本当に前言を翻してすみません!
書けるうちに書いておきたいと思ってやってしまいました! 30の物語です!
バレンタインネタは自分が予想していたより力が要る作業になっているので、疲労が限界を迎えている今はちょっと無理そうです。(納期が迫っている仕事がありまして、ある程度の算段を明日までに付けないといけない関係上、かなりハードに仕事をこなしている最中です)
三連休で頑張りますので、どうかお許しください。
と、いうことで、本文へどうぞ!
書けるうちに書いておきたいと思ってやってしまいました! 30の物語です!
バレンタインネタは自分が予想していたより力が要る作業になっているので、疲労が限界を迎えている今はちょっと無理そうです。(納期が迫っている仕事がありまして、ある程度の算段を明日までに付けないといけない関係上、かなりハードに仕事をこなしている最中です)
三連休で頑張りますので、どうかお許しください。
と、いうことで、本文へどうぞ!
<乾杯>
敵の最後の一機が、轟音を響かせながら大地に沈んだ。火花を上げながら崩れ落ちる外装。剥き出しになったボディフレームが、正魔装機の攻撃の威力を物語っていた。
敵の最後の一機が、轟音を響かせながら大地に沈んだ。火花を上げながら崩れ落ちる外装。剥き出しになったボディフレームが、正魔装機の攻撃の威力を物語っていた。
暫く援軍を警戒していたマサキたちは、静まり返ったままの戦場に、ようやく長い戦いが終わったことを知った。「いや……ったあ!」誰ともなく上がった歓声が、味方中に広まって辺りに木霊する。
「祝勝会だね、祝勝会!」
三度の飯より酒が好きなのではないだろうか。ベッキーが早速とばかりにパーティを提案してくる。「どうだい、マサキ。久しぶりにこれだけの面子が揃ったんだ」そこまで酒に強くないマサキは、普段はこうした誘いを受けたとしても、自分だけは酔わずに座を眺めていたものだったが、初動から一か月の長丁場の任務が終わったのだ。今回ぐらいは飲んでもいいだろうと、その誘いかけに応じることにした。
「そうだな、偶にはいいだろ。来るヤツは?」
マサキがそう尋ねれば、どうやら皆も同じ気持ちでいたのだろう。次々と参加の返事が届く。「最近、こうした機会もなかったしな」とヤンロンが云い、「帰りがけに料理とお酒を買いましょう」とテュッティが笑う。
「あんたたち、ホント飲むの好きだよねえ」
マサキ同様に余り量を飲まないリューネは、彼らが嗜む酒の量に思うところがあるようだ。「リューネは来ないの?」とミオが尋ねれば、「いや、行くよ。あんたたちが飲んでるの見てるの楽しいしね」との返事。
酒が入れば陽気になる者もいれば、酒を飲んでも余り変化のない者もいる。ベッキーやシモーヌなどは前者の代表だろうし、アハマドやゲンナジーは後者の代表だろう。とはいえ、後者の彼らも相当に口が滑らかになり、普段は聞けない話をあれこれ語ってみせたものだ。
いずれにせよ、リューネにしたところで、口ではああ云っても、いざ飲み始めればかなり陽気になる酒だったりする。日頃、周囲に堅苦しい印象を与えているヤンロンやファングにしても、酒が入れば上機嫌に物を語って聞かせるぐらい、魔装機操者の酒は陽気なものだ。
反面、デメクサなどは酒が入ると泣きやすくなったものだったけれども、彼の人柄もあってか、その涙はどこか滑稽だった。きっと今日も同じような展開になるのだろう。マサキはその場を想像して、思わず口元を綻ばせた。
ひと足先に買い出しに出たテュッティ以下魔装機操者たちとは別に、マサキはひとりセニアへの任務完了の報告をするべく、情報局へと向かっていた。
ひと足先に買い出しに出たテュッティ以下魔装機操者たちとは別に、マサキはひとりセニアへの任務完了の報告をするべく、情報局へと向かっていた。
ようやく長丁場の任務が終わったのだ。これでセニアも安心することだろうと思いながら、最上階の執務室へ。慣れた足取りで進んで行けば、既に第一報が入っているのだろう。情報局員たちから口々に祝いと労いの言葉をかけられたものだ。
「お疲れまでした、マサキ様。長丁場の任務になりましたが、無事に解決できたようで何よりです」
「手強い相手でしたが、制圧できたようでよかったです。マサキ様たちもご無事で何より」
それに軽く応じながら執務室に入れば、来客中だったようだ。セニアはホログラフィックディスプレイに現在の戦略画面を映し出しながら、こちらに背中を向けて座っている何者かと話をしているところだった。
「あ、悪い。特に何も云われなかったから、入ってきちまった」
「何も云われないということは、見えない客ということですよ」
その話しぶりだけで、振り返らずとも誰かわかろうというものだ。マサキは表情を渋くした。「何だ、お前か」手近な椅子を引き寄せて座る。いつの間にかすっかりセニアと結託するのが日常と化している男は、そこでようやくマサキを振り返る。
「長い任務に就いていたようですね。何でも一か月ほど解決にかかったとか」
「最初はただの政府と軍部とのストライキ交渉の立ち合いだったんだけどな。調べたら思わぬものが背後に潜んでいやがってさ……それを追いかけてたら、一か月もかかっちまった」
「無事に解決できたようで何よりよ。長かったものね、今回は」
だからといって画面を消す気はないらしい。セニアはそのままマサキと会話を続けるつもりなようだ。と、いうことは、今室内に映し出されている戦略画面は、これまでの任務とは関係ないものであるのだろう……シュウの存在といい、ホログラフィックディスプレイの戦略画面といい、決して平和な日々を予感させるものではない。マサキは渋くなった表情を戻せずにいた。
ようやく任務を終えたばかりの魔装機操者たちだ。パーティの最中に新たな任務を告げるのだけは遠慮したい。そう思っているマサキの考えが、その渋面から読み取れたのだろう。「大丈夫よ。これはね、あなたたちではなく、この男用に出したものだから」とセニアが笑った。
「そのとばっちりがこっちに来るんじゃねえかと思うとな」
「その可能性は否定できないけどね。まあ、多分、大丈夫じゃないかしら。この男のすることだしね」
艶やかな中にも無邪気さの窺える典雅な笑み。セニアはいつだってそうだ。そうして笑いながら、何事も気軽に云ってのける。けれども、それが必ずしも正鵠を射る結果とならないことは、長い付き合いであるマサキにはわかってしまっている。
安心しろと云われても、安心しきれない笑み。こんなに嫌な予感しかさせない組み合わせはそうないのだ。
「お前が頑張るから大丈夫、ならしも、他人任せじゃなあ。やっと長丁場が終わったばかりなんだ。全員、久しぶりの解放感に浸ってるんだぜ。それをまた次の任務だっていうのは、ちょっと」
「もし、あなた方の出番があったとしても、それはまた先のことですよ」
そんなマサキを気の毒に感じでもしたのだろうか。それとも、自身の力を軽んじられたことが気に障ったのだろうか。恐らくはそのどちらもの理由に違いない。シュウはセニアの言葉を引き継いで云った。
「今直ぐにどうこうという話ではありませんから、安心してください。それに、この戦略画面は周辺地域のパワーバランスを見る為に、出して貰ったものですからね。私たちが相手にしているのは、ここに映っている地域の影響を受ける存在です。ですから、実際にはそこまでの大事にはならないとは思うのですがね」
「そう云っておいて、話がでかくなるんじゃないだろうな。お前の仕掛けはいつもとんでもない規模の災害を引き起こすんだよ。この間は市場を大暴落に追い込んでたしな――……」
結局、マサキの渋い表情が和らぐことはなかった。
思い出せば思い出しただけ、厄介な事態しか脳裏に浮かばない。どんな些細な話も大きくしてしまう二人組。市場の高騰や暴落は日常茶飯事。巻き込まれた小さな複数の組織が、纏めて壊滅するのも日常茶飯事。やることの規模が俺たちの比じゃないんだよなあ、とマサキが云うと、自覚しているのかいないのか。そこはやはり従兄妹同士気が合うのだろう。ふたり揃って笑ってくれたものだ。
この気楽さは自ら戦場に出る機会がそうないからに違いない。
困った連中だとぼやきつつも、ある意味いつものことでもある。「まあ、今日明日どうこうって話じゃないってことは理解した」マサキがそう云うと、「だから暫くはゆっくりしなさいな」とセニア。
マサキは勧められるがまま。シュウとセニアのふたりを執務室に残して、ゼオルートの館へと戻ることに決めた。今頃はきっと座が盛り上がっていることだろうと思いながら。
「それじゃあ、行くよ! 一枚目ー!」
「それじゃあ、行くよ! 一枚目ー!」
ゼオルートの館にマサキが戻ると既に宴は始まっていて、とうに酔っ払っているらしいベッキーが、今まさにその身に纏っている衣服を脱ぎ出さんとしているところだった。
「止めろよ、本当に……」
最早、恒例行事となっているストリップショーを誰も止める気はないようだ。無理もない。これを止めようものならますます意地になって、脱げる隙を探しては、一枚、二枚とやりだすのだ。それを防ぐ方法は二つ。縛るか頭から水を掛けて無理矢理酔いを醒まさせるかしかない。
そんなベッキーを横に、いつものように床に直に座って、ゲンナジーやアハマド、ファングと円座を組んで飲んでいるヤンロンが、そろそろ気分が良くなってきたのか、
「心頭滅却すれば火もまた涼し、だしな」
「いやいやいや。そういう問題じゃないだろ。全員、ベッキーのあれに慣れ過ぎなんだよ。いいか、お前ら、仮にも女性がだ。今から脱ぎますって云って、本当に脱いでるんだぞ。もうちょっと何か思えよ」
「まあ、もう少し女らしければな……」とはファング。
「あれに胸が騒ぐほど、女に不自由はしとらん」
アハマドまでがこの始末。マサキはイスラム教には詳しくなかったけれども、アハマドが問題発言をしていることぐらいはわかる。「アッラーの神は随分と煩悩に寛大じゃねえか」云えば、ゲンナジーを除いて三人が声を上げて笑ったものだ。
どうやら、マサキが不在の間に彼らも相当に酒が進んだようだ。これは他の操者たちも当てにならないと思った方がいい。
かといってマサキがまじまじと見る訳にも行かない。視線をベッキーから外したまま、先ずは料理とテーブルに向かう。途中でソファでザッシュに絡まれているリューネが助けを求めているように見えもしたが、下手に割って入ってザッシュに恨まれては敵わない。さくっと無視して、マサキはテーブルの上の料理に手を伸ばした。
「お兄ちゃん、お皿使いなよ」
「腹が減って減って仕方ねえ」
プレシアが顔を顰める脇でフライドチキンを抓んで、ケーキを前に酒を飲んでいるテュッティとミオに話しかける。
「情報局にシュウがいたぜ」
「あら、何の用で」途端にテュッティの表情が引き締まる。「わざわざ云ってくるってことは、お茶をしに寄ったって訳ではなさそうね」
「お茶ではないのは確かだが、何を追っているのかはさっぱりだ。ただあいつが動くとな、こっちにとばっちりが来る可能性があるからな」
「折角、ゆっくり出来ると思ったんだけどなあ」
「また忙しくなりそうね」
「だったら、今の内に食べて飲んでおかないと」
ミオが料理に片っ端から手を付けるのを眺めながら、マサキもまたテーブルに着き、プレシアから渡された小皿を片手に料理に手を伸ばした。ミオの云う通り、食べられる内に食べて、飲める内に飲んでおかなければ……|風の魔装機神《サイバスター》に積んだ携帯食で凌いだこの一か月を振り返る。
あれは貧しい食生活だった。
来る日も来る日も携帯食を流し込む日々。決して不味くはないものの、種類の少なさが飽きさせる。稀に余裕がある時に食べた全員で作ったスープと、近くの町で買って来たパン。たったそれだけの食事が、どれだけ美味しく感じられたものか。
今だってそうだ。あの貧相な食事と比べたら、出来合いの料理の数々は御馳走以外の何者でもない。
マサキは目に付いた串焼きに手を伸ばして、プレシアが渡してくれたビールを飲んだ。
暫くは大丈夫だと云われているが、油断は禁物。シュウが動き出した以上は、いつ何処で彼らと鉢合わせするような事態になってもおかしくはなかった。
確信を持てるまで、自ら動かないのがシュウという男だ。
どういった繋がりをどこに見出したのかはわからないが、自らに敵する存在を決してそのまま放置しておいたりしない男が、確信を持って動くということはそういうこと。関係する全てを殲滅するまで、彼らの戦いは終わらないだろう。
それがマサキたちを巻き込む時代の潮流となるのか。その結果がわかるのは、これから先の彼らの動き次第だ。
「どうなるかはわからないが、今日はゆっくりと過ごすことにするか」
「そうね。今日ぐらいしかゆっくり出来ないかも知れないものね」
「そういや、マサキ。マサキが戻ってきたら、乾杯の音頭を取って貰おうって云ってたんだけど」
「もうそんな状態じゃねえだろ」
マサキは近くで三枚目と声を上げているベッキーを見ないように、ミオに視線を向けた。随分と顔が赤くなってはいるものの、まだ正体を失うほど酔ってはいないようだ。態度も確りと料理を食べ、酒を飲んでいる。
それと比べると、しどけなくグラスを傾けているテュッティは、そろそろ酔いが回ってきているのだろう。舌ったらずな調子で、「だったら、締めの挨拶でもする? どこかで区切りを付けないと、今日のあの人たちは延々飲むわよ」
「どっちも御免だな」
もし、これが束の間の休息であるのだとしたら……今日ぐらいは全員で酔い潰れるのも悪くない。だらだら飲んでだらだら喋る。魔装機操者たちにとっては、それもまた英気を養う手段のひとつであるのだ。
マサキはビールを飲み干した。そして、賑やかな酒宴を繰り広げている仲間たちを眺めながら、また別の料理へと手を伸ばしていった。
.
.
PR
コメント