まさかこんな時間に更新するとは思っていなかったでしょう、諸君!
@kyoさん頑張りましたよ!
と、いうことでバレンタインネタの第9回です。もー、こっちのふたりはーって感じで打ちながらニヤニヤしてしまいました。幸せっていいですね!そんな感じで本文へどうぞ!
@kyoさん頑張りましたよ!
と、いうことでバレンタインネタの第9回です。もー、こっちのふたりはーって感じで打ちながらニヤニヤしてしまいました。幸せっていいですね!そんな感じで本文へどうぞ!
<すれ違いのSt.Valentine.>
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マサキも次いで立ち上がる。
従兄妹同士であるからこその強みなのだろう。シュウの洞察力とそこから発される言葉を、セニアは認めているようだった。とはいえ、自分たちに直接的に関わってくる問題だ。そこに本来部外者であるシュウが簡単に口を挟める状況もどうなのか。マサキは口を開かずにいられなかった。
「でも迷惑ってほどでもないぜ。そうやって細かく身体を動かしていないとなまっちまうだろ。丁度いいウォームアップみたいなもんだ」
「日頃のトレーニングを任務で兼ねようとしないことですね、マサキ。あなたは平和が長く続くと怠け癖が付く」
それに対してこの返事ではマサキの立つ瀬もない。マサキは肩をそびやかしてみせた。
日常生活には怠惰な面をみせるシュウは、剣術に対してはストイックに向き合ってみせた。剣を振り回すのに必要な筋力を得るトレーニングは欠かしていないようだったし、習得した剣技を使った実践的なトレーニングも欠かしていないようだ。聞けば、魔術や学術と異なり、肉体的に継続的な努力が必要なのが面白いのだと云う。
「きちんとトレーニングはしていますか」
「ストレッチや筋トレはやってるよ。ただ、剣は相手になれる奴が限られるからな……ただ振り回せればいいってもんじゃないし……」
「なら、旅行から戻ったら私が相手をして差し上げましょう。それなら不足はないでしょう」
そう云って颯爽と、客室へ戻る道を往くシュウの背中をマサキは追った。同じような目的でラウンジに来ていた客たちも、そろそろ夜更け。ぽつりぽつりと客室へと戻ってゆく。その人の流れに沿うようにして、マサキはシュウと自分たちの客室に入った。
「休むのでしたら先にどうぞ」それぞれ自分のベッドに腰を下ろす。「朝から任務では疲れたことでしょう」
「お前はどうするんだ?」
「まだ眠くはありませんしね。続きを読もうかと思っているところです」
云うなり膝で本を開き、マサキの為を思ってだろう。室内の明かりを絞ったシュウに、今しかないと思ったマサキは立ち上がって、クローゼットの中から紙袋を取り出した。
シュウ、と名前を呼んで紙袋を差し出す。
予想はしていたに違いない。特に驚くこともなく「明日で良かったのに」と云うシュウは、けれども喜びに満ちた表情で紙袋を受け取った。期待がありありと感じられる反応に、マサキは再び不安を感じながらも、一年かけた成果を見て欲しくもある。開けてもいい? と尋ねられて、素直に頷く。
「今年もあなたが作ったの?」
先ずは大きい包みからと箱を開いたシュウは、そこに詰められている飾り立てられたチョコレートの見栄えが予想外に良かったからだろう。そうだとマサキが答えると、ひとつひとつ飾りを確かめるように取り上げては、その細かい仕事に感心した様子で見入っている。
「食べるのが勿体なくも感じますね」
「でもそんなに大したことはしてないぜ。溶かして固めて飾ったぐらいで……」
手間だけなら去年の方が相当にかかっているのだから、マサキとしては謙遜するしかない。それでもシュウにとっては、それらのチョコレートは格別に感じられたようだ。丁寧に箱に納め直すと、蓋を開いたまま。テーブルの上に飾るように置いてくれた。
流石女子力の権化のようなさやかが選んだレシピだけはある。時間がかけられなかったことが心残りだが、そのチョコレートが充分にシュウの心を掴んだことに満足したマサキは、さて本題と、シュウが次の包みを開くのを待った。
チョコレートの入った箱に比べれば遥かに小さい包み。手のひらサイズの白いラッピング袋の中には四つの栞が入っている。ラッピング袋のリボンを解いたシュウは、その中身を目の当たりにして、自分のささやかな望みを覚えていてくれたことが嬉しかったのだろう。マサキが思わず見蕩《みと》れてしまうほどの笑顔を浮かべてみせると、ひとつずつ柄を確かめるように眺めている。
「どう……かな。その、作ったんだけど。それ」
マサキ、とシュウは本を畳み、腿の脇に置くと腕を開く。来いと云っているのだろう。
行かない理由はどこにもない。マサキは誘《いざな》われるがまま、シュウの膝の上に乗った。
「手間がかかったでしょう」
「うん、まあ。練習とか入れると一年」
「根気の入ったことを。忙しい身なのですから、そこまで時間をかけなくとも良かったのに。でも嬉しいですよ、マサキ。栞でしょう、これは」
「お前、欲しいって云ってたからさ。どうだろう、使えそうか」
「勿体なくてとても使えそうにない」シュウはそのラッピング袋を箱の隣に飾る。「お返しに旅行程度では足りませんね、これは。とても良く出来ていますよ、マサキ。あなたがここまでしてくれるとはね。どうしたらいいかわからなくなる」
そして力一杯、マサキの身体を抱き締めてくる。露骨な言葉遣いを避けるシュウにとって、それは彼なりの最上級の愛情表現だ。身動きままならないほどの抱擁。シュウの腕の中で、マサキはこの一年の苦労が報われたことを知った。
来年のバレンタインは何にしよう。
マサキはもっとシュウを喜ばせたくなった。ミオに云わせればこの気持ちはきっと、『恋人たちが自滅に向かうイベントパターン』であるのだろう。けれども、育った環境の所為もあって愛情表現の希薄な男。それが一年に一度、たったこれだけのことで、こんなにも喜びを露わにしてくれるのだ。これでそう思えなければ、何で自分はシュウに対する愛情を表現したものか。その為の労力なら幾らでも惜しむまい。
幸福とは自ら獲得するものでもあるのだ。
恋とは得ることがゴールなのではない。得てからがスタートなのだ。何の努力もせずに、いつまでも相手からの変わらぬ愛情を得られることはそうはない。時に喧嘩を繰り返しては自分の在り方を変え、時に不満を抱えては相手に変化を促す。
恋が愛に変わる為には、自らもまた変わる必要がある。それをマサキはシュウとの付き合いで知った。そうやって変わっていった今の自分は、マサキにとっては誇れるものだ。決してしなかったことをするようになり、決して吐けなかった言葉を吐けるようになり、決して起こせなかったアクションを起こせるようになった。マサキがそうして変わり続けられるのも、シュウのこうした素直なリアクションがあってこそ。
――自分は今、例えようもなく幸福な時間に身を置いている。
暫くそのまま、マサキを抱き締めていたシュウが、おもむろにその口唇をマサキの口唇に重ねてきた。激しく貪られる口唇が、どうしようもない彼の感情を伝えてくるようだ。マサキはそんなシュウに応えるべく、彼の背中に腕を回してその口付けに応じた。深く合わせた口唇を吸い、情熱の赴くまま舌を絡める。
そして、不意にベッドに倒される身体。口唇を離したシュウがマサキを見下ろして、囁くように言葉を吐く。「したい。させて、マサキ……」こうなった彼が止まらないことをマサキは知っている。ここで? と問い返す暇すら与えず、シュウはマサキの身体に覆い被さってくると、その耳元に舌を這わせてきた。
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