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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

心のままに(後)
遅くなりましたが更新です。もうちょっと字数をかけるべきだったと反省している面もあったりもするのですが、やりたかったことは全部詰め込めたので私は満足です(*´∀`*)
 
明日は病院につき、この三日間と同様にあまり作業時間が取れません。それが終われば四連休。拍手ネタや私が書きたい今回のお祭りネタを執筆して過ごそうと思っています。では本文へどうぞ。
<心のままに>
 
 見えない力に引き摺られるように、シュウの身体はマサキの精神世界を駆け上がっていった。ノイズまみれの映像《ビジョン》……永遠の青……歪む世界……太極図を従えた曼荼羅の世界からたった十数秒。シュウはマサキの精神の表層にまで戻されてしまっていた。
 靴屋にいるらしいマサキが未だに何足もの靴を目の前にして悩んでいる光景を、その精神を通じて眺めながら、それでもマサキの精神そのものから弾き出されなかっただけまだ良かったのだとシュウは己を慰める。そして、今さっき見てしまったものを振り切るように、視界に並んでいる靴を見比べた。グレー、ブラウン、キャメル、ダークレッド、ブラック……ブーツを履かないシュウにはその履き心地の違いはわからなかったものだが、紐で結ぶタイプのブラウンのブーツは作りがしっかりしていて、操縦席の衝撃にも耐えられそうに見えた。
(魔装機の操縦をするなら作業用の鉄板入りブーツの方がいいんだけど、その代わり重いしな。普段使う靴だったら軽くて履き心地のいい方がいいし……)
 いっそのこと全部買ってしまえばいいと彼の懐具合を知っているシュウは思ったものだが、マサキとしては使わない物が家に溢れるのが嫌なようだ。履き心地ではグレー、デザインではダークレッド、残りの三色は色が気に入ったようだが、どれも決め手に欠けるようで、試し履きしては戻すを繰り返している。
 物事をきっぱりと断じてみせる割に、マサキは何かを選ぶのが苦手だ。例えば食事のメニューひとつ取ってもそう。先程のバーガーショップでも、どの種類のハンバーガーにするかで先ず五分。セットの飲み物をどれにするかで三分ほどかかっている。好き嫌いのはっきりしなくなるものほどその傾向が顕著になる辺り、どうやらマサキは選択肢が増えれば増えただけ、どれにするか決められなくなる性格であるようだ。
 ――二、三足買ってもいいのであれば、そこまで悩まなくともいい気もするのですがね……
 自分がその精神の最底《さいそこ》を覗いて戻ってきても決まっていなかった買い物に、物事を慎重に判断する割には何かを選ぶのは早いシュウは呆れ半分。そういった面でシュウは気忙しくあるのだろう。もどかしくて仕方がない。だからこそ、「魔装機の操縦用に作業用のブーツを一足、普段遣い用に履き心地とデザインと色合いが妥協できるものを一足買えばいいのは?」届かぬのを承知で口を挟めば、
 ――な……お前……どこに……。
 店内を探るようにマサキの視線が動いた。シュウの姿を探し始めるマサキに、「私の声が聞こえるのですか、マサキ」と訊ねてみれば、微かではあったものの、頷いているのが肉体的な感触でもって伝わってきた。
 どうやら、マサキの精神世界に深く潜ったことが影響を及ぼしたようだ。シュウは手短に自分の状況を説明した。魔術を使ってマサキに精神体を憑依させたこと……術の効果時間が切れるのがいつになるかはわからないこと……故に、マサキの見ているものが見え、マサキが考えていることが聞こえてしまうこと……シュウの説明を聞いたマサキは怒るかと思いきや、はあ、と溜息を洩らすと、
(お前さ、人間離れしてるとは思ってたけど、ついにそこまで……)
 失礼な物言いもあったものである。
(っていうか、俺の考えが全部伝わってるんだよな。何だかな。テュッティたちへの愚痴とか全部聞いていやがったのかよ)
「いつも私に聞かせている以上のことを考えていたのですか、あなたは。その内容を知りたくもありますけれど、それはまた今度の機会にしておきましょう」
(ああ、畜生。藪蛇だったか)
 起こってしまった事態の望外さが、マサキを却って冷静にさせてしまったのだろうか。マサキはシュウが自分の身体の中に存在していることに呆れはしているものの、それ以上に何かを感じることはないようだ。マサキの逆鱗に触れずに済んだのは幸いではあったが、すんなりと事態を受け入れられてしまうのもシュウとしては面白くない。自分のことながら困った性格だ、と己の心の有り様にシュウは思う。
「ところで、マサキ。どのブーツにするか決めたのですか」
(だから悩んでるんじゃないかよ)
「私の言葉を覚えていますか」
(覚えてるさ。だけどブーツだけじゃなくて、スニーカーとローファーも欲しいんだよ。でもそんなに靴を持ってても、履く機会がな……)
「きちんとした値段の靴を買って、きちんと手入れをすれば、機会がなくとも長く履けますよ」
(どうせ履き潰すものにそこまで金をかけるのもなあ)
 迷い易い性格でありながら、面倒臭がりでもあるのだから始末に負えない。この調子では買わずに帰ることも有り得そうだと思ったシュウがマサキを説得すること暫く。結局、マサキは魔装機の操縦用に作業用ブーツを一足、普段履きにシュウが推したブラウンのブーツを一足、そしてハイカットのスニーカーとブラックのローファーを一足ずつ購入した。
(これだったら、お前のところに行けば良かった。こういうのを選ぶの苦手なんだよ。誰かに決めてもらった方が楽だ)
 ついでと袖口に汚れが目立ち始めていた上着を新しくさせたシュウに、午後いっぱいかけての買い物を済ませたマサキはそう云ってくれたものだが、それでは早急に術の効果を確かめるという目的が達成できなかったのだから、人生とはげに巡り合せだ。
「きっと今日あなたに来られても、私は気もそぞろでまともに相手が出来なかったと思いますよ」
(そんなにその術の効果を試したかったのかよ。それで俺のところに来るって、お前の世界ってどんだけ狭いんだ……まあ、いいけどな。それにしてもお前、いつまで俺の中にいるんだよ。夕食の時にもお前の声が聞こえてくるんじゃ、テュッティたちの言葉がわからなくなるんじゃないか)
「そういった時ぐらいは大人しくしていますから大丈夫ですよ、マサキ」
 主人の長い買い物に待つのも使い魔の仕事とはいえ、マサキの長い不在に二匹の使い魔たちは、すっかり退屈を覚えてしまっていた。サイバスターに戻ったマサキの持つ荷物に、興味津々。何を買ったのかだの見せてだのと騒々しい。それをいなしつつ帰路に付くマサキに、シュウは静かにマサキの精神世界から見える情景を眺めるだけにして、なるべくその声が届かないように意識を抑える。
 ここからの時間はマサキの日常だ。イレギュラーな存在の自分がいつまでも干渉していい世界でもない。
 悪戯心に火が点いてしまったのは、マサキが夕食を終えてバスルームに足を踏み入れたときだった。和やかなゼオルートの館での夕餉の時間に、ひとりでの食卓が常なシュウは安らいでいた。取り留めのないマサキの思考も心地よい。仮眠だけでマサキに憑依を試みたシュウは疲れが出始めていたのだろう。時々、その心地よさに誘われるようにふっと意識が沈むことが増えていた。そんなつらつらとした微睡《まどろ》みの中、やけに明瞭《はっき》りと響いてきたマサキの声。
(シュウ、いるのか?)
「残念ながらまだいますよ」
(大人しいからもういなくなったのかと思った。正直、かなり驚いたけど、こういうのもいいもんだな。話したいときに話せる相手がいる……)
 シャワーを浴びながら身体を洗っているマサキの指先から微かに伝わってくる彼の肌の温もりと、その言葉がシュウの決心を揺らがせた。触れたい。強烈な渇望に、シュウは自らの意思でもってマサキの身体が動かせないか試みてみることにした。
 思えばそういった事態を考慮して、シュウは自らの精神体を直接的に動かそうとは考えてこなかった。マサキの精神の奥に潜り込んだのも意志の力でだった。けれども、僅かながらも伝わってくるマサキの身体からの感覚。これでどうしてその身体を動かせないと思うだろう。
 あ、とマサキが声を上げた。
 指先に感じるマサキの肌の感触が、自らの思い描いた場所に動くのをシュウは感じ取った。(馬鹿、お前、何を考えて……)その言葉に答えずに、シュウは肌を滑らせた指先をマサキの胸の突起に這わせる。その瞬間、ぴくり、とマサキの身体が震えた。
 ――やだ……止めろって、シュウ。それ、俺の手……
 わかっていますよ、と言葉を返しながらも、指先で触れ続ける。少しもすると、マサキが緩い快感に支配され始めたのが、彼の精神や心の中の声から伝わってきた。こうなると愉しくて仕方がない。更にシュウはマサキの乳首を、彼の手で責め立てた。
 ――やだ、やだ、シュウ、止めろって。
 抗うように首を振ったマサキが、よろけるようにバスルームの壁に背中を付く。それをシュウは阻まない。その代わり、マサキの手の自由は奪ったまま。シュウはしつこくもつんと硬く天を仰いでいる乳首を嬲った。
 抓んだ指先を擦り合わせるように動かしてみせれば、背をしならせて甘ったるい息を吐く……指の腹で円を描いてみせれば、俯いて全身を震わせる……シュウの愛撫に素直なマサキの身体は、シュウがかけた時間を物語っていた。
「あなたの嫌だは気持ちいいの間違いでしょう。ほら、マサキ。これで上手く達《い》けたらご褒美ですよ」
 いやだいやだと口で嘯《うそぶ》いてみせながら、マサキは快感に従順だ。シュウが少し触れただけでも面白いように身体が反応する。永遠の青。鮮烈な世界。その精神に抱えている豊かさを感じさせないぐらいに乱れてみせるマサキに、シュウは胸の内でひっそりと嗤《わら》った。
(イク……イクって、シュウ……も、出る……)
 そうして、マサキの身体を思いのままにする快感を、シュウが思う存分味わい尽くした果てに、絶頂《オーガズム》を迎えたのだろう。突然、シュウの視界と感覚からマサキの世界が消失したかと思うと、次の瞬間には見慣れた自分の部屋。倒れ伏していた己の身体の中で術の効果が切れたことを察したシュウは、穏やかながらも激動だった一日を振り返った。
 広く鮮やかなるマサキの精神世界。その奥底にあった曼荼羅と太極図。誰しもの中にあるものだと、アンティラスを名乗る存在は云った。恐らくあれは世界の根源であったのだ。マサキの中にあるそれに触れられただけでも、今日という日に収穫はあった――……
 どうやらそのままシュウは眠ってしまったらしかった。
 どのくらいの時間、眠っていたのかはわからない。乱暴に叩かれるドアの音で目を覚ましたシュウは、闖入者の正体を予想しながら、身体を空けている間の大事を防ぐために締めていた自らの部屋のドアの鍵を開けた。同時に振り上げた腕のやり場を失ったマサキが、案の定、勢いよくシュウの胸に倒れ込んでくる。
「どうしたの、マサキ。ご褒美が欲しくなったの」
 その身体をきつく抱き締めて、シュウはマサキに囁きかけた。「お前は直ぐそうやって……!」異論を口にしかけたマサキの口をシュウは塞ぐ。抵抗する身体を押さえ込むように、深く口唇を合わせて、舌を長く絡め合わせると、少しもしない内に大人しくなる。そんなマサキが愛おしい。
「……いきなり消えれば心配もするだろ。何なんだよ、本当に」
 見てしまった世界に対する興奮が、自分をこれだけ貪欲にさせているのだと知ったら、マサキはどう感じるのだろう。
 人の精神には無限の世界が広がっている。マサキの精神世界もそのひとつ。けれどもシュウにとってマサキのそれは、何も代え難いほどに輝けるものであるのだ。それを思い知ったばかりのシュウは、無言でマサキの身体を抱え上げると、抑えきれない興奮を鎮めるべく、彼をベッドに連れ込んだ。
 
 
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