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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

記憶の底(1)【修正アリ】
ふたつも連載を抱えるのはどうかと思ったのですが、こちらもぼちぼち進めないといけないので、始めることにします。

今回のテーマは「一時的に記憶喪失になったマサキを拾った白河」です。
よくあるテーマですね!でもやりたかった!!!!笑

明日で連休も終わりですね。
あっという間過ぎて寂しくもありますが、サイトの更新作業に専念出来たので、私としては満足のゆく連休でした。これで仕事も頑張れます!そして、いつも拍手を有難うございます。お陰様で、こうして更新作業も捗っております。これからも宜しくお願いいたします。

では、本文へどうぞ。
<記憶の底>
 戦後処理も大分進んだとは云え、神聖ラングラン帝国領内には未だ国に帰れぬままの敵機が散見された。彼らとの戦いはマサキたち正魔装機の操者にとっては殲滅戦であったし、彼らにとっては自国へ戻る為の撤退戦であった。
 尤も、そんな戦いも大分数を減らしたものだ。
 徐々に日常へと戻り始めていた正魔装機の操者たち。同じく日常に戻りつつあったマサキもまた、今日は西、明日は東と、かつての平和な日々のように、あてもなく風の魔装機神を方々へと疾《はし》らせていた。その目の前に突如として現れたゴリアテとバフォーム。シュテドニアスとの国境からは大分離れた州での邂逅に、逃げ切れないと悟ったらしいシュテドニアス軍の残党は、せめて最後に神聖ラングラン帝国に一泡吹かせようとしたのやも知れない。正魔装機の旗印であるマサキの首を狙ってだろう。進軍を始めた。
 単機であれば、撃破も容易なシュテドニアス製の魔装機は、編隊を組まれると途端に厄介な存在に変わったものだ。有効射程範囲を保って隊列を入れ替えることで、攻撃の手を休めずに、常に耐久性が最も高い機体をサイバスターの正面に立たせることが可能になる。そうやって、彼らは効率的にマサキの進撃を封じると、ここぞとばかりに一斉射撃による集中砲火を浴びせてきた。
 とはいえ、そこは正魔装機の頂点に君臨する風の魔装機神。
 しかも長い戦いを終えたばかりだ。
 極限まで改造《チューンアップ》された機体の耐久性能は、ゴリアテやバフォームの攻撃ぐらいであれば弾き飛ばせるまでに高められていたし、回避性能にしても彼らの集中砲火を避けきれるまでに高められていた。
 実際、彼らの砲撃はサイバスターにかすり傷ひとつ付けられなかった。
 戦闘が続けば続いただけ、マサキの戦意は高まり、それに応じてサイバスターの戦闘能力も上がって行く。そうでなくとも高い基本性能は、マサキの戦意に煽られるように更なる高まりをみせた。その圧倒的な力は、ゴリアテだろうがバフォームだろうが関係ない。どの機体にしても、赤子の手を捻るように一撃で撃破したものだ。
「後はお前だけだ。素直に投降すれば国に返してやる」
 呆気なく最後の一機となった敵方のバフォームに、マサキは投降を呼びかけた。
 次の瞬間だった。
「シュテドニアス、万歳!」
 バフォームは素早く至近距離までサイバスターとの距離を詰めたかと思うと、マサキに反応させる隙を与えずにぞの機体を自爆させた。

 どうせ呆気なく決着が着くと思っていながらも、シュウはその戦闘から目を離せずにいた。
 よもやラングラン王都から遠く離れた場所で、マサキとシュテドニアスの残党軍との戦闘を目にすることになろうとは。思ってもいなかった機会にグランゾンの足を止めてしまったシュウだったが、それでも勝機が圧倒的にサイバスターにあるのは、誰の目にも明らかだったことだろう。そんな力の差が歴然としている戦闘の経過に、立ち去るべきか否か。悩みながらも、十数キロ離れた地点で、シュウは彼らの戦闘を見守り続けた。
 自分を暗い世界から引き戻すことの出来る少年。彼のような存在は他にいない。
 もし戦況がサイバスターに不利となれば、自らが助けに出てもいいだろう。シュウはそう考えてすらいた。マサキは決していい顔をしないに違いなかったが、それでも返したい借りがある。サーヴァ=ヴォルクルス、その精神に飲み込まれたシュウを二度にも渡って救い出してくれた恩は、その程度で返しきれるものではなかったが。
「でも、ご主人様。そのお気持ちは結構なことですが、果たせる機会は今ではないようですよ」
 いついかなる時でもお喋りなシュウの使い魔、チカはそう云って退屈そうに欠伸を洩らした。
 多勢に無勢――とはならない戦況。ゴリアテとバフォームの群れから集中砲火を受けながら、無傷で大地に雄々しく立つサイバスター。今となってはその操者になろうとシュウは思わなかったけれども、それでもその美しいフォルムとそれに見合った性能には目を奪われる。
 サイバスターとマサキのポテンシャルの高さは、これまでの戦果で知れたものだ。十六体の正魔装機の中でも、撃墜数はトップクラス。戦局を単機で引っ繰り返してみせたことも数知れない。その力強さは、戦乱が過ぎ去っても健在だ。
 シュウの目の前で、一機、また一機と、敵機を沈めてゆくサイバスター。桁違いの反応速度で、一撃、二撃と舞うように攻撃を繰り出してみせる。敵の数の多さに時間はかかったものの、無傷で最後の一機まで辿り着いたのは、流石と称賛する他ない。
 だが、次の瞬間。
 何が起こったのか。バフォームの自爆に巻き込まれたサイバスターは機体を傾《かし》がせた。
 均衡《バランス》を大きく崩して倒れるといったことはなかったものの、その機体が元の位置に頭を戻すことはなかった。それどころか頭部が開き、操縦席《コントロールルーム》が剥き出しになっている。「ご主人様、あれヤバくないですか?」チカの言葉に頷く。何が起こっているのかわからないが、放置していい状態ではなさそうだ。
 シュウは、急ぎグランゾンをサイバスターの元へと向かわせた。
 近付いて様子を窺ってみると、どうやら気を失っているのか。操縦席に身を沈めたマサキは、目を閉じたままぴくりとも動かない。シュウはグランゾンを降り、サイバスターの操縦席に入り込んだ。今の爆発の衝撃でエラーが発生したのか。その起動システムが激しく警告音《アラート》を発している。
 ――先ずはマサキの容態を確認しなければ……。
 気になることは多々あれど、人命の救助が先。そう思いながら、ぐったりと操縦席に沈んでいるマサキの頬を叩く。うん……と小さな声が洩れた。マサキ、とシュウは重ねてその名を呼んだ。次の瞬間。ゆっくり開かれたマサキの瞳が、どこかぼんやりとした調子でシュウを捉えた。
「あんた、誰だ……? それに、ここは……?」
 思いがけない台詞に、さしものシュウも刮目《かつもく》せずにはいられない。
 あの気性も荒い少年が、普段の勝気な態度はどこにやら。ただただ不安げに辺りを見渡している。その足元には、気を失っているのか。こちらもぐったりと倒れ伏している二匹の使い魔の姿がある。
 しかし、長く戦禍をともにした筈の使い魔二匹を目の当たりにして尚、「猫……? あんたのペットか?」などと、マサキは正気を疑う反応をするだけだ。
「自分の名前はわかりますか?」
「当たり前だろ。そのくらい――」
 シュウの問いに口を開きかけたマサキは、そこで困惑した表情になると、どうしたらいいかわからないといった様子でシュウを見上げてきた。
「俺は、誰だ……?」
 どうやら頭を打ったのだろう。マサキが一時的な健忘状態に陥っていると判断したシュウは、「大丈夫ですよ。ほら」とその身体に手を伸ばすと、マサキを操縦席から立ち上がらせ、グランゾンの操縦席へと。自らが先に立ち、マサキを引っ張り上げるようにして招き入れる。
 何もわからない状態であるからだろう。気性の荒さを発揮することもなく、マサキはすんなりとグランゾンの操縦席へと足を踏み入れて来た。
「そこで少し待っていてください」
 物珍しそうに操縦席内を眺めているマサキを置いて、再びサイバスターの操縦席へ。続けて二匹の使い魔もまた、グランゾンの操縦席に連れ込む。
 とはいえ、流石にサイバスター本体はどうにもしてやれない。王都に近い場所であったら、牽引して連れ戻ることも可能ではあったが、ここはバルディアだ。王都には、バランタイン、ブルクセン、パオダのいずれかの州のふたつを経由しなければ辿り着けない。そうでなくともグランゾンでサイバスターを牽引しているところなど、長く衆目に晒していい状態ではないだろう。ましてや未だ情勢が不安定な中とあっては、余計な誤解を振り撒くだけだ。
 シュウは自分が広域指名手配犯であることに自覚があるのだ。
 じきに王立軍が気付いて回収をしてくれることだろう。そう期待をすることにして、シュウはサイバスターをその場に置いていくことにした。そうと決まれば後は早い。迷うことなく、グランゾンを発進させる。そしてシュウは現在身を置いている居住地へ向けて、グランゾンをひた走らせた――……。


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