と、いうことで二回目です。
何だかわたくし、過去イチ暗い話を書いている気がするんですが、気の所為ですかね。元々の動機は「地上人蔑視はどこ行った」ってところからだったんですけど……どうせやるならトコトンやろうぜ、といういつもの悪い癖が出てしまっている気もしなくもなく。
いつも拍手、感想有難うございます。本当に励みになっております。ついでといっては何ですが、何だか投げにくそうだったので、ひとこと感想の項目を新しくしました。押してやってもいいよ、という方は拍手のついでにぽちぽちしてやってください。私が猛烈に喜びます。
では、本文へどうぞ!
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<されど、物語は続く>
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二、三年は遊んで暮らせるだけの保証金が出たとはいえ、十年以上に渡る不在。今更、かつて暮らしていた国で生き直すのにも勇気が要る。それぞれの操者が居場所を求めて世界各地に散った中、当座の居場所を日本のビジネスホテルに求めたマサキは、懐かしさが勝ったのかも知れない。今後の参考になればと自らの故郷に足を運んだ。
同じ学び舎で過ごした同級生たちは、ある日突然に姿を消したマサキを快く迎え入れてくれた。
かつての日々と同じような付き合いは、年齢も年齢だ。最早出来なくなってしまっていたものの、離れていた時間を忘れさせてくれるかのような温かさ。彼らの優しさに、マサキは故郷に骨を埋めるのもいいかも知れないと思いもしたものだった。
けれども、その近況を聞くに付け、マサキの中に違和感が生じるようになっていった。既に結婚を済ませ、何児の父や母となった者も多い。勤めている会社での地位を徐々に築き上げている者もいれば、家業を継いで大黒柱として働いている者もいる。その現実は、マサキを少なからず打ちのめした。
十年の不在は彼らに対してそれ相応の物を与えた。ならばマサキは?
残ったのは戦闘技術のみ。そんな自分に、平凡な人間が送るべき日常生活が送れたものだろうか……マサキは焦燥感に駆られるように、ミオを、テュッティを、ヤンロンを尋ねた。そして彼らを掻き口説いた。軍に入らないか。そこでなら、第二の人生をマサキは上手く過ごせるような気がしたのだ。
連邦軍に潜り込むにのには、かつての伝手、度々起こった大戦で培った人脈を使った。歴史に残る大戦での活躍も目覚ましかったマサキたちを、軍は快く受け入れてくれたのみならず、四人一緒任務に就けるようにと心配りまでもしてくれたものだ。かくてマサキたちは、ここ米国の基地にて新兵訓練を担当する指導教官の任に就くことになった。
それから二ヶ月。
それなりに教官役も板に付くようになってきたと、マサキは思っている。
連邦軍に潜り込むにのには、かつての伝手、度々起こった大戦で培った人脈を使った。歴史に残る大戦での活躍も目覚ましかったマサキたちを、軍は快く受け入れてくれたのみならず、四人一緒任務に就けるようにと心配りまでもしてくれたものだ。かくてマサキたちは、ここ米国の基地にて新兵訓練を担当する指導教官の任に就くことになった。
それから二ヶ月。
それなりに教官役も板に付くようになってきたと、マサキは思っている。
「あら、マサキ。早いじゃないの」
既にひと仕事を終えた後らしいテュッティが教務室に姿を現し、マサキの姿を認めるなり云う。
壁掛け時計の針は七時五十分を指している。八時十五分から始まる朝礼には未だ二十分以上も時間がある。確かに普段通りの出勤時間であれば、マサキは定刻より前に出勤していることになったものだが、ヤンロンと自主的に行っている早朝のトレーニングには出られなかった身。「知らないということは幸せなことだな、テュッティ」嫌味とも皮肉とも付かない台詞を吐き出したヤンロンに、
「なあに? 今日は何かあった日だったかしら」
「寝坊したらしくてな。僕との早朝トレーニングには顔を出していない」
「それ、まだ続けていたの? 私、てっきりマサキはもう諦めたものだとばかり」
マサキの向かいの席に腰を落ち着けたテュッティは、笑いながらそう云って、既に立ち上げを終えているらしい端末のキーボードに指を滑らせる。恐らくはマサキと同様に、九時からのカリキュラムに参加する新兵のリストを確認するつもりなのだろう。凝っと画面を見詰めている。
「諦めてねえよ。訓練する立場の人間が、身体を鈍《なま》らせる訳にはいかねえだろ」
「早朝じゃなく、帰宅前のトレーニングにすればいいのに」
「疲れた身体に鞭を打つのもな……」
マサキはマサキで、自身の担当する新兵のチェックに忙しい。前回の模擬訓練における評価を確認し終えたマサキはそのまま、訓練参加予定の新兵リストから評価用のチェックシートを作成し、出力する。そのプリントアウトを待つ間、空を仰ぎながら指導の方向性を考える。
――そろそろ戦局を意識した動きを覚えさせないとな……。
ただ立って彼らの動きをチェックし、檄を飛ばし、指導するだけの任務とはいえ、一コマ二時間のカリキュラムを四コマもこなせば、疲れはそれなりになったものだ。きっと慣れない指導教官という任についている所為もあるのだろう。これまで勘で済ませてきた戦場での立ち回り方を理論に組み立て直す作業は、直感型のマサキには相当に気の要る作業だ。疲れに任せるがままに睡眠を取れば、起床はいつも遅れがち。目立った遅刻はしていないものの、朝礼直前に教務室に入ることも珍しくない。
「テュッティは今日も早出かよ」
「カリキュラムの準備でね。二十丁ほど銃を分解してきたところよ」
「よくやるな。俺は準備だろうが早出は御免だが」
「お前はやらなさ過ぎるんだ」
「決められた時間以上に働くのもな。どうせ戦時になりゃ外様だ。俺たちが扱き使われるのは目に見えてるだろ。だったら普段はきっちり時間通りに仕事を終えておかなきゃな」
「そういうところ、マサキってドライよね」
日常生活に居場所を求められずに来た軍の世界。だが、マサキはその世界に染まりきるつもりはなかった。それは元々、権力に従属するのを厭う性格もあっただろう。ましてや長期間に渡って、自分自身での判断に身を委ねて戦い抜いてきた自負もある。
管理社会に迎合できないマサキは、受ける支配を最低限で済ませたいのだ。
軍部としてもマサキの扱いには手を焼いていることだろう。遅刻や早退はないものの、定刻通りに基地を出るマサキ。しかも階級の割に、準備や進行は人任せときた。それでもかつての活躍や人脈を考慮して、こうして居場所を与えてくれている。それに対してマサキは感謝しているからこそ、いざ有事が起これば、自ら先陣を切って戦場に赴く覚悟をしているのだ。
そんなマサキの考え方を、いつかヤンロンはこう評したものだ。軍人と云うより傭兵だなと。
けれどもそれがマサキであると認めているのだろう。ふふ、と声を忍ばせて、テュッティのみならずヤンロンも笑う。きっと彼らにも、それぞれ今の立場に思うところがあるのだろう。
「あれ、マサキ早い」
そこにこちらも早出をして、カリキュラムの準備をしていたらしい。ミオが顔を覗かせる。
「どいつもこいつも俺がこんな時間からいるのが珍しいって顔をしやがる」
「事実じゃないのよ。どうしたの? ついに真面目に働く気になったの?」
「いつも真面目に指導してるだろ。誤解を招くような発言をするんじゃねえよ」
「まあ、あたしたち、お互いがどんな指導してるかなんて見てないしね。云うだけならタダ」
賑やかにその場に姿を現したミオは、こちらも端末を操作すべくテュッティの隣。自らの席に着いた。
マサキは出力された評価表を取り上げた。そして所定の位置に押印すると、バインダーに挟み込む。このぐらいの手間は電子化してペーパーレスにしてしまってもいいような気もするが、そこはやはりお役所仕事。保管期限や場所の関係上、紙の方がやり易いらしい。
「云ってろよ。俺はお前と違って、まだ遅刻はしてないからな」
「あ、あれは……乙女の秘密よ」
「乙女の秘密ねえ。どんな秘密が原因で三十分の遅刻になったのやら」
云いながら壁掛け時計を見れば、時刻は八時。余ってしまった時間をどう使うか悩みつつも、結局はいつも通りにしか自分は動けないし、動きたくないのだ。そんなことを考えながら、マサキは再度、今日のカリキュラムをどう進めるかについて考えを巡らせた。
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