出された男性器を、シュウの冷えた手が緩く扱いている。あっ。マサキは声を上げて、テーブルに付いている手に顔を伏せた。解きなさい。意地が悪いにも限度がある。マサキは息を荒げながら、ノートに纏めた問題文の要点を読み直した。
 (8000×(1+x/100))=8000+80xが一年目の預金であるのならば、二年目の利息はここに一年分の利率を掛けたものとなる。即ち、(8000+80x)×(x/100)=80x+(4/5)x^2.ここから、二年後の預金は、8000+80x+80x+(4/5)x^2になると導き出される。
 8000+80x+80x+(4/5)x^2=8405.
 (4/5)x^2+160x=80405-8000.
 (4/5)x^2+160x-405=0.
 4x^2+800x-2025=0.
 (2x-5)(2x+405)=0.
 x=2/5,-(405/2).
 x>0ということは、x=2/5.
 ご名答。満足しきったシュウの言葉に、マサキは再びほうっと安堵の息を吐いた。
 これで今日のカリキュラムも全て終了だ。空ききった腹に、欲望を煽られた身体。どちらを先に処理すればいいかわからないまで、持て余してしまっている欲。慣れない勉強に頭を使った疲労感も相当だ。先ずは休みたい。マサキはシュウの手から解放された身体をぐったりと椅子に凭れさせた。
 そのマサキの顔をシュウが仰がせてくる。


.
PR

コメント