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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

LONGING~憧憬~(後)
やりたかったことから話が逸れていくのを失敗と云います。笑 本当はもうちょっと暗い話になる予定だったのですが、ミオ視点にしてしまうとそれは難しいことのようです。
 
と、いうことで後編です。それでは本文へどうぞ。
<LONGING~憧憬~>
 
 追いかけること、二十分ほど。
 視界のみならず電波探信儀《レーダー》からも消えてしまったサイバスターに、それでもせめて反応が消えた場所ぐらいまでは探しに出ようとミオが移動を続けていると、索敵《レーダー》に引っかからないのが初期設定《デフォルト》なのだろう。青い機影が突然に視界に飛び込んできた。
 |青銅の魔神《グランゾン》だ。
 不条理な性能を誇る機体の理不尽な機能の数々は、その操縦者によって後から付与されたものだと聞く。敵に回られるとこれ以上に厄介な相手もいないが、その操縦者は魔装機操者たちには比較的寛大であるようだ。深く絡まない限りは、わざわざこちらに手を出してくることはない。
「どないしましょうか、ご主人様」
「そりゃ話しかけるでしょ。もしかしたらマサキを見かけてるかも知れないし」
「ジョークの通じないお方でっせ」
「あんたたち、あたしに真面目な話ができないと思ってるの?」
「いや、わいらが苦手なんです」
 三匹のカモノハシ型の使い魔のボヤキ芸をさくっと無視しつつ、ミオはザムジードの通信回線を開いた。「暇してるといいんだけど」そうでなくとも素っ気ない性質《たち》だ。多忙ともなれば無視を決め込まれることも珍しくない。
「もしもーし、もしもーし。シュウ、ちょっと訊きたいことがあるんだけどー」
 ミオの申し込んだ交信に、どうやら応じられるぐらいには手が空いていたようだ。グランゾンの操縦者たるシュウ。その人好きのしない無愛想な表情がモニターに映る。
 マサキから聞いた話からすると、シュウはそうした自分の愛想のなさを、多少は気にしているのだそうだ。一体、いつそんな話を聞いたものかと思うものの、泰然自若ながらも慇懃無礼で過分に唯我独尊的すらあるシュウが、他人の目から自分がどう見えるかを気にしていたという事実に比べれば些細なこと。驚きを禁じ得なかったミオは、それがいつどういったシチュエーションでなされた話であるのかについては聞けていない。
「どういった用でしょうか、ミオ。急いでいる様子ですが……」
 とはいえ、その愛想のなさを会話力などでカバーしようとは思わないらしい。そこがこの男がこの男たる所以なのだろう。微かに口元を歪めてみせるものの、それだけ。シュウ=シラカワという男は根本的に何かが欠けている。
「マサキ見なかった? こっちに来た筈なんだけど」
「私は見かけていませんね。今、通りかかったところですから。その前にここを抜けたのでしょう」
「ホントに? じゃあ、この先かなあ」
「何かあったのですか」
「大したことじゃないんだけどね……」
 ミオが手短に経緯を説明すると、シュウは僅かに眉を顰めてみせた。それは日頃の接点の少ないシュウでもわかるぐらいに、傍から見ても、マサキのフェイルロードへの傾倒が明らかだということだ。
 渦中の人たるフェイルロードの従兄弟であったらしいシュウは、ミオが見ている範囲では、そういった血縁関係があったとは思えないほどに、彼の死に対して無情《ドライ》に振舞ってみせたものだった。道を違えてしまった従兄弟を、その結末も含めて、世界に起こり得るひとつの事象に過ぎないと受け止めているような……元々、人の死に鈍感なのか、それともそれがシュウの生きてきた世界、即ち王宮での普通であったのかは、ミオにはわからない。
 けれどもシュウは、マサキのフェイルロードに対する複雑な感情は理解しているようである。それは、有情《ウエット》にもフェイルロードと再会させる為だけに、精霊界にマサキを送り込むアシストをしてみせたこともあるぐらいに。
「相変わらず、吹っ切れていないということですか……」
 それを裏付けるかの如き言葉を吐いたシュウは、モニター越しにミオに顔を向けると、
「それで家を出てしまったと?」
「そ、サイバスターで飛び出して行っちゃった。で、心配だから追いかけて来たんだけど……って、云ってもね。リューネも悪いけど、マサキも簡単に頭に血が上り過ぎ。何であなたの時みたいに軽く流せないかな」
「生者と死者の違いでしょうね。生きている私は自分の口で否定することが出来ますが、死んでいるフェイルロードにはそれが出来ないでしょう。恐らくマサキは、リューネの言葉を死者への冒涜と受け止めたのでは?」
 ミオは呆気に取られて言葉を失った。今の今まで思い浮かばなかった答え。それを容易く口にしてみせたシュウに、当たり前の感覚が自分の中から失われてしまっていたことを思い知る。
 当然だ……ミオはその言葉の意味を噛み締めた。地上世界と異なり、魂と会うことができてしまえば、死んだ人間が蘇ることもあるラ・ギアス世界にとって、生者と死者の境界は曖昧なものだ。いつの間にか、ミオら地上人たちはその非現実に慣らされてしまっていたけれども、本来は死人に口無し。死者は自らに向けられた誤解を、自ら解くことはできない。
「あー、馬鹿。あたしの馬鹿。マサキが怒るの当然じゃないの」
「リューネにはきちんとその辺りを言い含めておくべきでしょうね。でないと彼女のことだ。似たような間違いを犯さないとも限らない」
「そうだよね。ありがと。あたし戻る。だから、もしマサキを見かけたら、リューネを止めなかったあたしも悪かったから早目に帰ってくるように伝えてくれる?」
 構いませんよ、とシュウが頷く。そうと決まれば善は急げだ。ミオは三匹の使い魔に指示を出し、ザムジードを帰路に着けるべくコントロールパネルに指を走らせた。
 その時だった。電波探信儀《レーダー》にとてつもないスピードで、ミオとシュウの居る場所に向かってくる機体の反応が出たのは。これだけの移動スピードを誇れる魔装機など、ミオはサイバスター以外に知らない。「マサキかな?」ミオはシュウと二人、その機影が確認できるのを待つ。
「なんだよ。珍しい組み合わせじゃねえか」
「偶々顔を合わせたのですよ」
 果たして姿を現したサイバスターに通信を飛ばしてみれば、未だ機嫌がいいとは云いかねるマサキの顔がそこにある。
「っていうか、マサキ。マサキこそ何でここに? 南に向かってなかった? 出てきた方向が違う気がするし、ラ・ギアスを一周したにしては早過ぎる気もするし」
「俺にそれを聞くか。迷ったに決まってるだろ」
 それでも軽口を叩ける程度には、その機嫌は回復に向かっているようだ。ミオはいつもの調子を取り戻しつつあるマサキを目の前にして、ほっと息を吐いた。
 思えば想い出話になった辺りから、マサキの態度は変わりつつあった。懐かしい日々を思い返すというよりは、失ってしまったものに対する責任を感じているような……。
 ミオより遥かに長い時間をラ・ギアスで過ごし、戦い続けてきた他の魔装機操者たち。その発端には繁栄の日々があった。きっと、その日々は、彼らにとってとてつもなく輝ける日々であったのだ。
 ミオの知らない栄華を誇ったラングランを知っているマサキは、だからこそ、フェイルロードという貴人に対して物思ってしまうことが多いのだろう。
 目指したものは、同じ。
 その道が別離《わか》たってしまったのは、遺された時間の差であり、取れる手段の差でもあった……彼らと比べれば、ミオは僅かな時間しかフェイルロードと行動を共にしていなかった。それでもミオにはわかるのだ。自分がフェイルロードの立場に置かれたとしても彼のようにはなれなかった、と。
 ――あたしだったら、信じる仲間に道を託す。
 フェイルロードの過ちは、道を任せられる仲間を持たなかった、この一言に尽きる。十六体の正魔装機が立場を別れて戦ったラングランの内乱。それを目の当たりにしてしまったフェイルロードは、自分が立たなければならないと思うまでに、その現実に追い詰められてしまったのだ。
「それでは、私はこれで。後のことはあなたに任せましたよ、ミオ」
 ミオに付き合ってマサキを待っていたシュウは、マサキを目の前にして、目的を果たした以上は行動を共にする理由もないと思ったのだろう。簡単に挨拶を済ませると、グランゾンのシステムを起動させた。
「何の話だよ。お前らふたりが揃ってるのを見ると、碌な想像が浮かばねえっつーか、何か企んでるんじゃねえかって気になるんだけどよ」
「彼女はあなたを探してここまで来ているのですよ、マサキ。あなたには心当たりがあるでしょう。それについて私は口を挟める立場にない。ゆっくりふたりで話をするといいでしょう」
 それだけ云うと、今度は待たないと、シュウはグランゾンを動かし始めた。遠く、西へと。その機影が小さくなり、やがて雲の彼方に消えるのを見届けて、「何をしてやがるのか相変わらずわからない奴だ」マサキがぽつりと呟いた。
 本当にそうだ。ミオは笑った。けれども、この偶然の邂逅がなければ、ミオもまたリューネと同じように、マサキの態度を軽く受け止めたままでいただろう。「ねえ、マサキ――……」ミオはシュウの言葉を胸に刻みつつ、マサキときちんとした話をすべく、その口を開いた。
 
 
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