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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

記憶の底(9)
息抜き回はまだ続きます。笑

今、滅茶苦茶マサキとシュウについて語りたかったりするんですけど、私がこのふたりについて語ってしまうと、重い話になってしまうのでじっと我慢の子をすることにします。笑
ただ私の態度って、傍目にはどう考えても白河に恋しているようにしか見えなかったりするんですけど、私自身はそんなつもりはなかったりしてですね、実の所彼のことは同士だと認識していたりするんですよ。

だから彼を書く時は、物凄くメンタルが必要になるんですよね。
疲れている時は絶対無理。もう何も言葉が浮かんでこなくなります。

何が云いたいかと申しますと、「あれ、私疲れてる?」そんな感じなんですよ、今。
なのに書きたい気持ちが強過ぎて、身体を休められないんです。いやーもう重いのよ愛情が。笑

そんな感じで本文へどうぞ。
<記憶の底>

「それなら、戻るとしますか」シュウはグランゾンの動力炉を稼働させる。「私はあまりここ長居していていい人間ではありませんのでね。ラングランの軍に見付かると厄介だ」
「そう、なのか……? なら、あんたは何者なんだ」
「私は神に操られてこの国に刃を向けてしまった人間ですよ」
 やはり、と云うべきか。マサキには神や精霊が実在しているという事実が、いまいち上手く呑み込めていないようだ。「ごめん、あんたの云ってることが良くわからない」俯いて考え込んだ後にマサキは云った。
「ラングランのサイバスターに精霊が宿っているってことは、このラングランって国を守ろうとしているってことだよな。なのに神はこの国を滅ぼうそうとしたのか? それは神と精霊が対立しているってことなのか? そもそも神や精霊が実際に存在しているってことが、俺には良くわからないんだが」
「この国の神は好戦的なのですよ。隙あらば世界を滅ぼそうとする。それを利用する輩がいるのですよ、マサキ。私は彼らに憑代《よりしろ》として扱われた。その結果、この国に仇なす存在と認識されてしまったのです」
 そう、本来であれば、シュウは広域指名手配犯。ラングランの内乱の首謀者と目されている人間である。サイバスターが稼働を停止している現場になど居ていい人間ではない。しかも周囲には、シュテドニアス軍勢とひと目でわかる残骸まで散乱している。ラングランの関係者に見付かれば、シュウの立場が更に拙くなるのは明らかだった。
 更にはグランゾンにマサキを同乗させている。
 それと知れようものなら、余計な罪状が増えようというもの。それなのに、記憶を失ったマサキの為に、シュウはここまで来てしまった。それも記憶を取り戻させる為ではなく、自らの抱えてしまったいたたまれなさを消化する為だけに。
「あなたがこの世界に慣れたら詳しく教えて差し上げますよ、マサキ。昨日の今日で知るには複雑な話です。ですから、今はあまり深く考えない方がいい。あなたと私の世界の常識は、それだけかけ離れてしまっているのですから」
 それもこれも記憶のないマサキが無防備に過ぎるからなのだ――、シュウは苦笑しつつもグランゾンの舵を切った。「本当に、教えてくれるんだろうな」見る間に遠ざかる|白亜の機神《サイバスター》を振り返ることもせず、マサキがぽつりと呟く。
 大丈夫ですよ、とシュウは云った。
 けれどもきっと、その話をする機会には恵まれまい。そう思いながら。

 幸い、道中でラングランの軍勢と鉢合わせすることもなく、シュウは膝の上に乗せたままのマサキとともに家に帰り着いた。
 記憶のないマサキにとって、サイバスターと向き合うのは気の張る行為であったようだ。早速とばかりにリビングに上がり込むと、ソファの上に身を投げ出している。その隣に腰を下ろしながら、シュウは過去のマサキを振り返った。
 ラングランに召喚されたばかりのマサキはこんなに繊細ではなかった筈だ。
 立て続けに引っ繰り返される自身の常識を、それでもそれが現実であると柔軟に受け入れ、魔装機の操者となることを選んでみせた。それだけではない。戦争に対する恐怖心が薄かったからだろうか。大胆にも即座に戦場にも出てみせたものだ。
 それがどうだ。こうも慎重に行動してみせるとは。
 頼るべき記憶を持たないだけで、人はこうも人格を変えてしまうのだ。まるで怯えているようにも映るマサキの態度の数々に、残された手段のないシュウは初めて不安を覚えた。どうすれば、彼に元のマサキのような快活さを与えてやれるのか。今のマサキは傍目にも頼りなく映ることだろう。シュウは人知れず溜息を洩らす。
 ――雛鳥のように自分に纏わり付くだけでは何も解決しない。
 だからといって、この状態のマサキをひとり世界へと放つ訳にも行かない。そう、戦後処理が進んだと云っても、情勢は不安定なままなのだ。戦争に意欲的だったシュテドニアスが、果たしてラセツという指導者を失った程度で引いたものか。バゴニアだってそうだ。ラングランと長く紛争を繰り返してきた歴史のあるあの国にとって、停戦は一時的な休戦にしか過ぎないことだろう。ゼツという男を失った程度で戦意を失うとは思えない。しかも、シュウの得ている情報が確かであるならば、諸外国の動きもキナ臭くなっている。それだけ、神聖ラングラン帝国が得た新たな力、魔装機神を世界は脅威に感じている。
「晩飯、どうする?」
 ソファに凭《もた》れていたマサキは、そう云って身を起こした。
 ラングランの戦乱を収めてみせた少年は、その戦いの日々に疲れてしまったのだろうか。簡単には戻りそうにないマサキの記憶に、もしかするとそれは天の采配なのかも知れない。シュウはそう思った。
 全てを一度忘れ、心と身体を再起動《リセット》して、また戦いの場へと戻れ。あの気紛れな風の精霊は、マサキの為であるのなら、そのぐらいのことは造作なくやりそうではある。
「もうそんな時間ですか。一日が過ぎるのは早い」
 独りで過ごす時間にそれほどの食事を必要としないシュウにとって、マサキの存在は人間らしい生活を与えてくれるものであるのかも知れなかった。だからこそ、日頃の怠惰な生活を思い起こしたシュウは、小さく声を上げて笑った。朝からきちんと食事を摂り、洗濯を済ませ、町へ買い出しにも出た。その上、レストランでとはいえ、昼食までも済ませている。これだけシュウが日常生活に意欲的に動いたのはいつぶりか……マサキの怪訝そうな表情にも構わず、シュウは暫く笑い続けたものだ。
「普段の私はそれだけ受動的に生活をしているということですよ」シュウは立ち上がる。「食事は日に一度摂ればいい。洗濯物も何日かに一度、溜まってから片付けるのが当たり前。さして動くこともないからか、埃もそう溜まりませんのでね。掃除だって週に一度、まとめてすればいい方だ」
「ごめん。俺に付き合わせちまってるよな……」
「それが普通ですよ、マサキ。あなたが謝ることではない」
 キッチンに入り、冷蔵庫を開く。買い足した食料で溢れ返っている棚を物色しながら、「何か食べたいものはありますか。先ほど云った通り、私は食事に興味の薄い人間です。あなたの希望に沿った方が、きっと満足出来る食卓になることでしょう」後を付いてきたマサキに、夕食の希望を尋ねる。
「我儘、云ってもいいか」
 材料を確認しているのだろう。シュウの背後から冷蔵庫を覗き込んでいるマサキを促せば、チーズオムレツとハンバーグが食べたいとの返事。人のことが云えるほどに料理の得意なシュウではなかったが、こうした時間が貴重なものであることぐらいは理解している。必要な材料を取り出して、マサキとともにキッチンに立つ。
 時間はかかったものの、それなりに形になった夕食の席。主な話題は、今日出た町の賑やかさについてだった。
 生活感を感じさせる雑多な町並みに、道往く人々の華やかな衣装。シュウにとってはありふれた町の景色も、マサキにとっては異文化だ。カルチャーショック、と帰り道に言葉を吐いたマサキは、それでもその色取り取りな世界が気に入ったようだ。
「ああいう賑やかな所はいいな。ただ居るだけでも気持ちが落ち着く」
 それはシュウと居ると落ち着かないと告白しているも同義なのだ。
 その理由が何処にあるのか、わからないシュウではなかった。マサキは不安なのだ。救いの手を差し伸べてくれたからという理由でここに身を寄せることを決めたものの、自分の素性どころか相手の素性も知れないときては。
 シュウがマサキと同じ立場に立たされていたら、そもそも自分を他人に委ねたりはしなかった。
 それがシュウとマサキの差でもあるのだ。時に他人の助力を得ることを厭わないマサキに、どうあっても自分独りで事を解決したいシュウ。そう考えると、最後の最後まで人を信じることを失わなかったマサキは、記憶を失っていたとしてもやはりマサキなのだろう。
「マサキ、あなたは――」
 それ以上の言葉を吐けずにいるシュウを、マサキはきょとんとした表情で眺めている。
「いえ、滅多に作らない料理なのでどうなることかと思いましたが、それなりに形になったようで良かったですよ」
 不安を感じている胸中を惜しげもなく晒してみせたマサキは、その事実には気付いていないのか。シュウの言葉を受けて、まじまじと料理の乗った皿を見詰めると、「記憶が無くても作れるもんだな」自らのリクエストした食事に満足そうな様子をみせた。


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