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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

されど、物語は続く(5)【追記アリ】
リューネは何を考えて生きているんだろうなあ、というのが私の魔装におけるひとつのテーマだったりするんですけど、皆さん的にリューネってどういう印象なのでしょう。
私はEX→三次→四次→二次Gというルートを通った人なので、あまりリューネにいい印象を抱いていないところからスタートしているんですけど(正直、未だにリューネがマサキを好きになった理由が顔以外に思いつかない笑)、でも最近、そんな彼女もちゃんと成長しているのだなあと感じることが多くなりました。

公式にはきちんとそこを掘り下げていただきたいものだなあと思いつつ、本文へどうぞ!
あ、今回は短めです。
<されど、物語は続く>

「あたしと結婚しようよ」
 突然の求婚《プロポーズ》。ついに来たと思うよりも、単純に何故今なのかという気持ちの方が強かった。軍の基地にある施設での求婚は、ある意味、実にリューネらしい舞台選択であるとは思ったものだが、三ヶ月ぶりに再会したばかり。しかもマサキは昼休憩中ときたものだ。
 ロマンスを追い求める気持ちはマサキにはなかったが、こうした話は、せめてお互いがもう少しゆっくりと時間が取れる時にすべきものではないだろうか。思い立ったらいざ吉日とはいえ、リューネの衝動的な行動にマサキは二の句が続かない。
「ウエンディには悪いとは思うけど、あたしたちもうあっちの世界には戻れそうにないしね。マサキと一緒なら、あたし、楽しく人生を過ごせそうな気がするんだ。だからマサキ、考えてみてよ。あたしね、思うんだ。マサキは軍に収まるような人間じゃない。だから、地球を出ようよ。あたしと一緒に、もっと広い世界を見に行こう」
「そうは云ってもだな、俺にはお前みたいな手足はもう」
「それだったら親父の知り合いに頼んで造って貰おうよ。あの人たち、新しい技術を使いたくてうずうずしてるのよ。ヴァルシオーネRを改造させろってね、しつこいったら。ね、マサキ」
 マサキは沈黙した。その気持ちを知りながら、十年以上にも渡って答えを与えずに来てしまった。
 自分の為に元居た世界を捨てた少女、リューネ。朴念仁なマサキは彼女の真っ直ぐな愛情に気付くのに、それなりの時間がかかったものだった。陰になり日向になり、ラ・ギアスでのマサキの活躍を支え続けてくれた仲間のひとり。彼女はマサキの気持ちが自分に向くまで待ち続けることさえ厭わない。
 その真摯な気持ちに向き合うのが、マサキはずっと怖かった。
「……考えさせてくれ」ようやくそうとだけ云う。
 帰りたがらなかったこともあったにせよ、十年以上。正魔装機の操者ではないリューネが仲間としてラングランに残り続けることをマサキが許せたのは、戦場で背中を預けられるだけの実力が彼女にあったからだ。味方にすれば頼もしく、敵にすれば脅威となる。稀代の科学者ビアン=ゾルダークの遺児は、その遺産であるヴァルシオーネRとともに、マサキたちの戦いに大きな恩恵を齎してくれたものだ。
 だからといって、時に非情なまでに無情《ドライ》な選択をしてみせるマサキとて、戦闘能力だけが彼女の価値であるとは思っていない。DC総帥の娘として、自らに傅く大人たちに囲まれて育ったリューネ。彼女が胸に抱えている誇りと矜持は、マサキの心の琴線に触れたものだ。
 けれども……胸の底に積もる澱《よど》。マサキはリューネに対して蟠りを抱えてしまっている。
 ラングラン議会の雲行きが怪しくなるより前。マサキには求めていた生活があった。リューネや他の正魔装機の操者たち仲間と変わらぬ付き合いを続けながら、この実り多き大地で地に根を張って生きてゆく。いつからかは覚えていない。ただ、自分の隣に立つのは彼女らではないのだと、マサキは早い段階からわかっていたように思う。
 今となっては諦めなければならないだろう望み。マサキが求めた生活はラ・ギアスでなければ叶えられないものだ。それでも諦めきれない自分の未練がましさ――……いっそ一思いにこの気持ちを断ち切ってしまえれば楽なのに。そう思いながらも、ひと匙《さし》の希望に縋ってしまう。
 入り組んだ感情。拗れてしまった自分の気持ちから来る後ろめたさがマサキの口を重くする。
「うん、いいよ」だのにリューネは笑顔を崩すことなく云ってのけるのだ。
「マサキが納得いかなきゃ意味がないしね。ゆっくり考えて。その結果がどういったものになろうと、あたしはちゃんと受け止めてみせるから」
 そして、軍服の上衿から手を離すと、そろそろ潮時と思ったようだ。リューネは椅子から立ち上がった。
「お昼ご飯食べないと持たないんでしょ、マサキ」
「ああ、悪いな。わざわざ足を運んで貰ったのに、何もしてやれなくて……」
「いいの、いいの。突然押しかけたあたしが悪いんだしね」
 パーテーションを出るリューネに続くマサキの歯切れの悪さを、リューネはどう感じ取ったのか。出入口へと進めかけた足を止めると、マサキを振り返って、「あたしのことは心配しないでね、マサキ。大丈夫だから」
 差し込む陽光が照らし出す横顔。眩いばかりの笑顔でリューネはそう云った。

 マサキがあの男と最後に会ったのは、ラ・ギアスを去る一週間前。
 本格的な荷造りで忙しくなる前にと足を運んだあの男の家で、まるでそれが最後の日とは思えないほどにいつも通りの一日を過ごした。つれづれなるがままに読書に励む男の傍らで、気紛れにテレビを点け、すべきことを求めて家事をこなし、使い魔たちと話す。そしてゆったりとした時間の流れを感じながら一日の終わり。ベッドの上で身を寄せ合って、お互いの温もりを確かめ合った。
「私は地上《そちら》に行けますからね。これまであなたが私の許に足を運んでくれた分、今度は私があなたの許に足を運ぶ番ですよ。これまでと何かが変わるのだとしたら、それだけでしょう」
 代り映えのしない一日の理由をそう語った男は、どうやって自分の居所を捜し当てるつもりなのかと尋ねたマサキに、「あなたが思っている以上に、私には人脈があるのですよ」そう答えて、声を押し殺すようにして笑った。
 最後にもう一度くらいは会おうと、荷物の処分や荷造りを進めた一週間。身体ひとつで、新たな世界で生きることを決意したあの日から十年以上。いつの間にか思った以上に増えていた私物の量に苦心しながら、送還の二日前。ようやくそれらの片付けにある程度算段が付いたところで男の家を訪ねたところ、日々に忙殺されているらしい男は不在の様子。夕刻近くまで待っても帰宅する様子のない男に、諦めたマサキは物が減って閑散とする自分の部屋に戻った。
 地上に戻る前日となった翌日。マサキは他の操者たちとともに、親交のあった者たちが開いてくれたささやかな送別会に出た。
 もしかすると、この日ぐらいは男が自分の許を自ら訪ねてくれるのではないかとも思ったものだが、真実ラ・ギアスでの最後のパーティ。まさか自分たちが主役として居る座を、その確認の為だけに抜け出す訳にも行かず。ようやく座が開け、寝る為だけに戻った自宅。わかってはいたが、男が訪れたような痕跡はなかった。
 まんじりとしない気持ちで迎えた送還当日。マサキは朝も早い時刻から、片手に下げられる程度の荷物を手に神殿に向かった。送別の為に集まった僅かな知人たち。馴染み深い顔ばかりが揃った場に、男の姿はなかった。何せあの性格だ。因縁ばかりの場に好んで姿を現すとも考え難い。泣きじゃくるプレシアを宥めながら、予想通りとなった別離の席に、マサキは何とも表現し難い寂しさを感じたものだった。
 あれから三ヶ月。男の訪れはない。
 きっと今の自分の居所を調べるのに時間がかかっているのだろうと思いつつも、拭えない不安。リューネの訪れがその気持ちを加速させた。午後の訓練、マサキはそぞろになりそうな気持をどうにか押さえ込みながら、新兵たちの訓練に当たった。幸い、問題児ばかりのグループを先に終えていたからか。不慣れさ故の動きの悪さは目立ったものだが、それ以外の問題は起こらずに二コマの訓練は済んだ。


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