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<Connected Frenemy.>
お題
書き出し「接触不良だ」
終わり「結局どういうことなのか、聞けないままだった」
(リクエスト)
※ ※ ※
お題
書き出し「接触不良だ」
終わり「結局どういうことなのか、聞けないままだった」
(リクエスト)
※ ※ ※
接触不良だ。
サイバスターのコントロールパネルのキーの一部が、どう叩いてみても反応しないらしいことにマサキが気付いたのは、ラングランとサイツェットの間にある州境付近でのこと。
他国との政治的な駆け引きの舞台裏はいざ知らず、軍事的な意味では小康状態を保っている現状を、セニアなりに気にしていたのだろう。出番のない正魔装機を遊ばせるつもりのない彼女は、ふらりと情報局を訪ねたマサキに、「暇だったら、サイツエット州軍の様子でも見に行ってよ」と、気軽に頼んで寄越したものだ。
どうやら大掛かりな監査が入るらしく、その立ち合いを務めて欲しいとのこと。そんな作業に魔装機神の出番が果たしてあるのかとマサキは思ったりもしたものだが、セニア曰く、過去に他の州軍で装備品を組織的に横流ししていた兵らが、監査による横流しの発覚とその後の処分を恐れるがあまりに蜂起してしまった事件があったのだそうだ。
「本末転倒じゃねえか」
「追い詰められると何をするかわからないのが、人間だしねえ」
確率的には起こりえないぐらいの数値であろうとも、絶対に起こらないとは断じきれない。悩みはしたものの、世が太平であるからといって、その現状に甘えて無為に日々を過ごし続けるのは、操者の本分からは外れている気がする。柄でもなくそんなことを思ってしまったマサキは、「まあ、いいぜ。向こうには話を付けておいてくれよな」と、セニアの依頼を受けることにした――のだが。
左方への旋回を行う操作が上手く行かない。
その事実にマサキが気付いたのは、サイツエット州を目前にして、方向転換を迫られた瞬間だった。何度かキーを押し込んでみるも、全く反応がない。センサーの感度が落ちたのだろうか。先ず思い付いたトラブルの原因に、マサキはサイバスターをその場に停止させると、コントロールパネルのカバーを外した。
サイバスターに積んであるメンテナンスキットを使って、ひと通りセンサーのクリーニングを済ませ、再度。キーが反応するか試してみる。少しの間。やはり反応のないキー。その現実に、マサキは大袈裟にも溜息を洩らさずにいられなかった。
「前回の調整はいつだったんだニャ?」
「半年ぐらい前じゃニャいの?」
恐らくは接触不良。と、なれば、分解整備が必要になる。「面倒臭え」マサキは愚痴りながら、再びカバーを外した。そして束となっている配線を取り出すと、その奥にあるユニットに光を当てる。そのカバーに欠損が生じているのをマサキは見逃さなかった。
思い当たる節はあった。
二か月ほど前に、識別コードのない無認可の魔装機が稼働しているのを発見した。制圧には成功したものの、その際の戦闘でサイバスターの頭部にダメージを負った。とはいえ、軽微なダメージ。自己修復機能《サバイバビリティ》でどうにかなるだろうとマサキは思ったものだったし、実際、モニターに表示されるステータス的にもどうにかなってしまっている状態だった。
僅かな欠損。確かにこの破損状況では、モニタリングが効かなかったのも頷ける……発見が遅れてしまったことを、サイバスターに申し訳なく感じながら、マサキは作業を続けることにした。
「餅は餅屋ニャんじゃニャいか」
「マサキの整備は雑ニャのよ」
「とは云っても、この程度だしな……」
シロやクロが口にした通り、このまま引き返して、整備施設にサイバスターを持ち込んでもよかったが、たかだかコントロールパネルの一部の接触不良で、多忙な練金学士たるウエンディに時間を割かせるのも気が引ける。それに小さなユニットのカバーの欠損だ。そのぐらいのダメージなら、今直ぐにサイバスター本体にまで影響が出ることもないだろう。
ユニットカバーは後で新品を発注することにして、マサキは取り敢えずの応急処置に取り掛かる。先ずはユニットカバーの取り外しだ。ユニットカバーを嵌め込んでいる特殊ネジを、対応するドライバを使って外す。
「大丈夫ニャのかしら」
「不安しかニャいんだニャ」
「このぐらいはいつもやってるだろ。お前ら、主人を馬鹿にし過ぎじゃねえか」
「それにしてもニャのよ。ニャにも外で応急処置を始めニャくても」
「コントロールが効かないんだから、仕方がねえだろ」
そこまで言葉を吐いたところで、マサキは顔を上げた。突如、反応を示し始めた通信モニター。誰かがマサキとのコンタクトを求めている。何もこんな時にと思いながらも、王都からそう遠くない位置だ。流しの魔装機か、セニアからの連絡を受けたサイツエット州軍のいずれかだろうと思いながら、マサキは通信回線を開いた。
「何だよ、てめえか……」
代り映えのしない取り澄ました表情が、モニターの向こう側に映っている。今日も今日とて陰気臭い顔をしていやがる。そう口に出そうになるのを抑えながら、マサキは彼に先んじて言葉を吐いた。
「悪いな、今は手一杯だ。お前の相手をしてやる暇は」
「暫く様子を窺っていたのですが、動く気配がなかったのでね。何かトラブルが起きましたか、マサキ」
餅は餅屋だニャ! マサキの足元でシロが声を上げた。確かにシュウであれば、このぐらいのトラブルの修理は朝飯前であることだろう。けれども。借りを作りたくない相手に対して、呼び込むような台詞を吐くのは、如何に自らの使い魔であろうとも頂けない。余計なことを――と、マサキはその首根っこを引っ掴んだものの、既にシュウには機体トラブルと見当を付けられてしまっている。
「どうやら本当にトラブルなようですね、マサキ。あなたが外に出ていないということは、操縦席で手が足りる範囲内のトラブルなのでしょう。とはいえ、計器類やプログラムのトラブルにあなたが対応出来る筈もなし。ということは、コントロールパネル辺りに異常が起こりましたか」
何もかもを口にする前から、この推察力。姿を見ずして、していることを云い当てられて喜ぶ人間はそうはいない。マサキは声を上げそうになるのをぐっと堪えて、反射的にモニターの前。仁王立ちになると、涼しい顔でこちらの様子を窺っているシュウに云った。
「お前、それ止めろって云ってるだろ。やられる方の身にもなれよ!」
「そうは云われてもね。このぐらいは簡単に推測出来ることですよ。しかも、あなたのその反応で当たっていることまでわかってしまう。少し待っていて下さい、マサキ。私がやりましょう。その方があなたの時間も節約出来るでしょう」
「まあ、いいけどよ……州軍に行かなきゃいけない用事がある。やるなら手早くしてくれよ」
「私を誰だと思っているのです。あなたがやるよりは余程早い」
任務への行きがけの道だ。早く直せるに越したことはない。マサキは不承不承、シュウの申し出に承服しかけてはっとなった。任せるに足る腕を持っているのは確かだが、些か人間性に問題がある男。彼は時々、親切を押し付けては、それを貸しと勘定してみせるのだ。
「借りにするのはナシだぜ」
「このぐらいの作業を貸しにするほど、私は困窮してはいませんよ」
それから間もなく。
サイバスターの操縦席に乗り込んで来たシュウは、大口を叩いてみせるだけはある。マサキとは比べ物にならないスピードでユニットカバーを取り外してみせると、少しの作業で原因を特定したようだ。その指先に特殊ネジの一本を抓みながら、マサキを振り返った。
「カバーが破損した際に外れたネジですよ」
「これがどうしたって?」
「ユニット内部に入り込んだのですよ、このネジが。そして内部のチップに傷を付けた。振動の度にユニット内部を暴れ回ったのでしょうね。症状が出るまでに時間がかかったのは、だからです」
「接触不良じゃ済まなかったってことか」
「私はこのチップの替えは持っていませんし、そうである以上、ここでやれることはこれが限界です。州軍に行くのは諦めて、素直にウエンディを頼っては如何です」
そう云うと、シュウはマサキの手に特殊ネジを握らせた。
「まあ、操縦自体が出来なくなった訳じゃないしな……悪化する前にウエンディを頼っておくか……」
「何か起きてしまってからでは遅い。そうすることを勧めますよ」
シュウはそう云ったきり、マサキの手に重ねた手をどける気配もなく。凝《じ》っと自らの手の甲に視線を落としたまま黙り込んだ姿に、マサキは何かあるのかとその顔を覗き込む。
そのマサキの不躾な視線で我に返ったようだ。シュウはそうっとマサキの手から自らの手を離すと、何かを深く憂いているような表情でこう尋ねてきた。
「こうしてあなたと偶然に顔を合わせるのは、何度目でしょうね」
「さあな。数え切れる数じゃなくなったのは確かだ。それがどうかしたか」
そのマサキの答えを、シュウは訊いているのかいないのか。
――神は絶対にサイコロを振らない。
そうとだけ呟くと、何事もなかった様子で、「牽引が必要なら、グランゾンで出来ますよ。どうします」と、口にした。
――神は絶対にサイコロを振らない。
そうとだけ呟くと、何事もなかった様子で、「牽引が必要なら、グランゾンで出来ますよ。どうします」と、口にした。
「いらないだろ。左への旋回が出来ないだけだしな。それより、お前。さっきの」
「では、王都近くまで護衛をしましょう。操縦が心ともないサイバスターでは、安全が確保出来ないでしょう。このまま別れてあなたの身に何かあったら、流石に私も寝覚めが悪い」
理解が及ばなかった言葉の意味をマサキは尋ねようとしたものの、その言葉に被せるようにシュウが言葉を吐いてくる。「何だよ、今日は随分と優しいじゃねえか……」マサキは意外な男の一面に途惑いを感じながらも、厚意は厚意とそれを受けることにした。
来た道を戻るように、ラングラン王都へ。神は絶対にサイコロを振らない。決して短くはない道のりを、グランゾンに先導されがら戻ったマサキは、気にかかったその言葉の意味を知りたいと望みながらも、中々それを口にする機会に恵まれずに――。
結局どういうことなのか、聞けないままだった。
※ ※ ※
<密やかな愁苦>
@kyoさんには「言葉が見つからなかった」で始まり、「僕は途方に暮れるしかなかった」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば3ツイート(420字)以内でお願いします。
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<密やかな愁苦>
@kyoさんには「言葉が見つからなかった」で始まり、「僕は途方に暮れるしかなかった」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば3ツイート(420字)以内でお願いします。
言葉が見つからなかった。
これまで当然のものとして受け入れていた筈の事実を、何故今更に自分は認め難く感じているのか。思いがけず感じてしまったいたたまれなさに、次の瞬間。マサキは咄嗟に建物の影へと身を潜ませてしまっていた。
自分は何をしているのだろう。自らの行動に疑問を感じながらも、足を止めて、暫く。マサキは身動きもままならない緊張感に晒されながら、彼らが目の前を通り過ぎ去るのを待っていた。
鼓動はまるで銅鑼のようだ。胸を乱暴に叩いては、ただ立っているだけのことさえ難く感じさせる……顔を合わせるのが嫌なら、このままこの場を立ち去ればいいだけのこと。そう思いもしたものの、だのに鉛のように重い足は、マサキが場所を変えることを許してはくれないのだ。
王都から少し離れた郊外の街。気分転換を求めて足を運んだマサキは、何を目的にするでもなくそぞろ歩いていた大通りで、人いきれの中に見知った顔を認めた。遠目にしても目に入る長躯は、人混みの中にあっても頭一つは抜け出ていた。その表情は長く伸びた前髪に隠れて見えなかったものの、きっと彼のこと。今日も今日とて、鼻持ちならない取り澄ました表情をしているに違いない。
またかよ――。繰り返される偶然の邂逅に、マサキ自身も思うところはあったものの、きっと行動範囲が被ってしまっているだけなのだ。そう思い直して、さてどうするか。このまま真っ直ぐに進めば、そう時間が経たない内に、彼とまともに顔を合わせることになる。かつてのような蟠りはなかったものの、挨拶だけで済むほどの間柄でもない。だからといって、共通の話題がある訳でもないのだから、マサキがそれ以上前に進むべきか悩んでしまったのも無理なきこと。
かといって、ここで踵を返すのも癪に障った。結局、前に足を進めるしかないのだと、マサキは諦めにも似た境地で、一歩、二歩。なるべく彼の顔を視界に収めないようにと、店先に視線を向けつつ歩もうとして、それでも無視しきれない何かに突き動かされるように顔を戻したその瞬間に。
目に飛び込んできた彼の表情に、言葉を失った。
穏やかな笑みだった。彼はその顔立ちもあってか、日頃の表情には険があるように感じられるものが多かったものだが、それを一切感じさせないどころか、別人かと見紛うまでに柔らかい。そんな表情も出来るのだと、初めて目にした彼の表情にマサキの胸は騒ぎ立った。決して短くはない付き合いでありながら、自分には知らない彼の表情がある。その現実は、マサキを衝動的に行動させるのに、充分に効果を発揮した。
どうやら目の前の何かを見守っているらしい。彼の温かな眼差しの先にあるものを見たいと思ってしまったマサキは、僅かに身体を置く位置をずらして、人波の奥へと視線を通した。
そして、それを見た。
寄れば騒ぎ立てるだけだと思っていた二人組。サフィーネとモニカ。決して仲良くとは行きそうにない二人は、こちらもマサキが初めて目にするかのような気安い表情で、恐らくは女同士のこと。そうした共通の話題に花を咲かせながら、店先の商品を覗いて見て回っているようだ。
そう、だからこそマサキは、その瞬間に言葉を失い、冷静さを欠いた行動に出てしまったのだ。
当たり前だ。
彼らが行動を共にするようになってから、どれだけの年月が過ぎただろう。そう自分に云い聞かせてみても、失われた落ち着きは取り戻せそうにない。マサキは建物の影に身を潜めたまま、何故自分がこんなに苦しいのか、その理由に思い至れずに。尤もらしい言葉が浮かんでこない自分の感情にもどかしさを感じながらも、それでもその場に留まり続けるしかない。
やがて、数メートル先の大通りを通り過ぎてゆく三人を横目に大きく息を吐いたマサキは、それでも動かない自らの足に――、ただ、途方に暮れるしかなかった。
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<風の抱擁>
@kyoさんには「優しい彼女は夢を見る」で始まり、「そう思い知らされた」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば3ツイート(420字)以内でお願いします。
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<風の抱擁>
@kyoさんには「優しい彼女は夢を見る」で始まり、「そう思い知らされた」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば3ツイート(420字)以内でお願いします。
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優しい彼女は夢を見る。
数多の魂が眠る世界で、精神の揺り篭に揺られながら。
水面のように揺らぎながら瞳に世界を映していた。
水面のように揺らぎながら瞳に世界を映していた。
滅多に下位次元に顕現しない彼女は、けれども自らが精神を分け与えている機体と、それを手足のように操ってみせる操縦者には興味を持っていた。マサキ=アンドー。彼女からすれば年若いどころか、赤子よりも幼く稚い存在は、どうしてだろう。常に平穏を保っている彼女の心を擽ったものだ。
そろそろ少年が活動を本格的にしようとしている時刻。今日も今日とて仲間に囲まれた賑やかな生活を送っている少年は、やがていつものようにひとり。風の魔装機神を駆ってラングランの大地へと駆け出してゆく。
ちっぽけな人間の瞬く間に過ぎる生の営み。彼女にとってはそうした認識に過ぎない世界を、こうして偶に覗き見るようになったのは、彼女の中に生まれた少年に対するささやかな好奇心の所為であった。自らが宿る万物に恵みを与える以外にすることのない彼女にとって、日々とは無為に過ぎてゆくも同然のものである。だからなのかも知れない。彼女はまるで日課のように、少年の生活をその瞳に映し続けた。
人間にとっての平和というものは、長い歴史の中では仮初めに過ぎぬほど長くは続かぬもの。精霊たる彼女はそれを知りながら、敢えて下位次元の生き物たる人間に手を貸すことを選んだ。まるで変化の起こらぬ自らの日常に、波風が立つことを期待しているかのように。
――今日は何処に行くの?
届かぬ言葉を少年に囁きかける。
こうして何度も彼女は少年に語りかけ続けた。何処に行くの? 何をするの? 何を考えているの? 今あなたが抱いている感情は何? 時にその感情が少年に伝わることもあったけれども、それは極稀に起こる程度の奇跡としか呼びようのない共鳴《ポゼッション》の時に限られた。それでも、風の魔装機神を通じて伝わってくる少年の感情のイメージに身を委ねながら、その目が映している世界を広く視界に捉えて、彼女は今日も虚空に向かって語りかけ続けた。
――あなたの周りはいつも賑やかね、マサキ。
きっと自分は少年の豊かな感情の流れが羨ましいのだ。
その瞳に長く彼らが生きる世界を映し続けた彼女は、繰り返される歴史を、変えられぬ流れとして受け入れることしか出来なくなってしまっていた。何が起ころうとも心が動くことはない。そう思い込んでいた彼女の心の琴線に触れた人間の感情。そう、それは変わらない世界を、もしかしたら変えられるのかも知れないと、彼女に考え直させかけるまでに強固な意志だった。
絶望を希望に変えてでも前に進み続ける強さ。
少年の中に眠っているその力が、彼女の目を覚まさせようとしているのだと、彼女自身は既に気付きかけていたからこそ、自らにやがて訪れるだろうその日を心待ちにするかの如く、こうして少年の日常を覗き見てしまったものだ。そんな彼女の執心ぶりを、他の精霊たちがどう感じているか。彼女は知ろうとも思わなかったけれども、きっと快くは感じていないだろう。そう彼女自身は思っている。
平原を抜けて丘陵地帯へと。風とともに疾りながら辿り着いた少年は、もしかすると道に迷っていると思ったのかも知れない。そこで風の魔装機神を停めると、操縦席の中。腕を組んで宙を仰ぐ。少しもせずに閉ざされた瞼に、彼女は少年が迷っているのではなく、休みを得るつもりなのだと気付いた。
それから、人間世界の時間で一時間ほどが経過しただろうか。
ゆっくりと瞼を開いた少年が、けたたましく呼び出し音を鳴り響かせている通信機に手を伸ばす。
遠く彼方より迫り来る青い機影に果たして気付いているのだろうか。少年の目には捉えられていないのかも知れない。けれどもその通信の相手はきっと青い機影を操っている青年なのだろう。その現実に想いを馳せた瞬間、彼女の口元には笑みが零れ出たものだ。
少年の渋い表情が物語る因縁の深い相手。かつて彼女を戦う為のパートナーとして求めた青年は、今は別次元の世界で新たなパートナーを得て、自由気ままに世界を駆け巡っている。その自由は楽しい? そう彼女は哀しい過去を背負っている青年に語りかけるも、それこそが素養の差でもあるのだろう。その声が届くことは決してないままに。
――人間というのは不思議な生き物よね。
どれだけ反発的な態度を見せても、青年の存在を拒むことをしない少年。いつもそうだ。憎み続けた過去を乗り越えて、赦すことを覚えた少年は、青年にだけは寛容であろうとしているように映る。
何故かは彼女にはわからない。知りたいと思う気持ちもあれど、少年のイメージの揺らぎはそれを阻んだものだ。
――手を携えて生きていく運命。そうとしか例えられない出会いもあるものだわ。
暫く通信機に向かい合っていた少年は、やがて仕方がないとばかりに頭を掻きながら、風の魔装機神を降りる決心をしたようだった。間もなく操縦席から姿を消した少年に、今日はこのぐらいかしらと彼女は世界から瞳を逸らすことにした。
生きることにひたむきに、希望には貪欲に。己の心がままに進んでみせる少年は、何故か青年に対しては素直に向き合えない様子だ。その癖、適度な距離感を保ちながら、その最大の理解者たろうとしている。
少年と青年。彼女にとってはどちらも幼く稚い存在ではあったけれども、人間世界では少年の方がはるかに年若かったものだのに。
――その心の豊かさと広さが私を捉えて離さないのだ。
幻想的な世界。自らが漂う世界に意識を戻した彼女は、垣間見た少年の日常に、今日もまたそう思い知らされたのだ。
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