副題「安藤正樹の長い一日」ですねえ、これは。
13行×32文字で60~70Pぐらいで終わらせたいところですが、さてどうなりますかねえ。っていうか、未だどこに旅行に行かせるかも決めてないんですよ、私。この行き当たりばったりな状況で今年のバレンタインネタは無事に済むのか!?
と、いうことで本文へどうぞ!
13行×32文字で60~70Pぐらいで終わらせたいところですが、さてどうなりますかねえ。っていうか、未だどこに旅行に行かせるかも決めてないんですよ、私。この行き当たりばったりな状況で今年のバレンタインネタは無事に済むのか!?
と、いうことで本文へどうぞ!
<すれ違いのSt.Valentine.>
どう見ても目が座っている。
その誘いを迂闊に断ろうものなら、何が起こったものか。底なしの恐怖を感じさせるザッシュの勢いに、気圧されつつあるマサキを助けるつもりなのか、「それはいいけど、その前に賊の討伐じゃないの、ザッシュ」と、ミオ。
「それなんですけどね」
魔装機操者としての任務は忘れていなかったようだ。ようやく離れたザッシュの手に、マサキは現在の詳しい状況をミオとともに聞くことにした。
賊は恐らく山賊。
この辺りを通りかかる輸送団などを襲っては、その荷物を強奪してシノギを上げていた彼らは、州立軍によって一週間ほど前に討伐されていた。かなりの規模の山賊だったらしく、首領以下数十名に及ぶ構成メンバーが、討伐戦で拘束されたそうだ。
「なら、その残党ってことか」
「恐らくは、そうなりますね」ザッシュは頷いて、「今朝方、近くの町を強襲した彼らは、複数の町民を連れ去ってこの廃坑に立て籠もりました。町からの通報を受けて、州立軍がここに到着したのが三時間ほど前のことです。彼らが拘束されている首領以下メンバーの解放を訴えているということで、ラングランに救援要請が入ったのが二時間ほど前。偶々僕は軍の用事でこちらに来ていたので、一時間ほど前に合流しましたが、人質の数が多く、迂闊に手が出せない状態です」
「んなもんさっさと片付けろよ。軍はお飾りじゃねえんだぞ」
「僕ひとりでやれることには限界がありますからね。軍でも訓練はしていますが、実践の機会はそうそうあるものではありませんし、ここはやはり経験豊富なマサキさんのお力をお借りしたいと思って」
「今日は大事な日なんだけどな……」
マサキは溜息を吐いた。
当然ながら人質救出の難易度は高い。救い出すまでの手間はさしたるものではないが、救い出した後の撤退戦が面倒なのだ。
無力な人質を連れての戦闘は、動きがかなり制限される。その上で人質の安全を確保しなければならない。高度な戦闘技術を要求される任務《ミッション》は、本来であれば短気なマサキには一番不適格な任務でもあったが、元来の戦闘能力の高さが幸いして、これまで甚大な被害を出さずに済んでいる。
「だからあたしを連れて来たんじゃないの?」
「いや……そういう考えじゃなく、単純に後のことを考えたらな……お前が一緒の方がいいと思って」
「本当に付き合ってないんですよね?」
「ねーよ! この期に及んでいい加減にしろよ、お前」
しかしチョコレート作りに必要だから、という理由にせよ、ミオを連れて来たのは正解だった。
反応速度が決め手となる魔装機戦と異なり、地上戦は純粋な戦闘能力で勝敗が決する。肉弾戦をこなせるミオに、剣術を使えるザッシュもいる。三人いれば、だれかしらが先陣を切れ、誰かしらが援護に回れ、そして誰かしらが人質の護衛役を務められる。ふたりだけで人質奪回任務をこなすよりは、役回りがはっきりするだけ、安心して戦えるだろう。
「それじゃあ、ここでうだうだ云ってても始まらないし、行くとするかね」
「行くの、マサキ? その前に、人質がどこに捕えられているか調べないの?」
「軍の連中が把握してるっていうなら、それに越したことはないが」
「斥候は向かわせましたが、廃坑の奥に捕えられているのではないか、ということぐらいしかわかってないですね。途中に数名の賊が陣取っている関係で、そこから奥には進めなかったものですから」
「ふうん。なら、そいつらをおびき出して一匹ずつ仕留めりゃいいな。あとは廃坑の地図があるなら目を通しておきたいところだが、山賊だのが入ってるとなると……あいつら勝手に縦だの横だのに穴を開けるからなあ……」
「三年前の地図ならありますよ」
「三年前じゃ絶対地形変わってるだろ。参考程度だな。ミオ、三分やるから頭に叩き込め」
ザッシュから受け取った古い地図を、マサキはミオに渡した。「こういうの、いつもあたしの役目よね」云いながらも、その役目自体に不満はないようだ。ミオはそれきり口を閉ざすと、地図を凝視《みつ》めている。
「俺に任せて道に迷ったじゃ笑い話にならねえ」
「一緒に行動してても迷いますしね、マサキさん」
ザッシュはザッシュで廃坑に乗り込む為の準備に余念がない。「ハンドガンとアサルトライフル、どちらがいいですか」どうやら念の為に副装備として銃を持って行くつもりのようだ。
「結局、使わないだろ。いつも」
「備えあれば憂いなし、ですよ」
そうして、数分。軍の予備装備品の中から銃を選んでいるザッシュの側で、ミオが地図から顔を上げた。
「三分経った?」どうやら暗記を終えたらしい。
彼女の記憶力は莫迦にならない。特にこういった状況下での記憶力には目を見張るものがある。戦場での方向ガイドは、彼女に任せておけば安全だと云い切れるぐらいだ。それほどに、マサキはミオの記憶力を信頼していた。
何丁かの銃を選んだザッシュがその装備を終える。腰や背中に重り《バラスト》が増えるのは、マサキとしては動き難くなるのが嫌だったものだが、そこは軍人。これまで相当に鍛えられてきたのだろう。何キロもの重みをものともせず、「そろそろ行きますか?」と全く気負いを感じさせない口調でザッシュは云ったものだ。
そうだな、とマサキはそれに答え、ふたりを後ろに。
廃坑に向けて、一歩足を踏み出した。
.
.
PR
コメント