書いてて気付いたんですけど、この話のマサキはアレですね。
美味しく食べてね!ですね。笑
偶には重たいシュウを書くのもいいかな、と思って書き始めたんですけど、私の書く白河って重たいか何か企んでるかの二択しかないような……普通の白河ってどんなだ? と自分の書く白河に疑問を抱いたりもしなくもないのですが、そこは今後の課題ということで!
と、いうことで本文へどうぞ!
美味しく食べてね!ですね。笑
偶には重たいシュウを書くのもいいかな、と思って書き始めたんですけど、私の書く白河って重たいか何か企んでるかの二択しかないような……普通の白河ってどんなだ? と自分の書く白河に疑問を抱いたりもしなくもないのですが、そこは今後の課題ということで!
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<記憶の底>
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仮住まいに戻ったシュウはマサキをリビングに残して、先ずは意識を失っている二匹の使い魔の容態を確認することにした。
さしたる設備もない仮住まいでは、脈や脳波ぐらいしか測定出来なかったものの、使い魔として機能するには充分な値が計測された以上、シュウにしてやれることは何もない。生身の肉体を持つ生物とは根本的に在り方が違う彼らは、恐らく主人の異常にも反応してしまうのだろう。そう考えたシュウは、二匹の使い魔をリビングの一角に寝かせて様子を見ることにした。
その間、放っておかれていたマサキは、所在無げにソファに座っているだけだった。「あなたの具合も見なければなりませんね」頭部に衝撃を受けていると思われるマサキの後頭部を、そう云ってシュウが診てみれば、うなじの上の辺り。つむじとの間に、こぶし大の皮下出血が出来ている。
打ってしまった場所が場所だけに、シュウとしては病院に連れて行ってやりたくもあったが、自分もマサキも広範囲に顔を知られてしまっている身分。しかもマサキの記憶がないとあっては。公的機関に彼を運び込もうものなら、自らに降りかかる大きな問題にも発展しかかねない。
後ろ暗い身であるシュウは、だからこそ、自分の力で現状を打破するしかないのだろうと覚悟を決めた。
二匹の使い魔同様に、マサキの脈と脳波も測定する。右も左もわからない状態のマサキはさぞ不安であっただろうが、シュウの言葉に従って素直に検査を受け、それらに問題がないとわかると少しだけ安心した表情を見せた。
そのまま、後頭部に出来ている皮下出血の処置をする。数日間は容態の急変に気を付けなければならないが、出来た瘤《こぶ》の膨らみは大きさに反してそこまででもない。打ち付けた際に切ったらしい傷口を消毒し、ガーゼを当ててやる。
再びリビングのソファに戻ったマサキは、「迷惑をかけるな」ぽつりと呟いた。
そんなマサキにシュウは正直に自分の考えを告げた。衝撃による一時的な健忘だと考えられること、日が経てば記憶が戻るだろうと考えられること、それまではここに居た方がいいと考えられること……黙ってシュウの説明を聞いていたマサキはその全てを聞き終えると、「俺は何者なんだ?」と云った。
「あの白い巨大な人型汎用機《ロボット》は何だ? どうして俺はあそこに居たんだ? 俺には何もわからない。けれども俺の後頭部に瘤《こぶ》が出来たのは、あの人型汎用機《ロボット》に乗っていたからなんだろ? 教えてくれよ。俺は何者なんだ」
「あなたの名前はマサキ=アンドー。あの白い人型汎用機《ロボット》は、戦闘用の魔装機。あなたが操縦者を務める風の魔装機神、サイバスターと呼ばれる機体ですよ」
「俺の名前はマサキっていうのか」マサキは考え込む素振りを見せ、「聞き覚えがある」
「あなたの名前ですからね」
シュウはマサキの隣に腰を下ろし、その顔を覗き込んだ。名前を知っただけでも覇気が漲《みなぎ》る顔。そういった表情こそがマサキには相応しい。
この調子なら記憶が戻るのも早いかも知れない。シュウは思った。思って、そして考えた。
もし彼が、自分のことを思い出したら何を思うことだろう。余計なことをするなと怒るだろうか? それとも、らしくなく感謝の言葉でも述べてみせたものだろうか? その結果を知ることが、シュウには少しだけ怖く感じられた。
「その様子なら、記憶が戻るのも早いことでしょう」
自らのそういった感情を押し殺すように、シュウはマサキの頬に手を這わせた。
血の通った肌の温もりが手のひらを通じてシュウに伝わってくる。冷えたシュウの身体とは異なり、マサキの身体は生気に満ちている。どうしようもなく心地良いのに、それがシュウには妬ましくも感じられた。
そう、何もかもが妬ましい。
こうして自分を信用し、身を預けているマサキ。いつもだったら触れることすら難しい肌に、今の自分は容易く触れることが出来る……それはマサキの記憶が失われているからだ。
まるで雛鳥が初めて目にしたものを親だと認識するように、右も左もわからないマサキは、自分に好意的に接してくれるシュウを縋ってもいい存在だと認識したのだ。それだけの、けれども重い理由で、マサキはシュウに気を許した。
借りは返さなければならない。
けれども容易く自分に気を許されるのは赦せない。
撚《よ》られた糸のように絡まってしまった自らの心。付き合いが長くなれば長くなっただけ、シュウはマサキに対して何を求めているのかがわからなくなっていったものだ。
正魔装機の頂点に君臨する伝説の剣聖の名を持つ戦士として、|風の魔装機神《サイバスター》に相応しい操者であって欲しい……けれども無邪気で真っ直ぐな少年のままであっても欲しい……マサキのことを考えると、シュウの心は千々に乱れる。それでも、わかっていることがただひとつだけある。
破壊神サーヴァ=ヴォルクルスに精神を囚われた自分を、何度でも救い出してくれる希望の光。
それがシュウにとってのマサキ=アンドーという存在だ。
ただひたすらに、道を違えたシュウを追い続けた少年。地上と地底の二つの世界でのシュウの在り方を見守り続けた少年。そしてシュウの一度の命に引導を渡した少年。だからこそシュウは思う。きっと、自分がマサキに抱えている感情は、愛や憎しみといった単純なものではないのだろうと――……。
「……まえ」不意にマサキの声がシュウの耳に届いた。「名前、教えてくれよ。あんたの名前」
振り払うほどに警戒していないのだろう。頬に当てた手もそのままに、それが当然とばかりにマサキはシュウに尋ねてきた。「シュウ、ですよ。マサキ。そう呼んでくだされば結構」
わかったと頷いたマサキが、シュウ、とシュウの名を口の中で呟く。「知ってる気がする」そして少しばかり、考え込む様子をみせた。
「何だろう、胸が騒ぐんだ。あの白い人型汎用機《ロボット》の名前とか、あんたの名前とか……自分の名前とは違う。変な風に胸がざわつくんだ。締め付けられて苦しいような……」
その瞬間。胸を沸き立たせるほどの情動にシュウの心は突き動かされた。
彼はシュウの名前を自分の愛機の名前と同様に感じているのだろうか? マサキのその反応はとてつもなく甘美な誘惑となって、シュウの心を鷲掴みにした。離さなければならないのはわかっていても、離し難く感じてしまう頬に置いたままの手。シュウは空いているマサキの頬に、自らのもう片方の手を添えた。
そして考え込んでいるマサキの顔を仰がせる。疑うことを知らない眼差しが真っ直ぐにシュウを凝視《みつ》めている。僅かに躊躇いが生まれたものの、けれどもシュウは、目の前の記憶を失ったマサキという誘惑に抗えなかった。
顔を重ねて、口唇に。そっと、自らの口唇を重ねる。
以前だったら口煩く罵ってみせたマサキの言葉は、今日はなかった。彼は戸惑いも露わに瞳を見開いたまま、微動だにせずシュウの口付けを受けている。
そのマサキの口唇を、シュウは何度か自らの口唇で食《は》んだ。微かに開いた口唇の柔らかい感触を確かめる度に、舌を差し入れたい衝動に駆られたものの、相手は記憶を失っている人間だ。如何にシュウが厚顔不遜な性格であっても、そこまで傲慢にもなれない。
触れたときと同じさりげなさで口唇を離す。マサキはその直後に、「どういうことだよ、あんた……」非難めいた言葉を吐く。
「思い出すかとも思ったのですけどね」
「それって……」
「思い出せない?」
不貞腐れているような横顔が、口の中に溜まった唾液を飲み込んだ。認めたいけれども、認められない。そんな様子にも映るマサキの横顔は、いつか何処かで見た彼の何気ない表情に良く似ていた。
――知っている、気がする……。
小さく呟いたマサキに、もうどうしようもない。シュウは自分より小柄で華奢なその身体を、ただただ力一杯抱き締めていた。
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