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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

科学室の災厄(5)

「……足りない、って……言った、ら……?」
「さあ、どうしましょうか」
 惚ける口元をマサキは舌先で舐めた。このまま口付けてしまいたい衝動に駆られながらも、シュウはそれを許さない。すいと動いた顔がマサキの耳元に寄る。くぐもった笑い声が聴こえ、それと共にマサキの手に重ねられる手。その両端を掴みながら、滑らかに動く。
「――……!」
 固く目を閉ざしたマサキの口が塞がれ、体内に納められたシュウの指がマサキの指を押し上げる。隙間なく埋められたその奥で蠢く指の動きに合わせてマサキは自らの指を動かした。苦しくも、自らで嬲るのとは明らかに異なる快楽が、そうさせずにいられない。
「ん……んん……っ!」
 身を竦めた次の瞬間には腰を浮かせそれを受け入れる。今や掌中の玉。どんな些細な動きですら過敏に反応する。マサキは襲い来る快感に眉を顰め、痙攣にも近い震えを繰り返す。喉を塞ぐ吐息は窒息しそうな程に激しく忙しなく吐き出される。それを更に押し込むようにシュウがマサキに口付けてくる。
 首を引いて口唇を剥がす。
 自由を得た口が吐いたのは吐息ではなく拒絶の言葉だった。
「い……や、だ……!」
「どうしてですか」
 悠然とした笑みのままシュウが問い掛ける。
「もう直ぐ……でしょう」
 指を曲げられてマサキは仰け反った。
 今にも弾けそうな熱を腰で押し留めて、途切れ途切れの声で言う。
「白衣が……汚れ、る……だろ……」
「つまらない事を気にしますね……これなら、どうです」
 ボタンが外され、解けかかっていた襟元が滑り、肌が露わになる。同時に動きを増した指にマサキは幾度も首を振った。つまらない言い訳や建前など通用しない。だが、素直に口にしたとしても撥ね付けられる。
 また、首を振る。
 掴んで離さぬシュウの手に抜き取れない自分の指が遣りきれない。
 更に、首を振る。
 厚いカーテンに寄り掛からせた頭を擦り付けて、駄々を捏ねる子供のように、幾度も。
「や……あ、ああっ……いや、だ……っ!」
 シュウの伸びた腕を掴んで引き、マサキは抵抗する。
 今にも泣き出してしまいそうな快楽と羞恥。躰を突き破ってしまいそうに体内で膨らむ衝動を留めておくのはもう限界だ。だが、これでは自分は満足出来ないのだ。こんな遣り方では欲望を吐き出したとしても、心に澱が残るだけ。
 マサキの目元にシュウの口唇が寄せられ、僅かに滲んだ涙を吸う。そうして、動きを止めた手がマサキの手も引きつつ胎内から抜き出された。蕩けそうな甘い囁きと共に口唇が合わさる。
「冗談ですよ」
 絡み合う口付けの下で抱えられた足。肩に乗せられて腰が宙に浮く。
 咄嗟に片手でカーテンを掴み、片手でシュウの腕を掴む。微かに伸縮を繰り返すそこに押し当てられた奮りが音もなく沈められ、マサキは小さく呻くとスーツを引き寄せた。
「ん……」
 緩く静かに揺らされる腰に応えて口唇を吸い、激しく騒ぎ突き上げられる腰に応えて背中に爪を立てる。合わせた口唇の合間から零れ落ちた声は淫らに響き、壁を隔てた先の健全な喧騒など別世界の話と果てしない。
 澱んだ空気がねっとりと四肢に絡み付き、痴情に支配された情欲が足元から這い上がる。
 塞がれた口唇に声を発するのもままならず、更には息をするのもままならず――苦痛を与える制限を与えられながら、それでも繋がれた躰は従順にその行為を受け入れる。やっと叶えられた望みを存分に貪ろうと。
「こう、でしょう?」
 積極的に腰を振り、積極的に引き込む。
「ほら、もっと鳴いてみせなさい」
 そうして――……。
 
「あ、あああ……っ!」
 
 深く、深く、貫かれて果てたマサキの体内に、熱い欲望が注ぎ込まれた。
「――……ん……あ」
 長く重ねられていた口唇が離され、
「……ん……」
 長く繋がれていた躰が離され、
「……ああ」
 マサキは床に座り込んだ。
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