先日、Twitterで盛大に痛い子自慢をしてしまったわたくしなのですが、わたくし元々感受性が強い性質らしく、子供の頃から物語に感情移入し易い人だったのですが、年齢を重ねるに連れ、更に感受性マシマシになり、一時期は家族や子連れのお母さんお父さんを見るだけで、幸福感で胸がいっぱいになって辺り憚らず涙をぼろぼろと流すくらいの人だった訳ですよ!
日常生活無事に送れるの、それ?
そんな疑問もご尤も。今は大分落ち着きまして、一日に数回堪えきれる涙を浮かべる程度で済んでます!(それも相当にヤバい気はしますが)何が云いたいかと申しますと、そんなわたくしですので、今回の話は相当にメンタルに響きました! でもそれも今回までよ! やっと長い迷路を抜け出すところまで来たんですよ! やったー!
といったところで本文へどうぞ! いつもぱちぱち有難うございます!
日常生活無事に送れるの、それ?
そんな疑問もご尤も。今は大分落ち着きまして、一日に数回堪えきれる涙を浮かべる程度で済んでます!(それも相当にヤバい気はしますが)何が云いたいかと申しますと、そんなわたくしですので、今回の話は相当にメンタルに響きました! でもそれも今回までよ! やっと長い迷路を抜け出すところまで来たんですよ! やったー!
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<されど、物語は続く>
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僅かに手が止まりはしたものの、それだけだった。
「そう。彼女なりに考えたのでしょう。もう同じところには留まれないのだと」
洗い終えた野菜を剥き始めるシュウは、いつも通りに料理を楽しんでいるとは決して思えない表情をしている。かと云って、憂鬱そうな様子でもなければ、憮然としている様子でもない。ただの無表情。十年以上の歳月が経っても、シュウの表情からその感情を読み取るのは難しいままだ。
「それで、どうするつもりなのです?」
「宇宙へ行こうってさ。父親に知り合いに新しい手足を作って貰って、それで一緒に広い世界に出ようって」
「あなたに軍の規律ある生活は馴染み難いものであるでしょう、マサキ。その好機《チャンス》をものにするな、とは私には云えませんね」
「でも――」
「あなたには魅力のある生活に思えたのでしょう」
「……止めないのか」
長くない付き合いの頃から、シュウはずっとこうだ。マサキの心を暴くように言葉を吐く。
それがマサキの心を千々に乱れさせた。
日頃、マサキに対して寛大であろうとするシュウは、この期に及んでもその態度を崩すつもりはないようだった。マサキにその程度の関心しか持っていないのか、それとも女々しさを露わにするのが耐えられないのか。いずれにせよ、それがシュウの年長者としての意地なのだろう。けれども、止めて欲しい気持ちもあったマサキとしては、縋った手を振りほどかれたような感が否めない。
――そうではない。そうではないのだ。
寄る辺を持たない自分という存在を、明瞭《はっき》りと自覚させられる……あまりのいたたまれなさにマサキは叫び出してしまいたくなった。自分はこうして何もかもから放り出されてしまうのか――。僅かに残った地底世界との縁《よすが》。日々、薄れてゆくかつての生活の記憶は、そうでなくともマサキの執着心を煽った。だのにそのマサキの胸中を知ってか知らずか、シュウは料理の下準備を進めながら、淡々と言葉を紡いでみせるのだ。
「私はこれまでのようにあなたと会えませんしね。あなたに常に寂しい思いをさせてしまう以上、あなたを自分に縛り付けるような真似は出来ないでしょう。それに、これからのあなたの人生に関わる話です。私が口を挟める道理がどこにあったものか」
憎々しくしさでどうにかなりそうだ。
弾かれるようにカウンターから立ち上がったマサキは、急く気持ちを抑えながらシュウの背後に回った。そのまま、変わらずに手を動かしている身体に寄り縋る。たった三ヶ月。されど三ヶ月。いつものように別離《わか》れたあの日から過ぎた日々は、マサキの中からその肉体の記憶を薄れさせてしまいつつあった。
忙しない日々の最中にあっては、思い出すのも稀。ふとした瞬間に欲しくなった温もりをようやく手の内に収めながら、マサキは思わずにいられなかった。
――当たり前だったものの大切さは、失ってから気付くものでもあるのだ――……。
ふと気を緩めようものなら、零れ落ちてしまいそうになる涙。その、切なさや口惜しさ、恋しさなどが入り混じった涙を、瞳に押し留めながらマサキは嫌だと呟いていた。
マサキ、と呼ばれる名前。シュウの濡れた手が、寄り縋るマサキの手に重なった。「疲れてしまったのですね、あなたは」独り言のように、物憂う声が言葉を吐く。
嗚呼、とマサキは溜息に近い息を吐いた。
慣れない生活に足を踏み入れて二ヶ月。覚えなければならないことも数多い日々にあっては、自分を振り返る時間も限られる。その時間のほぼ全てを、マサキはラ・ギアスへの郷愁に費やしてしまった。
繰り返し、繰り返し、擦り切れるまで繰り返し。
結論の出ないことばかり考えてしまっていたのは、ラ・ギアスという世界に捨てられたと認めるのが怖かったから。そう、マサキはこれまでの十何年の記憶を過去に捨て去ってしまいたかったのだ。前に進まなければと軍に居場所を求め、前に進まなければとリューネの求婚に胸を揺らがせ、前に進まなければとシュウにそれを話してみせたのも、誰かに強く背中を押して欲しかったから。
けれども前には進めない自分。それをマサキは目の前の男に対する執着心で知った。
「触れてもいい、マサキ?」
「良くなきゃなんで招き入れるような真似をするんだよ」
やんわりとマサキの手を解いたシュウが、有無を云わせずにその身体を抱き上げてくる。
何も答えを出せないまま行為に及ぶかも知れないことに、マサキは途惑いを感じはしたものの、欲望には打ち勝てそうにない。マサキはシュウの首に腕を回した。そしてそっと身体を寄せて、シュウに運ばれるがまま。リビングの奥にある二人掛けのカウチに、横たわって身を収める。
「ラ・ギアスに帰りたいですか、マサキ」
口付けをひとつ。額に落としたシュウが、マサキを凝《じ》っと見詰めながら尋ねてくる。
「……無理を云うなよ」
「あなたの気持ちを聞いているのですよ、マサキ。そこに無理も不可能もない。そもそもあなた方を都合良く利用して捨てた世界だ。憎くもあることでしょう。恨めしくも感じることでしょう。それでもあなたは帰りたいと望みますか」
地底と地上と。遠く隔たっても手放せないものばかりを、マサキはラ・ギアスでの生活で抱えてしまった。自らの手足となる愛機に、自らに心を寄せてくれる心強い仲間。愛しい義妹だってそうだ。決して幼くなくなった彼女が、ひとりで心細い思いをしているのではないかと思えば、胸が押し潰されそうになる。
そして、そうそして。マサキを見下ろしているこの男。
浚って、浚われて。奪って、奪われて。憎み、厭い、忌避し、それでも無視しきれずに、情けをかけ、自分でも掴み取れない感情に駆り立てられるがままに付き合いを重ね続けた男。シュウ=シラカワ。その名を刻むだけで、胸が疼く。あんな日々もあったと思うまでに過ぎた日々。忘れ去ることなど出来ない過去と想いを抱えながらも、マサキはシュウと肩を並べて生きる道を選択した。
キン……と耳が鳴る。嗚呼、まただ。低く、高く、遠く、近く、繰り返される呼び声が心をさんざめかせる。それはまるでさざ波のように寄せては返し、返しては寄せを繰り返した。揺らぐ世界。目の前で自分を見下ろしている男に重なり合う。それは、どちらもマサキをラ・ギアスでの生活への未練にしがみ付かせて止まないものだ。
「……――帰りたい」それ以上は言葉にならなかった。
堰を切ったように溢れ出た涙を、腕で覆い隠してマサキは泣いた。
似たような世界を求めてヤンロンたちを集めて軍に属してみせたところで、規律ある世界では自由には羽ばたけない。リューネの求婚《プロポーズ》に心が揺らいでしまったのも、宇宙で自由に羽ばたける翼が得られるかも知れなかったからだ。
命の遣り取りをしながらも、己の心の赴くままに。心を許せる仲間と激動の日々を生きたあの世界へ、ずっと。帰れるものならマサキは帰りたかったのだ。
シュウの手がマサキの腕を剥がす。
きっと、今の自分はみっともないくらいに頼りない顔をしているに違いない。ふと口を吐いて出そうになる嗚咽を喉の奥に押し込んで、マサキは面《おもて》を下げた。情けない表情を、この男にだけは見られたくない――。そのまま顔を背けようとしたマサキの頬をシュウの手が捉える。
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