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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

LONGING~憧憬~(前)
そういや昨日、前置きで触れるのを忘れてしまったんですけど、「媚薬を散布する兵器」って試作ではあったんですけど、アメリカで開発されていた実在のものだったんですよ。そのアイデアを転用させてもらったって、それだけの話なんですが、ある意味恐ろしい兵器ですよね。汗
 
ということで、今回の話は「本気で怒るマサキ」です。基本的にマサキって後に残らない性格じゃないですか。からかわれてもそれを後々まで愚痴愚痴云ったりしない。そんなマサキが本気で怒るってどういうネタでなんだろうな、と思ったら、やっぱりアレですよね。そんな話です。
 
残念ながら、時間の関係上、今回はここまで。後編に続きます。
 
ぱちぱち&コメ有難うございます。色々な話や視点を書けるって楽しいなあ、と思いながらやっております。私、基本的に「他人が書きそうな話には手を出さない」が信条だったんですが、そればかりだと話が広がらないことを思い知りました。(*´∀`*)ということで滅茶苦茶楽しいです!
 
P.S.このお祭りが終わるまでレイアウトの見易さを優先したい気持ちから、「二十周年記念リクエスト」に関しての記事は非表示にさせて頂きたく存じます。悪しからずご了承ください。
<LONGING~憧憬~>
 
 それはゼオルートの館で正魔装機の操者たちが、懐かしい思い出話に花を咲かせていたときのことだった。自分の知らない時代の話を最初の内こそ興味津々と聞いていたリューネは、長く話が続くにつれて退屈してしまったとみえる。同じく口を挟める機会の少ないミオの隣で、茶化すように言葉を吐いた。
「なんかさー、マサキ。その人の話になるとちょっとおかしくなるよね」
 そこまではよかったのだ。マサキも「そうか? まあ、出来た人だったしな……」と普通に受け答えをしていたものだったし、周りにいた魔装機操者たちもマサキをフォローするように、どれだけ彼の人柄が素晴らしいものであったかをリューネに語って聞かせたものだった。
 ところがそれが更にリューネの感情を逆撫でしてしまったのか、話に入れない状態が長く続いてしまったことで溜め込んだ鬱憤を晴らすかの如く発言がエスカレート。「武力で物事を解決しようとした時点で、どんな理由であれ、それは欲だよね。あたしの親父と一緒」などと批判を厭わなくなったものだから、傍で見ていたミオなどはもう気が気ではなく。
 フェイルロードのことだ。
 確かにマサキはフェイルロードのこととなると目が曇る、とはミオも感じていたことだった。けれども、それはきっと付き合いの長さの差からくる受け止め方の違いであるのだろう、と、フェイルロードとの付き合いが短かったミオは勝手に納得してしまっていた。それもそうだ。内乱前のラングランの穏やかな日々や、そこから始まる激動の日々を知らないミオは、その分、フェイルロードの人となりを知らないのだから。
 そんなミオに、どうやらそれだけではないらしいということを教えてくれたのが、あるときのテュッティとヤンロンの会話だった。
「あの子、いつまで殿下を理想化し続けるつもりなのかしら」
「さあな。だが、マサキにしては、珍しくも他人の人生と真摯に向き合っているようだしな。暫くはあのままにしておいていいだろう。武力で物事を解決することを美化するのであれば問題だが、それについては理解しているんだ。自分が納得できる答えが出るまで自分で考えることも、マサキの成長には必要なことだ。違うか、テュッティ」
 どうやらおかしいと感じているのは自分だけではないと知ったミオは、魔装機神操者の年長組の考えがそういったものであるのなら、とマサキのどこか歪《いびつ》なフェイルロード評については目を瞑ることにしたのだが。
「だからって、殿下のそれまでの功績が否定されていい訳じゃないだろ。お前は父親が間違っていたからって、自分の父親であることまで否定するのか?」
 マサキにしては珍しくも真っ当な意見を述べたものだから、リューネはどうしていいかわからなくなってしまったようだ。「そりゃそうなんだけどね……」と、言葉を濁す。
 恐らく、リューネはマサキにいつもの調子で構って欲しかっただけなのだ。その当てが外れてしまったことが、彼女の気勢を削いでしまったのだろう……幼い子供のような付き合い方しか出来ないリューネに、自らもまた子供扱いされる年齢であるところのミオは、だからといって自分はそこまでではないと、誰にも悟られないように溜息を吐いた。
「そういえば、僕の趣味に興味を持ってくださったことがあって」
「釣りか。『一生幸福でいたかったら、釣りを覚えなさい』だな。殿下にお話して差し上げたことがある」
「なあに、それ?」
「中国の古い諺《ことわざ》だ。成程、と感心してくださってな」
 そうして暫く。困った風な表情で考え込んでいたリューネは、再び思い出話に花を咲かせ始めた一同の話など耳にも入らず、とばかりに、「あーっ!?」突然に声を上げた。
「何だ、お前。突然に」
「もしかして、マサキ。云えないようなこと、あったんじゃないの?」
 飛び出したリューネの台詞にミオは言葉を失ってしまった。何を考えていたのかと思いきや、どう話に絡めばマサキに構ってもらえるかということだったようだ。もう諦めればいいのに……かといってリューネを窘《たしな》める気力も湧かず、ミオは宙を仰ぐ。
 マサキにとってフェイルロードの存在は、神聖にして侵すべからず、なのだろう。ヤンロンたちの畏まった物言いからも窺えるように、品格を持った穏やかなる王太子フェイルロード。目の前にするだけで畏れ多いと感じさせられる人間はそういない。
 短い付き合いであったけれども、ミオはフェイルロードが自分とは異なる世界に生きている人間だということは感じ取っていたし、それがマサキをして頑なな態度を取らせる原因でもあるとはわかっているつもりだった。だからこそミオは、フェイルロードのことを、如何にマサキが歪に評価していると感じていても、リューネのように茶化す真似だけはしまいと心がけてきたのに。
 人の心には侵してはならない領域があるのだ。
 それが未だ稚《いとけな》さを残すリューネには理解できなかったのだ。自分が良く知らない相手に傾倒しているマサキに対する嫉妬もあったに違いない。しかし、どれだけ茶化してばかりな言葉を吐いているミオにしても、それだけは、と躊躇わせるところに踏み込んでしまったリューネに、果たしてマサキは寛容でいられたものだろうか。
「……いくらお前でも本気で怒るぞ」
 案の定、険の立った表情を晒してみせるマサキに、加減を知らない。「ムキになるなんて怪しい。マサキ、実は本気であの人のこと」リューネがさらりと云ってのけたものだから、尚更に角が立つ。
 バン、と大きな物音が響いた。
 テーブルを拳で叩いたマサキに、マサキ、と、テュッティがその手を労わるように自らの手を重ねる。余程癇に障ったのだろう。大丈夫だ。マサキはそう返すと、「悪いな。ちょっと席を外す」テュッティの手を振り解いて、足早に部屋から出て行ってしまった。
「……あー、もう」
 恐らくそれは怒りでだった。震える拳が去り際に目に入ったミオは、面倒臭いことは嫌いとはいえ、マサキの尋常ではない様子に、黙って見過ごしてもいられないと立ち上がる。
「あたしが行くよ。皆は話の続きをどーぞ!」
 シュウとの仲を揶揄されても軽く受け流してみせるマサキにしては、思った以上の激高ぶりだとでも思ったのだろうか。目を見開いているリューネの目に、うっすらと涙が浮かぶのが目に入ったものだったけれども、それを残って慰める気はミオにはない。「……やりすぎよ、リューネ」ぽつりとテュッティが洩らすのを耳に、部屋を出る。
 女子供は守って然るべきなマサキは、基本的に女性には寛大だ。声を荒げることはあっても、本気とは感じさせないぐらいに、それが終わればさらりとしたもので、何事もなかったかのように振舞ってみせる。それが部屋を出るまでの怒りを露わにしてみせたのだ。リューネのショックも無理はない。
 けれども、マサキはそのリューネに対して警告を発していたのだ。本気で怒るぞ、と。それを聞かなかったリューネの方に非があるのは明らかだ。それはテュッティとてリューネを責めたものだ。
 そんなことをつらつらと考えながら、玄関へ。
 足早に後を追ったつもりのミオだったけれども、玄関に辿り着く頃には、起動準備《セットアップ》を終えたらしい。|風の魔装機神《サイバスター》が疾風の如く、見渡す限りの平原を南に向けて駆け去るところだった。
 足の遅い|大地の魔装機神《ザムジード》でどこまで追えたものか。そうミオは思ったものの、啖呵を切って出て来てしまった以上、今更、何事もなかった風を装って戻るのも気拙い。
 ――行くわよ。行けばいいんでしょ!
 あー、どっちも面倒臭い。ミオはザムジードに乗り込むと、自らの三匹の使い魔に指示を出しながら、機体の起動準備《セットアップ》を手早く終わらせ、マサキを追って南へと。ザムジードを走らせ始めた。
 
 
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