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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

記憶の底(了)
先ずは、ここまでお付き合い有難うございました。
拍手や感想は本当に励みになりました!有難うございました!

いつも以上に難産だった話ではありましたが、いかがでしたでしょうか?
拍手にひとことコメント機能もございますので、感想など頂けますと私が小躍りして喜びます。

ようやく完結いたしましたこの話。ちょっと納得の行かないラストにはなりましたが、いずれまた気が向いたら続きを書くかも知れないということで、ご了承いただけますと幸いです。病み切ったような白河を書くのは楽しくもあり、苦しくもありましたが、総じて満足のゆく白河を書けたと思っています。やっぱ白河は重くてなんぼですよね!

では、これにて終幕になります。本文へどうぞ!
<記憶の底>

 素直にシュウを受け入れた菊座を男性器で擦る度、マサキは恍惚に身を捩らせてくれたものだ。ああ、と何度も何度も声を上げては、シュウの髪を、肩を、背中を掻く。そして、ところかまわずに爪を立てては、シュウの肌に引っ掻き傷を残す。生々しくも映る幾重にも線の走る傷痕。マサキによって付けられたそれらの傷痕は、けれどもその痛みさえ幸福だとシュウに思わせた。
 記憶を取り戻したマサキは、決してこうまで従順にシュウに身体を許しはしないだろう。二度と見られないものを見ているという希少性がシュウの欲望を更に煽った。シュウは何度も何度もマサキを突いた。その都度、我を忘れてシュウの腕の中でよがり狂うマサキを、記憶に留めるように凝視《みつ》め続けながら。
 求めていたものを与えられたマサキは、シュウの動きひとつに面白いように反応した。深く突き上げられては啜り泣くような声を上げ、浅く抉られては鼻にかかるような声を上げる。その快感に従順な姿が、ただただ可愛らしく感じられて仕方がない。やがて、「もう、いく……」喘ぎ声の合間に、それさえも難儀な様子でマサキが言葉を吐く。
 膨張したマサキの男性器はその先端を広く湿らせていた。腹に糸を引く粘液に、シュウは微かに嗤いながら、「いいですよ、マサキ。好きに達《い》きなさい」深く足を抱え上げて、更に。
 ――あ、ああ。あ、あ……いく、いく。本当にいく……っ……
 目を見開いて喘ぎ続けるマサキの瞳に、瞬間、筆で剥いだように光が漲《みなぎ》った。
 彼はシュウの腕を強く掴むと、「|お《・》、前《・》……!」と、聞き間違いのしようのない声で言葉を放った。「人が意識を取り戻してみれば……何、好き勝手しやがってるんだよ……」紛れもない。シュウは動きを止めて、息荒くもシュウを引き剥がそうと試みているマサキを見下ろした。
 マサキは極限状態の中で、その記憶を取り戻したのだ。
 思わず笑みが零れるのをシュウは止められそうにない。「あなたが誘ったんですよ、マサキ。それとも、つい先程のことも思い出せないぐらいに、あなたは呆けてしまったのですかね」刹那、マサキは記憶を探るように視線を宙に彷徨わせた。その表情が絶望に歪む。この表情だ。シュウは歓喜に身が打ち震わせた。自分が求めていたマサキの見たかった表情は、これだ――。
 この期に及んで遠慮をするつもりは、シュウにはもうない。欲しいものを取り戻したシュウは、自らの欲望に忠実にマサキを蹂躙した。
 既に存分に高められた身体は、マサキの意に反して従順に反応した。その感度の良さに途惑いながらもマサキは口先ばかりの抵抗を続けてくれたものだ。ならば、認めさせるまで。シュウはマサキが達しても、その身体を手放すような真似はしなかった。
 果てては高められ、高められては果てさせられる。その繰り返しに、抵抗を続けるマサキの力が弱まっていく。そして、何度目の挿入の際に、ついにその力が抜けた。後はただ、操り人形のように弄ばれるがまま。そうして、達すると同時に、ふっと緊張の糸が切れたようだ。マサキはそのまま気を失った。

 マサキが目を覚ました時、そこはせせこましいソファの上ではなかった。ひとりで身を休めるのにしては大き過ぎるベッドの上。自分のものだとは思えないバラバラの記憶を繋ぎ合わせてみるに、どうやらマサキはシュテドニアス軍との戦闘で記憶を失ったところをシュウに保護をされたようだ。
 記憶の中の自分が発したらしい言葉に、取った態度の数々。どれも普段の自分であったら決して口にしなかった言葉に、決してしなかったであろう態度ばかりだ。まるで自分の胸中を暴かれてしまったかのようないたたまれなさに、あの野郎と毒吐きながら、マサキはベッドから這い出た。
 一糸纏わぬ姿に服を求めて辺りを見渡せば、ベッドの脇のサイドテーブルに見慣れた服が畳まれて置かれている。一も二もなくそれを手にしたマサキは、服を着替えかけて嫌な予感に眉を潜ませた。着替えも途中なまま、嫌な予感を払拭すべく、部屋の隅にある姿見に自身の身体を映す。
 案の定と云うべきか、それが当然だと云うべきか。身体のそこかしこに紅斑が刻み付けられている。虫刺されにしては色鮮やか過ぎる痕。誤魔化しの効かない痕の所為で、前回は随分と生活に制限が出たものだった。
 またかよ、と呟く。
 着替えをするのも風呂に入るのも気を遣う生活は、今回はかなり長く続きそうだ。溜息を洩らしながら着替えを終え、他に行くべきところもない。マサキはベッドルームを出た。
 既に起きていたらしい。シュウはキッチンに立ち、朝食の準備をしているところだった。その足元にはマサキの二匹の使い魔がちょこんと座って、ミルクを飲んでいる。主人に似ずに順応性の高い使い魔に呆れながら、マサキはコンロの上に乗っているフライパンと鍋の中身を遠目に覗いた。
 スクランブルエッグにソーセージ、スープ。シンクの籠の中にはサラダと思しき野菜の山。そして、テーブルの上のバスケットに積まれたバケット。独り住まいが習得させたのか。そこそこの手際で料理を進めてゆくシュウを視界の端に収めながら、マサキはテーブルに付いて、「腹が減った」とだけ云った。
「記憶が戻るなり尊大な態度だ」
「好き勝手したのはてめえだろ。このぐらいは好きにさせろよ」
「良く云う」
 手伝うべきことなど何もないくらいに、準備の整った食卓。ワンプレートに収められたスクランブルエッグとソーセージにサラダは、野菜の切り方が多少不格好なぐらいで、他には文句の付けようもない。どうやら最後に残ったスープの準備も整ったようだ。スープを器に盛ったシュウはそれをマサキに差し出しながら、
「少しは自分から求める気になりましたか」
「ならねえよ。またお前はそうやって……」
「約束したでしょう。あなたと私の秘密だとね」
「これ以上秘密を増やす気は」
「そうでしょうかね」クック、と声を潜ませてシュウが嗤う。「自分の胸に手を当てて考えてみては、マサキ。記憶の無いあなたとの生活は、色々と新たな発見をさせてくれたものでしたよ」
 一番知られたくない相手に、知られたくなかったことを知られてしまった。屈辱的な現実に、マサキは口の端を噛む。そう、記憶の無い自分はあの広いベッドでひとり自慰に耽った。目の前に立つこの男との性行為を妄想しながら、自らの身体の奥を深く弄り、そうしてその名前を呼びながら達した。
 けれども、それは記憶の無い自分に限った話ではないのだ。
 それにこの男は気付いているのだろうか。そんな筈はない。マサキはここに来てからの記憶を反芻した。迂闊に口を滑らしたような記憶はない。ならば、大丈夫だ。そう自らに言い聞かせて、テーブルに付いたシュウに向き合う。
「こうして記憶も戻ったんだ。サイバスターのある場所まで、連れて行ってくれるんだろうな」
「勿論。とはいえ、流石に二日が経過していますしね。もしかすると、軍に回収されているかも知れません。その時には責任を持ってあなたを王都に送り届けますよ、マサキ」
 バルディア州からラングラン王都までの道のりとあっては、公共の交通機関を使う訳にも行かない。溜息を吐きながらも、マサキは渋々シュウの提案を受け入れた。
 髪に、肌に、昨晩の性行為の感触が残っている気がする。
 ずっとそれをマサキは欲していた。この男から与えられた快感を。けれども、それは果たしてこの男自身を求めてのことであるのだろうか? マサキは迷っていた。否応なしに反応してしまう身体。気付いた時には自らを嬲るようになっていたマサキは、自分の性的嗜好が他人とはずれていることに気付いている。
 ――この欲に餓えた気持ちを、好意のない相手に向けていいものなのか……。
 マサキにはわからない。以前のように憎み厭う気持ちはもうなかったが、それが好意かと聞かれると答えに詰まる。好意というものは、もっと穏やかに沁み出すような感情ではないのだろうか。それとも激しく心を動かされるものであるのだろうか。いずれにせよ、愛や恋といった感情は、経験に乏しいマサキにとっては、それだけ判断の難しい問題であったのだ。
 それが明瞭《はっき》りしたところで、マサキは素直にこの男に身を委ねる気にはなれないのだ。記憶の無い自分がしてみせたように、この男を明確に求めるには、重ねてしまった月日が邪魔をする。敵と味方。その関係が崩れた今となっても、マサキの意識はあの頃のままだ。
 もしかすると、自分はあのまま記憶を失ったままでいた方が、幸福だったのではないだろうか。そう、愛玩動物のようにシュウに飼われていたままの方が……。
 そんな馬鹿な。マサキは首を振った。
 魔装機の操者である立場を捨ててまで、しがみ付いていい関係ではない。そのぐらいの分別は、如何に浅慮な自分であっても付けられる筈だ。それならば、いっそ割り切って、この男と誰にも云えない関係を続けるべきなのか。迷い悩みながら食事を終えたマサキは、ラングラン王都へ戻るべく、シュウに導かれるがまま。その愛機の操縦席へと身を収めた。


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