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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

されど、物語は続く(1)
と、いうことで見切り発車で28番目のお話を始めたいと思います。

わたくしただいま絶賛生理中と申しますか、一回出血があって止まったきりなんですけど、何故か身体は猛烈に生理中であると訴えておりまして、あんまり頭が働かなかったりするのですが、時間を空けてしまうと文章の勘を取り戻すのが大変になってしまうので、「ある程度プロットも固まったし……」と始めることにいたしました!(くどい)

おかしなところは後で直しますので、「仕方がないな」と生暖かい目で見守って頂けますと幸いです。では、本文へどうぞ!
<されど、物語は続く>

 ブラインドの隙間から差し込む朝日が、瞼に眩く降り注いでいた。
 徐々に強さを増す光に、マサキはうっすらと目を開いて、ベッド脇のチェストの上に置いてあるスマートフォンを手に取った。時刻は六時四十三分。凡《おおよ》そ四十分の寝坊。五分おきに鳴り続けるように設定しておいたアラームは解除されている。
 恐らくマサキが自分の手で止めてしまったのだ。
 マサキは慌ててベッドから飛び起き、クローゼットの中を覗き込んだ。組み合わせに拘っている暇はない。目に付いたシャツとパンツを引っ掴み、手早く着替えを終える。そして、脱いだパジャマを洗面所に向かうついでにとランドリーに突っ込み、洗顔と歯磨きを始める。
 早朝トレーニングの為にと早めの時刻にアラームをセットしておいたお陰で遅刻はせずに済みそうだが、四十分の寝坊は支度に余裕を与えてくれそうにはなかった。磨き残しがないかを鏡でチェックして、仕上げのマウスウオッシュ。目を見てのコミュニケーションに拘るアジア人と異なり、口元を見てのコミュニケーションに拘る欧米人は、何より口内の健康状態を気にするようだ。たった三ヶ月で身に付いた習慣を、面倒臭いと感じる暇もないままに、マサキは今度はキッチンへと向かう。
 食料棚からコーンフレークを、冷蔵庫からバナナとヨーグルトと牛乳を手に取り、カウンターテーブルの上に。包丁を使う時間さえも惜しく感じられたものだが、腹持ちする食材を胃に収めておかないと、後々空腹で感情を乱されることになるのだ。未だ二十代。マサキの身体は相応のカロリーを必要としていた。
 バナナをスライスしてヨーグルトと和え、コーンフレークに牛乳をかける。カウンターテーブルの反対側に向かうのも面倒と脚の高い椅子を引き寄せ、そのまま朝食の席。見知った顔ばかりの軍借り上げのアパートメント。独りで食事をするのにももう慣れた。しんと静まり返ったキッチンで、今朝のトップニュースぐらいはチェックしておかなければと、片手でスマートフォンを操作しながら食事を済ませる。
 時刻をチェックすれば、七時十分。いつも家を出る時刻よりも十分ほど早い。空いた時間をどう過ごすか考えたマサキは、乱れたままのベッドぐらいは整えておくべきかと寝室に向かい、室内を軽く整えたのちに、それでも余ってしまった時間に仕方なく部屋を出ることにした。

 アパートメントから地下鉄でニ十分ほど。パスを提示して軍の敷地内に入ったマサキは、ロッカールームで軍服に着替え、指導教官たちに与えられているフロアへと足を進めた。
 新兵の早朝訓練が終わったばかりの時間帯。厳めしい顔付きの教官たちが引き上げてくる通路を、彼らと挨拶を交わしながら抜けたマサキは、今日の仕事を開始すべく教務室に入った。閑散とした室内の中ほどの席。今日のプログラムの準備に取り掛かっているヤンロンが、目ざとくマサキの姿を見付けて面《おもて》を上げる。
「思ったよりは早かったな」
「姿が見えねえなら起こせよ。今日は早朝トレーニングに出るって云ってあったんだしよ」
「誰かに頼らねば起きられないような年齢でもあるまい。お前には緊張感が足らん。ここに身を落ち着けてからもう二ヶ月が経った。その間、早朝トレーニングに何回出た? 僕が覚えている限りでは……」
 指折り数え始めるヤンロンの隣の席に腰を落ち着け、マサキはデスクの上に鎮座している端末を開く。
「あー、はいはい。六回だよ、六回。規則正しい生活に慣れるってのが、こんなに難しいものだとは思わなかったぜ」
 九時から始まるシミュレーターを使っての模擬訓練。参加予定の新兵たちのリストを確認しながら、続けてヤンロンの説教じみた言葉を聞く。
「地底世界《ラ・ギアス》での生活が、それだけ気紛れに過ぎたんだろう。大体、僕は初めに云ったぞ。お前に軍での規律ある生活が務まるのかと」
「そうは云われてもな。他に何が出来るって話だろうよ」
「お前が云い出したことをお前が出来ていないのはどうなのかという話だ」
 マサキは肩を竦めてみせた。
 出会ったばかりの頃はうっとおしく感じられて仕方がなかったヤンロンの絡んでくるような物云いも、今となっては慣れたものだ。ヤンロンもそうしたマサキの変化に気付いているのだろう。軽く受け流すようなマサキの仕草に苦笑いを洩らすのみ。この後に新兵訓練を控えていることもあってか、深く問い詰めるつもりはないようだ。
 地底世界ラ・ギアス。
 青春時代を戦場に捧げることとなったマサキが、仲間とともに駆け抜けた世界。沈まない太陽と湾曲する地面。そして豊かな自然が溢れる世界は、永く続く平和にマサキたち地上人の放逐を決定した。
 予兆は――あったのだ。
 元来、ラ・ギアスには地上人蔑視の傾向があった。それは特定の階層になればなっただけ顕著になったものだった。地上世界と比べれば遥かに先鋭的な技術を持つ地底世界。地球の内側に広がる世界で、その干渉を受けずに生き、文化と文明を発展させてきた彼らにとって、地上人という存在は野蛮な異分子以外の何物でもなかった。その異分子に頼らねば世界の平和を保てないという現実は、どれだけ彼らを打ちのめしたものだろう。
 マサキたちが魔装機の操者候補として地底世界に召喚された頃より、ラングラン議会はその是非を巡って紛糾を続けていた。地底世界の問題は地底世界だけで片を付けるべきである。それが現状維持のまま月日を重ねてしまったのは、度重なる戦乱を治めるのに、魔装機という力が必要不可欠になってしまったからだった。
 十六体の正魔装機、その強大なる力を地底人のみでは扱いきれない。魔装機計画は議会にとっては苦渋の決断でもあった。しかしだからといって、彼らは地底人のみで世界の平和の維持に務めることを諦めた訳ではなかった。
 その為には地上人を地底世界より放逐せねばならない。
 政治家の遣り口は、どの世界であろうとも似たようなものになるらしい。派閥間での調整を重ね続けた彼らは、その青写真を描くに至ったのだろう。一年前、ラングラン議会は「より自由な裁量権を操者に与える為」として、正魔装機を情報局から独立させる決定をした。それに伴い、それまでラングランが負担していた魔装機の維持費や管理費は操者の負担となった。建前は立派ではあるが、体のいい厄介払いである。この時点で地上に帰る選択をした操者も少なからずいた中、セニアを信じてマサキたちはラ・ギアスに残る選択をした。
 しかし如何に先王の嫡子として議会に絶大なる発言権を持っているセニアとて、抵抗勢力の力が大きくなれば、無理に強権を発することも出来ず。それより一年後、今より三ヶ月前。平和が永く続いていることや、稼働率の低さより、ラングラン議会は十六体の正魔装機の稼働を停止することを決定。マサキたちは追い立てられるように、長く過ごした地底世界を去ることとなった。


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