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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

科学室の災厄(3)

「……つまり、元々の原因は彼女が実験に必要ない薬品を準備室から持ち出した事にあるのですね」
 溶けた椅子と全裸の男子生徒を目の前に悠々と事情聴取を行なったシュウは、冷ややかな目線でミオを一瞥して、
「彼女への処分は後程考えるとして、彼をこのままにしておく訳にはいきませんね」
 暫し思案するとマサキを見た。
「マサキ」
「な、なんだよ」
「聞けば中身が危険物である事を知りながら無理に試験管を奪おうとしたあなたにも責任の一端はある」
「う……それは……悪かった」
 反論出来ずにマサキは口篭る。
 溶けた椅子を見ておきながら、慎重さと冷静さを欠いた行動に出たのは自分なのだ。それはシュウの言う通りで納得出来る。もう少し上手く立ち回れば、ここまで被害は大きくならなかったかも知れないのだから。
 だが続くシュウの言葉にマサキは顔を顰めた。
「丁度背格好も同じようですし、あなたの制服を彼にあげなさい」
「は?」
 確かに道理でいけば男子生徒の制服を弁償するのはマサキとミオだ。だが買ってこい、ではなくあげろと言われるとマサキも異議を唱えたくなるものだ。それでは自分一人が損をするのである。
「ちょっと待て、俺はどうするんだよ」
「あなたに制服を弁償しろと言っても無理でしょう。かといって授業を中断する訳にもいきません」
 懐具合を見透かした発言にマサキが異論を挟める筈もなく黙り込む。授業を中断するというのは自分が制服を購入してくるという意味なのだろう。ほぼ二十四時間営業の絶対無敵の購買部には、シャープペンシルから制服、果ては武器防具までありとあらゆる品物が取り揃えられている。金さえ出せば核ミサイルですら売ると購買部の主が豪語するだけあって、購買部で買えなかった品物があったという話は聞かない。
 しかし制服を渡すのはともかく、そうなると問題になるのはマサキの格好だ。
「それはいいとして、俺が裸でこの後過ごす訳にもいかないだろ」
「ジャージか体操服は持ってないのですか」
「昨日体育だったから持って帰ったばっか」
「ではこれを――取り敢えず着なさい。昼休みになったら制服の予備がないか探してきましょう」
 脱いだ白衣をマサキに渡し、シュウは化学準備室に行くように促がす。裸の男子学生と連れ立ってマサキが化学準備室に入ると背後からざわめく教室にシュウの良く通る低い声が聞こえてきた。
「さあ、実験を再開しましょう。レポートが終わらない人は今日の宿題にします」
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