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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

されど、物語は続く(4)
本文中に書ききれるかわからないので、ここに書いておきます。

マサキ→操縦術・編隊訓練
ヤンロン→基礎訓練・集団演習
ミオ→武道・格闘術
テュッティ→精密機器操作

こういうの書いちゃうと途端に厨二臭さっつーか黒歴史度が増しますね……
きちんと本文に組み込めたら、後々消します。と、いうことで本文へどうぞ!
<されど、物語は続く>

 結局、そのまま実りもなく、訓練が終わる。腐った気分を晴らす手段もないまま、一時間の昼休憩。教務室に戻ってヤンロンたちの姿を探せば、既に中ほどの席にて顔を揃えていた。彼らはマサキの顔を見ただけで気分が知れたのか、全員で苦笑を浮かべている。
「例の新兵たちにはお前でも手を焼くと見える」
「あいつら何ならまともに出来るんだ。今のままじゃ死ぬ未来しか見えねえ」
「個人戦は得意なんじゃないかなあ。武術はいい成績よ」
 データベースから彼らの評価データを引き出したのだろうか。端末に向き合って、その画面を深く覗き込みながらミオが云う。
 肉弾戦を担当するミオのカリキュラムは、日本古来の武術を扱っているという物珍しさも手伝ってか、新兵たちの間では相当に人気があるようだ。それは荒っぽさだけなら古兵にも勝る彼らであっても同様らしい。如何にマサキの手を焼かせる新兵たちたろうとも、好奇心には打ち勝てないのだ。そう考えると、その扱い難さにも可愛げが感じられる。へえ、とマサキは感心する声を上げた。
「確かにな。僕のカリキュラムでもそうだ。団体行動が絡まない限りは、素直に動く」
「精密機器の取り扱いは苦手そうね。武器の分解から先に進めてないのは、彼らだけよ」
「ある意味、わかり易い連中だな。何であんな似た者ばかりをひとつのグループにしやがったんだか」
 そう思ったところで、新兵のグループ分けは座学の成績によるものだ。適正検査の結果なども加味されている以上、今更変えられるものでもないだろう。愚痴を程々に、行こうぜ、とマサキは三人に立ち上がるように促した。
 今頃、食堂は混雑しているに違いない。
 一般兵と階級兵では食堂も異なったものだが、これだけの規模の基地ともなれば、従軍する階級兵はかなりの数に上る。今日は四人で固まっての食事は難しいかも知れない。そんなことを考えながら、雑談を挟みつつ通路を往く。
「最近、食べ過ぎなのかしら。体重が二キロ増えたのよ」
「あんまり動かないカリキュラムを担当してるからじゃないか、テュッティ」
「あなたは少し痩せたわよね、マサキ」
「あいつら相手に毎日怒鳴り声を上げてるからな」
 フロアを下がって、列なす人の群れが垣間見える食堂の入り口に向かう。昼時はいつもこうだ。マサキたちはドアの前に立った。「今日も混んでやがる」そして、まさに人いきれの中に足を踏み入れる瞬間、館内放送を報せる呼び出し音が鳴った。
 ――マサキ=アンドー教務官、面会人が来ております。至急、三番応接スペースへお越しください。
 見知った顔もそれなりにある土地とはいえ、それは軍に限った話。外部から自分を訪ねてくるような知り合いは、軍に行くことを誰にも告げていないマサキにはもういない筈だ。訝しく感じながらも、呼び出された以上は仕方がない。ヤンロンたちに先に食事を済ませておくように告げ、マサキは急ぎ下のフロアにある応接スペースに向かった。
 外部の人間との面談に使われるパーテーションで区切られただけの応接スペース。壁一面の窓から、昼下がりの柔らかい日差しが降り注いでいる。
 一体、誰がどんな目的で自分を訪ねてきたものか。わざわざ昼休みであるこの時間を狙って面会を求めてきたということは、軍のスケジュールに明るい人間であるのだろう……施設の入り口より近い場所にある三のプレートが掲げられたスペースに足を踏み入れたマサキは、直ぐに目に入った眩いばかりの金髪に、「なんだ、お前か」と呟いていた。
 乱雑にヘアバンドで留めただけのヘアスタイル。愛らしい顔立ちだけに、勿体なさも感じたものだ。見目にあまり気を遣わないのは相変わらずとみえる。今にも胸が零れ出しそうなタイトなタンクトップに、下着を履いているのか不明なダメージジーンズ。スタイルがいいだけに目のやり場に困る女、リューネ=ゾルダークは出会った頃と変わらぬいで立ちで、パーテーションの中。椅子に腰かけて、マサキの到着を待っていた。
「久しぶり、マサキ」
「お前、よく俺がここに居るってわかったな」
 マサキたちとともに地底世界を後にしたリューネは、唯一自身の為の機体を持っているだけはある。ヴァルシオーネRとともに亡き父ビアンの知人を頼るつもりだと、地上に戻って来るなり宇宙へと旅立って行った。
 先ずは火星、その後に木星を目指すつもりだと云っていたリューネ。片道だけでも相当の旅程になるだろう道のりを早くも往復してみせたのか。それとも目的を達せぬまま、地球へと帰還したのか。いずれにせよ、短い昼休みだ。僅かな朝食を腹に詰め込んだだけのマサキとしては、早めに本題を済ませて食堂に向かいたいところだ。
「親父の側近たちは優秀だからね」
「元DCの連中の情報収集能力は伊達じゃないってか」
「そうそう。今は大人しく研究しているような連中ばかりだけどね。どうかすると昔を思い出すのか、あたしに親父の跡を継げって煩いこと。あたしに何を求めてるのやら。ヴァルシオーネRの操縦ぐらいしか取り柄がないのにね」
 小耳に挟んだ噂程度の話ではあったが、ビアン=ゾルダークと親交の深かった研究者たちは、理念を変えた新生DCを作り上げようと目論んでいたらしい。リューネ自身の気性や、彼女がラ・ギアスに居残ることを決めてしまったこともあり、計画は頓挫してしまったようだが、その帰郷を受ければ話は別ということか。
 十年以上の歳月が過ぎて尚、彼らは組織の再興を諦めてはいない。
 その現実にマサキは気が重くなった。地上に戻ったところで、かつての柵からは逃れられない。軍に居場所を求めてしまった以上は仕方がないにせよ、どうせなら心機一転。新たな人生を歩みたくあった。
「それで俺たちの顔を見に来たって?」
「だってマサキ、あたしを誘ってくれないんだもの」
「今の俺たちにとっては、宇宙は遠いんだよ」
「わかってるんだけどね」リューネはテーブルに肘を付き、手のひらに頬を乗せた。「寂しいじゃない。ずっと一緒に戦ってきたのに、あたしだけ除け者みたいで」
 駄々を捏ねるように無理を重ねてみせるのは昔からだ。口唇を尖らせて、拗ねた表情をしてみせるリューネに、やれやれとマサキは溜息を吐いた。
「話はそれだけか? 特に重要な話がないって云うなら、朝を軽く済ませてるんだ。昼はしっかり食べたいところなんだがな」
「マサキの顔が見たかったの。軍でどんな風に過ごしてるのかなあ、って」
 長く宇宙にいたからだろうか。ラ・ギアスで戦場を駆けていた頃より、肌が白くなった気がするリューネ。彼女は悪戯めいた笑みを浮かべると空いた手をマサキに向けて伸ばしてきた。
 その指先が軍服の上衿に触れる。
 指を滑らせて、その感触を暫く確かめていたリューネは、「ちゃんと軍人してるんだね」
「当たり前だろ。曰く付きの俺たちをこうして受け入れてくれたんだ。任された仕事はきっちり務めてみせないとな」
「そっか、よかった。マサキのことだから規則正しい生活は難しいんじゃないかって思ってた」
 常にマサキの傍らに立ち続けたリューネにとって、マサキという存在は最も身近な他人であるのだろう。他人のことながら自分のことのように顔を綻ばせたリューネは、「ねえ、マサキ」会話が途切れるより先にマサキの名を呼んだ。
 続けて上衿をなぞるリューネの指先に、何とはなしな居心地の悪さを感じながら、何だとマサキは訊き返す。出会った頃の少女らしさが消えつつある面差し。どこか晴れがましさを感じさせる表情で、リューネはマサキを見詰めていた。


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