もっと黒い話にしようかと思っていたのですが、あんまり黒くし過ぎると、公式と整合性が取れなくなりそうなので(既に取れていないという話はさておき)諦めました。
どうでもいいのですけど王宮時代のクリストフの敬称って殿下ですよね。っていうかモニカもセニアも本来殿下の筈なのですが、何でフェイルロードしか殿下じゃないの?という私の素朴な疑問に誰か答えてくれないものですかね。セニアなんか現在進行形で殿下ですよね。降嫁してないですし……
とういうことで本編です(*´∀`*)そろそろほのぼのした話が書きたいです!笑
どうでもいいのですけど王宮時代のクリストフの敬称って殿下ですよね。っていうかモニカもセニアも本来殿下の筈なのですが、何でフェイルロードしか殿下じゃないの?という私の素朴な疑問に誰か答えてくれないものですかね。セニアなんか現在進行形で殿下ですよね。降嫁してないですし……
とういうことで本編です(*´∀`*)そろそろほのぼのした話が書きたいです!笑
<蝿の王>
魔装機の格納庫に向かう途中、テュッティは足を止めた。通路の奥にとある人物が姿を現したのに気付いたからだった。周囲に居合わせた者たちも気付いたとみえ、足を止めると道を開いて恭しく頭を下げている。
魔装機の操者たちは彼らのように低頭する義務を持たない。テュッティは面を上げたまま、彼が通り過ぎるのを待った。
噂をすれば影がさすとはこのこと。
白い衣装の裾をひらめかせながら、開かれた道の中央を抜けるクリストフ=マクソードは、テュッティの前で足を止めると、乏しい表情を取り繕う術を他に知らないのか。口元にうっすらと笑みを浮かべてみせた。
「これはこれは……テュッティ=ノールバック。今日も任務ですか。ご苦労様です」
どれだけ微笑んでみせたとしても、目が笑わない男。クリストフの笑みはテュッティに限らずの大多数の人間にとっても油断ならないものとして捉えられることが多いようだ。ざわ……と周囲の人間からざわめきが上がる。
「ご無沙汰しております、クリストフ様」
「魔装機を管轄するのは治安局の役割。沙汰止みなのをあなたが詫びる必要もないでしょう」
「大変な状況にあるとお伺いしております。わたくしどもではお役には立てませんでしょうが、何かございましたら御用命を」
「大丈夫ですよ、テュッティ。優秀な者でしたからね。きちんと他の者を躾けてくれていたようです。彼の行方は気にはなりますが、家としては特に混乱もなく、恙無く平穏に過ごせていますよ」
口ぶりは穏やかなものの、その瞳は相変わらず笑うことを知らず。無機質にテュッティを見下ろしている。
王宮に近しい者たちの間では、クリストフの冷ややかな表情の数々を、物静かさを好むがゆえのものだといった擁護論もあったものだが、テュッティは決してそうだとは思わなかった。人の表情は心を映す鏡である。特に目は口ほどに物を云う。
本当に油断のならない男だ。懐刀とも評される男を失った割には平然と日々を過ごしているクリストフに、テュッティは嵐の前の静けさを感じずにいられなかった。
「そんな表情をせずとも。それともあなたには、何か心当たりでも?」
そうした物思いが表情に出てしまったのだろう。思いがけずクリストフに指摘を受けたテュッティはその表情を引き締めた。
「失礼いたしました。よからぬ噂を耳にしたものですから」
「噂に踊らされては足元を掬わるだけでしょうに、らしくない」
「王宮内の対立を煽りたい輩の吐いている妄言だということは存じております。だからこそです、クリストフ様。彼らに付け入る隙をどうかお与えになりませんよう」
「噂というものはきちんと精査し、裏付けを取ってこそ、情報として価値が出るものです。根拠のない噂はただの妄言でしかない。どういった内容の噂話かは大体想像が付きますが、あなた方の立場で囚われていい妄言ではないでしょう。余計な情報を多く取り入れると判断を誤りますよ」
「何も知らずに正義を判断することこそ危険であると、存じておりますものですから」
テュッティがそう云うと、何が可笑しいのかクリストフはクック……と声を立てて嗤った。笑われる理由に心当たりのないテュッティが戸惑っていると、「しかしあなたも可笑しなことを云いますね」と、クリストフが言葉を継ぐ。
「彼がフェイルードを王位に就けたい人たちからすれば、相当に厄介な存在だったことはご存知でしょう。私を王位に就けたいという欲の為だけに、随分と有力者たちの後援を取り付けてくれたようだ。その手腕があってこそ、マクソード家を任せられたとはいえ、私の意思を無視されてはね。あなたたちにとっても、魔装機操者を監督するフェイルロードが王位に就いた方が色々とやり易いでしょう。そうである以上、彼がいなくなって助かることはあれど、困ることなどどこにもないと思うのですが」
「それとこれとは話が別です」
「そうですか。私は天の采配かと思いましたよ。世界のどこかには神がいて、我々の行いを見守っているのだとね」
そうは云ってみせたものの、クリストフは例の男の失踪事件を、自らに対する懲罰的な意味では捉えていないようだ。彼にしてはらしくなく愉しそうに目を細めてみせた。
「それは……どういう……」
虚を突かれたテュッティは思わず言葉を詰まらせた。そうでなくとも冷淡に映る顔立ちが、その色をいっそう濃くしたようにも感じられる笑顔。切れ長の瞳の眦《まなじり》が鋭さを増し、吊り上がった広角が広く幅を開く。
「私やモニカは王位に色気を持ってはいませんからね。第一王位継承権を持つフェイルロードが王位の獲得に意欲的な以上、王位継承権の順位に問題はない筈だ。それを引っ掻き回しているのが彼らですよ。その筆頭が姿を消したとあっては。あなた方がどう思っているかはさておき、私自身は大いに助けられたと感じましたよ」
「滅多なことを仰らないでください。その云い方では、まるで彼が自らの意思ではなく姿を消したように」
「まさかあの状況で、あの男が自ら姿を消したと思いはしないでしょう。私は彼の性分を知っている。几帳面なあの男が物事を中途半端にして姿を消すなど有り得ない。仮に姿を消さねばならない理由が出来たのだとしても、タンスぐらいはきちんと整えてゆくでしょう」
クック……と再び、クリストフは声を上げた。剣呑なクリストフの態度に、人々は耳にしていい話ではないと悟ったのだろう。道を開けていた人垣はとうに薄れている。
「噂に根拠を与えるような真似は控えるべきかと存じますが」
「事実は事実ですよ、テュッティ。まあ、これは推測というより憶測ですがね。しかし、同じように考えたのは私だけではないでしょう。でなければどうしてフェイルロード派の勢力が盛り返したものか」
まばらに人が行き交う通路に、クリストフの声が警鐘を放つように鋭く響く。
「とはいえ、王宮警察は内務局の管轄です。事実がどうであれ、それが表沙汰になることはないでしょう。私の耳にくらいは事件の顛末を届けて欲しいものですが、それも叶えられるか怪しいものです」
それだけ言い残すと、クリストフは表情を戻した。そして「では」とテュッティの目の前を通り過ぎ、治安局への道のりを歩んでゆく。恐らくはフェイルロードに用があるのだろう。それは魔装機のデータを見たいといった、自らの研究に関わる要求に違いない。
――本当に彼は王位に欲はないのだろうか?
どうもクリストフは風の魔装機神たるサイバスターには欲があったようだ。治安局で耳にした噂話をテュッティは思い返す。才弁縦横で数多の学問に通じ、剣技の腕のみならず魔力にも恵まれた男は、幼い頃から様々な方面より将来を期待されてきたのだと聞く。
魔装機の操者もそのひとつ。
生半可なステータスでは太刀打ちできない男にとって、風の魔装機神がどういった意味を持つのかテュッティには理解が及ばなかったものだったが、いついかなる時でも一歩退いた位置から物事を眺めている男にしては、珍しくも意欲的にサイバスターの操縦に挑んだそうだ。
それが叶わなかったのは、やはり。
正魔装機は純粋な地上人により強く適応性を見せる。魔装機神ともなれば尚更のこと。テュッティは何を研究しているか不明な男の来し方を見遣った。恐らくは格納庫に並ぶ魔装機を眺めていたに違いない。
治安局や情報局の人間たちは、クリストフは研究に没頭することで、自らを王位継承権争いから遠ざけているのだと噂したものだったが、さて。テュッティはその真意が本人の口から語られるのを耳にしながらも信じきれずにいた。
王宮警察も凡夫ばかりではないものだ。いや、それよりも、きちんと警察として捜査ののセオリーを守っているというべきか……治安局へ足を進めながら、クリストフは今しがた話題になったばかりの失踪事件に思いを馳せた。
王宮警察は当初、男に最後に会った主人たるクリストフを疑った。彼らはクリストフの立場ゆえに疑いを露骨に表しはしなかったものの、しつこくも毎日のように聞き込みに訪れたものだ。
――あの男は目端が利き過ぎた。
くだらないことに邁進しているとクリストフは男の活動に思っていたものだった。その立場をクリストフが快く感じていないことぐらい、長い付き合いだ。あの男なら心得ているものだとクリストフは思っていたものだが、そこはやはり自らの欲が勝ったということか。
王位に興味を持たない態度を貫いているクリストフは、だからといって男の活動に制限をかけようとは思っていなかった。クリストフにとって、男は表沙汰にできない自らの企みから目を逸らさせる為に都合の良い駒だったのだ。現に王宮はモニカ擁立派を合わせれば三派となる分裂を起こしている。その混乱こそがクリストフの目的であると気付ける者は少ない。
蝿が卵を産み付けたように王宮内に増える自らの支持者たち。クリストフはそれに迎合しようとは考えていなかったが、いざとなれば大いに利用するつもりではいた。その算段を付けるべく、ルオゾールを使って王宮内に独自のルートを構築しようと目論んでいた矢先だった。
あの男はそれを勘付いたのだ。
有力者たちと日々コンタクトを取っていた男は、誰よりも王宮内の噂話に精通していた。それらの噂話をやっかみと片付けず独自に調査を進めたらしい。その結果、クリストフとヴォルクルス進行の繋がりが確かなものであるとの確信を得るに至った男は、あの夜、クリストフに自身で作成したと思しき膨大な調査書を突き付けてきた。
それは恐らく、クリストフが幼い頃からの長い付き合いだったからこその情だったのだろう。
調査書の公開を盾に改宗を迫ってくる男を味方に引き入れられないものかとクリストフは試みてみたものの、口先三寸で云い包められてくれるような男であればマクソード家を取り仕切る立場には就いていない。頑固にも譲らない男との平行線に終わった話し合いに、クリストフがその命を奪う覚悟を決めたその時だった。
――後はわたくしどもにお任せを。
窓の外、闇より姿を現した彼らはそう云って、男をいずこかへと連れ去ってしまった。
既に自らがヴォルクルス信仰の者たちに守護される身であることを、クリストフはその瞬間に知った。顔や名前を知らせずに周りに潜む彼らは、クリストフの危機を見過さなかったのだ。
――成したいことの為に犠牲は付きもの……。
今となっては引き返すつもりもなければ、過去の人間関係に縛られるつもりもない。クリストフは、王宮警察の聴取に白を切り通した。王宮警察もクリストフに犯行は無理だと考えを改めつつあるようだ。マクソード家に日参することもなくなった。
このままでいけば、そう遠からずクリストフは容疑の圏外に置かれることだろう。それまでは大人しく日常生活を演じてみせなければ。フェイルロードが執務に励んでいる部屋の前に辿り着いたクリストフは、そこで不意に先ほど話をしたばかりのテュッティの顔を思い出した。
――納得のいっていない顔をしていたものだ。
いずれ自らの目の前に立ちはだかる存在になるだろう魔装機の操者たち。今の内から何かしらの手は打っておくべきだろう。クリストフは目の前の扉をノックしながら、頭の中で彼らを阻む為の計画を練り始めた。
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