@kyoさん覚悟を決めました。
今年のバレンタインも腰を据えて延長戦に臨みたいと思います。
皆様はチョコレートを贈ったりはするんでしょうかね?私は父親のご機嫌取りも兼ねて、毎年父チョコをあげてるんですよ。それにほら、この時期のチョコって選ぶの楽しい見た目のものが増えるじゃないですか。だけど自分で食べるのは虚しいので、父にあげることでバレンタインに参加している気分を味わうというw
そんな感じで本文へどうぞ!
今年のバレンタインも腰を据えて延長戦に臨みたいと思います。
皆様はチョコレートを贈ったりはするんでしょうかね?私は父親のご機嫌取りも兼ねて、毎年父チョコをあげてるんですよ。それにほら、この時期のチョコって選ぶの楽しい見た目のものが増えるじゃないですか。だけど自分で食べるのは虚しいので、父にあげることでバレンタインに参加している気分を味わうというw
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<すれ違いのSt.Valentine.>
「押し過ぎなんだよ、お前」
細かく千切った二百五十グラムのTボーンステーキを、ライスとともに次々と喉に流し込みながら、ザッシュの愚痴とも相談ともつかない話を聞き終えたマサキは云った。
当初の純情さはどこへやら。長い片思いを拗らせたザッシュはすっかり押せ押せな男と化し、酒宴とあらばリューネの隣に陣取って、一時たりとも彼女を手放すまいと絡み、どこぞで姿を見付けようものなら、何時間にもわたって纏わり付くようになっていた。それだけでも結構な精神的負荷《ストレス》になりそうではあったが、ザッシュの進撃はそれに留まらない。これだけリューネに付き纏っておきながらも、未だ足りないとばかりにデートへの誘いも欠かさないのだ。しかも頻繁に。それでは、いかに鋼鉄の神経を持つリューネとて耐えきれなくなろうというもの。
かくて、デートの誘いに三十連敗中のみならず、暫く距離を置きたいと云われてしまったザッシュは、道行くカップルが全て憎らしく感じるまでに心が歪んでしまったのだという。
「そんなにしつこくされたら、好意があっても嫌になるだろ。何事も程々の距離がいいんだよ。押したら引いて、相手の出方を見るくらいじゃないと……」
減った腹に一気に半分ほどのTボーンステーキを流し込んだマサキは、ここいらでひと心地と、レモンの浮かんだ炭酸飲料水を口に含んだ。甘くも酸っぱい炭酸飲料水は、味の濃いステーキによく合うさっぱりとした味わいだ。ふう、とひと息ついて、マサキはステーキの残りに手を伸ばした。
そんなマサキの食欲を、自分とは余りにもかけ離れたものだからだろう。どこか呆れた様子で眺めていたザッシュは、口に含んでいた百八十グラムのTボーンステーキの一切れを飲み下すと、
「なら聞きますけど、マサキさん。マサキさんはどうやって意中の方を仕留めたんですか?」
「あ、それ聞きたい!」察しがいい割には疑問に思っていたらしい。「マサキって恋愛事には奥手そうな性格だもの。気になるわよね。いい質問するじゃないの、ザッシュ」
生ハムとルッコラのパスタを食べている辺り、小さくとも乙女であったらしい。ミオはその手を止めると、テーブルの上に身を乗り出さん勢いでマサキを見た。
「そういうのは人に話すもんじゃないだろ」
好奇心満々と喰いついてくるミオを目の前にして、真実を知っているとはわかっていても、いざ話すのは躊躇われる。マサキは言葉を曖昧に濁すも、恋に悩む男たるザッシュはそれでは納得が行かないらしい。
「そのくせアドバイスは口にするんですか? それって説得力ないですよ、マサキさん」
「あー、そりゃ確かにな……でも大した話じゃないぞ。押したり引いたりされてる内に、絆《ほだ》されたっていうか……気付いたらそうなってたっていうか」
それを耳にして、どんな想像をしたというのか。爛れてるなあ、とミオが呟く。
とはいえ、その想像は当たらずとも遠からずなのだ。一度、触られたと思ったら、後はひたすら。まるで手負いの獣に人肌の温もりを覚えさせるかのように、シュウはマサキのプライベートな部分に触れてきたものだ。それは口唇であったり、首筋であったり、鎖骨であったり……他人が迂闊には触れない場所を触られているという背徳感は、マサキの気分を高揚させた。
一度を許せば二度。二度を許せば三度。
そうして、シュウの過剰なスキンシップに慣らされたマサキは、自分でも驚くほどにすんなりと彼の想いを受け入れてしまっていた。
余り細かく話せもしない恋愛過程。肉体的な繋がりの方が精神的な繋がりよりも早かったなど、口が裂けてもこのふたりには話せそうにない。
「あー、うん。でもな……」マサキは話を有耶無耶にしようと試みる。
「だけどそんなもんだろ、恋愛なんて。押して引いての繰り返しだ」
「押し方や引き方もあるでしょ。ただがむしゃらに押して、ひたすら引けばいいってものじゃないでしょ。そこには相手との距離感があるっていうか。ザッシュが知りたいのはそこなんじゃないの?」
「だってお前、こいつの押し方を聞いただろ? 童貞じゃあるまいし、何でそこまで俺が俺がなんだよ」
「そこまで俺が俺がってしているつもりは、僕はないんですけど……」
「してるよねえ」ミオがマサキを見た。
「してるよな」マサキもミオを見た。
例えば酒の席でザッシュがリューネに何を話しているか、耳をそばだててみると、余り色好い反応ではないからだろう。ザッシュが自分の話に終始していることがままある。それだけではない。リューネの返事を待たずに、一方的に言葉を捲し立てていることもままあるのだ。
これでは会話のキャッチボールも成立しない。そう、リューネに対するザッシュの行動は常に一方的なのだ。
「もう少し、リューネが喰いつきそうな話題を振ってみるとか、やりようはあるんじゃないの?」
「だよなあ。お前の世界とリューネの世界って、そこまで離れてるって訳でもないだろ。だからもうちょっとリューネが興味を持ちそうな話題を振ってやれよ。じゃなきゃ音を上げるのも当然だろうって……」
「振ってもあんまり反応がないんですよねえ」
「そこが引き時だろ。一回、思い切ってリューネと距離を取ってみたらどうなんだ」
「不安じゃないですか? その間に他の男に取られたらと思うと」
「そこを我慢しなきゃ。リューネだってマサキと同じように、束縛されるのは嫌いなタイプでしょ。そういう人にしつこくしたら却って逆効果よ。ちょっとの間でいいから距離を置くの。相手が自分に対して何をしてるかなって思わせたら勝ちよ」
どうやらこの点に於いては、マサキとミオの意見は同じであるようだ。
ミオにそういった恋愛経験があるのかマサキは知らなかったけれども、少なくともマサキ自身はミオが口にした通りの人間だ。きっとシュウとの関係にしても、日を空けずに何度もアプローチを受け続けていたら、どこかで嫌気が差していたことだろう。それをシュウはわかっていたのだろうか。それとも多忙な日々故に、そうさせざるを得なかったのか。いずれにせよ、間を空けて繰り返されるスキンシップは、頑なだったマサキの心を少しずつ溶かしていった。
今となっては、彼の我儘も受け入れられるまでに。
「まあ、マサキの経験が、ザッシュの役には立たないってことがわかっただけでも収穫よね」
「そこは僕にも理解出来ました」
「理解したのかよ?」出来ていい話ではないだろうに、やけに明瞭《はっき》りと云ってくれたものである。驚いてマサキが声を上げれば、ザッシュは澄ました表情で、
「マサキさんのところの関係は爛れてるんですよね」
しらと云ってのけたものだ。
「爛れてるって意味、わかってるのかね」
「公共の場で話してもいいなら話しますけど」
「駄目に決まってるだろ」
「つまり、そういう内容ってことですよね。ほら、ちゃんと理解してるでしょう? ところでマサキさん、ドゥードゥー鳥の丸焼きは好きですか? 好きなら違う食べ物を用意しようかと思ってるんですけど……」
「世の中の全てのカップルを憎むのは止めとけよ! そういうところだろ、お前!」
油断も隙もないザッシュを目の前に、Tボーンステーキを平らげたマサキは、炭酸が抜けかけている炭酸飲料水を飲み干した。店内の時計を見上げれば、そろそろ一時間が経過しようとしている。これ以上時間が押そうものなら、本当に今年のバレンタインが無くなりかねない。
それどころかシュウの機嫌が保てるかも怪しい。
マサキはそろそろと、ミオを促して席を辞することを決めた。人の恋路の相談を受けて、自分の恋路が怪しいでは話にならない。その旨ザッシュに伝えると、流石にこれ以上の我儘は云えないと彼も観念したのだろう。
「ううん……なら僕は、アドバイスに従って、暫くリューネさんと距離を置くことにしますよ。凄く、怖いですけど……」
そう云って、鉄板プレートに半分以上残っているステーキを、ひと口、またひと口と頬張る。
ひとり残ってまで、ここで食事をする気はないのだろう。人付き合いのするザッシュらしい行動に、マサキとミオは彼の食事が済むのを待った。
「とにかく、今日は有難うございます。お陰で少し、気持ちが楽になりました。また何かあったら相談すると思いますけど、その時も宜しくお願いします」
一気にステーキを片付けたザッシュは水でそれを胃袋に流し込むと、最初の禍々しい笑いはどこにやら。今度は清々しい笑みを浮かべて、そうふたりに礼を述べる言葉を吐いた。
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