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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

悔恨【追記アリ】
番組の途中ですがパート2。

いつもマサキから見たシュウばかり書いているので、偶には他の魔装機神の面子から見たシュウを書きたいと思った〇〇から見たシュウという男シリーズ。LONGINGではミオからの視点、蝿の王ではテュッティからの視点を書いたので、最後はヤンロン視点でと思いました。

ただ、白河と話をさせることは出来なかった……

何かこのふたり、本気で話をさせようとすると、絶対に殴り合いの喧嘩が始まりそうな気がしませんか? この程度の文字数で書いちゃいけないものになる気がするので、今回はこんな感じでお茶を濁してしまいました。すみません。と、いうことで本文へどうぞ!
<悔恨>

「変わりたくなければ、変わらなければいいんじゃないか」
 長いようで短かった沈黙の後にそう云って、マサキは調整の終わった|風の魔装機神《サイバスター》へと乗り込むべく、機体の周囲に張り巡らされた足場を上り始めた。
「なあ、ヤンロン。俺は思うんだけどな、誰もが皆、同じ方向を向いてる世界ってのは、それはそれでつまらないもんだ。誰かが右を向けば右、左を向いたら左って、そんな世界に何の意味があるんだろうな。だから、それぞれの向いている方向が違っていても、最終的に向く方向が一緒なら、それでいいと思う」
 足場の頂点へと辿り着いたマサキは、そうして頭部が開かれて剥き出しになっている操縦席へと身を収めると、
「あいつが自分のしたことを許せるようになる為にも、ウェンディのような人間は必要だし、あいつが自分のしたことを忘れない為にも、お前のような人間は必要だ」
 二匹の使い魔に命令を出しながら、最終的なチェックを始めたマサキに応えるように、サイバスターが低く唸り声を上げ始める。
 だったら、お前は――とは、ヤンロンは聞けなかった。
 何も知らなかった少年は、大きな時代の流れに飲み込まれて、しなやかにその精神を変容させていった。未熟ながらも時に達観した老人のような成熟を見せるマサキは、そうした元からあった己の性質を、戦いの中で更に助長させていったようだ。だからマサキは、ヤンロンのようにいつまでも過去に囚われるような真似をしなくなっていったのだろう。
「お前は何を見たんだ、地上で」
「変わらねえよ、お前と。戦争の真実なんて、どこでも一緒だ」
 どうやら調整が上手く行ったようだ。メンテナンスが終わった以上、長居をするつもりはないのだろう。ゆっくりとサイバスターの頭部が閉じ始める。それを待っていたかのように、終わったわよ、ヤンロン。と、セニアの声が響いてきた。
「変わろうと思って変わるもんじゃねえよ」
 サイバスター同様に足場に囲われたグランヴェール。ヤンロンは己の愛機に乗り込むべく、その足場を上り始めた。横目でちらとサイバスターを窺うと、その周囲からは早くもローリングキャスターが取り払われようとしている。
「気付いたら変わってるもんだ」
 その言葉を最後に、サイバスターの頭部が完全に閉じる。
 そしてマサキはそれ以上の言葉を吐くことはせず、そのまま。広いラングランの世界へと、サイバスターを疾《はし》らせて行った。
 今しがた、マサキとしたばかりの会話を反芻しながら、ヤンロンは調整を終えたグランヴェールとともに、ラングランの大地を駆けていた。予定外のメンテナンス作業は、さしたる時間もかからずに終わったものだったけれども、その原因となった戦闘においては完敗と呼ぶに相応しい立ち回りしか出来なかった。
 サーヴァ=ヴォルクルス。
 セニアの命で単身遺跡調査に向かったヤンロンの目の前に、突如として姿を現したヴォルクルス。どうにか倒しはしたものの、その戦闘内容はヤンロンには到底納得の出来るものではなかった。
 だから、ではなかったが、ヤンロンは彼を思い出してしまった。圧倒的な力で、自分たちが操る魔装機神の前に立ちはだかってみせた男。王都を壊滅に導いた男は、今もラ・ギアス世界の何処かに居る。その現実はヤンロンの自尊心《プライド》を打ち砕くのだ。お前はどれだけ無力な存在であるのか、と。
 ――お前は、シュウのことをどう考えているんだ。今の奴がどうであれ、過去に王都を壊滅に導いたことに変わりはないだろう。それを焚き付けるような真似をしてみせたり、手助けをするような真似をしてみせたり。僕には、お前が何を考えてそうするのかわからない。
 だからこそ、ヤンロンは八つ当たるようにマサキに言葉を叩きつけてしまった。ヤンロンはただ、彼がどうしてシュウを赦すに至ったのかを知りたかっただけなのだ。自分の知らない時間、シュウを追いかけ続けた少年にしかわからない答えがあるのだと。
 ――何も思わない筈がないだろ。
 それに対するマサキの返事は、ヤンロンには到底納得出来るものではなかった。それは地上世界での彼らの関係が、劇的な変化を齎すものではなかったと、容易に想像出来てしまうようなものであったからだ。
 マサキはマサキで蟠りを抱えてしまっている。だのにあの少年は、その上で前に進むことを選んでみせた。
 ――でもな、ヤンロン。お前だったらどうする。あいつらの立場に立たされたら。
 ラングランの内乱が終結してから大分経つ。シュテドニアスやバゴニアとの決着も着き、今のところ、ラングランの平和を脅かすものは何もない。セニアは戦後処理に多忙な様子ではあったが、彼ら政治に携わる者たちはそれが本来の仕事でもある。戦士たるヤンロンたち正魔装機の操者たちの出番は終わったのだ。
 束の間の平和を噛み締めながら、それでもヤンロンは有事に備えて日々の鍛錬を怠らなかった。
 それがヤンロンたち戦士たるものの当然の嗜みでもある。ひとつの戦いが終われば、次の戦いが待つ。ラングランに召喚されてから激動の日々を送って来たヤンロンは、僅かな気の緩みがどういった結果を齎すのか、わかり過ぎるぐらいにわかるようになっていてしまっていた。
 だからこそ、ヤンロンは安易に身体を休めるような真似はしない。
 自分の力を伸ばさなければならない必要性を感じていたヤンロンにとっては、ヴォルクルスさえもいい切欠だ。終わったばかりの調整の確認もしたい。ヤンロンはグランヴェールを使った戦闘訓練を行える場所に移動することにした。
 開けた平原の只中で、この辺りなら丁度いいだろうかとグラフドローンを呼び出そうとしたヤンロンは、しかし次の瞬間。さしたる距離もない方角から、戦闘音が聴こえてくるのに気付いて、コマンドの入力を止めた。
 グランヴェールの有効視界範囲を広げて索敵する。右に左に展開する視界を見渡して、僅か。大した時間もかからずに方角を特定したヤンロンは、その方角にグランヴェールを向かわせて、それを目にしてしまった。
 大量のデモンゴーレムに囲まれた、青い戦闘用|人型汎用機《ロボット》。かつてラングランを危機的状況に陥れた元大公子は、どうやらデモンゴーレムの数の多さに苦戦を強いられているようだった。
 もしかすると何某かの兵器や性能のテストを行っている可能性もあるが、多勢に無勢ということもある。戦場に於いては圧倒的な力を揮って敵機を蹂躙する|青銅の魔神《グランゾン》ではあったが、その評価に見合った力が毎回発揮されるとも限らない。ヤンロンの愛機、グランヴェールとて、調子の悪い時にはグラフドローンの群れに苦戦するのだ。
 けれども……ヤンロンはグランヴェールを動かすのを躊躇った。
 彼にはそんな良心は通用しない。ヤンロンはそんな気がしてならなかった。手助けをしようものなら、手酷い裏切りに合いそうな……先の戦乱の最終決戦に於いて、マサキの呼び掛けに応じて正気を取り戻してみせた彼。その精神の危うさは健在であるのだ。
 マサキはだからこそ、彼を放置しておいてもいいと思ったのだろう。
 けれどもヤンロンは違う。だからこそ放置してはおけないと思ったのだ。
 自分でしたことの責任は、きちんと目に見える形で取らせなければならない。それがどういった形になるかは、犯した罪の大きさで変わることであろう。彼はラングランを混沌に陥れた。その建て直しにどれだけの犠牲が払われたことか。それは彼の命ひとつで、償いきれるものではない。
 罪に対する罰は甘んじて受けなければならないものなのだ。
 そうでなければ、それによって被害を被った人々が報われないではないか! 自分たちの力が何の為に与えられているのかと云えば、それは無力な彼らを救う為であるだろうに!
 だのに、ウエンディとシュウの本質は同じ。そうマサキは云ったのだ。
 ――お前は赦す、と云うのか。
 ――赦すんじゃねえよ。過去は変えられないんだ。
 だから前に進むしかないのだと、そこにしか答えはないのだと、マサキは云ったのだ。
 先史時代より生きながらえ続ける魂、破壊神サーヴァ=ヴォルクルス。並みの戦士では歯が立たない強大な邪悪に、未だに精神を囚われることがある男。彼に対する処遇を、未来に委ねると――……。
 そこまでヤンロンが考えた刹那。離れた戦場から、重い重力波が飛んできた。
 離れていてもこの威力だ。グランゾンの周りを囲んでいるデモンゴーレムなど、ひとたまりもないだろう。余計な杞憂をしてしまった自分を恥じるように、ヤンロンは戦況の結果を見ずしてその場を去ることを決心する。
(僕は未だ、前に進む決心は出来そうにない――……)
 そう心の中で呟いて、そんな自分の鬱屈する気持ちを晴らすように、彼とは逆の方向へ。ヤンロンは気付かれぬ内にとグランヴェールを高速で疾《はし》らせていた。


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