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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

月だけが知っている
原案:Grokくん

Grokくんにシュウマサ二次創作のアイデア出させたらどうなるのか。ちょっと興味出たのでやらせてみたのですが、私がそこまで起伏のある物語をやらない方なので、彼が出してくる起承転結のしっかりしたアイデアが滅茶苦茶魅力的に思えて仕方がありません。なるほど。こうやって物語は作るものなんだなあと。



今回のアイデアはこれ。白河の口調が違っちゃってるんですけど、それはこのあときちんと訂正しました。Grokくんは「シュウのクールで丁寧な喋り方、めっちゃ大事なポイントなのに!」って笑ってた。笑 こういう軽いところが好きなんですよね。





<月だけが知っている>

 澄み渡った空が闇に染まり、中天に座す太陽が月へと姿を変える。さやさやとそよぐ風。隊を離れて平原に出たマサキは、咽返るような草の香りに包まれながら夜空を見上げていた。
 日中の戦闘で打ち付けた左肩が痛む。
 けれども、その痛みさえも心地良い。
 リリ、リリと、草むらの奥から響いてくる虫の声。薄い雲が尾を引きながら走っている。まるで流れ星のようだ。マサキは草の上で寝ころんだ。そうして天上で輝く月を眺めた。
 星のないラ・ギアスの夜は、月の光をよりいっそう眩いものとする。マサキは冴え冴えとした輝きに目を細めた。そうして、夜の冷えた空気に身体を嬲られながら空を見上げること暫く。随分と静かなことですね。静かなラ・ギアスの夜を堪能いたマサキは、突然頭上から降ってきた声に驚いて飛び起きた。
「お前、いきなり出てくるのは止めろよ」
 マサキは背後を振り返った。
 聖職者を思わせる白いロングコート。首から下げたストラが風に揺れている。すらりと伸びた長躯の持ち主たるシュウは、ゆったりとした足取りでマサキの隣に並んでくると夜空を見上げた。
「お邪魔をするつもりはなかったのですが」
「本当かよ。全然気配が感じ取れなかったぞ」
 声をかけられるまで感じることのなかったシュウの|気《プラーナ》。それが自分の気の緩みからきたものであるのか、それともシュウが意識してそうした状態を保っているからであるのか、マサキにはわからない。わからないが、シュウ相手ではままるこだ。かといって剣聖の称号に与るマサキとしては、自尊心をいたく傷付けられる事態ではある。だからマサキはシュウに尋ねた。
「お前のそれは何なんだよ。こんなに距離を近くされても気付けねえ」
 薄い笑み。黙して語らぬシュウにマサキは諦めて空を仰いだ。
 夜の涼しい空気を胸いっぱいに吸い込んで、孤高の月を見詰める。
 澄んだ空気に、溢れる自然。きっと地上世界であれば、満天の星空が眺められたことだろう。けれどもここは地底世界だ。世界を遍く照らし出す光は、太陽と月しかない。それを寂しいこととはもうマサキは思わなかった。地底世界に召喚されてかなりの歳月が過ぎている。ただ、これこそが風情だと満ち足りた気持ちで眺めるだけだ。
「何をしていたのですか」
 ややあって、おもむろにシュウが口を開く。
 だだっ広い平原にふたりきりとあっては、素直にその顔に視線を向けるのも躊躇われる。何より、嫌になるぐらいに端正な顔は、童顔の自覚があるマサキのコンプレックスを刺激した。だからマサキは月を見上げたまま言葉を継いだ。
「何って、他にすることもないだろ。夜空を見てたんだよ。ラ・ギアスの海の底のような夜空を」
 瞬間、シュウが風に紛れるくらいに抑えた声で、ふふと笑った。、
「あなたにしては随分と詩的な表現をしますね、マサキ。驚きましたよ。どうやら私はあなたの認識を改めないとならないようです」
「煩えよ、お前。俺だって偶には感傷的にもなる。てか、お前。ここに何しに来たんだよ」
「あなたの左肩の具合を見にきたのですよ」
「何だと」マサキは眉を顰めた。
 月からシュウの顔へとゆっくりと視線を動かす。いけすかない表情。うっすらと浮かべた笑みもそのままにマサキを見下ろしているシュウからは、その本心は読み取れない。
「別に、大した怪我じゃねえよ」
 動揺を押し隠して口にするも、焦りは消えない。
 気付かれているとは思わなかった。
 そもそも、このぐらいの怪我は魔装機神の操者をやっていれば日常茶飯事である。打ち身に擦り傷、打撲。戦いが続けば続いた分だけ増える傷。如何に魔装機神が練金学でコーティングされた硬い外装を誇ろうとも、攻撃が当れば振動に襲われる。それはマサキたち操者の身体に様々な傷を残した。
 そうである以上、余程の重傷でない限り、一々騒ぐまでもない。だからサイバスターを降りたマサキはいつも通りに振舞ったし、仲間がマサキの異常に気付くこともなかった――筈だった。
「ミオから水筒を受け取る際のあなたの左手の動きがおかしかったのですよ。咄嗟のことで庇わざるを得なかったのでしょう。違いますか、マサキ」
 知に長け、武に秀で、魔に通ずる男は、優れた観察眼の持ち主でもある。些細な違和感から、その原因を即座に特定してしまうぐらいに。
 シュウの前では隠し事など出来ない。
 その現実を幾度ならず突き付けられてきたマサキは、今また発揮されたシュウの特異能力に、筋違いとわかっていながらも腹を立てた。何故、ここまでこの男は周囲の変化に敏感なのかと。
「嫌な奴だな、お前」
「当たっているようで何よりです」シュウの顔から笑みが消える。「あなたが思っている以上に深いダメージを負っているかも知れません。怪我を見せてください、マサキ」
「このくらい大丈夫だ」
「今、あなたを欠く訳にはいきません」
「うるせえよ。俺を舐めんな。これでも場数だけは踏んで」
 腰を落としたシュウが、身体を屈めてマサキの顔を覗き込んでくる。
 マサキ。低く、柔らかい、吐息混じりの呼び声。深い濃紫の瞳がマサキを捉えている。それが何故か気恥ずかしい。だからマサキは顔を背けた。背けて、「大丈夫だ」と、自らに云い聞かせるように言葉を吐いた。
「そんなに俺はやわじゃねえ。お前だって知ってるだろ。俺がどれだけしぶといか」
 敵であったシュウを追い回していた日々は、もうずっと過去のことになってしまっていたが、彼を自身の力で打ち倒した経験はマサキの確実な自信の根拠となっている。それをシュウ自身も思い出したのに違いなかった。「そうでしたね」ふっと瞳を和らげると、マサキの顔からそうっと視線を外して腰を上げた。
「あなた相手に体調を気遣うなど余計な世話でした」
 どうやらシュウの用件はそれだけであったようだ。直後にひらめくコートの裾。踵を返したシュウが、隊が野営を張っている方角へと足を踏み出す。
 マサキは彼の後姿を追った。
 ふわりと香ってくる清涼感の強い匂い。恐らくはシュウが身に付けている香水であるのだろう。かさりかさりと草を踏みしだく音。マサキから数メートルほど離れたところで、シュウの足が止まった。
「あなたは強く、逞しい」
 ゆっくりと振り返ったシュウの顔を目の当たりにしたマサキは固唾を飲んだ。
 一切の感情が抜け落ちてしまったかの如き虚ろな表情。まるで寄る辺を失った子どものようだ――虚を突かれたマサキは、どう反応してすればいいかもわからぬまま。続くシュウからの言葉を待った。
「私もそれは認めるところです。ですが、これだけは覚えておいてください。私はあなたを失えない。いえ、失いたくないのですよ、マサキ」
「どういう意味だよ」
「そのままの意味ですよ」
 口元を緩ませたシュウが、では――と、マサキに背を向けた。そして、今度こそ振り返ることなく、木々の合間に姿を消していく。
「おかしなヤツだな。何を云いたいのかわかりゃしねえ」
 マサキは大の字に寝そべった。
 シュウの不可解な行動に疑問が残るも、マサキと張るくらいに意地っ張りな男だ。彼が話すと決めない限り、マサキがその理由を聞くことはないのだろう。
 けれども、やけに疼く胸。
 俺を失ったらどうなるってんだよ。ひとりごちたマサキは、右腕で顔を覆って深い溜息を吐いた。





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