R18ではありますが、性描写はありません。
シチュエーションの描写に含まれるのみです。
ということで、サフィーネ視点になります。最初はさっくり。
シチュエーションの描写に含まれるのみです。
ということで、サフィーネ視点になります。最初はさっくり。
<鮮烈なる交配>
「じゃあ、|エ《・》|リ《・》|ス《・》。また今度ね」
甘いマスクの青年ジャービスは、そう云って安宿《モーテル》の一室から出て行った。
ベッドと荷物置きぐらいしかない簡素な部屋。そこでプレイに励んだ四時間半。ジャービスを見送ったサフィーネは、身に着けていた煽情的なボンテージスーツ一式を脱ぎ捨ててベッドに倒れ込んだ。
「また今度、ねえ。あたしとしてはもうちょっと楽に情報をもらいたいもんだわ」
倦怠感に満ちた身体をうつ伏せて、そろそろと手を伸ばしてきている睡魔に身を委ねる。
欲張りな下僕であるジャービスは、ひとつの情報に対して一度の絶頂《オーガズム》を要求してきた。だからこそ、それなりにクリティカルな情報を得た今日は大変だったのだ。下僕気質な彼は、サフィーネに気高い女王様であることを要望してくる。踵で踏みつけるのは勿論のこと、鞭で打ち据えるのも当たり前。その都度しっかりと言葉で嬲ってやらねば満足しないのであるから、女王様稼業というのも大変である。
だが、その甲斐あって彼は存分に陶酔を味わってくれたようだ。都合三度の射精でサフィーネを解放してくれた。
嗜虐も被虐もどちらもいける口なサフィーネではあるが、本性的には被虐性の方に自覚が強い。何せあの冷淡な主人たるシュウに長年仕えていられるぐらいである。偶の褒美がそれこそ半年に一度であったりするのであるから、被虐性が強くなければ心がもちやしないのだ。
「そろそろご褒美が欲しいもんだわあ……」
べたついた肌が鬱陶しく感じられるも、シャワーを浴びる気力がない。赤毛のウィッグを外すだけに留めて、サフィーネは目を伏せた。
エリスというのはジャービス用のサフィーネのペルソナだ。高慢で凛々しいボブカットの女性。普段はパンツルックで颯爽と街を闊歩しているような自立性がある。とはいえ、男に媚びることが滅多にないキャラクター性を、サフィーネ自身は気に入ってはいなかった。
男には媚びてなんぼである。
彼らはその瞬間にサフィーネに本性をみせた。卑しくも腰に手を回してきたり、夜の誘いをかけてきたり。せっかちな男などはキスを求めてきたりもしたものだ。とはいえ、サフィーネに楽に情報を入手させてくれるのは、圧倒的にそういった男たちである。サフィーネが彼らの単純さを内心見下しつつも利用し続けているのは、だからでもあった。
ただ、ジャービスにはその手は通用しなかった。彼が女性に求めているのは、ひとりでも生きてゆける逞しさだ。だからこそサフィーネは、自分の中にエリスを作った。教団が食い込んでいる組織に属する彼の情報は、サフィーネにとっては生きた情報であることが多いからこそ。
生きた情報というのは他でもない。先日、シュウが交戦したというジンオウに似た機体のことだ。
ジャービスが属しているのは魔装機の制作を請け負うパオロ・ルフィニ財閥だ。戦争屋とも死の武器商人とも呼ばれ、世間からは見下されることも多い彼らだが、非常に優秀な技術者の集団であるのは間違いない。かつてのトリニティと比べると泡沫的ではあるものの、性能の高い魔装機の制作を手掛けることも多い。そうした事情から情報を引き出せるのではないかとジャービスに目を付けたサフィーネだったが、その見込みは当たっていたようだ。
どうやら教団は彼らに部品の作成を発注しているらしい。
組み立ては教団で――とは、流石に情報漏洩リスクの管理がしっかりしていると思わされるところであるが、仕様書を作成する立場にあるジャービスにかかれば児戯に等しい誤魔化し方だ。彼はバラバラに発注された部品から完成図を予想した。どうもこの機体はジンオウに似ている。技術者の閃きを侮ってはならないというのは世の通説だが、そういった意味でジャービスの閃きは正しく働いたのだろう。彼は個人的なネットワークを駆使して、ジンオウに似た教団機に今後搭載されるだろうシステムまで調べあげたのだ。
――多分、あの機体にはガロア理論が組み込まれるよ、エリス。
――五次以上の方程式がべき根で解けないってアレ?
――そうだよ、エリス。流石だ。君は良く知っているから話が早い。
ジャービス曰く、無限次元に等しい方程式を生み出すことで、群を極大に近付けるのではないかという話であった。極大に近付いた群は無数の平行世界を生み出す。教団機を群に寄生させることで、実体を平行世界に置くというのである。つまりは理論的なアストラルシフトの確立だ。
オカルティズムで対応しきれない理論ほど厄介なものはない。そもそも、オカルティズムの最たるものであるルオゾールのアストラルシフトですら、サフィーネ単独では構造を分解しきれなかったのだ。こうなると後のことはシュウに任せるしかなくなるが、複数のプロフェッショナルが関わっているシステムである。対応策の確立にはそれ相応の時間がかかるだろう。
でも、シュウ様のことだもの。サフィーネは緩やかな眠りに落ちていきながら思った。
残骸から興味深い部品を見付けたと口にしていたシュウは、もしかすると既に突破口を見付け出しているかも知れない。何せ、世界最高峰の知能を誇る総合科学技術者《メタ・ネクシャリスト》だ。むしろオカルティズムでない分、彼にとっては解決が容易な状況ではなかろうか。
自らを安心させたサフィーネは、そこでようやく意識を手放した。
世界が、暗くなった。
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