リクエストを頂きました「無人島に流されるシュウマサ」の前編です。今回は流されるところまで。もっとさらっと流すつもりだったのですが、気付いたらこんな長さに。汗
LOEの頃は観光産業ってラングランにはないのかなー、と思っていたりもしたのですが(胞子の谷や海水浴の描写を見ても、観光産業が栄えているようには思えなかったので)、スパクロの動画で見てしまった街の栄えっぷりを見たら、むしろない方が可笑しくない? と考えを改めるに至りました。
で、出来上がったのが、こんな長い前置きだったりします。相変わらずの俺様設定で申し訳ございません。ファンタジーどこ行った。m(_ _)m マサキに命の洗濯をさせたかったのです。
後編では(この設定である以上は限られた時間になりますが)ちゃんと無人島生活をさせようと思います。とは云っても、サバイバルにはならない予感がひしひしとしますが……と、いうことで本編へどうぞ!(*´∀`*)
LOEの頃は観光産業ってラングランにはないのかなー、と思っていたりもしたのですが(胞子の谷や海水浴の描写を見ても、観光産業が栄えているようには思えなかったので)、スパクロの動画で見てしまった街の栄えっぷりを見たら、むしろない方が可笑しくない? と考えを改めるに至りました。
で、出来上がったのが、こんな長い前置きだったりします。相変わらずの俺様設定で申し訳ございません。ファンタジーどこ行った。m(_ _)m マサキに命の洗濯をさせたかったのです。
後編では(この設定である以上は限られた時間になりますが)ちゃんと無人島生活をさせようと思います。とは云っても、サバイバルにはならない予感がひしひしとしますが……と、いうことで本編へどうぞ!(*´∀`*)
<楽園>
旅行の予定を組んでいたのだと云う。
ラングラン衛生兵であるらしい友人との女ふたり旅が流れてしまったのは、彼女の方に急遽大規模演習の招集がかかってしまったからなのだとテュッティ=ノールバックは云った。
それも旅行の一週間前に。
それほど思い入れのある観光地でもなし。ましてや目的が、「私はただ彼女と女同士の気楽な旅を楽しみたかっただけなのよ」とあっては、気乗りがしなくなるのも仕方がない。かくて、「五割でいいから」と頼み込まれたマサキは、そのぐらいの値段で済むのなら、と、二泊三日のホテルチケットを観光マップ付きで購入した。
どうやら今からのキャンセルだと、ホテル代は全額が利用者側の負担になるらしい。だから五割の破格値なのだと熱弁するテュッティに、それだったらむしろ五割はぼったくりなんじゃないかと、代金を支払ってからその事実を聞かされたマサキは思ったりもしたものだが、まさか今更、それだったら三割にしろとも言い出せない。
「あなたも偶にはひとりで羽根を伸ばしたいこともあるでしょう」
そんなテュッティの都合のいい文句に送り出されるようにして、当日。小ぶりのナップザックに着替えの衣類を詰めたマサキは、シロとクロの二匹の使い魔とともに、公共の交通機関を使って州を超えて南へと。六時間ほどかけて、海沿いの観光地に向かった。
任務で北だ南だ東だ西だとラングラン全土を訪れている割には、一向に改善の兆しが見えない方向音痴。ナビゲーションシステムのある魔装機に乗っていても迷えるマサキが迷ったが最後。永遠に目的地に辿り着けない可能性がある。
マサキは徒歩での移動をなるべく避け、交通機関に全てを任せることにした。乗り換えは最小限。駅からの移動はタクシー。その甲斐はあったようだ。多少のタイムロスはあったものの、奇跡的にも迷うことなく無事に目的のホテルに到着出来たものだ。
観光地だけあって、巨大なリゾートホテルが海沿いに建ち並んでいる。マサキが宿泊する予定のホテルも十階建てで、プールにスパ、バーラウンジやカラオケボックスといった娯楽施設が充実しているとの話だ。「観光せずにのんびり過ごすだけでもいいところよ」と、テュッティが云っていただけはあった。マサキはフロントにホテルチケットを差し出して部屋のキーを受け取ると、渡された案内図に従って、自分に割り当てられている部屋に向かった。
女ふたり旅の割にとはいえ、潔癖なきらいのあるテュッティにツインルームは難しかったようだ。並びで取ったと聞かされているシングルルーム。どうやら友人たる彼女の方は、知人にチケットを譲るでもなく、ホテルをキャンセルしたとのこと。つまり、余程の偶然でもない限り、マサキが知っている人間と顔を合わせる可能性はない。
観光地くんだりまで来て、軍の人間と鉢合わせなどという事態は避けたいものだ……マサキが部屋に入る直前に確認してみたところ、隣の部屋のドアノブには空室を示す札が掛けられていた。それなら、今日は多少使い魔たちと騒いでも迷惑にはならないだろう。そう思いながらマサキがようやく部屋に足を踏み入れれば、南向きに広がっている窓から絶景のオーシャンビュー。
「わあ、凄いのね!」
「海しか見えニャいんだニャ!」
せり上がるエメラルドグリーンの海が地平に伸びゆく雲の合間に消えゆく。ベッドの上にナップザックを置いたマサキは、窓にへばりついてわあわあ騒いでいる二匹の使い魔の後ろから、改めてその景色を眺めてみた。
窓一面に広がる海と空と雲。その片隅に、晴れた空の中。渦を描くようにして溜まっている黒い雲がある。
「あれはニャんニャんだニャ?」
「あそこだけ雲が黒いのね!」
どうやらあれがテュッティの云っていた、この観光地最大の観光スポットのようだ。
穏やかな気候が常たるラングランで嵐が観測出来る絶海の孤島。島を中心として周辺10キロほどの海上は、気流の関係で雨雲が溜まりやすく、時化に見舞われ易いのだそうだ。どのくらい時化に見舞われ易いのかと云うと、晴れの日に島に上陸出来た者には人生の成功が約束される、と地元で言い伝えられているほど。何せ島が晴れの日を迎えられるのは、年間を通して十日にも満たない僅かな日数のみ。それは州外からも人が訪れるほどの観光スポットにもなるというものだ。
「島近くまで観光船が出てるらしいぜ。明日にでも見に行ってみるか?」
「面白そうニャのね! あたしは行きたい、マサキ!」
「おいらも! 嵐ニャなんて滅多に見られニャいんだニャ!」
観光マップを広げながら、明日の予定をひとりと二匹で組む。午前中に海でひと泳ぎをして、午後一番に絶海の孤島を間近に臨んだら、地元の歴史博物館を夕方まで見学。帰りがけに街中にあるいくつかの歴史的名所に立ち寄って、夜は浜辺で行われる地元住人によるダンスショーを鑑賞しようと決まったところで、今日はのんびりホテルで過ごそうとマサキはナップザックの荷物を解き始めた。
スパで旅の疲れを癒して、翌日。午前中いっぱいを海で過ごしたマサキと二匹の使い魔は、ホテルから少し離れたところにある港に向かった。
「観光船って云うからもっと大きい船かと思ったのね」
一時間に四便、十五分置きに出ている観光船は、定員二十名の小型クルーザーなのだそうだ。残念ながら、年に十日の幸運には恵まれなかったようで、今日も島の周辺には黒い雲が渦巻いている。
先程、港を出たばかりらしいクルーザーが、穏やかな海を黒雲目指して進んで往くのを臨みながら、マサキはクロの感想にホテルのフロントで仕入れた知識を語って聞かせた。
先程、港を出たばかりらしいクルーザーが、穏やかな海を黒雲目指して進んで往くのを臨みながら、マサキはクロの感想にホテルのフロントで仕入れた知識を語って聞かせた。
「大型の観光船だと小回りが利かなくて危険なんだとさ。島の周辺に暗礁が多いらしくしてさ。小型クルーザーぐらいの大きさの船じゃないと、船底が引っかかちまうって話だ。その代わり、嵐のかなり中まで突っ込むって話だから、迫力は満点だってホテルマンが云ってたぜ」
「事故が起こったりしニャいのかニャ?」
「ここ五年くらいは無事故って話だったけどなあ。前回の事故も、島近くの浅瀬に乗り上げて、身動きが取れなくなっちまっただけだったらしいし。遠い昔には人食い島、なんて呼ばれてたこともあったとかって聞いたけど、荒れてるように見えても、あの辺りの海流は安定してる方なんだってさ。詳しいことは俺にはわからないけど、気流の渦に規則性があるからだとかなんだとか。だから、決まったルートを通ってる分には問題がないんだとよ」
「マサキの説明だと全然安心出来るように聞こえニャいのよ」
「おいらたち水は苦手ニャんだニャ」
そうは口で云ってみせても、嵐の中を往くクルーザーという非現実的な体験が楽しみではあるらしい。ラ・ギアス生まれの二匹の使い魔にとって、それだけ嵐という自然現象は珍しいものであるのだろう。足取りも軽く浜辺を港に向かって進んで行く。
「変な運の良さを発揮しニャいでね、マサキ」
「いざとなったら|風の精霊《サイフィス》に助けてもらうんだニャ」
「助ける気があったら今日は晴れてニャいとおかしいじゃニャいの」
「先ずは自然の厳しさを知れってことニャんじゃニャいか」
そんなことを話しながら港へ。最大の観光スポットと謳われる割には、定期的に船が出ているからだろう。桟橋前で待っている観光客の数はそれ程でもない。
それ程でもないのが裏目に出た。
まさかの知己の人物との邂逅。よもや観光地でその姿を見かけることになるとは思わなかった人物が、観光客の群れの中にいるのを発見してしまったマサキは、思いがけない偶然に驚きを隠しきれずにいる二匹の使い魔の傍らで、その列の後ろに並ぶべく歩を進めながら盛大に溜息を吐いた。
「どういうことなんだよ……観光地くんだりまで来て、何でてめえと顔を合わせることになるかな……」
「それは私の台詞ですよ、マサキ。一体、どういった偶然が重なれば、あなたと観光地で出会《くわ》すことになったものか」
シュウ=シラカワ。慇懃無礼が服を着て歩いているような男は、浮ついた観光客の中にあっては、ひと目でそれとわかるほどに異彩を放っていた。観光を楽しみにきたとは思えない風貌。浜辺にあってもきっちりと首まで覆う衣装を身に纏って、それでも涼しげな表情でシュウは立っている。
いついかなる時にあっても、冷静さを欠くことはない。そんな泰然自若としたシュウでも、この状況には物思うところがあるようだ。後ろに並んだマサキに向き合うと、僅かに眉を顰めてみせた。
「これも運命ってやつじゃないでしょうかねえ」その肩で羽根を休めている|青い鳥《チカ》が云った。
「そんニャ運命は御免ニャのよ」
「おや、珍しくも意見の一致を見ましたね。私もこういった運命は御免ですよ。これがもし運命だとしたら、何が起こったものかわかったものではない」
「でもここで運を発揮しておけば、事故に巻き込まれるニャんてことはニャいんじゃニャいか?」
「なんて不吉なことを! いや、あたくしには羽根があるので、万が一が起こっても大丈夫ですけどね。皆さんは自由に空を飛べるわけでもなし。口は禍《わざわい》の元ですよ。慎みましょう。ええ、慎みましょうとも」
多弁に言葉を紡ぐ獲物《チカ》を目の前にして、野生の血が騒いだらしい。チカを見上げて何やら戦闘態勢に入りつつある二匹の使い魔を、ちらと一瞥したシュウに、「まさか、観光に来たとは云わねえよな」マサキが訊ねてみれば、
「研究のついでですよ。今更ではあるのですが、自然エネルギーの効率的な転用について興味が出たものですから。年間通して見られる自然エネルギーの発生地は、ラングランだとここしかないでしょう。現地に足を運ぶ必要はなかったのですが、データを集めて分析して終わりというのも味気ないですしね。気分転換を兼ねて実物を見に来たのですよ」
「自然エネルギーの転用ねえ。お前はエコって柄でもなさそうだし。そのエネルギーを転用出来るとして、何に使うつもりなんだ?」
「グランゾンの補助動力に」
「だろうな」
そうこうしている間に次のクルーザーへの乗船時刻が来たようだった。料金と引き換えに配られるライフジャケットと雨合羽。猫用は流石にないとのことで乗船を断られかけたものだったが、ここまで楽しみにしてきた二匹の使い魔がそれで引き下がる筈もない。「あたしたちは使い魔ニャのよ!」「主人の側から離れる訳には行かニャいんだニャ!」などと、当の本猫たちがごねまくった甲斐あって、子供用のライフジャケットを代用することで話が纏まった。
「いやー、使い魔を三匹も乗せることになるなんてねえ。もう何十年も経験してないなあ」
これから時化の中に繰り出すとは思えない船長の呑気な言葉を耳に、船に乗り込んだマサキは遠くなる港を振り返った。
徐々にスピードを上げるクルーザー。波を掻いて先を往く。
遠目には近く見える気流の渦でも、実際にはそれなりの距離があるようだ。嵐の激しい海域に到着するのには、クルーザーの足でも四十分ほどはかかるのだという。人食い島の由来を語る船長の説明を聞きながら、あれこれ姦しい二匹の使い魔を尻目に、マサキは凪いでいるエメラルドグリーンの海を眺めた。
澄んだ水面に魚の群れが見える。クルーザーを追いかけるように並走する魚の群れ。この辺りの海では、観光客に餌遣り体験などをさせているからか、警戒心の薄い魚が多い。昔は漁場として栄えた海でもあったそうだが、観光地化してからは漁師の数は減る一方。今では街に数えるほどになったとは船長の話だ。
どこからどう見ても、長閑な観光クルージング。それは徐々に天候が怪しさを増しても変わることはなかった。船長の態度は堂々としたものだったし、観光客たちもそんな船長を信用して賑やかなもの。船酔いを感じる客もいるにはいたが、それはどの船に乗っても起こり得ることだ。慌てるような客はいなかった。
雨足が強くなり、時化る海に船体ごと身体を大きく揺さぶられても、それもエンターテイメントと余裕を持って受け止めていられた一行に変化が起こったのは、その視界に入った中型のクルーザーが、真っ直ぐにこちらに向かって猛烈なスピードで突っ込んできた時だった。
「そんな馬鹿な! この辺りの海域は、観光船以外立ち入り禁止だ!」
「その馬鹿なことが起こってるんだろ! しっかりしろ! あんたがしっかりしないでどうするんだ!」
狼狽える船長に、怖がる子供を庇いながらマサキは檄を飛ばす。
「やっぱり言霊ですよ、ご主人様!」
「黙りなさい、チカ。まだ何か起こると決まった訳ではないでしょう」
「だって、あの船。運転席に人がいませんよ?」
云われて目を凝らしてみれば、確かにその運転席に人の姿はない。それどころか乗っている人間もいない。接近してくるもぬけの殻のクルーザーを目の前にして、その事実に気付いた船長が慌てて舵を切る。ドン、と艇尾に走る衝撃。ピッチングが激しい中で、船艇が倒れずに済んだのは幸いだった。それでもクルーザーへのダメージは避けられなかったようだ。少しずつ船底から水が入ってくる。
船長の指示に従って、女性や子供、老人を優先して救命ボートに乗せる。全員を救命ボートに乗せ終わったところで、最後に自分たちの番だとマサキがシュウに続いてボートに乗ろうとした瞬間だった。一際大きな波が押し寄せたかと思うと、それは高さを増して、沈みゆくクルーザーを一気に飲み込んだ。
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