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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

逃げ水(前)
ちょっと今日は体調があまりよろしくないようなので、ここで一旦上げます。もしかすると今日中に完結まで行くかも知れませんが、その場合はまた別に上げます。っていうか、私、一記事の文章量多過ぎだと思うんですよ笑 少し減らした方がいいのではないかと……
 
ということで適齢期を迎えた白河とフェイルロードのお話です。
 
毎日細々とした作品を書いていると、ああ、お祭りしてるなー、という気分になります。色々な面から白河やマサキを書けるこの幸福!私は一生をかけて白河愁と安藤正樹を書ききりたいのです(*´∀`*)ぱちぱち有難うございます!無理しない範囲で頑張ります!
<逃げ水>
 
 気難しい性質《たち》の従兄弟が適齢期を迎えて尚、妃《きさき》を娶《めと》るのに積極的ではないと自らの側仕えより聞かされたフェイルロードは、それも無理なきこと……と、彼の置かれた立場に惻隠《そくいん》の情を覚えたものだった。
 大公家の嫡男であるクリストフは第三王位継承権を有していたものの、王家の嫡男であり第一王位継承権を持つフェイルロードよりも身位《みくらい》で各下になるからだろう。フェイルロードと比べれば、圧倒的な数の縁談が寄せられていると聞く。
 貴族の、或いはかつての王族の娘たちであっても、将来の王妃という立場は、それだけプレッシャーに感じられるものであるのだ。
 何せ、神聖ラングラン帝国はラ・ギアス最大国家だ。建国からの歴史も最長を誇るのであるから、求められる才能は並みの貴族の比ではなかた。家柄、人柄、教養、学力、魔力……それは、ちょっと出来のよい娘、程度では務まらない立場だ。
 フェイルロード自身は気立てさえよければ、という考えではあったけれども、王宮を支配する原則理論が、そういったフェイルロードひとりの考えで覆るのであれば、この国の君主制度はとうに崩壊していただろう。王宮の原則原理を決めるのは当の本人たる王族ではなく、緋のカーテンを作り出している王宮仕えの者たちだ。彼らの嗅覚は鋭く、国民が何を王家に求めているかを敏感に察してみせる。
 だからこそ、王太子妃候補ひとつ取っても、彼らの眼鏡に叶わなければ、如何に元老院が推挙しようとも、フェイルロードの元にその釣書が届けられることはない。しかも、その高いハードルを超えたからといって、悠々自適の生活とはいかないのだ。王族に求められる活動は多岐に渡る。謁見、任命、視察、慰問に奉職……優雅に見える生活は、義務を果たしてこその権利でもあるのだ。ならば王位に絡まない格上の家に嫁がせたいと考えるのが親心。かくてクリストフの元には、今日も大量の釣書が届けられているのだそうだ。
 その釣書に目を通す気配すらないようだ、とはフェイルロードの側仕えの者たちの弁だった。
 齢二十を数えて既に学問という趣味の世界に生きているらしいクリストフは、知己の学者を訪ねてふらりと王宮から姿を消してしまうことも珍しくない。また、書庫に篭ったり研究室に篭ったりで、どこで何をしているかわからないことも多い。
 幼い頃は交流があったクリストフが、敷地を同一にしながらも、消息すら辿れないまでにフェイルロードと没交渉になってしまったのは、恐らく、変わってしまったお互いの立場の所為であるのだろう。
 王位継承権。
 魔力テストに合格することで得られる王位継承権。フェイルロードの継承権は、当然ながら第一位だ。間にフェイルロードの妹たるモニカを挟んで、クリストフの継承権は第三位。余程の事態が起きない限り彼に王位が回ることはない。
 しかし、だからといって、それでフェイルロードの地位が安泰になるとは限らなかった。
 自らの仕える主を認めるのは、いつだって王宮の人間たちだ。彼らはフェイルロードの魔力量を不安視していた。魔力テストで一度の挫折を味わったフェイルロードは、二度目のテストでもようやく合格値に届く程度の魔力しか発揮できなかった。それで果たして調和の結界の維持が務まるのか。彼らの杞憂は尤もだとフェイルロードは思う。
 だからこそ、第二王位継承権を有するモニカや、第三王位継承権を有するクリストフを担ぎあげんとする勢力が王宮には存在した。
 モニカであればまだ本流。この国が荒れることはないだろう。荒れたとしても最小限で済ませられる自信がフェイルロードにはあった。しかし、クリストフは傍流として大公家を任されるまでになった王弟カイオンの嫡男である。彼がもし王位を継ぐようなことがあれば、この国は割れる。下手をすれば三つの派閥を生むことにも繋がりかねないその混乱を、武力なくして収められる自信がフェイルロードにはなかった。
 高い知能を誇るクリストフは、そういった王宮における自らの立ち位置を理解しているのだ。フェイルロードのように政務に積極的に関わることはせず、祭祀には参加してみせるものの、王族としての活動はその程度。彼はまるで隠棲《いんせい》するように、殆どの時間を王宮の片隅で過ごしている。 
 
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