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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

Night End(6)
諸君、私はモニカを格好良く書くのが好きだ。

公式ではぞんざいな扱いを受けているような気がするんですよね、モニカって。不憫枠というか。だから、王女様らしいモニカが見たい、という気持ちが常にあって。いやまあ、今回の本編とその話は何も関係ないんですけど。

そんな私のストレス解消物語でもあるということで、本文へどうぞ。
<Night End>

 そこからは、殆どモニカが一方的に話すのを。マサキがただ聞くだけの流れとなった。
 無理もない。裏社会では過去の経歴には極力触れないのがマナーだ。マサキには情報局に作って貰った経歴があるにはあったが、それはここに雇われる為に必要だったからこそ。そこでどういった出来事があったかといった細かい設定までは与えられていない。
 それをモニカは見越していたのではないだろうか。
 迂闊に突けば襤褸が出る身であると。
 マサキが腹芸が苦手なことを知っているからこそ、敢えて気を利かせてくれただけなのかも知れなかったが、いずれにせよ、モニカはモニカなりにマサキを窮地に追い込まぬようにと、機転を利かせた立ち回りをしてみせたのだ。
「他の方は、わたくしのことをあれこれ聞きたがるのに、おかしな方でしたわ」
 三十分が経過して、例の男が扉を開けると、駄目押しとばかりにモニカは云った。「けれども、偶にはこういった方とお話しするのも楽しいものですわね」
「なら、次はもう少し話せるように仕込んでおいてやろう」
 男はそう云って、マサキに外に出るように促すと、鉄の扉を閉めた。
「いや、傑作だった。あんたみたいな対応をした男は初めて見た」
 モニカにああまで云わせたマサキの態度が気に入ったのか。男は自分の持ち場に戻るのは後回しと、扉を閉じた後もマサキの元に留まり続けるつもりなようだ。
「そんなにどいつもこいつも王女様に媚びたのか」
「媚びるというよりかは、あれだ。興味を持ち過ぎる。仕方のないこととはいえ、そういった奴らにこの高額商品は任せられん。あんたは逆に興味を露わにしなさ過ぎて怖いくらいだがな」
「興味はあるが、あれこれ詮索するのは好きじゃない。商品、なんだろ」
「その通りだ」
 それまでにこやかに笑っていた男の表情が、途端に引き締まった。組織の内情にもそれなりに通じている男は、長く組織に属している人間なのだろう。切り替え方に無駄がない。
「情けを掛けない為に、敢えてそうしてるって云うなら、あんたには長くここに留まっていて欲しいもんだな」男はようやく、通路の反対側へと足を向けた。「使えない奴が続いてうんざりしてたんだ」
 その男の背中を見送りながら、マサキは姿勢を正す。
 モニカからあれだけのフォローを受けるとは思ってもみなかったマサキは、だからこそなんとしてでも目的を達成しなければならないと気持ちを新たにした。最低でも情報局員の消息は掴んでみせる。その為には、マサキの前任だった番人について探る必要があるだろう。それによって、彼らの組織での裏切り者の始末の仕方がわかる筈だ。

 モニカと話が出来た以外は何事もなく、二日目の仕事が終わった。
 モニカもあれ以上の我儘を口にすることもなく、ただ与えられた房の中で刺繍をして過ごしたのだろう。マサキが食事を運び込む度に、少しずつ模様が露わになっていった刺繍。朝には針を通したばかりだった布は、夕食時には三割以上の模様が縫い込まれていた。
 男の話だと、既に五枚は完成させたらしい。その内の四枚はクッションカバーとして仕立てられて、この館のソファに収まっているそうだ。
 それだけの長い時間、組織に囚われ続けているモニカ。
 その理由を男はマサキにこう話した。
 ――もっと高値で売りたいんだとよ。
 決して買い手がいないからではないのだ。神聖ラングラン帝国の元王女。専制君主制下において第二位の王位継承権を持っていたという事実は、マサキが想像しているよりも諸外国から高い評価を受けているらしい。国を超えての申し出も多いモニカという高額商品は、けれども、もっと高値で売りたい組織の上層部の思惑通りには、値が付かない商品でもあった。
 ――欲を掻きすぎなんだろうな。俺なんかはもう充分過ぎる値が付いてると思うがな。
 男はそう云って、マサキにその値段を耳打ちして教えてくれた。
 奴隷の中でも高額で取引される性奴隷。出自が良ければいいだけ高値になる。最上級は当然ながら貴族階級の出の者たちだ。それが軽く百人は買える値段が飛び出したものだから、覚悟を決めていた筈のマサキですら思わず声を上げたものだ。
 しかし、よくぞそれだけもの期間、あの狭い房の中でひっそりと過ごせたものだ――。マサキはベッドの中で天井を見上げながら、それなりに成果のあった今日を振り返っていた。
 前任の番人がいなくなった理由に、モニカがいつまでも房にいる理由。情報局員の行方に関する決定的な情報は手に入らなかったものの、さしたる情報を持っていないマサキにとってはどちらも有益な情報だった。それもこれも、腹芸が得意ではないが故に黙ることを選択しがちなマサキを、あの男が気に入ってくれているからだ。
 コツン、コツン、と窓の鳴る音。
 風が出てきたのだろうか。マサキは細く開いたままの窓をきちんと閉めるべく、ベッドから身体を起こした。そして、いつの間にかそこに居た|青い鳥《ローシェン》を目の当たりにして、成程、そういうことかと、口元を歪ませた。


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