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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

Twitterワンライまとめ(2)
Q.このシリーズは何ですか?
A.140字に挫折した@kyoさんが、今度は一時間できちんとしたSSを書けるようになるのを目指すシリーズです。(別名:電車の中で読めるシュウマサ乱造シリーズ)

出来るか出来ないかは別として、チャレンジすることに意味がある。
では、本文へどうぞ!
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<チキンレース>

 絶対に離さねえ。
 徐々に近付いて来るいけ好かない男の顔を直視しながら、マサキはプリッツを咥えていた。
 その逆側を咥えているのは仇敵たるあの男。シュウ=シラカワ。近頃は仇敵というよりは腐れ縁と呼んだ方が相応しい付き合いになりつつはあったものの、心の底から信用出来ない相手という意味では、いつか倒さねばならなくなる相手として認識せざるを得ない男だ。
 彼は偶々顔を合わせた酒の席で、口論となったマサキに、何を思ったかポッキーゲームで決着を付けようと提案してきた。
 酔っている最中の人間の理性や自制心などたかが知れている。しかも彼特有の上から目線の挑発付きとあっては、どれだけマサキがこの男をいけ好かないと感じていようとも――否。いけ好かないと感じているからこそ、マサキは売り言葉に買い言葉と彼の提案を呑んでしまったのだ。
 もしかすると彼もマサキに劣らず酔っているのやも知れない。素面では決して口にしないだろう提案を臆面なくしてみせた男の表情は、微塵たりとのその予兆を伝えてはいなかったものの、これまで座をともにした酒の席でも乱れた姿を見せてこなかった男のことだ。飲んでいる酒の強さからして、マサキ以上に酔っている可能性もある。
 両端から食べ進められたプリッツの長さはそろそろ半分になろうとしていた。
 マサキはちらとその男の顔を覗き見た。いついかなる時でも冷静さを崩すことのない男は、こういった巫山戯たゲームに興じている最中であってもその|金科玉条《セオリー》を崩すつもりはないようだ。
 それが増々マサキのささくれだった神経を煽った。
 日頃、自身がマサキに嫌われていると公言して憚らない男は、それが余程気に入らないのか、マサキの振る舞いに落ち度を見出すなり嫌味や皮肉を聞かせてきた。その都度、黙らされるマサキとしては堪ったものではない。今更、馴れ合えるような付き合いでもないだろうに、男は何をマサキに求めているのか……恐らくはこのゲームもそうした男の不条理な欲の発散であるのだ。そう、男はマサキが先に音を上げると思っているからこそ、わざわざ羞恥に塗れたゲームを提案してきたに違いない。
 マサキは少しずつ噛み砕いていたプリッツを、一気に倍ほど食べ進めた。そして、男の口唇まであと数センチとなったプリッツの残りに、いい加減これで根を上げてくれるだろうと思いきや――。

 残ったプリッツを全て口の中に収めた男の口唇が、マサキの口唇に触れた。

 目を瞠ったマサキに構わず口唇を塞いだ男は、そのままマサキの口内に舌を差し入れてくる。アルコール臭の漂う口付けは、負けを認めたくない男の意地でもあるのだろう。絶対に退くかよ。マサキは緩く舌を探ってくる男の舌を飲み込んだ。
 けれども退くことのない口唇。執拗に絡んでくる舌に、次第に息が上がる。お、前……マサキは男の肩を掴んで押し退けた。いい加減負けを認めろよ。瞬間、巌のように動くことのなかった表情が和らぐ。
「あなたの負けですよ、マサキ」
 言葉の端から滲み出す満足感。そして立ち上がった男は周囲の視線をものともせず、その場から立ち去ってゆく。

@kyoへの今日のワンドロ/ワンライお題は【酔いのせいにして】です。
ワンワンお題ったー(https://shindanmaker.com/1068015



<知恵の実>

 ピィピィと甲高く、鳥たちが囀る声が頭上から降ってくる。露を含んだ草花を踏みしだきながら進む昼なお薄暗い森の中。程良く繁った木々の隙間から差し込む黄金色の光が、シュウがこれから往く道を照らし出していた。
 さして広くもないこの森にシュウが足を踏み入れようと思ったのは、通りがかりに思い出された記憶の所為だった。
 二ヶ月ほど前、遺跡を求めて入り込んだシュウを迎え出た一本の巨木。人の手の入らない森に生る果実というものは得てして酸味が強いものだったが、その巨木に|生《な》っていた果実は事情が異なった。まるで良く出来た砂糖菓子を食べているかのような甘さ。その美味しさは動物たちも認めるところらしい。シュウがひとつ果実を齧り終えるまでに、彼らは何度も巨木の前に姿を現しては果実を手に入れて去って行った。
 あの果実は年中|生《な》っているものなのだろうか?
 それは滅多ことでは日常的な事柄に興味を喚起されないシュウにしては、珍しくも純粋な好奇心の発露だった。地上世界の果樹と異なり、地底世界の果樹には、一年を通して実をつけ続けるものも多い。これまでシュウの目に入ることのなかった果実の性質がどちらに属するものであるのか。それを知ったところでその知識は決してシュウが有している数多の学術的な知識の足しとなることはなかったが、知ることで日常生活が豊かになる|類《たぐい》の知識のひとつではあった。
 日々施設に篭って研究を続けるのが生き甲斐のシュウであっても、気晴らしを求めて外の世界に足を運ぶことはあるのだ。その気紛れな散策の目的のひとつとするのに相応しい果実。疲弊した脳に与える栄養にこれ以上の果実があるだろうか? その誘惑にシュウは勝てなかった。だからこそ、まるで花の蜜に吸い寄せられる蜜蜂のようだ――と思いながらも、シュウは森の中へと再び足を踏み入れて行ったのだ。
 旧約聖書に記された知恵の実とは、もしかするとああいった果実であったのやも知れない。
 あらゆる生物が求めずにいられない味を持つ果実は味を知ったが最後。他の何を差し置いてでも求めずにいられなくなる。あの巨木に寄り集まった動物たちは、あの果実の味を覚えてしまったからこそ、人間たるシュウに警戒心を抱くことをしなくなってしまった。これが堕落でなければ何であろうか? そこには捕食する、されるといった関係は存在しない。彼らは互いの存在を認識していないかのように一目散に果実を手に取った。そして脇目もふらずにそれを貪り食った。
 その光景はある種の楽園でもあり、ある種の地獄でもある。そう、娯楽の少ない動物にとって、食というものは心を狂わせる知恵の実足り得るのだ。
 幸いにして、人間たるシュウはそれ以上のグルメを知ってしまっている。恐らく、舌の肥えた生き物である人間にとってのあの果実は、ちょっとした幸運に恵まれた程度の食材でしかないのだろう。それでも、シュウが巨木の元へ向かわずにいられなかったのは、調味料や香辛料で過度に味を付けられた料理の数々に飽きを感じていたからに他ならない。
 たった一度の堕落がこんなにもシュウの心を駆り立てているのは、あるがままでも甘い自然の恵みたる果実が、その柔らかい味でシュウの肥えた舌を癒してくれたからでもあるのだろう。
 時に巨木に向かうと思しき動物たちと並んで道を往きながら、シュウは先を急いだ。草露を含んだ衣装の裾が、そろそろ重みを感じさせるようになってきていた。確か、この辺り――と、シュウが思った矢先、行き先を薄く塞いでいた木々が開けた。
 太陽の陽射しが強く感じられる空間の中央で、巨木の根元に寄り集う動物たち。地面に落ちた果実を貪り食う彼らの傍らに、見慣れたアイスブルーのジャケットを羽織った青年が立っている。
 どうやら青年はシュウが声をかけるより先に、シュウの存在に気付いたようだ。マサキ=アンドー。魔装機神操者の彼は、それまで足元にて果実を貪っている二匹の使い魔に落としていた視線をシュウに向けると、嫌な偶然もあったもんだな――と嫌気を隠さない表情で言葉を吐いた。
「あなたこそ。どういった用事でこんな森の奥にまで?」
「聞くまでもねえだろ。迷ったんだよ」
 一体、いつになれば人並みの方向感覚を身に付けられたものか。マサキに限っては良くある話に、シュウは溜息を洩らさずにいられなかった。ナビゲーターシステムがあろうともお構いなし。使い魔もろとも道に迷ってみせる彼は、その所為で要らぬ厄介事に首を突っ込む羽目になりがちだ。
「何処に向かうつもりでいたのです」
「確かこの辺りに川があったと思ったんだけどな……」
「川はもっと西ですよ」
「西ねえ……西ってこっちだったっけ?」
 と、北を指差してみせるマサキにシュウが物を云わずにいれば、それで答えを知ったようだ。
「まあ、いいか。今となっちゃこの森から出られるかの方が大事だ」
 はあ。と、大仰に溜息を吐いた主人に、二匹の使い魔が耳聡く顔を上げる。道案内してもらえばいいのニャ! 至極当然と口にした二匹の使い魔は、自分たちの力で主人の受難を解決する気は最早ないのだろう。楽観の度合いが窺える表情でそう云い切ると、次いでシュウを見上げて、「貴様の使い魔をボロ雑巾にされたくニャきゃ、おいらたちの云うことを聞くのニャ」と、強気にも云い切ってみせた。
「流石はあなたの使い魔。主人に似て口の悪い」
「煩えな。ところでお前、こんな所に何をしに来たんだよ」
「この果実を食べに来たのですよ」
「へえ。お前でもそんなことを考えるんだな」
 シュウは巨木の枝にたわわに実っている果実をもいだ。そして、食べてみますか――と、蜜を滲ませている果実をマサキに手渡した。どうやら彼は二匹の使い魔が果実を貪るのをただ見ていただけだったようだ。素直にシュウから果実を受け取ったマサキは、しげしげとその姿を眺めながら、
「食えるんだろうな」
「今更そんなことを口にするなど、あなたの使い魔に対して失礼ですよ」
「動物ってのはある意味何でも食うだろ」
 云って、くんと鼻を鳴らして匂いを嗅ぐ。鼻を衝いた匂いに少なくとも腐ってはいないと判断したようだ。次の瞬間、彼は意を決した様子でオレンジ色の皮ごと果実を噛むと、目を瞠って驚きに満ちた声を上げた。
「何だ、これ。果物らしい味がしねえ。テュッティが作るケーキみたいな味がしやがる」
 続けてもうひと口と果実を噛んだマサキの手からその果実を取り上げたシュウは、弾力性のある赤い果肉を覗かせている断面に口を付けた。甘い。良く出来た砂糖菓子のような上品な甘さは健在だったが、二ヶ月前に口にした時よりは舌が慣れたからだろう。そこまでの感動を覚えることはない。
 シュウは齧った果実をマサキの手に戻してやりながら、クック……と嗤った。
 所詮、人間の舌などこの程度のものであるのだ。調味料と香辛料に慣れた舌は、思い通りの味を付ける贅沢を知ってしまっていたからこそ、新たな味にもさして時間をかけずに順応してしまう。
 シュウは自身が果実に群がる動物たちのようにならなかったことに内心安堵しつつも、ここに辿り着くまでの間に膨らみ続けた欲望が色褪せてしまったことに失望せずにいられなかった。そしてだからこそ、続けてこう疑問を抱いだ。では、果たして自分は何を口にすれば、この巨木周りにいる動物たちのように、無心になれるまでの満足を得られるのだろう?
「……あなたには感謝をしなければなりませんね、マサキ」
「何だよ、突然」
「私にとっての知恵の実とは、必ずしも果実の形をしていないとわかったからですよ」
「はあ? 意味がわからねえことを云うんじゃねえよ」
 そして、シュウに齧られた果実に口を付けたマサキに、微かな満足感を得たシュウは、いつか自身にとっての知恵の実に辿り着けることを願いながら、「ところで森から出る道案内は要らないのですか?」その初手ともなる言葉を吐いた。



<休みの日に>

 久しぶりの休日だった。ようやくの帰還。長くかかった任務から戻ったマサキは、朝も遅くまでベッドの中で惰眠を貪った後に、先ずは首尾の報告と情報局に向かった。
「ご無沙汰しております、マサキ様。東部での任務はいかがでしたでしょうか」
「それならもう聞いてるんじゃないのか? 万事丸く収まったって」
「お帰りなさいませ、マサキ様。ご帰還をお待ちしておりました」
「お前らが待ってるのは、俺じゃなくサイバスターの帰還なんじゃないか?」
 顔馴染みの情報局員たちと軽く挨拶を交わしながら執務室に入り、今やすっかり情報局を掌握しきっているセニアに報告を済ませる。ラングラン東部の民族紛争の調停といったナイーブな問題を、魔装機神の操者であるマサキが無血で解決したことにセニアは満足したようだ。暫くゆっくりするといいわ。彼女はそうマサキを労うと、次いで今日のスケジュールを尋ねて寄越した。
「今日はこれから何か用事でもあるの?」
「長く家を空けちまったしな。家の掃除や食料の買い出しを済ませないとな。今のままじゃ寝るのが精一杯だ……って、まさかお前、次の任務とか云ったりしねえよな。あれだけ根気の要る任務をやり遂げた後なんだし」
「ちゃんとゆっくりしなさいって云ったじゃないの。もし暇だったら書類の片付けを手伝って欲しかったのよ。でも流石に今日はね。あなたも忙しそうだし止めておくわ」
「俺を扱き使うことしか考えてねえな、お前は」
「頼りにしてると云って頂戴」
 その台詞に、雑用係としてな。そう答えたマサキは、長居は無用と執務室を後にした。
 身体が落ち着いた明日以降ならまだしも、今日ばかりは。マサキは無残な状態の自らの家を思い起こした。腐った食材が占める冷蔵庫。埃の積もった部屋に、黴が目立ち始めたバスルーム。布団は干して出て来たが、家の掃除はまだだった。
 ――兎に角今日中に掃除を済ませなければ……。
 その前に先ずは買い出しと情報局を出たマサキは王都の大通りに向かった。
「今日もいい天気ニャのね」
「やっぱりここが一番落ち着くんだニャ」
 今日のラングランも快晴だ。抜けるような青空の下、国家の繁栄を謳うように往来に人が溢れ出ている。その隙間を縫うようにして、店が軒を連ねる通りに入ったマサキは、足元にじゃれつく二匹の使い魔とともに食料の調達を済ませると、遅めの朝食を済ますべく、目に付いたレストランに足を踏み入れた。
「おや、マサキ」
 空いている席に着こうと歩を進めるマサキに通りすがりにかけられた声。聞き間違えようのない響きで耳に入り込んできたテノールボイスにマサキは足を止めて、声のしたテーブルを見下ろした。
 姿は違って見えど、声を聞けばそれとわかる。シュウ=シラカワ。大人しい書生といったいでたちでテーブルに着いている男は、どうやら魔法で|形《なり》を変えて城下に何某かの活動に励んでいるようだ。それに今更目くじらを立てるマサキではなかったものの、結果的に厄介事に巻き込まれることも多々ある以上、手放しで受け入れられる事態でもない。下手な変装だな。だからこそ嫌気を隠さずにマサキが云えば、その態度が可笑しく感じられたのだろう。シュウはクックと嗤うと、マサキに同席するよう勧めてきた。
「何で朝からてめえと顔を突き合わせて食事をしねえといけねえんだよ」
「東部の民族紛争をあなたがどう調停したのか、話を伺いたかったのですよ」
「情報局の情報管理能力には決定的な穴があるな」マサキは渋面を作った。
「昨日の今日でてめえに伝わってていい情報じゃねえ」
「他に情報を流すような真似はしていませんよ」
「当たり前だ」マサキは仕方なしにシュウの向かいに腰を下ろした。「そんなことをしやがってたら、てめえに新たな罪状を熨斗付けてくれてやる」
「情のこわい人だ」
 テーブルの上に広げていた書物を片付けてメニューを差し出してくるシュウに、何が知りたいんだよとメニューを受けとりながらマサキは尋ねた。既に巨大な|情報網《ネットワーク》を構築している男のことだ。当たり障りのない情報を求めているのではないだろう。
「背後関係を聞かせてはいただけませんか」
 案の定、クリティカルな機密を求めてくるシュウに、マサキは増々顔を渋らせた。
「お前、厚かましいにも限度があるだろ。ラングランの国防に関わる機密だぞ」
「魔装機神の操者であるあなたにとってこの程度の情報など、個人の裁量で捌けるものでしょう」
「なんつー自信だよ、お前。俺がお前を信用してるとでも思ってやがるのか」
 それに答えることなく微笑んでみせた男の涼し気な表情に、厄介事の予感を感じ取ったマサキは、まだ家の掃除も済ませてねえってのに――と、荒れた家に想いを馳せた。そして溜息をひとつ洩らすと、改めてシュウに向き直ってから、
「見返りはあるんだろうな?」
「勿論。手土産のひとつも用意せずに情報を求める程、私は愚かではありませんよ」
「なら、いい」
 マサキはシュウにメモを要求すると、そこに今回の任務で知り得た情報の断片を書き付けて行った。そして代わりに彼から得た情報を脳に刻み付ける。政治に明るくないマサキであっても重要度の知れる情報は、後程セニアの耳に入れる必要があるだろう。
「満足いただけましたか」
 いつからか当たり前のように行われるようになった情報交換。それが役に立たなかったことは一度もない。
「今回の休暇も長くはなさそうだ」
 まだ注文の済んでいないメニューを片手にマサキがそう呟けば、あなたにはそうした生き方が良く似合う。シュウは窓から差し込む蒼天の陽射しに目を細めながら、まるでそれがマサキの生き様であるかのように云ってみせた。

本日のお題は「休みの日の午前中は」です。
セルフワンドロワンライ(https://shindanmaker.com/1053129


以上です。


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